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「運用報告書」という一本の書面はない——不動産STのAMレポートを、有価証券報告書・運用態勢概要書・適時開示・任意レポートの4層で読む

公開 2026-08-07 / 読了 18

投資信託には「運用報告書」という法定の書面がある。不動産STにはない。では、AM(アセット・マネージャー)が半年ごとに何を書き、投資家は何を読んでいるのか。有価証券報告書の様式、大阪デジタルエクスチェンジが求める運用態勢概要書、適時開示の閾値、そして各社が任意で出す月次レポートまで、実物を突き合わせて「運用報告」の中身を4層に分けて確定させる。

まず前提——「運用報告書」は投資信託の言葉であって、不動産STの言葉ではない

実務でよく「AMレポート」「運用報告」という言い方をする。ところが不動産STの制度を条文からたどると、その名前の書面はどこにも出てこない。投資信託の受益者に交付される「運用報告書」は投資信託及び投資法人に関する法律が定める法定書面だが、公募の不動産STの主流である受益証券発行信託型は、その法律の適用を受けていない。だから「AMレポートには何を書くのですか」という問いには、まず「どのレポートのことですか」と返さざるを得ない。

用語を先に4つ置く。1つめはAM(アセット・マネージャー、資産運用会社)——受託者から委託を受けて、物件の運営・管理・売却を実際に決める会社のこと。投資家が読む数字はほぼすべてこの会社が作っている。2つめは計算期間——信託の決算の単位で、公募の不動産STでは6か月が多い。3つめは特定期間——株式会社でいう事業年度にあたる概念を特定有価証券について言い換えたもので、不動産STではこの計算期間がそのまま特定期間になる。4つめは適時開示——決まった期日ではなく、事象が起きたときに「直ちに」出す情報提供のことである。

この記事は、実務で「運用報告」と呼ばれているものを4つの層に分ける。第1層は法定の有価証券報告書、第2層は大阪デジタルエクスチェンジ(以下「ODX」)が求める運用態勢等に関する概要書、第3層は適時開示、第4層は各社が任意で出す月次レポートや決算報告である。締切があるのは第1層と第2層、事象ドリブンが第3層、義務ですらないのが第4層——この違いを押さえると、「どこまで書かなければならないか」と「どこから先は自主判断か」の線が引ける。

材料は実物に取る。①2026年7月21日提出の有価証券報告書(第5期)「匿名組合出資<熱海温泉>信託(譲渡制限付)」(受託者=三菱UFJ信託銀行。以下「<熱海温泉>」)、②2026年4月30日提出の有価証券報告書(第5期)「ケネディクス・リアルティ・トークン ONSEN RYOKAN 由縁 札幌」(受託者=三菱UFJ信託銀行、AM=KDX STパートナーズ。以下「由縁 札幌」)、③2026年7月21日提出の有価証券報告書(第2期)「匿名組合出資<PJ RB1>信託(譲渡制限付)」(受託者=SBI新生信託銀行。以下「<PJ RB1>」)、④2026年7月24日提出の有価証券届出書「三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜(譲渡制限付)」(発行者〈受託者〉オルタナ信託株式会社。以下「品川案件」)。①〜④はEDINETで全文が読める。加えて⑤ODXが公表している様式-7の雛形と、実際に提出・公開された概要書2本、⑥ケネディクス・リアルティ・トークンの任意開示資料を使う。

第1層/法定
有価証券報告書(EDINET)
  • 出すのは発行者=受託者(信託銀行)。中身はAMが作る
  • 根拠: 金融商品取引法第24条第5項+特定有価証券開示府令第22条第1項第9号(第九号様式)
  • 期限: 特定期間(=信託の計算期間)経過後3か月以内
  • 載るもの: 物件の稼働率・鑑定評価額・借入条件・信託の財務諸表(監査済み)
第2層/取引所ルール
運用態勢等に関する概要書(様式-7)
  • 出すのはAM(資産運用会社)自身。名義もAM代表者名
  • 根拠: ODXセキュリティトークン取扱規程第18条第4項(第15条第1項第2号〜第5号の事項)
  • 期限: 毎計算期間経過後3か月以内。ODXへ提出し、あわせて自社HPで公開
  • 載るもの: AMの組織・出向者比率・利益相反への対応・スポンサーとの取引・物件の来歴
第3層/適時開示
START-NETと自社サイトへの適時の情報提供
  • 根拠: 取扱規程第18条第1項(インサイダー取引類似行為に関する規則第7条第1項〜第3項の事実など)
  • 期限: 「直ちに」。予想値と実績の乖離が閾値を超えた時にも発生する
第4層/任意
月次レポート・決算報告・決算ハイライト
  • 法令にも規程にも根拠はない。各社が投資家向けに自主的に出しているもの
  • 法定より早い(決算報告は計算期日の約1か月後)が、未監査であることが明記されている
これとは別に、受託者から受益者への報告という経路が信託法第37条第2項・第3項にある(第4層とは別系統で、EDINETを通らない)。
図: 「AMレポート」と呼ばれているものの正体。不動産STには、投資信託の「運用報告書」のような、法律が名前と様式を決めた一本の書面が存在しない——だから何を書くかは、この4層のどれを指しているかで答えが変わる。読む順番は第1層から。第1層と第2層は期限が決まっている義務、第3層は事象が起きた時の義務、第4層は義務ではない。「AM(アセット・マネージャー/資産運用会社)」とは、受託者から委託を受けて物件の運営・管理・売却を決める会社のことで、投資家が読む数字はほぼすべてこの会社が作っている。根拠条文・規程は本文の出所欄のとおり。

