公開 2026-08-06 / 読了 16分
不動産STの出口は「物件を売って終わり」ではない。信託契約は満期から逆算して売却期限を置き、売却から60日ほど後に信託終了日を置き、そこからさらに14営業日ないし1か月後に償還金を払う。実際に償還まで到達した銘柄の開示書類と、これから償還を迎える銘柄の契約条項、そして信託法の清算規定を並べて、売却代金が投資家に届くまでの順番と日付を一本の線にする。
社債の償還は、発行体が満期日に元本を返す約束の履行である。不動産STの償還は、そこが違う。返す原資はどこかにあるわけではなく、物件を売って現金に換え、借入れを返し、税金と費用を残し、その残りを配って初めて成立する。つまり償還とは「支払い」ではなく「解体して分ける」手続に近い。
用語を3つだけ先に置く。1つめは信託終了日——信託契約が定める、信託が終わる日。2つめは清算——信託が終了しても、残った債権債務を片づけて残余財産を配り終えるまでの一連の作業のこと。信託法第176条は「信託は、当該信託が終了した場合においても、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。」と定めており、終了日を過ぎても器は残っている。3つめは残余財産——債務を全部払った後に残る財産で、これが投資家に渡る元本と最終の分配金の原資になる。
この3つを押さえると、投資家からよく出る質問——「物件が売れたと発表されたのに、なぜ口座にお金が入らないのか」——に条文で答えられる。売却は清算の入口であって、出口ではない。信託法第181条は、清算受託者は債務を弁済した後でなければ残余財産を給付できないとし、ただし「当該債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない」と定める。払い切らずに残すことが、条文の側から要請されている。
以下では、実際に公開されている書類を材料に読む。①これから出口を迎える銘柄として、2026年7月24日提出の有価証券届出書「三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜(譲渡制限付)」(発行者〈受託者〉オルタナ信託株式会社。以下「品川案件」)、②2026年4月30日提出の有価証券報告書(第5期)「ケネディクス・リアルティ・トークン ONSEN RYOKAN 由縁 札幌」(受託者=三菱UFJ信託銀行。以下「由縁 札幌」)、③2026年7月21日提出の有価証券報告書(第5期)「匿名組合出資<熱海温泉>信託(譲渡制限付)」(受託者=三菱UFJ信託銀行。以下「<熱海温泉>」)、④同日提出の有価証券報告書(第2期)「匿名組合出資<PJ RB1>信託(譲渡制限付)」(受託者=SBI新生信託銀行。以下「<PJ RB1>」)。そして⑤すでに償還を完了した銘柄として、「いちご・レジデンス・トークン-麻布・白金・日本橋-(譲渡制限付)」(受託者=三菱UFJ信託銀行、AM=いちご投資顧問→いちごリアルティマネジメント。以下「いちご案件」)の一連の開示。①〜④はEDINETで、⑤はファンドのサイトで全文が読める。
不動産STの信託契約には、必ず「いつまでに売るか」が書いてある。運用が上手くいったから売る、という自由な話ではなく、期限が先に決まっている。
品川案件の届出書は、こう書く。「受託者は、信託期間満了日(2032年8月31日をいいます。以下同じです。)の120日前の日、信託終了事由発生日(本信託契約に定める本信託の終了事由が発生した日をいいます。)又は信託終了決定日(本信託契約に従って受託者が本信託の終了を決定した日をいいます。)のうちいずれか早く到来する日において本信託財産内に本件不動産受益権が残存する場合には、当該日から60日後の日(当該日が営業日でない場合には翌営業日とします。以下『信託財産売却期限』といいます。)までに、アセット・マネージャーの決定に従い、本件不動産受益権を合理的な価格で売却するものとします」。
