実務者向け利益超過分配の会計処理——減価償却費は「元本の払戻し」になって出ていく。2026年4月、その書き方が変わった
公開 2026-08-11 / 読了 17分
利益を超えて分配できるのは、減価償却費が「費用に立つが現金は出ていかない」からである。では、その超過分は帳簿のどこに、どう書かれるのか。一般社団法人信託協会の受益証券発行信託計算規則が令和7年4月1日に改正され、2026年4月1日以後に終了する計算期間から、超過分は「受益権調整引当額」ではなく「元本の減少」として処理されることになった。決算期が3か月違うだけで新旧に分かれた有価証券報告書3本を並べ、条文と実額の両方から会計処理を確定させる。
まず前提——「利益を超えて配れる」のは、費用の一部が現金を伴わないから
不動産の投資商品では、投資家に渡す現金が、会計上の利益より多くなることがある。理屈は単純で、費用の中に「現金が出ていかない費用」が混ざっているからだ。その代表が減価償却費である。
減価償却費とは、建物のように何年も使う資産の買値を、使う年数に割り振って毎期少しずつ費用にする会計処理のことをいう。建物を買った時点で現金はすでに出払っているので、その後の各期に立つ減価償却費に対応する現金の流出はない。損益計算書では費用として利益を減らすが、金庫の中身は減らない。だから「利益=配れる現金」にはならず、たいていは配れる現金のほうが多くなる。
この差を投資家に配ることを、実務では利益超過分配と呼ぶ。信託の分配としては、当期未処分利益——その期の当期純利益に前期からの繰越しなどを加減した、分配の原資になる利益——を超える金額を配る、ということになる。超えた部分は利益の分配ではないので、投資家の側から見ると自分が出したお金が戻ってきているのに近い。だから会計上も税務上も「元本の払戻し」として扱われる。
商品設計の観点からなぜ償却の重いアセットがSTに向くのかは別稿『償却系アセットはなぜSTに向くのか——FFOで読む商品設計』で、税務上どう課税されるかは別稿『利益超過分配の税務——改正前と改正後で何が変わったか、既存保有分はどうなるか』で扱った。この記事が扱うのは、その間にある会計処理そのもの——超過分を、信託の計算書類のどこに、どう書くのかである。
先に、減価償却費が「分配できる現金」に変わるまでの流れを実額で置く。数値はケネディクス・リアルティ・トークン ONSEN RYOKAN 由縁 札幌(譲渡制限付)の第5期(自2025年8月1日 至2026年1月31日、2026年4月30日提出)の有価証券報告書による。
① 現金が入る
賃料を受け取り、費用と利息を払う
- 当期の経常収益 168,563千円(うち賃貸事業収入168,000千円・受取利息563千円)
- 当期の経常費用 116,117千円
収益から費用を引く▼
② 利益が出る
当期純利益 52,446千円
- ただし経常費用116,117千円の中に、減価償却費50,846千円が含まれている
- 減価償却費は利益を減らすが、その期に現金は出ていかない
現金は出ていないので、手元に残る▼
③ 利益と現金がずれる
ずれの正体は、減価償却費と繰延資産の償却
- 建物は買った年に全額を費用にせず、使う年数に割って毎期少しずつ費用にする
- 由縁 札幌の会計方針は定額法、耐用年数は信託建物16年〜63年・信託構築物63年
- 賃貸等不動産の帳簿価額は7,481,911千円→7,431,065千円。有報の注記は「減少額は減価償却費によるものです」と明記する
利益を超えて配る=利益超過分配▼
④ 利益を超えて配る
当期の分配金 69,700千円
- 内訳=当期未処分利益52,446千円 + 受益権調整引当益17,253千円
- 超過した17,253千円は「利益の分配」ではなく元本の払戻しとして扱われる
- 当期の減価償却費50,846千円に対し、実際に超過分配したのはその約3分の1
残りはどこへ行くのか。由縁 札幌の当期は長期借入金4,230,000千円が期首・期末とも同額(この期の元本返済なし)で、信託現金及び信託預金は267,677千円から282,182千円へ増えている。減価償却費に対応する現金は、全額が投資家に回るわけではない——借入返済・修繕・手元資金にも配られ、そのうちいくらを分配に回すかがAMの判断になる。
図: 減価償却費が「分配できる現金」に変わるまで。上から ①現金が入る → ②利益が出る → ③利益と現金がずれる → ④そのずれを配る、の順に読む。「減価償却費」とは、建物のように何年も使う資産の買値を、使う年数に割り振って毎期少しずつ費用にする会計処理のこと。買ったときに現金は出払っているので、以後の各期に立つ費用に対応する現金の流出はない。「当期未処分利益」とは、その期の当期純利益に前期からの繰越しなどを加減した、分配の原資になる利益のこと。数値はケネディクス・リアルティ・トークン ONSEN RYOKAN 由縁 札幌(譲渡制限付)第5期(自2025年8月1日 至2026年1月31日)の有価証券報告書による。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。会計上の天井は「利益」ではない——規則が引いている線はどこか
利益を超えて配ってよいのか、という問いには、まず法令の側から答えておく必要がある。
信託法第13条は「信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする」と定め、第37条第2項は受託者に対し、毎年一回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類の作成を求める。つまり信託の会計には、条文で細かく分配可能額を定めた規定があるのではなく、「慣行に従え」という受け皿が置かれている。
その慣行を取りまとめたものが、一般社団法人信託協会が公表している受益証券発行信託計算規則である。同協会の資料自身が、信託法第37条第2項と第13条を引いたうえで、受益証券発行信託(信託法第185条第3項)について「信託の会計の実務慣行として発達してきたものの中から、受益証券を発行する信託(特定目的信託等の同様の機能を有する信託)の会計として一般に公正妥当と認められるものを『受益証券発行信託計算規則』として取りまとめました」と説明している。法令ではなく自主ルールだが、法人税法における特定受益証券発行信託の計算等についても「本規則を前提として規定が設けられている」と付記されており、実務上の位置づけは重い。