第1層——法律のほうが、STの有報を「資産の運用の報告書」だと書いている

金融商品取引法第24条第1項は、株式会社について有価証券報告書の提出を義務づける条文である。特定有価証券については同条第5項が、この第1項を読み替えて準用する。その読替えが、不動産STの有報の性格をはっきり示している。

第5項は、第1項本文の「当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項」を、「当該会社が行う資産の運用その他これに類似する事業に係る資産の経理の状況その他資産に関する重要な事項」と読み替える。会社の事業の報告書ではなく、資産の運用の報告書である、と法律が書いているわけである。さらに「事業年度ごと」は「当該特定有価証券につき、内閣府令で定める期間(以下この条において『特定期間』という。)ごと」と読み替えられ、提出期限は「当該特定期間経過後三月以内」となる。

その特定期間を定めるのが、特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令(以下「特定有価証券開示府令」)第23条である。同条第2号は、前号に掲げる特定有価証券以外のもの——受益証券発行信託型の不動産STはここに入る——について、特定期間を「当該特定有価証券に係る信託の計算期間」と定める。ただし書で「同号に定める期間が六月に満たない場合には、六月」とする下限が付く。つまり不動産STの有価証券報告書は、事業年度ではなく信託の計算期間ごとに、その末日から3か月以内に出る。計算期間が半年なら、有報は年2回である。

様式は同府令第22条第1項が特定有価証券の区分ごとに定めており、第9号が「内国信託受益証券、内国信託社債券及び内国信託受益権」について第九号様式を指定する。半期報告書のほうは同府令第28条第1項第9号が第十二号様式を指定し、提出期限は金融商品取引法第24条の5第3項が準用する同条第1項の表の第三号により、6か月が経過した日から起算して3か月以内である。

では実際に半期報告書は出ているのか。有報の最終節「第4【参考情報】」は、当該計算期間の開始日から提出日までにEDINETへ提出した書類を列挙する欄で、ここを見れば分かる。<熱海温泉>の第5期は「2025年12月25日 有価証券報告書及びその添付書類(第4期 自2025年5月1日 至2025年10月31日)」の1件のみ。由縁 札幌の第5期は「2025年10月31日 第4期(自2025年2月1日 至2025年7月31日)有価証券報告書」の1件のみ。<PJ RB1>の第2期は第1期の有報とその訂正報告書の2件のみである。計算期間が6か月の銘柄では、実務上並ぶのは有価証券報告書だけになる。

提出のタイミングも実測しておく。<熱海温泉>は第4期(末日2025年10月31日)を2025年12月25日に、第5期(末日2026年4月30日)を2026年7月21日に提出している。由縁 札幌は第4期(末日2025年7月31日)を2025年10月31日、第5期(末日2026年1月31日)を2026年4月30日。<PJ RB1>は第1期(末日2025年10月31日)を2026年1月30日に提出し、その3日後の2026年2月2日に訂正有価証券報告書を出している。3か月の期限に対して、実際は末日から2〜3か月に集中する。

第1・1【概況】
信託の基本情報と、受託者の信託財産管理体制・リスク管理体制。ここは「態勢」の話で、運用の数字は出てこない
第1・2【信託財産を構成する資産の概要】
運用の中身がいちばん厚く載るのは、実はこの節である。物件の所在地・構造・用途、賃貸可能面積、稼働率(複数期の推移)、主要テナント、PM会社、建物状況調査(エンジニアリング・レポート)の修繕費見込み、そして不動産鑑定評価書の概要——直接還元法とDCF法の内訳、還元利回り、割引率、積算価格まで。
第1・3【信託の仕組み】
信託契約の主要条項(分配・償還・信託報酬・終了事由)、関係者の契約関係。「いつ・いくら・誰に払うか」の根拠条項はここ
第1・4【信託財産を構成する資産の状況】
(1)運用(管理)の概況/(2)損失及び延滞の状況/(3)収益状況の推移/(4)買戻し等の実績。名前に反して、(1)は総資産額・負債総額・純資産総額の3行しかない(本文で実測)。
第1・5【投資リスク】
リスク要因の列挙。期をまたいで文言が変わっていないかを差分で見るのが実務の読み方になる。
第1・6【信託財産の経理状況】
貸借対照表・損益計算書・注記表と、監査法人の監査報告書。監査の対象はこの節だけ(別稿『信託の計算書類とは何か』)。
第2【証券事務の概要】
受益権の取扱い、原簿、権利行使の手続。
第3【受託者、委託者及び関係法人の情報】
受託者・委託者・その他関係法人(引受人兼取扱金融商品取引業者、アセット・マネージャー、受益者代理人)の名称・登録番号・関係業務。AMがどの登録を持ち、誰の100%子会社かを確かめる場所
第4【参考情報】
当該計算期間の開始日から本報告書提出日までにEDINETへ提出した書類の一覧。半期報告書や臨時報告書が出ていたかを確かめられる
図: 有価証券報告書(内国信託受益証券等)の章立てと、それぞれに何が載るか。探しているものが「運用の実績」なら、見出しに『運用』と付いている第1・4ではなく、第1・2を開く——これがこの様式でいちばん誤解されるところである。章立ては本文の出所欄の実物4件(<熱海温泉>・由縁 札幌・<PJ RB1>の各有価証券報告書と品川案件の有価証券届出書)に共通する見出しをそのまま並べたもの。様式は特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第22条第1項第9号が定める第九号様式。

「運用(管理)の概況」は3行しかない——運用の中身は別の節にある

第九号様式に沿った有価証券報告書には、「第1【信託財産の状況】4【信託財産を構成する資産の状況】(1)【信託財産を構成する資産の運用(管理)の概況】」という項目がある。名前だけ見れば、ここに運用の実績が書いてあると思う。実際に開くと、そうではない。