<熱海温泉>の有価証券報告書は、同じ起点を実日付で書いている——「信託期間満了日の120日前の日である2030年7月3日」。読む側にとっては、こちらのほうが親切である。満期の4か月前が号砲で、そこから60日が売却期限、という時間の組み方が銘柄をまたいで共通していることが分かる。
そのうえで信託終了日が決まる。品川案件の「信託期間」の項は、受益権が残っていた場合の信託終了日を「当該本件不動産受益権若しくは投資対象不動産等が売却された日又は信託財産売却期限のいずれか早い日の60日後の日」とし、残っていなければ起点の60日後とする。ただし「いかなる場合も信託終了日は信託期間満了日を超えないものとし」という上限が付く。売却が早ければ終了も早まる——これが早期償還と呼ばれる現象の、契約上の正体である。
期限計算とは別に、売却の完了そのものが終了事由にもなっている。品川案件は終了事由の一つとして「本件不動産受益権が売却され、受託者が売却代金全額を受領した場合(ただし、後記『(ニ)終了時の換金』に基づく売却の場合を除きます。)」を挙げる。<熱海温泉>も同様に「本件匿名組合出資が売却され、受託者が売却代金全額を受領した場合」を置く。加えて両者とも、終了事由の筆頭グループに「信託法第163条第1号から第8号までに掲げる事由が発生した場合」を挙げる。信託法第163条は信託の終了事由を列挙する条文で、その第9号が「信託行為において定めた事由が生じたとき」——契約に書いたことがそのまま終了事由になる、という受け皿である。不動産STの契約に並ぶa以下の事由は、この第9号に乗っている。
GK-TK型は、ここに一段階多い。<熱海温泉>の信託が持っているのは不動産受益権ではなく匿名組合出資なので、受託者の仕事は「売る」より前に「終わらせる」ことになる。有価証券報告書は、起点の日以後「本匿名組合契約終了期限までに、受益者代理人及び精算受益者の指図に基づき、本件匿名組合契約を終了させるものとし、本匿名組合契約終了期限までに本匿名組合契約を終了させることができないことが見込まれた場合には、アセット・マネージャー(本信託)は、受託者をして、当該日までに本件匿名組合出資を第三者に売却しなければならない」とする。物件を売るのは営業者GKであり、信託の側は匿名組合契約を畳む。型ごとの違いは別稿『不動産STOのスキーム比較』で扱った。
契約の日付を読む前に、信託法が定める清算の骨格を押さえておくと、留保金や追加分配の話が一気に理解しやすくなる。条文は4つで足りる。
第175条(清算の開始原因)は、信託が終了した場合には清算をしなければならないと定める(信託の併合による終了と、破産手続が終了していない場合を除く)。第176条(信託の存続の擬制)は、前述のとおり「清算が結了するまではなお存続するものとみなす」。ここで、信託終了日は「終わりの日」ではなく「清算が始まる日」だと読み替えられる。
第177条(清算受託者の職務)は、順序まで書いている。清算受託者の職務は「一 現務の結了」「二 信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務の弁済」「三 受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く。)に係る債務の弁済」「四 残余財産の給付」。売却代金でまず借入れを返し(二)、次に確定している分配などを払い(三)、最後に残ったものを配る(四)という並びである。清算受託者は「信託の清算のために必要な一切の行為をする権限を有する」(第178条第1項本文)が、信託行為に別段の定めがあればそちらによる(同項ただし書)——不動産STの契約が細かい手順を書き込んでいるのは、このただし書の世界である。
第181条(債務の弁済前における残余財産の給付の制限)が、実務でいちばん効く。清算受託者は第177条第2号・第3号の債務を弁済した後でなければ残余財産を給付できない。ただし「当該債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りでない」。後述する公租公課留保金・最終信託費用留保金は、この但書を使っている。