その規則が引いている線は、「利益まで」ではない。改正後の新第40条の2第1項は、「資産の貸借対照表価額の合計額から負債の貸借対照表価額の合計額を減算した金額から元本の額及び評価・換算差額等の額の合計額を控除した金額を上回る金額を分配する場合には、その上回る部分の金額を元本の額の一部減少として処理する」と定める。読んで分かるとおり、これは禁止の条文ではない。利益を超えて配ること自体は許されていて、超えた分を「元本が減った」と書け、と言っているだけである。
では歯止めは何かというと、規則の外にある。第1に信託契約の分配方針が案件ごとに上限を定めている。第2に借入契約の配当停止事由が、そもそも払うこと自体を止める。第3に、払い戻した分は元本減少割合として投資家に伝わり、投資家側の取得価額調整につながる。会計の線・契約の線・借入の線・投資家に渡す数字——この4本を分けて管理するのが実務の入口になる。
なお、限定責任信託であれば法令上の上限規制が直接効く。信託法第225条は限定責任信託について、受益者に対する信託財産に係る給付は給付可能額を超えてすることはできないと定め、給付可能額は信託計算規則第24条第1項により、給付の日が属する信託事務年度の前信託事務年度の末日における純資産額から、100万円(信託行為で信託留保金の額を定めた場合でそれが100万円を超えるときはその額)と、前期末後に給付した財産の帳簿価額の総額を控除した額とされる。違反給付には受託者のてん補義務と受益者の支払義務が生じ(同第226条第1項)、その義務は原則として免除できない(同第4項)。ただし信託法第218条第1項は「限定責任信託には、その名称中に限定責任信託という文字を用いなければならない」と定めており、本稿で確認した4本の書類にこの語は一度も現れない。制度としては存在するが、今回の4本にこの上限規制は働いていないと読むのが正確である。
① 会計規則の線元本を割り込むところまで
操作しているのは一般社団法人信託協会の「受益証券発行信託計算規則」である。信託法第13条が「信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う」と定め、同規則はその慣行を取りまとめたものとして公表されている。新第40条の2第1項は、「資産の貸借対照表価額の合計額から負債の貸借対照表価額の合計額を減算した金額から元本の額及び評価・換算差額等の額の合計額を控除した金額を上回る金額を分配する場合には、その上回る部分の金額を元本の額の一部減少として処理する」と定める。利益を超えて配ること自体は禁じられていない——超えた分を「元本が減った」と書けと言っているだけである。
② 信託契約の上限案件ごとに、償却累計額などで縛る
由縁 札幌の分配方針は「アセット・マネージャーが決定した場合には、有形固定資産の減価償却費累計額及び繰延資産の償却累計額を上限として、対象となる信託計算期間における当期未処分利益を超える金額の分配をすることができます」。期の減価償却費ではなく累計額が上限である。<PJ RB1>は別の書き方で、匿名組合の未処分利益を超える現金分配額と「信託設定日に信託された金54,430,000円のうち、当該計算期日における残額」の合計額の範囲、と定める(<熱海温泉>は同じ構造で33,113,557円)。案件によって天井の測り方が違うので、規則だけ読んでも上限は出ない。
③ ローン契約の停止条項天井以前に、蛇口が閉まる
由縁 札幌は「本借入れに関して本借入関連契約に定める一定の事由(配当停止事由)が生じた場合には、原則として本信託契約に係る配当の支払いは行いません」。品川案件は「配当停止事由が生じた場合には、原則として本信託契約に係る分配金の支払い及び元本の一部払戻しは行いません」と、元本の一部払戻しまで名指しで止める。GK-TK型の<熱海温泉>・<PJ RB1>は、期限の利益喪失事由の発生等により匿名組合契約に基づく配当が停止・制限され、その結果として信託の配当と元本の一部払戻しが行われない場合があると書く。会計上できることと、契約上してよいことは別である。
④ 投資家に渡す数字割合まで決めて公表する
元本の払戻しは投資家側で取得価額の調整につながるため、元本減少割合を確定して公表するところまでが一連の作業になる。品川案件の届出書は「本信託の元本の一部減少が行われる場合の当該一部減少に係る元本減少割合については、信託分配金支払日までに提供する方針です」と定める。同じ届出書は、元本の一部減少を行う場合に受益証券発行信託計算規則第35条の2その他の関連する条項にしたがって定められるべき各項目を、元本一部払戻日までにAMが決定し受託者へ通知すると書く。投資家側の計算は別稿『「元本減少割合」とは何か』で扱った。
※ 法定の「給付可能額」は、この4本には掛かっていない限定責任信託ではないため
信託法第225条は限定責任信託について、受益者への給付が給付可能額(前信託事務年度末日の純資産額から、100万円ないし信託行為で定めた信託留保金の額と、前期末後に給付した財産の帳簿価額の総額を控除した額。信託計算規則第24条第1項)を超えてはならないと定め、違反給付には受託者のてん補義務と受益者の支払義務が生じる(同第226条)。ただし信託法第218条第1項は限定責任信託の名称中に「限定責任信託」の文字を用いなければならないと定めており、本稿で確認した4本の書類にこの語は一度も現れない。制度としては存在するが、今回の4本にはこの上限規制は働いていないと読むのが正確である。
表: 利益超過分配にいくつ天井が掛かっているか。①は会計上の書き方の線、②は案件ごとの契約上の上限、③は借入契約による停止、④は投資家に渡す数字——実際に効くのは、たいてい①ではなく②か③である。「元本減少割合」とは、1口あたりの元本がその払戻しで何割減ったかを示す比率で、投資家はこれを使って取得価額を調整する。条文・規則・記載はいずれも本文の出所欄のとおり。税務の記述は一般的な整理であり、個別の判断は税理士等の専門家に確認されたい。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。2026年4月、書き方が変わった——「受益権調整引当額」から「元本の減少」へ
受益証券発行信託計算規則は、令和7年4月1日に改正された。信託協会の公表資料は改正内容を3点に整理していて、その第1点がこの記事の主題そのものである——「信託財産の減価償却費等相当分に係る投資家(受益者)への分配(利益を原資としない分配)について、『元本の払戻し』として処理するよう、新しく規定を追加」。減価償却費という語が、改正趣旨の一行目に置かれている。