<熱海温泉>の第5期は、当特定期間(2026年4月30日)について総資産額1,338,076千円・負債総額8,003千円・純資産総額1,330,073千円。以上である。由縁 札幌の第5期も同じ形で、当特定期間(2026年1月31日)の総資産額8,172,178千円・負債総額4,546,102千円・純資産総額3,626,075千円。<PJ RB1>の第2期も、2026年4月30日現在の総資産額2,330,274千円・負債総額27,029千円・純資産総額2,303,245千円の3行だけである。品川案件は募集前の届出書なので、この項目はまるごと「該当事項はありません」となっている。

同じ節の残り3項目も短い。(2)損失及び延滞の状況と(4)買戻し等の実績は、3件とも「該当事項はありません」。読める情報が入っているのは(3)収益状況の推移で、ここは計算期をまたいだ推移が表になる。由縁 札幌は第1期から第5期まで、収益合計254,802/168,023/168,128/168,387/168,563千円、費用合計201,914/116,783/115,785/117,039/116,117千円、当期純利益52,888/51,240/52,343/51,348/52,446千円(いずれも千円)。<熱海温泉>は収益合計13,822/21,337/20,753/18,330/17,346千円、当期純利益4,891/10,359/9,573/8,183/6,916千円。<PJ RB1>は第1期・第2期で収益合計33,892/44,711千円、当期純利益16,614/24,947千円である。

では、稼働率も鑑定評価額もどこにあるのか。同じ有報の一つ手前、「第1【信託財産の状況】2【信託財産を構成する資産の概要】」である。ここに物件の所在地・構造・用途、賃貸可能面積、複数期にわたる稼働率、主要テナント、PM会社、建物状況調査(エンジニアリング・レポート)の修繕費見込み、そして不動産鑑定評価書の概要が並ぶ。由縁 札幌の例でいえば、客室数182室、賃貸可能面積7,416.00㎡、稼働率は2024年1月末日から2026年1月末日までの5時点すべて100.0%、PM会社は株式会社リオ・コンサルティング、マスターリース会社なし、建物状況評価は東京海上ディーアール株式会社(調査年月日2022年12月7日)で今後1年間に必要とされる修繕費0円・今後2〜12年間に必要と想定される修繕費177,663千円、といった具合である。

実務上の含意は単純だが重い。投資家向けの説明資料を「運用(管理)の概況」から作ると、稼働率も鑑定評価額も落ちる。有報の中で運用の実績が書かれているのは第1・2であって、名前に『運用』の付いた第1・4ではない。

同じ様式でも、埋まる欄と埋まらない欄がある——非開示の壁はテナント構成で決まる

第九号様式は全銘柄に共通である。ところが、鑑定評価書の概要という同じ表を3本並べると、埋まり方がまるで違う。

<PJ RB1>の投資対象不動産①「ALTERNA学芸大学」は、鑑定評価額1,030百万円(価格時点2026年4月30日)、直接還元法による価格1,050百万円、運営収益40百万円、潜在総収益42百万円、うち共益費込貸室賃料収入40百万円、空室等損失等2百万円、運営費用7百万円(維持管理費2、水道光熱費0、修繕費0、PMフィー1、テナント募集費用等1、公租公課2、損害保険料0、その他費用1)、運営純収益33百万円、純収益33百万円、還元利回り3.1%、DCF法による価格1,030百万円、割引率2.9%、最終還元利回り3.2%、積算価格791百万円、土地比率75.0%・建物比率25.0%。フルセットである。

由縁 札幌は途中まで空く。鑑定評価額7,700百万円(価格時点2026年1月31日。信託設定日における不動産価額は7,720百万円)、直接還元法による価格7,850,000千円、DCF法による価格7,640,000千円、原価法による積算価格5,840,000千円、還元利回り(NCF)3.7%、割引率3.5%、最終還元利回り3.9%。ここまでは出る。ところが「(1)運営収益」は非開示で、潜在総収益から運営費用の各行まで空欄のまま、「(3)運営純収益(NOI)297,551千円」「(4)資本的支出8,861千円」「(5)一時金の運用益1,680千円」「(6)純収益(NCF)290,369千円」だけが埋まる。収益と費用は伏せ、差額だけ出す、という開示である。

<熱海温泉>は、そこすら空く。鑑定評価額4,940百万円(価格時点2026年4月30日)、収益価格4,940百万円、直接還元法による価格4,970百万円、還元利回り4.2%、DCF法による価格4,910百万円、割引率4.0%、最終還元利回り4.3%、積算価格3,430百万円。しかし運営収益から純収益までの各行は、すべて空欄である。理由は注記に明示されている——「賃借人から開示の承諾を得られていない情報及び当該情報を算出することができる情報が含まれており、これらを開示した場合、賃借人との信頼関係が損なわれる等により賃貸借契約の長期的な維持が困難になる等の不利益が生じ、最終的に本受益者の利益が損なわれる可能性があるため、開示しても支障がないと判断される一部項目を除き、非開示としています。」

賃貸借の概要も同じである。<熱海温泉>は総賃貸可能面積5,716.16㎡、賃貸面積5,716.16㎡、稼働率は2024年4月末日から2026年4月末日までの5時点すべて100%、主要テナントの名称はUDS株式会社(不動産業)、賃貸借形態は定期建物賃貸借契約と書く一方、年間賃料及び共益費・敷金保証金・賃料改定の可否・賃貸借期間・中途解約はいずれも非開示。「主要テナント(当該テナントへの賃貸面積が全賃貸面積の10%以上を占めるテナントをいいます。)から開示の同意が得られていないため、一部の項目について非開示としています。」という注記が付く。