残余財産が誰のものになるかは第182条。「信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者……となるべき者として指定された者」と「信託行為において残余財産の帰属すべき者(帰属権利者)となるべき者として指定された者」に帰属する。不動産STでは投資家(一般受益権)と精算受益者が信託契約で指定されており、この条文の第1項第1号の型に当たる。
最後が第184条(清算受託者の職務の終了等)。清算受託者は職務を終了したときは遅滞なく最終の計算を行い、受益者等のすべてに承認を求めなければならない(第1項)。承認されれば清算受託者の責任は免除されたものとみなされ(第2項本文。職務の執行に不正の行為があったときを除く)、「承認を求められた時から一箇月以内に異議を述べなかった場合には、当該受益者等は、同項の計算を承認したものとみなす」(第3項)。償還金が振り込まれた後に届く最終計算の書面には、この1か月が付いている。
契約側の配分順序は、驚くほど揃っている。品川案件・由縁 札幌・<熱海温泉>・<PJ RB1>の4件すべてが、同一の優先順位を書いている。
品川案件の届出書はこうである。「受託者は、信託終了日時点における信託金から公租公課留保金及び最終信託費用留保金を控除した金額から、以下の優先順位に従って本受益者及び精算受益者に対する支払いを行うものとします」——「a 精算受益者への元本交付」「b 本受益者への元本交付」「c 本受益者への分配金交付」「d 精算受益者への分配金交付」。aとbにはいずれも「損失を負担している場合は、損失を補填するまでの金額を充当し支払います」という括弧書きが付く。
<熱海温泉>・<PJ RB1>も同じa〜dだが、控除するのは「最終信託費用留保金」のみで、公租公課留保金は出てこない。由縁 札幌は品川案件と同じく「公租公課留保金及び最終信託費用留保金」を控除する。この違いは、信託が不動産受益権を直接持つ型(品川案件・由縁 札幌)と、匿名組合出資を持つ型(<熱海温泉>・<PJ RB1>)の別に対応している——後者では消費税等の処理は営業者GKの側で完結するため、信託の側に公租公課が立たない。もっとも、これは4件の記載を並べて観察できる対応関係であり、各契約の設計意図が書かれているわけではない。
出口には、期中には無い費用も出る。由縁 札幌の有価証券報告書は、信託報酬を期中・終了時・清算時の3段に分けている。終了時信託報酬は「A×0.2%(税込0.22%)、A=信託終了日の直前の計算期日時点の本信託の総資産」で、支払時期は信託終了日。清算時信託報酬は「信託終了日の翌日以降に生じる信託金の受託者の銀行勘定への貸付利息相当額」で、支払時期は清算が結了した日。総資産に対する0.22%は、出口のIRRを引くときに無視できない大きさになる(組成から出口までの費目の全体像は別稿『不動産STの組成コスト構造』、リターン計算への効き方は別稿『不動産STのIRRモデルはどこで決まるのか』で扱った)。
そして忘れてはならないのが借入れである。売却代金は、まずノンリコースローンの完済に充てられる。信託法第177条第2号の「信託債権に係る債務の弁済」であり、第181条によって、その弁済(または留保)を済ませない限り残余財産の給付には進めない。投資家の元本(b)より先に、レンダーの元本と精算受益者の元本が出ていく——ノンリコースローンで「毀損は出資が先、元本の返済は借入が先」という順序が、出口でもそのまま現れる(責任財産の切れ目と期限前弁済は別稿『ノンリコースローンは、どこで責任が切れ、いつ返す約束なのか』で扱った)。
信託終了日が決まっても、その日に口座へお金が入るとは限らない。ここは銘柄ごとにはっきり分かれる。
<PJ RB1>(ibet for Fin)は最も速い。有価証券報告書は「最終信託配当支払日(信託終了日をいいます。)」と定義し、償還も「最終信託配当支払日に、本受益権及び精算受益権の元本……をそれぞれ償還します」とする。信託終了日=支払日である。