改正前の処理はこうだった。旧第25条第5項は、当該事業年度に係る金銭の分配の額が、当該事業年度終了の時における純資産価格(資産の帳簿価格の合計額から負債の帳簿価格の合計額を減算した金額)から元本の額を控除した金額を上回る場合には、その上回る部分の金額を受益権調整引当額として表示しなければならない、と定めていた。貸借対照表の元本等の部に、マイナスの調整項目を1本立てる。元本そのものの金額は動かさない。そして旧第37条により、その受益権調整引当額を当期の利益処分に充当する場合には、当期未処分利益に加算する形式で受益権調整引当益として表示する。損益計算書の上では、利益がいったん膨らんで、それを配ったように見える。
改正後は二本立てになった。新第25条の2(計算期間中の元本の額の減少)は、受益権について「その金額を減少して分配することができる。その場合、効力を生ずる日、受益権の種類、減少方法、要する額その他必要な事項を定めるものとする」と定める。新第40条の2(計算期末の元本の額の減少)は、前節で引いたとおり、超過部分を元本の額の一部減少として処理すると定め、第2項で「受益権収益分配金とあわせて元本の額の一部減少を行う場合には、第二十五条第三項第一号の受益権の金額を減少するものとする」とする。引当項目ではなく、元本そのものを減らす。
表示の場所も変わった。旧規則の利益処分計算(旧第36条)・損失処理計算(旧第40条)は削除され、新第35条が分配額計算に置き換わった。新第35条第2項は「前項の分配額計算の結果は、損益計算書に分配額計算として注記するものとする」と定め、新第35条の2第1項が分配額計算の項目として当期未処分利益又は当期未処理損失、任意積立金取崩額、受益権収益分配金、任意積立金繰入額、次期繰越利益又は次期繰越損失の5つを挙げる。そして第2項が「前項第三号の受益権収益分配金とあわせて第四十条の二第一項の元本の一部減少を行う場合には、当該金額を区分して記載するものとする」。利益をいくら配ったのかと、元本をいくら返したのかが、最初から別の行に分かれる。
適用時期は附則第1条に置かれている——「この改正は、令和8年4月1日以後に終了する計算期間に係る計算書類について適用し、同日前に終了する計算期間に係るものについては、なお従前の例による」。ただし書で「第二十五条の二に基づく受益権の金額の減少は、令和8年4月1日以後においてのみ行うことができる」とも定める。令和8年4月1日は2026年4月1日である。決算日が3月31日なら旧ルール、4月30日なら新ルール、という切れ方をする。
経過措置は附則第2条にある。改正が適用された計算書類にかかる信託において、改正の適用前に表示された受益権調整引当額については、信託終了までは貸借対照表の元本等の部に表示することができる。ただし信託終了時までにその全額を戻し入れなければならず、戻入れにあたって受益権調整引当額を減算する場合、当該減算額は当期未処分利益に加算する形式により受益権調整戻入額として表示しなければならない。過去に積み上げた引当額は消えず、償還までの宿題として残る。
改正前(2026年3月末までに終了する計算期間)
貸借対照表
元本の部に「受益権調整引当額(△)」を立てる
- 旧第25条第5項:分配額が「期末の純資産価格−元本の額」を上回る部分を受益権調整引当額として表示
- 元本そのものの金額は動かさない(マイナスの調整項目を横に置く)
その引当額を利益処分に充てる▼
損益計算書
「受益権調整引当益」として利益に足し戻す
- 旧第37条:当期未処分利益に加算する形式で受益権調整引当益として表示
- 旧第36条の利益処分計算の中で、利益と一体で処理される
見え方: 帳簿の上では「利益が増えて、それを配った」という形になる。元本を払い戻したという事実は、貸借対照表の控除項目の残高からしか読めない。
改正後(2026年4月1日以後に終了する計算期間)
貸借対照表
元本の金額そのものを減らす
- 新第25条の2:受益権は「その金額を減少して分配することができる」。効力を生ずる日・種類・減少方法・要する額等を定める
- 新第40条の2:利益を超えて配った部分は「元本の額の一部減少として処理する」
利益処分計算を廃し、分配額計算へ▼
損益計算書(注記)
「分配額計算」として注記する
- 新第35条第2項:分配額計算の結果は損益計算書に分配額計算として注記する
- 新第35条の2第2項:受益権収益分配金とあわせて元本の一部減少を行う場合は、当該金額を区分して記載する
- 旧第36条・第37条・第39条・第40条は削除
見え方: 「利益をいくら配った」と「元本をいくら返した」が、注記の中で最初から二段に分かれる。改正の趣旨は信託協会の資料に明記されていて、「信託財産の減価償却費等相当分に係る投資家(受益者)への分配(利益を原資としない分配)について、『元本の払戻し』として処理するよう、新しく規定を追加」である。
図: 受益証券発行信託計算規則の令和7年4月1日改正で、利益超過分配の書き方がどう変わったか。左が旧、右が新。配る金額は変わらない——変わったのは、それを帳簿のどこに書くかである。適用は令和8(2026)年4月1日以後に終了する計算期間に係る計算書類から(附則第1条)。同日前に終了する計算期間はなお従前の例による。経過措置として、改正適用前に表示された受益権調整引当額は信託終了までは元本等の部に表示できるが、終了時までに全額を戻し入れなければならず、その減算は「受益権調整戻入額」として表示する(附則第2条)。つまり当面は、新旧2つの表示が同じ貸借対照表に同居する。実物で読む——同じ29,795千円が、前期と当期でまったく違う姿になった
2026年の提出書類には、この切替の前と後が同時に並んでいる。決算期がずれているためだ。
旧ルール側は、由縁 札幌の第5期(自2025年8月1日 至2026年1月31日)である。計算期間の末日が2026年1月31日なので、なお従前の例による。損益計算書は、当期純利益52,446千円、前期繰越利益なし、当期未処分利益52,446千円と続き、そこに受益権調整引当益17,253千円が加算され、利益処分額として受益権収益分配金69,700千円(一般受益権)、次期繰越利益なし、という並びになる。貸借対照表の元本等の部は、一般受益権3,749,999千円、精算受益権10千円、受益権調整引当額△123,933千円、元本合計3,626,075千円。前期末の受益権調整引当額は△106,680千円だったので、当期に17,253千円ぶん深くなった。払い戻した元本は、この控除項目の増減としてしか姿を現さない。
この期の減価償却費は50,846千円である。損益計算書関係の注記の不動産賃貸事業費用の内訳に、そのまま金額が出ている。賃貸等不動産の注記では、貸借対照表計上額が期首7,481,911千円から期末7,431,065千円へ50,846千円減っており、「前特定期間及び当特定期間の増減額のうち、減少額は減価償却費によるものです」と明記されている。当期の減価償却費50,846千円に対して、実際に超過分配したのは17,253千円——約3分の1である。