3件を並べると、差を生んでいるのはスキームではなくテナント構成だと分かる。<PJ RB1>は共同住宅で賃借人が多数いるため、運営収益を出しても特定の賃借人の賃料は逆算できない。<熱海温泉>と由縁 札幌はホテルで、実質的に1社が建物全体を借りている。運営収益を書けばその1社の賃料が公になる。だから承諾が要り、承諾が得られなければ欄が空く。これは有報を書く段階の問題ではなく、賃貸借契約を締結する段階の問題である。

もう一つ、スキームによる違いも押さえておく。GK-TK型の<熱海温泉>では、信託が持っているのは不動産受益権ではなく匿名組合出資である。その結果、信託の貸借対照表の資産は投資有価証券1,239,440千円と銀行勘定貸88,881千円(いずれも2026年4月30日現在)、損益計算書の経常収益は「匿名組合投資利益17,272千円」と「銀貸利息73千円」の合計17,346千円しかない。賃料も減価償却費も借入金も、信託の帳簿には現れない。対する由縁 札幌は不動産受益権を直接保有しているので、損益計算書に賃貸事業収入168,000千円・賃貸事業費用66,828千円が立ち、資産運用報酬14,740千円・受託者報酬5,066千円・会計監査人費用1,800千円・融資関連費用2,115千円・支払利息14,679千円と費目が並ぶ(いずれも自2025年8月1日 至2026年1月31日)。型ごとの違いは別稿『不動産STOのスキーム比較』で扱った。

由縁 札幌
<熱海温泉>
<PJ RB1>
スキーム
不動産受益権を直接保有
匿名組合出資を保有(GK-TK型)
匿名組合出資を保有(GK-TK型)
用途・テナント
ホテル(客室182室)。主要テナント1社
ホテル。主要テナント1社(UDS株式会社)
共同住宅4物件。多数の賃借人
稼働率
5期分すべて100.0%を開示
5時点すべて100%を開示
物件ごとに開示
年間賃料・敷金・賃貸借期間
非開示(同意が得られず)
非開示(同意が得られず)
(多数テナントのため個別記載なし)
鑑定の運営収益
非開示
非開示
40百万円
鑑定の運営費用の内訳
維持管理費・水道光熱費・修繕費などの各行は空欄
各行すべて空欄
維持管理費2/PMフィー1/公租公課2など各行を開示
NOI(運営純収益)
297,551千円を開示
非開示
33百万円
NCF(純収益)
290,369千円を開示
非開示
33百万円
還元利回り・割引率
3.7%/3.5%(最終還元3.9%)
4.2%/4.0%(最終還元4.3%)
3.1%/2.9%(最終還元3.2%)
鑑定評価額
7,700百万円(2026年1月31日)
4,940百万円(2026年4月30日)
1,030百万円(2026年4月30日・1物件分)
信託の損益計算書
賃貸事業収入・賃貸事業費用が立つ
「匿名組合投資利益」1行のみ(当期17,272千円)
同左
<熱海温泉>の非開示には、有価証券報告書に理由まで書いてある——「賃借人から開示の承諾を得られていない情報及び当該情報を算出することができる情報が含まれており、これらを開示した場合、賃借人との信頼関係が損なわれる等により賃貸借契約の長期的な維持が困難になる等の不利益が生じ、最終的に本受益者の利益が損なわれる可能性があるため、開示しても支障がないと判断される一部項目を除き、非開示としています。」
表: 同じ第九号様式で作られた3本の有価証券報告書が、鑑定評価の同じ欄をどこまで埋めているか。差を生んでいるのはスキームではなくテナント構成である——賃借人が1社しかいない物件では、運営収益を出すとその1社の賃料が逆算できてしまうため、承諾が得られない限り欄が空く。住宅のように賃借人が多数いる物件(<PJ RB1>)では、同じ欄がすべて埋まる「NOI(運営純収益)」とは、賃料等の収入から運営費用を引いた、物件が1年間で生む現金に近い利益のこと。数値はいずれも各有価証券報告書(2026年4月提出・2026年7月提出)の記載どおりで、価格時点は表のとおり。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。

第2層——AM自身についての報告書が、半年に1度、有報と同じ締切で出ている

ここまでは「信託財産に何が起きたか」の報告である。それとは別に、「その判断を誰が、どういう仕組みで下しているか」を報告する書面が、STARTに上場している銘柄にはある。ODXのセキュリティトークン取扱規程が求める、運用態勢等に関する概要書である。

根拠は取扱規程第18条第4項——「不動産投資受益証券型セキュリティトークンの発行者等及び不動産投資証券型セキュリティトークンの発行者等は、第15条第1項第2号から第5号に記載した事項を記した書面を各計算期間又は各営業期間終了後、3か月以内に当社に提出するとともに、自社のホームページ等で公表するものとする。」引かれている第15条第1項は取扱審査の基準で、第2号は情報の提供を適正に行うことができる状況にあること、第3号は資産の運用等にあたって内部牽制機能を確保するに必要な経営管理組織が相応に整備され運用されている状況にあること、第4号は法令等を遵守するための有効な体制が適切に整備・運用されていると認められること、第5号は取引行為その他の資産の運用等を通じて不当に利益を供与又は享受していないと認められ、そのような状況が生じる可能性を適切にコントロールしていること。つまり、上場時に一度審査した4点を、半年ごとに自分で書き直して出し続ける仕組みである。

