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実務者向け
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川上信託・川下信託とは——不動産セキュリティトークンを支える二層の信託構造

2026-07-16 / 読了 9

不動産STの組成実務で必ず登場する「川上信託」「川下信託」。国内の公募不動産STの大半が採用する受益証券発行信託スキームの二層構造を、なぜ二つの信託を重ねるのかという理由から整理する。

結論——川上は不動産を持つ信託、川下は証券を発行する信託

前提から確認しよう。信託とは、自分の財産を信頼できる第三者(受託者。ここでは信託銀行)に預け、あらかじめ決めたルールに従って管理・運用してもらう仕組みだ。預けた財産から生まれる利益を受け取る権利を「受益権」と呼び、この受益権は財産として売買できる。不動産STの世界は、この「信託」と「受益権」の積み木でできている——川上・川下とは、その積み木を二段に重ねた構造の呼び名である。

川上信託とは、オリジネーター(不動産の元の保有者)が対象不動産を信託銀行に信託する「不動産管理処分信託」を指す。信託された不動産は受託者名義となり、賃料収入等が信託の収益になる。オリジネーターが受け取るのは不動産信託受益権——不動産STが登場する以前から、私募ファンドやJ-REITの世界で日常的に使われてきた仕組みだ。

川下信託とは、この不動産信託受益権を信託財産として設定する「受益証券発行信託」を指す。川下信託は受益証券を発行でき、この受益証券をブロックチェーン上のトークンとして投資家に販売したものが、国内で主流の不動産セキュリティトークンである。水の流れに例えて、不動産に近い上流側を川上、投資家に近い下流側を川下と呼ぶ。

全体像を先に図で掴んでおこう。上から下へ「物件が証券に変わっていく」流れであり、川上・川下はその中段の二層である。

SELLER
売主(オリジネーター)
  • 物件を手放して資金を回収したい
GK
委託者GK(新設のSPC)
  • 物件をいったん取得して抱える(ブリッジ資金で立替え)
  • 準備が整ったら信託を設定する=委託者になる
川上信託
不動産管理処分信託(受託者=信託銀行)
  • 不動産を保有し、賃料を受け取り費用を払う「物件の器」
川下信託
受益証券発行信託(受託者=信託銀行)
  • 受益証券を発行できる「証券の器」
  • ノンリコースローンもこの層で調達
INVESTOR
投資家
  • 証券会社経由で1口10万円前後から購入
  • 分配金と売却・償還益がリターン
支える関係者: AM(運用の頭脳)/レンダー(ノンリコースローン)/受益者代理人(投資家の窓口)/プラットフォーム(ブロックチェーン原簿)/証券会社(販売)
図: 不動産ST(受益証券発行信託型)のスキーム全体像。上から下へ「物件が証券になっていく」流れで読む。信託が二層あるのは、物件を持つ器(川上)と証券を出す器(川下)で役割を分けているため。

なぜ信託を二層に重ねるのか

第一の理由は流通性である。不動産信託受益権(川上の受益権)をそのままトークン化することも法律上は可能だが、その場合は金商法上の「電子記録移転権利」となり、譲渡のたびに確定日付ある証書による通知・承諾といった対抗要件の論点を引きずる。一方、受益証券発行信託では受益証券を「不発行」とする設計を採ることで、受益権の譲渡は当事者の合意で成立し、受益権原簿への記載が第三者対抗要件となる。この受益権原簿をブロックチェーン(ProgmatやibetforFin等のプラットフォーム)で管理することで、トークンの移転と権利の移転が一致する仕組みが成立する。

第二の理由は投資家層の広さである。受益証券発行信託の受益証券は金商法2条1項に列挙された(第一項)有価証券であり、株式や投資信託と同じ土俵で証券会社が取り扱いやすい。公募による届出、特定口座への受け入れ、ODX『START』での二次流通まで、リテール投資家向けの流通インフラに乗せることを前提にすると、受益証券発行信託が最も収まりが良い。

第三の理由は税務である。川下信託を税務上の「特定受益証券発行信託」の要件を満たすように設計すると、信託は集団投資信託として扱われ、信託段階では課税されず受益者への分配時に課税される(受益者段階課税)。この要件を外れて法人課税信託になると信託段階で法人税が課され、商品として成立しなくなるため、組成実務では要件充足が最重要のチェックポイントになる。

二層構造の実務——誰が何をするか

受託者は川上・川下とも同一の信託銀行が務める例が多い(当サイト収録銘柄では三菱UFJ信託銀行・みずほ信託銀行・SMBC信託銀行など)。会計上も、川上の不動産管理処分信託と川下の受益証券発行信託を一体とみなして処理する考え方が示されており、投資家から見れば「不動産を保有する一つの器」として振る舞う。

アセットマネージャー(AM)は、信託された不動産の運用方針について受託者に助言または一任を行う。物件の収支管理、修繕計画、鑑定評価の取得、そして分配金額や(利益超過分配を行う場合の)元本減少割合の公表まで、商品運営の実務はAMが中心となって回していく。販売会社(証券会社)は募集時の販売と、その後の顧客口座管理を担う。

投資家への分配は、川上信託が稼いだ賃料収益が川下信託を経由して受益者に届く流れになる。2026年4月以降は、利益超過分配(元本の払戻し)部分の税務上の取扱いが変わり、AMが公表する「元本減少割合」を用いた取得価額調整が必要になった。この論点は別稿「元本減少割合とは何か」で詳しく整理している。

収録データで見る採用状況

当サイトが収録する国内不動産ST74銘柄のうち、公募銘柄の大半がこの受益証券発行信託スキーム(スキーム欄「受益証券発行信託」)を採用している。プラットフォームはProgmatとibet for Finが二大勢力で、受託者・販売会社の組み合わせは銘柄詳細ページの「組成の座組」で個別に確認できる。スキーム別の分布は市場統計ページに掲載している。

SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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