新ルール側は、<熱海温泉>の第5期と<PJ RB1>の第2期(いずれも自2025年11月1日 至2026年4月30日、2026年7月21日提出)である。計算期間の末日が2026年4月30日なので、新規則の最初の適用期にあたる。損益計算書の注記に「分配額計算」が現れ、A(利益処分に係る分配金計算)、B(元本の減少に係る分配金計算)、C(分配金総額)の三段構えになっている。
<熱海温泉>のAは、前期が当期未処分利益8,183千円+受益権調整引当益21,611千円→受益権収益分配金29,795千円。当期は当期未処分利益6,916千円→受益権収益分配金6,903千円、次期繰越利益13千円。Bは、分配前元本金額1,330,059千円、元本の減少額22,892千円(一般受益権)、分配後元本金額1,307,167千円。そしてCは、前期29,795千円、当期は6,903千円+22,892千円で29,795千円である。
投資家が受け取る金額は前期と1円も変わっていない。変わったのは読まれ方だけで、前期は「利益8,183千円と引当益21,611千円を配った」、当期は「利益6,903千円を配り、元本を22,892千円返した」となる。書類の注記も、前特定期間では当期未処分利益を超える金銭の分配を「受益権調整引当益」としていたところ、改正により当特定期間以降は「元本の減少額」としている、と明記している。
実務上の注意点はここにある。期間比較の表を作るときにAだけを引くと、<熱海温泉>の分配金は29,795千円から6,903千円へ約77%減ったように見える。実際には総額は不変である。分配実績の推移を扱う資料では、受益権収益分配金と元本の減少額を足した総額の行を必ず持っておく必要がある。
<PJ RB1>のほうは、Aが前期16,614千円+34,192千円→50,807千円、当期24,947千円→24,939千円(次期繰越8千円)。Bは分配前元本2,303,237千円から元本の減少額14,792千円を引いて分配後2,288,445千円。Cは前期50,807千円、当期39,731千円で、こちらは総額そのものが減っている。切替による見え方の変化と、実際の分配水準の変化は、別々に確かめる必要がある。
由縁 札幌(改正前)第5期(自2025年8月1日 至2026年1月31日)・2026年4月30日提出
計算期間の末日が2026年1月31日——2026年4月1日より前なので、なお従前の例による。損益計算書は当期未処分利益52,446千円 + 受益権調整引当益17,253千円 → 受益権収益分配金69,700千円、次期繰越利益なし。貸借対照表の元本等の部は、一般受益権3,749,999千円・精算受益権10千円・受益権調整引当額△123,933千円(前期末△106,680千円)・元本合計3,626,075千円。払い戻した17,253千円は、控除項目が17,253千円ぶん深くなる形で表れている。
<熱海温泉>(切替の期)第5期(自2025年11月1日 至2026年4月30日)・2026年7月21日提出
計算期間の末日が2026年4月30日——新規則の最初の適用期。注記の「分配額計算」はA・B・Cの三段構えになる。A(利益処分に係る分配金計算): 前期は当期未処分利益8,183千円+受益権調整引当益21,611千円→受益権収益分配金29,795千円。当期は当期未処分利益6,916千円→受益権収益分配金6,903千円、次期繰越利益13千円。B(元本の減少に係る分配金計算): 分配前元本1,330,059千円 → 元本の減少額22,892千円 → 分配後元本1,307,167千円。C(分配金総額): 前期29,795千円、当期は6,903千円+22,892千円で29,795千円。
同上——読みどころ総額は同じ、姿だけが変わった
投資家が受け取る29,795千円は前期と1円も変わっていない。変わったのは、前期は「利益8,183千円+引当益21,611千円を配った」と読め、当期は「利益6,903千円を配り、元本を22,892千円返した」と読める点である。有報の注記も「前特定期間では当期未処分利益を超える金銭の分配を『受益権調整引当益』としていたところ、受益証券発行信託計算規則改正……により、当特定期間以降は『元本の減少額』としております」と書く。期間比較で「分配金が減った」と早合点しないこと——Aだけを並べると29,795→6,903に見える。
<PJ RB1>(切替の期)第2期(自2025年11月1日 至2026年4月30日)・2026年7月21日提出
同じ構造がもう1本。A: 前期は当期未処分利益16,614千円+受益権調整引当益34,192千円→受益権収益分配金50,807千円。当期は当期未処分利益24,947千円→受益権収益分配金24,939千円、次期繰越利益8千円。B: 分配前元本2,303,237千円 → 元本の減少額14,792千円 → 分配後元本2,288,445千円。C: 前期50,807千円、当期39,731千円。こちらは総額そのものが減っている——切替の影響と実際の分配水準の変化は別に見る必要がある。
貸借対照表への影響認識日が期末から支払日へ動いた
両案件とも同じ注記を置く——「元本の減少が会計上認識されるのは信託配当支払日となるため、貸借対照表の元本金額は減少前のものとなります」。会計方針の変更として影響額も開示されていて、<熱海温泉>は元本の部の総額が改正前と比較して22,892千円増加し、1口当たり純資産(一般受益権)は1千円増加。<PJ RB1>は14,792千円増加、1口当たり純資産の増加は0千円。旧規則では期末時点で引当額を立てていたのに対し、新規則の元本減少は支払日に認識するため、期末の貸借対照表は「まだ払い戻していない」状態を映す。
表: 実際の有価証券報告書3本で、切替の前後を並べる。由縁 札幌が旧ルールの最後の姿、<熱海温泉>と<PJ RB1>が新ルールの最初の姿——決算期が3か月違うだけで、同じ2026年の提出書類が新旧に分かれている。「特定期間」とは、株式会社の事業年度にあたるものを特定有価証券について言い換えた言葉で、不動産STでは信託の計算期間(多くは6か月)がこれにあたる。「千円」表示は各書類の表示単位のとおりで、端数はそれぞれの書類の丸めによる。数値はいずれも本文の出所欄の各有価証券報告書の記載どおり(提出日現在)。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。期末の貸借対照表には、確定済みの払戻しが載っていない