その書面の雛形をODXが「(様式-7)不動産投資受益証券の発行者等(資産運用会社)の運用態勢等に関する概要書」として公表している。冒頭の注記には、この概要書の趣旨がこう書かれている——「本概要書は、資産運用会社やスポンサーの資本的・人的関係、取引関係、そしてこれらの関係を踏まえた利益相反取引への対応方針及び運用態勢あるいは利害関係を有する者との取引状況などを記載することにより、投資者の投資判断をサポートするものとなります。」加えて、提出後・次回提出までの間に記載事項に大幅な変更が生じた場合は、可能な限り変更した概要書を提出・公開するよう求めている。

実物を2本見る。1本目はKDX STパートナーズ株式会社の2025年1月31日付概要書(銘柄=ケネディクス・リアルティ・トークン KDX名古屋栄ビル(デジタル名義書換方式)、ISINコード JP8000060007)。受益権保有状況の欄は2024年10月31日現在でAM自身0口・0.0%、親会社ケネディクス株式会社460口・1.46%。大株主の欄は2025年1月31日現在でケネディクス株式会社67,900株・100.0%。注記には、AMが2024年12月1日付でケネディクス・インベストメント・パートナーズ株式会社からアセット・マネジメント業務委託契約上の地位及び権利義務を承継して新たな資産運用会社になったこと、発行者(委託者)である株式会社KST9が2024年6月30日付で解散し2024年12月20日付で清算手続きが結了したことが書かれている。委託者GKの後始末が、この書面で投資家に伝わっている(GKの畳み方は別稿『組成が終わったGKはいつ・どう畳むのか』で扱った)。

2本目は三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社の2025年12月4日付概要書(銘柄=三井物産グループのデジタル証券〜三重・イオンタウン鈴鹿〜(デジタル名義書換方式)、ISINコード JP8000110000)。利害関係人等との取引等は取引状況・支払手数料等ともに「該当事項はありません」。注目すべきは「(2)投資対象不動産等の状況」で、物件の来歴を第三者までさかのぼって並べる欄である。現信託設定時点のエスティ12合同会社(2024年11月取得)、一次前の株式会社東祥(2022年5月)、二次前のマンゴスチン特定目的会社(2014年5月)、三次前のディエイチ・リテール・ツー合同会社(2009年2月)と実名が並び、取得(譲渡)価格はいずれも非開示、取得の経緯・理由は現信託設定時点が「投資目的」、それ以前は「不詳」と記載されている。さらにエスティ12合同会社が2025年1月10日付で解散し2025年5月22日付で清算手続が結了したことも注記されている。

同じ概要書の「4.その他」には、不動産鑑定機関の選定方針と概要が入る。イオンタウン鈴鹿の鑑定機関は株式会社谷澤総合鑑定所で、不動産鑑定士の人数は95名(2025年8月1日現在)、選定理由は「当社および当社株主グループと特別な利害関係がない先であり、社会的な信頼性が高く、当社と取引実績のある大手不動産鑑定会社から選定しています。」エンジニアリング・レポート作成機関は大和不動産鑑定株式会社。鑑定を何回取るかは別稿『鑑定評価書は何回取得が必要か』で扱ったが、誰に頼むかとその理由を書かせるのは、この概要書の側の仕事である。

1(1)(2)STARTで売買に供する目的/コンプライアンス基本方針
なぜ二次流通市場に載せるのかと、法令遵守の基本的な考え方。ここは各社ほぼ定型文になる
1(3)資産運用会社及び利害関係者の受益権保有状況
計算期間末日現在の受益者上位5名を、AM・スポンサーとの関係と取得の経緯つきで書く。KDX ST パートナーズの2025年1月31日付概要書では、AM自身の保有は0口、親会社ケネディクス株式会社が460口・1.46%と記載されている。
1(4)資産運用会社の大株主の状況
提出日現在の大株主上位10名。同概要書ではケネディクス株式会社が67,900株・100.0%。AMが誰の意思で動く会社かが一目で分かる欄
1(5)(6)投資方針・投資対象/スポンサーに関する事項
資産の種類・用途・地域・築年数・価格帯、テナント選定基準。スポンサー企業グループの事業内容と、物件供給・情報提供契約があればその概要、グループ内での物件情報の優先順位や棲分けまで記載を求められる。
2(1)資産運用会社の役員・従業員の状況、運用態勢
役員の常勤/非常勤の別、主要な経歴、兼任・兼職・出向。従業員は出向元会社ごとの出向者数と、出向者比率(出向者合計÷従業員総数)を数字で出す。組織図には物件調査・審査、監査、リスク管理、法令遵守の業務分掌を含める。
2(2)利益相反取引への対応方針・運用態勢と、その妥当性の自己評価
意思決定の仕組みをフローチャートで示し、「利益相反取引の防止に対しての有効性や妥当性の自己評価」まで書く。社外委員やコンプライアンス・オフィサーがいれば、氏名・略歴・スポンサーグループとの関係と果たす機能を記載する。
3(1)利害関係人等との取引等
直前の計算期間における利害関係人等(投信法第11条第1項・同法施行令第17条の定義による)との取引内容を、相手方の名称・金額・各取引総額に占める割合・取引類型(仲介/PM委託/賃貸借)に区分して書く。三井物産デジタル・アセットマネジメントの2025年12月4日付概要書は「該当事項はありません」。
3(2)投資対象不動産等の状況(物件の来歴)
特別な利害関係にある者と関係のない第三者までさかのぼって、物件ごとの前所有者・信託受益者の名前、取得時期、価格、取得の経緯を並べる。前掲のイオンタウン鈴鹿の概要書は、現信託設定時点のエスティ12合同会社から3代前まで(株式会社東祥=2022年5月、マンゴスチン特定目的会社=2014年5月、ディエイチ・リテール・ツー合同会社=2009年2月)を実名で開示し、価格は非開示と明記している。
4(1)(2)不動産鑑定機関・エンジニアリング・レポート作成機関の選定方針と概要
物件ごとに、機関の名称・本店所在地・代表者・不動産鑑定士の人数・選定理由。同概要書は株式会社谷澤総合鑑定所(不動産鑑定士95名・2025年8月1日現在)を挙げ、選定理由に「当社および当社株主グループと特別な利害関係がない先」と書いている。
4(3)(4)その他利益相反の可能性のある取引/反社会的勢力排除に向けた態勢整備
直近期間の、特別な利害関係にある者以外との利益相反の可能性がある取引と、反社対応の態勢。
図: ODXの様式-7「不動産投資受益証券の発行者等(資産運用会社)の運用態勢等に関する概要書」の記載項目。これは物件の運用成績の報告ではなく、AMという会社そのものの報告である——誰が株主で、誰から出向していて、スポンサーと利益が衝突したときどう止めるのか。有価証券報告書が「信託財産に何が起きたか」を書くのに対し、こちらは「その判断を誰がどういう仕組みで下しているか」を書く。様式本体はODXが公表しているもの(2024年10月17日付)、実物の記載は本文の出所欄の2社の概要書による。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。

第3層——予想値を公表した瞬間に、乖離を告げる義務が生まれる

第1層と第2層は期日で動く。第3層は事象で動く。ODXセキュリティトークン取扱規程第18条第1項は、不動産投資受益証券型STの発行者等のうち情報の提供を行う者は、次のいずれかに該当する場合は直ちにその内容を提供しなければならない、として3つを挙げる——①セキュリティトークンのインサイダー取引類似行為に関する規則第7条第1項から第3項に掲げる事実が発生又は決定された場合、②金融商品取引法第24条の5第4項に基づき臨時報告書を提出すべき事象が生じた場合、③その他、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実の決定や発生を発行者等が認識した場合など。

引かれているインサイダー取引類似行為に関する規則第7条は、不動産STの重要事実を列挙する条文である。第1項(発生事実)には、資産運用会社の親会社の異動、同社の主要株主の異動、信託法第163条第1項第1号から第8号に掲げる事由等の発生、元本等の額が50百万円を下回るおそれ、裏付け資産の損害が直近の計算期間の末日における元本等の3%に相当する額以上と見込まれること、取扱規程第27条第1項第1号(取扱廃止基準)への該当などが並ぶ。第2項(決定事実)には、受益証券発行信託契約の変更(信託法第103条の重要な信託の変更等に該当するもの)、特定資産の取得・譲渡(直近の計算期間の末日における固定資産の帳簿価額の10%以上)、資産の運用に係る委託契約の締結・解約——つまりAMの交代——などが挙がる。

実務でいちばん効くのは第3項である。経常収益・経常利益・純利益・分配について、公表済みの直近の予想値(予想値がない場合は前計算期間の実績値)と比べて、新たに算出した予想値または当計算期間の決算が一定以上ずれたら重要事実になる。閾値は、経常収益が上下10%以上、経常利益が上下30%以上かつ変動幅が前計算期間末の元本等の5%以上、純利益が上下30%以上かつ変動幅が同2.5%以上、金銭の分配が上下20%以上。予想を公表しない限りこの条項は前期実績を基準に働くが、予想を出せば、その予想は毎期モニタリングの対象になる。

出し方も決まっている。取扱規程第21条第1項は、第18条に定める情報の提供を、発行者等の自社ウェブサイト等を通じて公衆が閲覧できる状態を保つ方法および同社の提供するセキュリティトークン適時情報閲覧システム(START-NET)を利用して実施するものとし、第2項は、自社サイトでの提供とSTART-NETでの提供は「原則として、同時若しくは後者を先んずる」と定める。START-NETの障害等でODXが公衆縦覧に供せない場合だけ、自社サイト先行でよい。第3項により、START-NETで公衆縦覧に供された時点でODXに提出されたものとみなされる。

内容の質についても条文がある。第20条は、情報の提供を行う場合に、提供する情報の内容が虚偽でないこと、投資者の投資判断上重要と認められる情報が欠けていないこと、誤解を生じせしめるものでないこと、その他提供される情報の適正性に欠けていないことを求める。第19条は、この節の規定が「発行者等が遵守すべき最低限の要件、方法等を定めたもの」であり、これを理由としてより適時・適切な情報の提供を怠ることがないよう努めるものとする、と書く。最低限であって天井ではない、と明記されている点は、任意開示をどこまでやるかを社内で議論するときの拠り所になる。

第4層——任意のレポートは、法定より2か月早く、そして未監査である

ここまでの3層はいずれも義務である。実際に投資家が最も頻繁に目にしているのは、たぶん第4層——各社が自主的に出しているレポート類のほうである。

ケネディクス・リアルティ・トークン 湯けむりの宿 雪の花(譲渡制限付)の運用状況ページを開くと、決算ハイライト、IRニュース、IRカレンダー、開示資料、分配金、不動産評価額、基準価額、借入金という区分が並ぶ。決算ハイライトには2026年3月期(第6期)の経常収益124,149千円、当期純利益34,035千円、総資産4,566百万円、純資産2,012百万円、1口当たり純資産929,467円、1口当たり分配金23,000円が出ており、第1期(2023年9月期)から第6期までの推移表には分配金総額とLTV(総資産有利子負債比率、第6期50.4%)まで並ぶ。基準価額は第6期確定値1,109,393円で、算出方法も明記されている——「NAV = 総資産額 + 不動産の含み益 - 負債総額 - 精算受益権に係る出資額」、「1口当たりのNAV = NAV ÷ 一般受益権口数」。基準価額の位置づけそのものは別稿『STARTの「基準価格」とは』で扱った。