新ルールで最も踏みやすい落とし穴が、認識日のずれである。
<熱海温泉>・<PJ RB1>はともに、分配額計算の注記に「元本の減少が会計上認識されるのは信託配当支払日となるため、貸借対照表の元本金額は減少前のものとなります」と書いている。同じ趣旨は会計方針の変更の注記にも詳しく書かれていて、受益権調整引当額を特定期間末日に認識していたところ、改正を受けて第25条の2に基づく元本の減少を実施する場合は、元本の払戻しの基準日が当特定期間末日であっても、当該元本の減少に係る会計上の認識日を計算期日後に迎える信託配当支払日としている、とされる。
規則の文言と整合している。旧第25条第5項は「当該事業年度終了の時における純資産価格」を基準に引当額を測っていたのに対し、新第40条の2第1項は「本項の資産の貸借対照表価額の合計額及び負債の貸借対照表価額の合計額とは、それぞれ本項による分配を行う直前の資産の評価額及び負債の評価額をいう」と定める。測る時点が期末から分配直前に動いたのだから、認識も期末から支払日に動く。
影響額も開示されている。<熱海温泉>は、改正後の受益証券発行信託計算規則に基づき計上した元本の部の総額が、改正前の元本の部の総額と比較して22,892千円増加し、その結果1口当たり純資産(一般受益権)が改正前と比較して1千円増加している。<PJ RB1>は14,792千円増加、1口当たり純資産の増加は0千円である。いずれも当期純利益には影響しないため、1口当たり当期純利益は変わらない旨も書かれている。
貸借対照表を見ると、たしかに元本は動いていない。<熱海温泉>の当期末の元本等の部は、一般受益権1,416,000千円、精算受益権10千円、受益権調整引当額△85,950千円(前期末と同額)、元本合計1,330,059千円で、前期末とまったく同じである。分配後元本1,307,167千円という数字は、注記の中にしか存在しない。
さらに注意が要るのは、その22,892千円が負債にも載っていないことだ。<熱海温泉>の当期末の未払収益分配金は6,903千円——利益部分だけである(前期末は29,795千円で全額が計上されていた)。当期末の負債合計8,003千円は、未払費用1,100千円とこの6,903千円で構成される。つまり、支払うことが確定している22,892千円は、資産の控除としても負債としても、期末の貸借対照表のどこにも現れない。<PJ RB1>も同様で、当期末の未払収益分配金は24,939千円である。
1口当たり元本や1口当たり純資産を対外資料に出すときは、どの時点の数字なのかを明記すること。期末貸借対照表ベースなのか、分配後ベースなのか——新旧が入り混じるこの1〜2年は、同じ「元本」という語が2つの意味で流通する。受け渡しの詰まりどころ全般は別稿『元本減少割合は「計算」ではなく「受け渡し」で決まる——不動産STの分配実務、5つの接点』にまとめてある。
なお、経過措置により旧ルール時代の受益権調整引当額は残り続ける。<熱海温泉>は△85,950千円、<PJ RB1>は△34,192千円を、新規則の適用後も元本等の部に抱えている。附則第2条によりこれは信託終了時までに全額を戻し入れなければならず、その減算は受益権調整戻入額として表示される。償還の工程表を引くときには、この戻入れを1行として置いておく必要がある。売却から償還までの日付の並びそのものは別稿『物件が売れても、その日には償還されない』で扱った。
GK-TK型には、物件の減価償却費が1円も載っていない
ここまでの説明は、信託が不動産受益権を直接持っている案件——由縁 札幌や品川案件——を前提にすると素直に読める。信託の損益計算書に減価償却費が載っていて、貸借対照表に信託建物と減価償却累計額が並んでいるからだ。
GK-TK型では、そうならない。GK-TK型とは、合同会社(GK)が物件を持ち、投資家側は匿名組合(TK)出資を通じて損益の分配を受ける仕組みのことで、信託が持っているのは不動産ではなく匿名組合出資である。<熱海温泉>であれば、本件営業者は合同会社オルタナ26、委託者はエスティファンドシックス合同会社、営業者側のアセット・マネージャーは三井物産デジタル・アセットマネジメントで、信託の資産は本件匿名組合出資と金銭に限られる(運用制限にも「本件匿名組合出資及び金銭以外の保有はしません」と書かれている)。
その結果、信託の財務諸表に物件の減価償却費は出てこない。<熱海温泉>の有価証券報告書で「償却」という語が現れるのは2か所だけで、いずれも開業費償却——繰延資産である開業費を5年以内の効果の及ぶ期間にわたり均等償却する、という記載である。物件の減価償却は営業者の帳簿の中で行われており、その営業者の財務諸表は有報に添付されない。
信託の側に見えるのは、資産としての投資有価証券(匿名組合出資)1,239,440千円(前期末1,267,147千円)と、収益としての匿名組合投資利益17,272千円(前期18,276千円)だけである。減価償却費は、この匿名組合投資利益という1行にすでに畳み込まれた状態で入ってくる。分配の原資がどこから出ているのかを、有報の数字から分解することはできない。
<PJ RB1>も同じ構造だが、この案件の有報には減価償却の記載が別の理由で現れるので、読み違えに注意が要る。有形固定資産は建物については定額法、その他の有形固定資産については定率法、建物10年から18年、その他の有形固定資産4年から20年——これは受託者であるSBI新生信託銀行自身の会社財務諸表の会計方針であって、投資対象不動産のものではない。有報には信託の財務諸表と受託者の財務諸表が両方載っているので、どちらの数字を読んでいるかを常に確認する必要がある。
GK-TK型の分配方針の書き方も、これに対応している。<PJ RB1>は、匿名組合員に対する現金分配金額のうち、直前の匿名組合契約所定の計算期日における匿名組合契約所定の未処分利益の金額を超える金額と、信託設定日に信託された金54,430,000円のうち当該計算期日における残額の合計額の範囲で、元本の一部減少として当期未処分利益を原資としない分配を行うことができる、と定める(<熱海温泉>は同じ構造で33,113,557円)。上限が減価償却累計額ではなく、匿名組合から実際に返ってきた金額と当初信託金の残額で測られている。信託の帳簿に減価償却費がない以上、そう書くほかない。
GK-TK型の会計・税務の全体像は別稿『匿名組合型(GK-TK)の会計・税務——出資は営業者の財産になり、損益は「計算期間の末日」で立つ』で扱った。この記事の文脈での結論は運用に直結する一点で、GK-TK型の案件では「超過分配の原資は何か」という問いに有価証券報告書のページを指して答えることができない。任意開示やAMのレポートで何をどこまで出すかを、組成の段階で決めておくことになる。