時間差が重要である。同ページの掲載日を並べると、2026年3月期の決算報告は2026年4月30日、同じ期の有価証券報告書は2026年6月30日。計算期日から前者は約1か月、後者はちょうど3か月。つまり投資家が最初に見る数字は、法定書類ではなく任意資料のほうである。月次の「運用状況」も同様で、2026年6月分は2026年7月31日、5月分は6月30日と、翌月末に出ている。

その任意資料が何を書いているかというと、意外なほど軽い。ケネディクス・インベストメント・パートナーズが公表したST所沢物流センターの2024年7月分Monthly Reportは全2ページ、実質の内容は1ページで、物件の性格と賃貸借の状況の短い説明、そして稼働率の推移グラフ(想定と実績)である。2024年7月についても100%の稼働率となりました、という一文が結論に当たる。残り1ページは注意事項で、そこに書いてあることが実務上は重い——「本資料は、本ファンドのトークン投資に関する情報の提供のみを目的として作成されたものであり、本ファンドの投資対象不動産や特定の商品についての投資の募集・勧誘・営業等を目的としたものではありません。」「本資料の内容に関しては未監査であり、その内容の正確性及び確実性を保証するものではありません。」そして「本資料と本ファンドの受託者が提出した有価証券届出書等における記載内容に相違がある場合、有価証券届出書等における記載内容を正とします。」

4層の関係が、この最後の一文に集約されている。任意レポートは早く、読みやすく、月次で届く。しかし優先順位は最下位であって、食い違えば法定書類が正になる。作る側から見れば、任意資料を出すこと自体が、後から出る有報との突合作業を先取りで背負うことを意味する。

EDINETを通らないもう一本の経路——受託者から受益者への報告と、帳簿の閲覧請求

ここまで4層はすべて「公衆に向けた」開示である。信託法には、それとは別に、受託者から受益者への報告という経路が定められている。

信託法第37条第2項は「受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。」とし、第3項は「受託者は、前項の書類又は電磁的記録を作成したときは、その内容について受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)に報告しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。」と定める。第1項は信託事務に関する計算と信託財産の状況を明らかにする帳簿等の作成義務、第4項から第6項は保存義務(帳簿等は作成の日から10年間、第2項の計算書類は清算結了の日まで)である。

この報告は、EDINETへの提出とは別物である。有価証券報告書は金融商品取引法に基づいて公衆に向けて出すもの、第37条第3項の報告は信託法に基づいて受益者に向けて行うもの。不動産STでは受益者が多数存在するため、実務上は開示書類の公表をもって報告に代える設計が信託契約に書き込まれる(同項ただし書が、信託行為に別段の定めがあればそちらによると認めている)。ただし「別段の定めがある」ことと「報告義務が消える」ことは違う。信託契約に何と書いてあるかを確認しないまま「有報を出せば済む」と言い切ることはできない。

受益者の側からの経路もある。信託法第38条第1項は、受益者が受託者に対し、第37条第1項または第5項の書類の閲覧・謄写を請求できると定める(請求の理由を明らかにして行う)。第2項は、受託者がこれを拒める場合を6号にわたって列挙する——権利の確保・行使に関する調査以外の目的、不適当な時、信託事務の処理を妨げる目的、実質的な競争関係にある事業を営む者、知り得た事実を利益を得て第三者に通報するための請求、過去2年以内に同様の通報をした者。第4項は、信託行為で閲覧・謄写請求を制限できる場合を定めつつ、「前条第二項の書類又は電磁的記録の作成に欠くことのできない情報その他の信託に関する重要な情報」と「当該受益者以外の者の利益を害するおそれのない情報」は制限の外に置いている。

実務としては、投資家からこの請求が来たときに誰が一次対応するかを、AM・受託者・販売証券会社の間で先に決めておく、という話になる。日々の窓口はAMや証券会社でも、条文上の請求先は受託者である。

実務の勘所——「何を書くか」より先に「どの層の話か」を決める

最初の問いに戻る。AMレポートには何を書くのか。答えは層ごとに違う。第1層(有価証券報告書)は信託財産に何が起きたかを、第九号様式の順番どおりに。第2層(運用態勢等に関する概要書)はAMという会社の株主・出向者・利益相反への対応・スポンサーとの取引・物件の来歴を。第3層(適時開示)は閾値を超えた事象を直ちに。第4層(任意)は各社の判断で、ただし法定書類と食い違わない範囲で。

作る側の期限管理でいちばん落ちやすいのは、第1層と第2層の締切が同じ日だという点である。有価証券報告書は特定期間経過後3か月以内(金融商品取引法第24条第5項)、運用態勢等に関する概要書は毎計算期間経過後3か月以内(ODXセキュリティトークン取扱規程第18条第4項)。提出先はEDINETとODX、名義は受託者とAM、中身は信託財産と会社組織——何もかも違うのに、期限だけが同じである。社内で担当が分かれていると、片方が期限表から漏れる。決算・分配全体のスケジュールは別稿『計算期日から有価証券報告書まで』で一本の線にした。

読む側の勘所は、第1・2と第1・4を取り違えないことに尽きる。「運用(管理)の概況」は3行で、運用の実績はそこにはない。そして、鑑定評価の内訳がどこまで埋まっているかは、AMの開示姿勢の差ではなく、賃貸借契約で賃借人の承諾が取れているかどうかの差であることが多い。空欄を見て「隠している」と読むのは、少なくとも<熱海温泉>の注記を読む限りでは正確ではない。逆にいえば、承諾を条項化しないまま組成すると、その物件は運用期間を通じて鑑定の内訳が空欄のままになる——これは組成時に決まってしまう論点である。