直接保有型(信託が不動産受益権を持つ)
見える
信託の財務諸表に減価償却費が載る
- 由縁 札幌の損益計算書関係の注記=賃貸事業費用の内訳に「減価償却費 50,846千円」
- 貸借対照表に信託建物3,625,107千円と減価償却累計額△289,761千円(前期末△238,945千円)
- 重要な会計方針に減価償却の方法(定額法・耐用年数16年〜63年)が注記される
超過分配の余力を、有報だけで自分で組み立てられる。会計方針の注記は信託計算規則第14条第1項第2号が「固定資産の減価償却の方法」を注記事項に挙げる構造と整合する。
GK-TK型(信託が匿名組合出資を持つ)
見えない
信託の財務諸表に物件の減価償却費は載らない
- <熱海温泉>の有報で「償却」の語が現れるのは開業費償却の2か所だけ
- 資産側は投資有価証券(匿名組合出資)1,239,440千円、収益側は匿名組合投資利益17,272千円のみ
- 物件を持ち、減価償却を計上しているのは営業者(合同会社オルタナ26)で、その財務諸表は有報に載らない
減価償却費は匿名組合投資利益という1行に畳み込まれて入ってくる。分配の余力がどこから出ているかは、有報の数字からは分解できない。<PJ RB1>も同じで、有報に現れる減価償却の記載は受託者(SBI新生信託銀行)自身の会社財務諸表のもの——建物10年から18年、その他の有形固定資産4年から20年——であって、投資対象不動産のものではない。
図: 同じ「利益超過分配」でも、その原資である減価償却費が有価証券報告書から見えるかどうかはスキームで割れる。左の直接保有型は自分で確かめられる、右のGK-TK型は確かめられない。「GK-TK型」とは、合同会社(GK)が物件を持ち、投資家側は匿名組合(TK)出資を通じて損益の分配を受ける仕組みのこと。読む側の実務的な結論は単純で、GK-TK型の分配可能額の根拠を有報に求めても出てこない——AMの任意開示や運用レポートを別に当たることになる。スキームの違いそのものは別稿『GK-TK型の会計・税務』で扱った。記載はいずれも本文の出所欄の各書類による。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。新規案件は、最初から新ルールで書かれている
2026年7月24日に提出された品川・オフィス&ホテル(オルタナ信託)の有価証券届出書は、新ルールを前提に設計されている。この案件は不動産管理処分信託の受益権を信託財産とする直接保有型で、初回の信託計算期間は信託設定日から2027年2月末日までとされている。
分配方針には、まず原則として利益の全額を分配する旨と、本信託の安定性維持のため利益の一部を留保又はその他の処理を行うことがあり、ただし未分配の利益剰余金が本受益権の1,000分の25を超えないものとする旨が書かれる(この書き方は由縁 札幌・<熱海温泉>・<PJ RB1>と共通である)。そのうえで、「本信託においては、アセット・マネージャーが決定した場合には、各信託分配金支払日において、受益証券発行信託計算規則に基づき、本受益者に対し、対象となる信託計算期間における当期未処分利益を超える金額の分配(元本の一部減少)を行うことができます」と続く。由縁 札幌が「減価償却費累計額及び繰延資産の償却累計額を上限として……当期未処分利益を超える金額の分配」と書いていたのに対し、こちらは規則を名指しし、括弧書きで「元本の一部減少」と言い切っている。
手続きも規則の条番号ごと書き込まれている。同届出書は、信託元本の一部減少としての払戻しを行う場合に受益証券発行信託計算規則第35条の2その他の関連する条項にしたがって定められるべき各項目については、当該信託計算期間に対する元本一部払戻日までの間の受託者及びアセット・マネージャーが別途合意する日までに、アセット・マネージャーが決定し受託者へ通知する、と定める。元本の一部減少としての払戻しが行われる日を「元本一部払戻日」と定義していて、利益の分配とは別の日付として名前が与えられている。
投資家に渡す数字の期限も明示されている。「アセット・マネージャーは、本書の日付現在、本信託の元本の一部減少が行われる場合の当該一部減少に係る元本減少割合については、信託分配金支払日までに提供する方針です」。元本減少割合とは、1口あたりの元本がその払戻しで何割減ったかを示す比率のことで、投資家はこれを使って取得価額を調整する。投資家側の計算手順は別稿『「元本減少割合」とは何か——取得価額調整と確定申告の要点』で扱った。
そして停止条項。「なお、本借入れに関して配当停止事由が生じた場合には、原則として本信託契約に係る分配金の支払い及び元本の一部払戻しは行いません」。利益の分配だけでなく、元本の一部払戻しも名指しで止まる。旧ルールで作られた由縁 札幌の記載が「原則として本信託契約に係る配当の支払いは行いません」で止まっているのと比べると、新ルールで元本の払戻しが独立した行為になったことが、契約文言の側にも反映されていると読める。借入条件そのものの読み方は別稿『ノンリコースローンは、どこで責任が切れ、いつ返す約束なのか』で扱った。
実務の勘所——決算前に、新旧どちらで書くかを先に確定させる
整理すると、この改正で変わったのは配る金額ではなく、それを帳簿のどこに書くかである。減価償却費が現金を伴わない費用であること、その分だけ利益より配れる現金が多くなること、超過部分が元本の払戻しとして扱われること——この骨格は改正の前後で変わっていない。変わったのは、超過部分が貸借対照表の控除項目(受益権調整引当額)として表れるか、元本そのものの減少として表れるか、そして損益計算書の利益処分計算の中に溶けているか、分配額計算の注記で区分されるか、である。
その一方で、書き方が変わったことによる実害は確実にある。第1に、期間比較で利益処分の行だけを追うと分配金が激減したように見える。第2に、期末の貸借対照表の元本は、確定済みの払戻しを反映していない——しかもその払戻し額は負債にも載っていないので、貸借対照表のどこを探しても出てこない。第3に、旧ルール時代の受益権調整引当額が信託終了まで残り、償還時に全額の戻入れが必要になる。いずれも数字を外に出す局面で効いてくる。
決算実務としては、順序が大事になる。計算期間の末日が2026年4月1日以後かどうかで適用規則を先に確定させ、そのうえで契約上の上限(累計額ベースか、当初信託金の残額ベースか)を確認し、借入契約の配当停止事由に触れていないかを判定し、最後に元本減少割合を算出して支払日までに公表する。この列が1つでも遅れると最後がずれるという構造は、分配実務全般に共通する。信託の計算書類が何を含み、会計監査がどこまでを対象にするかは別稿『信託の計算書類とは何か』で、分配額そのものの計算ルール(計算期間・日割・端数処理)は別稿『分配金はどう計算されているのか』で扱った。
最後に、決算前に潰しておく確認項目を置く。
なお本稿は制度と開示の解説であり、特定銘柄の取得を推奨・勧誘するものではない。会計・税務の記述は一般的な整理であって、個別の会計処理や課税関係の判断は公認会計士・税理士等の専門家に確認されたい。条文・規則の引用と数値は、いずれも本文の出所欄に挙げた各資料の記載どおりで、基準日は各書類の提出日ないし記載の基準日による(本稿の確認日は2026年8月11日)。
① 自分の案件がどちらのルールかを、計算期間の末日で判定する2026年4月1日が境目
附則第1条は「令和8年4月1日以後に終了する計算期間に係る計算書類について適用し、同日前に終了する計算期間に係るものについては、なお従前の例による」。決算日が3月31日なら旧、4月30日なら新。加えて同条ただし書は「第二十五条の二に基づく受益権の金額の減少は、令和8年4月1日以後においてのみ行うことができる」と、計算期間中の元本減少の実行日そのものにも線を引いている。
② 過去の受益権調整引当額の残高を、終了までの宿題として引き継ぐ放置すると清算時に効く
附則第2条は、改正適用前に表示された受益権調整引当額を信託終了までは元本等の部に表示することができるとしつつ、「当該信託終了時までに、当該受益権調整引当額の全額を戻し入れなければならず」、その減算は当期未処分利益に加算する形式で受益権調整戻入額として表示すると定める。<熱海温泉>は△85,950千円、<PJ RB1>は△34,192千円を新規則適用後も残高として抱えている。償還スケジュールを引くときに、この戻入れを工程として置いておく。
③ 期末の貸借対照表の元本を、そのまま「今の元本」として使わないいちばん踏みやすい落とし穴
新規則では元本の減少は信託配当支払日に認識される。<熱海温泉>・<PJ RB1>はともに「元本の減少が会計上認識されるのは信託配当支払日となるため、貸借対照表の元本金額は減少前のものとなります」と注記する。しかも減らす予定の22,892千円/14,792千円は、未払収益分配金としても負債に載っていない(<熱海温泉>の当期末の未払収益分配金は6,903千円=利益部分のみ)。期末貸借対照表には、確定済みの払戻しがどこにも現れない瞬間がある。1口当たり元本を外部に出す資料では、基準日をどこに置いた数字かを明記する。
④ 期間比較の分配金は、必ずA+Cの両方で並べる「利益処分」だけ見ると減って見える
<熱海温泉>は、利益処分に係る分配金計算(A)だけを並べると29,795千円→6,903千円だが、分配金総額(C)は29,795千円→29,795千円で不変である。切替の期をまたぐ比較表は、Aだけを引くと必ず誤る。分配金の実額推移を作るときは、受益権収益分配金と元本の減少額を足した総額の行を必ず持つ。
⑤ 契約上の上限が何ベースかを、規則と別に確認する累計額か、当初信託金の残額か
由縁 札幌は有形固定資産の減価償却費累計額及び繰延資産の償却累計額を上限とする。<PJ RB1>は匿名組合の未処分利益を超える現金分配額と信託設定日に信託された金54,430,000円のうち当該計算期日における残額の合計額の範囲(<熱海温泉>は33,113,557円)。「規則上できるか」と「契約上できるか」は別々に潰す。
⑥ 借入契約の配当停止事由を、分配カレンダーに紐づける元本の一部払戻しまで止まる
品川案件の届出書は「配当停止事由が生じた場合には、原則として本信託契約に係る分配金の支払い及び元本の一部払戻しは行いません」と、利益の分配だけでなく元本の一部払戻しも名指しで止める。GK-TK型では、匿名組合契約に基づく配当が停止・制限された結果として信託側の分配と元本の一部払戻しが行われない場合がある、という二段の書き方になる。コベナンツ判定日と分配決定日の前後関係は、期初に確定させておく。借入条件そのものは別稿『ノンリコースローンの実務』で扱った。
⑦ 元本減少割合の公表期限を、支払日から逆算する投資家の申告に直結する数字
品川案件は元本減少割合を信託分配金支払日までに提供する方針、かつ受益証券発行信託計算規則第35条の2その他の関連する条項にしたがって定められるべき各項目を元本一部払戻日までにAMが決定して受託者へ通知する、と定める。決算の確定→分配額計算の注記→割合の算出→公表が一本の線でつながっているので、どれか1つが遅れると最後がずれる。この受け渡しの詰まりどころは別稿『元本減少割合は「計算」ではなく「受け渡し」で決まる』にまとめてある。
⑧ GK-TK型は、有報に減価償却費がないことを前提に説明資料を作る「有報を見てください」で終われない
<熱海温泉>の有報に現れる「償却」は開業費償却の2か所のみで、物件の減価償却費は載らない。営業者(合同会社オルタナ26)の財務諸表は有報に添付されない。投資家や社内から「超過分配の原資は何か」と聞かれたときに、有報のページを指せない構造である。任意開示やAMのレポートで何をどこまで出すかを、組成時に決めておく。
図: 利益超過分配まわりで、決算前に潰しておく項目。①②は新旧どちらのルールで作るか、③④は数字の読み違いを防ぐ、⑤⑥は上限と停止条項、⑦は投資家に渡す数字、⑧はスキーム固有の制約。「附則」とは、規則の本体の後ろに置かれる、いつから適用するかなどを定めた部分のこと。条文・規則・記載・数値はいずれも本文の出所欄のとおり。会計・税務の記述は一般的な整理であり、個別の判断は公認会計士・税理士等の専門家に確認されたい。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。SOURCES / 出所
- 受益証券発行信託計算規則の改正について(新旧対照表を含む)(一般社団法人信託協会、令和7年4月1日)——改正趣旨「信託財産の減価償却費等相当分に係る投資家(受益者)への分配(利益を原資としない分配)について、『元本の払戻し』として処理するよう、新しく規定を追加」、新第25条の2(計算期間中の元本の額の減少)、新第35条(分配額計算・第2項で損益計算書に注記)、新第35条の2(分配額計算の項目・第2項で元本の一部減少を区分記載)、新第40条の2(計算期末の元本の額の減少)、旧第25条第5項(受益権調整引当額)・旧第36条(利益処分計算)・旧第37条(受益権調整引当益)の削除、附則第1条(令和8年4月1日以後に終了する計算期間から適用)、附則第2条(受益権調整引当額の経過措置と受益権調整戻入額)(2026年8月11日確認)