予想値の扱いも、組成時に決める話に近い。予想分配金を2期先まで公表する運用にすれば、投資家にとっては読みやすい一方で、上下20%の乖離が生じたときの適時開示が制度上ついてくる(インサイダー取引類似行為に関する規則第7条第3項第4号)。出すか出さないかは自由だが、出すなら管理する、が条文の要求である。

最後に記録機関としての注記を1つ。本記事で引用した数値・文言は、いずれも各書類の日付現在の記載である。有価証券報告書の数値は<熱海温泉>・<PJ RB1>が2026年7月21日提出(特定期間の末日2026年4月30日)、由縁 札幌が2026年4月30日提出(同2026年1月31日)、品川案件は2026年7月24日提出の有価証券届出書による。運用態勢等に関する概要書は2025年1月31日付および2025年12月4日付、ケネディクス・リアルティ・トークンの任意開示資料は2026年8月7日にサイト上で確認した記載および2024年7月分のMonthly Reportによる。ODXの規程・規則は2026年8月7日時点で同社サイトに掲載されている版(セキュリティトークン取扱規程は2026年4月1日、インサイダー取引類似行為に関する規則は2026年3月25日、様式-7は2024年10月17日)を用いた。

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資勧誘を目的とするものではない。開示書類の作成・提出に関する個別の判断や、税務上の取扱いについては、弁護士・税理士・監査法人等の専門家にご確認いただきたい。

① 計算期間末から逆算した2つの締切を1枚に載せる同じ日に2本ある
有価証券報告書(金商法第24条第5項——特定期間経過後3か月以内)と、運用態勢等に関する概要書(ODX取扱規程第18条第4項——毎計算期間経過後3か月以内)は、締切が同じ日である。前者は受託者名義でEDINETへ、後者はAM名義でODXと自社HPへ。提出先も名義も違うので、担当者を分けたまま期限表を分けると片方が落ちる
② 任意の決算報告を出すなら、法定より2か月早い早い方が先に世に出る
ケネディクス・リアルティ・トークン 湯けむりの宿 雪の花では、2026年3月期の決算報告が2026年4月30日、同じ期の有価証券報告書が2026年6月30日に公表されている。投資家が最初に見る数字は、未監査の任意資料のほうである。後から出る有報と食い違わせないための内部の突合手順を、先に決めておく。
③ 予想値を公表した瞬間、乖離の開示義務が生まれる出すなら管理する
ODXのインサイダー取引類似行為に関する規則第7条第3項は、経常収益が上下10%以上、金銭の分配が上下20%以上(経常利益は上下30%以上かつ前計算期間末の元本等の5%以上、純利益は上下30%以上かつ2.5%以上)の乖離を重要事実とする。予想分配金を2期先まで出す運用にしているなら、その予想は毎期モニタリングの対象になる
④ 鑑定のどの欄を埋められるかは、賃貸借契約で決まる交渉の時点で決まっている
単一テナント物件では、運営収益を開示すると賃料が逆算できるため、賃借人の承諾がなければ鑑定の内訳がまるごと空欄になる(本文の<熱海温泉>)。承諾を取るなら賃貸借契約や覚書の段階で条項化するしかない。「後で有報に書けばいい」は成り立たない
⑤ GK-TK型は、信託の財務諸表に物件が出てこない見る場所が変わる
<熱海温泉>の信託の損益計算書は「匿名組合投資利益」17,272千円と「銀貸利息」73千円だけ、貸借対照表の資産も投資有価証券1,239,440千円と銀行勘定貸88,881千円である。賃料も減価償却費も借入金も、信託の帳簿には現れない。物件の運営数値を読みたければ「第1・2 信託財産を構成する資産の概要」に行く(型ごとの違いは別稿『不動産STOのスキーム比較』)。
⑥ 「運用(管理)の概況」だけを転記しない3行では説明にならない
この節は総資産額・負債総額・純資産総額の3行である。投資家向けの説明資料をここから作ると、稼働率も鑑定評価額も落ちる。同じ有報の中で、運用の実績は第1・2に、期をまたぐ推移は第1・4(3)「収益状況の推移」に分かれて載っている。
⑦ 適時開示は自社サイトとSTART-NETの両方に出す順番も決まっている
ODX取扱規程第21条第1項は、自社ウェブサイト等で公衆が閲覧できる状態を保つ方法およびSTART-NETの両方を使うと定め、第2項は「同時若しくは後者を先んずる」——START-NETが先か同時、というのが原則である(START-NET障害時のみ自社サイト先行)。第20条は、虚偽でないこと・重要な情報が欠けていないこと・誤解を生じさせないことを求める。
⑧ 投資家からの帳簿閲覧請求に答えられるか信託法第38条
受益者は受託者に対し、信託事務の帳簿等の閲覧・謄写を請求できる(信託法第38条第1項。請求の理由を明らかにして行う)。受託者は第2項各号の事由がなければ拒めない。信託行為で制限している場合でも、第4項第1号の「第37条第2項の書類の作成に欠くことのできない情報その他の信託に関する重要な情報」は制限の外に置かれる問い合わせが来たときに誰が一次対応するかを、AM・受託者・証券会社の間で決めておく
図: 運用報告を作る側・読む側が確認する項目。①②③は期限とタイミングの管理、④⑤⑥は中身がどこに載るかの理解、⑦⑧は出し方と問い合わせ対応「特定期間」とは、株式会社の事業年度にあたるものを特定有価証券について言い換えた言葉で、不動産STでは信託の計算期間(多くは6か月)がこれに当たる(特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第23条第2号)。条文・規程・数値はいずれも本文の出所欄のとおり。個別案件の判断は弁護士・税理士等の専門家に確認されたい。
SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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