- 信託法(平成18年法律第108号)第13条——会計の原則(一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う)、第37条第2項——貸借対照表・損益計算書等の作成義務、第185条第3項——受益証券発行信託、第218条第1項——限定責任信託の名称中に「限定責任信託」の文字を用いる義務、第225条——受益者に対する信託財産に係る給付の制限(給付可能額)、第226条——違反給付に係る受託者のてん補義務・受益者の支払義務(e-Gov法令検索・2026年8月11日確認)
- 信託計算規則(平成19年法務省令第42号)第7条第2項——償却すべき資産は信託事務年度の末日において相当の償却をしなければならない、第14条第1項第2号——固定資産の減価償却の方法を重要な会計方針として注記、第19条——受益債権に係る債務の額は負債の部に計上できない、第20条——貸借対照表への給付可能額の注記、第24条第1項——給付可能額の算定方法(前信託事務年度末日の純資産額から、100万円ないし信託留保金の額と、前期末後に給付した財産の帳簿価額の総額を控除)(e-Gov法令検索・2026年8月11日確認)
- 有価証券報告書(内国信託受益証券等)三菱UFJ信託銀行株式会社・2026年4月30日提出・第5期(自2025年8月1日 至2026年1月31日)——ケネディクス・リアルティ・トークン ONSEN RYOKAN 由縁 札幌(譲渡制限付)。配当方針(有形固定資産の減価償却費累計額及び繰延資産の償却累計額を上限として当期未処分利益を超える金額の分配をすることができる旨/未分配の利益剰余金が本受益権の1,000分の25を超えない旨/配当停止事由)、重要な会計方針(定額法・信託建物16年〜63年・信託構築物63年)、損益計算書(当期純利益52,446千円・受益権調整引当益17,253千円・受益権収益分配金69,700千円)、貸借対照表(信託建物3,625,107千円・減価償却累計額△289,761千円/前期末△238,945千円・受益権調整引当額△123,933千円/前期末△106,680千円・元本合計3,626,075千円・長期借入金4,230,000千円)、損益計算書関係の注記(賃貸事業費用の内訳・減価償却費50,846千円)、賃貸等不動産の注記(期首7,481,911千円→期末7,431,065千円、減少額は減価償却費による、期末時価7,700,000千円)(EDINET S100Y1FJ)
- 有価証券報告書(内国信託受益証券等)三菱UFJ信託銀行株式会社・2026年7月21日提出・第5期(自2025年11月1日 至2026年4月30日)——三井物産のデジタル証券〜熱海温泉〜(譲渡制限付)。分配額計算の注記(A利益処分に係る分配金計算:前期 当期未処分利益8,183千円+受益権調整引当益21,611千円→受益権収益分配金29,795千円/当期 当期未処分利益6,916千円→受益権収益分配金6,903千円・次期繰越利益13千円。B元本の減少に係る分配金計算:分配前元本1,330,059千円→元本の減少額22,892千円→分配後元本1,307,167千円。C分配金総額:前期29,795千円・当期29,795千円。注1=受益権調整引当益から元本の減少額への変更、注2=元本の減少の会計上の認識日は信託配当支払日であり貸借対照表の元本金額は減少前のものとなる旨)、会計方針の変更(元本の部の総額が改正前比22,892千円増加・1口当たり純資産(一般受益権)が1千円増加・当期純利益に影響しない旨)、貸借対照表(投資有価証券1,239,440千円/前期末1,267,147千円・未払収益分配金6,903千円/前期末29,795千円・受益権調整引当額△85,950千円・元本合計1,330,059千円)、匿名組合投資利益17,272千円、営業者=合同会社オルタナ26、運用制限(本件匿名組合出資及び金銭以外の保有はしない)、分配方針(信託設定日に信託された金33,113,557円の残額を含む範囲での元本の一部減少)、配当停止(EDINET S100YR31)
- 有価証券報告書(内国信託受益証券等)SBI新生信託銀行株式会社・2026年7月21日提出・第2期(自2025年11月1日 至2026年4月30日)——三井物産グループのデジタル証券〜学芸大学・中野・浅草橋・大塚〜(譲渡制限付・<PJ RB1>)。分配額計算の注記(A:前期 当期未処分利益16,614千円+受益権調整引当益34,192千円→受益権収益分配金50,807千円/当期 当期未処分利益24,947千円→受益権収益分配金24,939千円・次期繰越利益8千円。B:分配前元本2,303,237千円→元本の減少額14,792千円→分配後元本2,288,445千円。C:前期50,807千円・当期39,731千円)、会計方針の変更(元本の部の総額が改正前比14,792千円増加・1口当たり純資産の増加は0千円)、貸借対照表(受益権調整引当額△34,192千円・未払収益分配金24,939千円)、分配方針(匿名組合の未処分利益を超える金額と信託設定日に信託された金54,430,000円の残額の合計額の範囲での元本の一部減少)、受託者自身の会社財務諸表における減価償却の方法(建物10年から18年・その他の有形固定資産4年から20年)(EDINET S100YR5I)
- 有価証券届出書(内国信託受益証券等)オルタナ信託株式会社・2026年7月24日提出——三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜(譲渡制限付)。分配方針(受益証券発行信託計算規則に基づく「元本の一部減少」としての分配、元本一部払戻日の定義、受益証券発行信託計算規則第35条の2その他の関連する条項にしたがって定められるべき各項目のAMによる決定と受託者への通知、元本減少割合を信託分配金支払日までに提供する方針、配当停止事由が生じた場合は分配金の支払い及び元本の一部払戻しを行わない旨)、初回の信託計算期間(信託設定日から2027年2月末日まで)、信託財産=不動産管理処分信託の受益権(EDINET S100YS50)
- EDINET(金融庁)——本稿で参照した有価証券報告書・届出書の閲覧元
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。
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