由縁 札幌と<熱海温泉>(いずれもProgmat ST)は中間で、「最終信託配当支払日(信託終了日の14営業日後の日)」に配当と償還の双方を行う。由縁 札幌の事務取扱要領は、原簿を参照する日を「償還金支払日の6営業日前の日(最終配当参照日)」と定めている。終了日から支払日までの14営業日は、原簿の確認、証券会社ごとの明細作成、源泉徴収額の算出に充てられている。
品川案件はさらに長い。届出書は、最終償還金支払日を「信託終了日から1か月後を目処として、本受益者及び精算受益者に対して最終償還を行う日」と定める。最終の分配金と最終の償還金で支払日そのものを分けている点も、他の3件と違う。
権利確定日の書き方にも差がある。品川案件は、最終分配金受領権の権利確定日を「信託終了日の開始時点」、最終償還金受領権の権利確定日を「信託終了日の終了時点」と書き分けている。<熱海温泉>も同じ書き分けを採る。由縁 札幌と<PJ RB1>は、いずれも「信託終了日現在」とのみ書く。実務上は同じ受益者名簿になるが、条項としては別に置かれている——権利確定日の意味と、原簿がそれをどう確定するかは別稿『受益権原簿と権利確定日』で詳しく扱った。
投資家に伝えるべき論点は単純である。複数の銘柄を持っていれば、償還金の入金日は銘柄ごとにずれる。「信託終了日=入金日」と思って資金繰りを組むと、1か月ずれる銘柄がある。
二次流通市場STARTで売買されている銘柄には、償還に向けてもう一本の時計が回る。取扱廃止(上場廃止に相当する)の時計である。
大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)のセキュリティトークン取扱規程第27条第1項は、取扱廃止基準を有価証券の型ごとに列挙する。不動産投資受益証券型セキュリティトークン——公募の不動産STの主流である受益証券発行信託型がこれに当たる——については、第1号ホが「償還期日(早期償還を含む。)が到来した場合」を挙げる。早期償還が明示的に含まれている点が重要で、満期を待たずに売却して償還する場合も同じ扱いになる。
では、いつ売れなくなるのか。同規程施行規則第10条第1項第2号は、「規程第27条第1項第1号ホ又はソに定めるところに該当する場合は、該当する日の2営業日前」を取扱廃止日とする。他の事由——受託者の免許取消し(イ)や有価証券報告書の提出遅延(ワ)などは「該当した日から起算して1か月を経過した日」、運用資産比率や口数・受益者数の基準割れは「6か月を経過した日」と、事由によって猶予の長さが違う中で、償還だけが「2営業日前」と極端に短い。理由は明快で、償還してしまえば売買する対象そのものが無くなるからである。
ただし、売れる期間が突然打ち切られるわけではない。規程第32条は、取扱廃止が決定された場合または予定されている場合に、投資者に周知するため「取扱廃止が決定された日の翌営業日から取扱廃止日までの間(取扱廃止が予定されている場合には、取扱廃止日の30営業日前の日から取扱廃止日までの間)、当該セキュリティトークンをターミネーション銘柄に指定し、売買取引を行うことができる」と定める。施行規則第10条第2項も、同条第1項各号に定める期間においてターミネーション銘柄に指定して売買取引を行うことができるとする。取扱廃止日を過ぎると、規程第33条・施行規則第11条により、ODXは取扱廃止日において原簿の記載を抹消する(抹消記録として一定の年限保存する)。
実務としては、償還が視野に入った時点で「償還期日の2営業日前」を逆算し、投資家向けの案内に売買可能な最終日を明記できる状態にしておく、ということになる。売買が止まる別の局面——売買停止——との違いは別稿『STARTの売買はいつ・なぜ止まるのか』で扱った。
ここまでの契約条項と条文が、実際にどう動いたか。すでに償還を完了した「いちご・レジデンス・トークン-麻布・白金・日本橋-(譲渡制限付)」の一連の開示が、そのまま教材になる。以下の日付・金額はすべて同ファンドのサイトで公開されている書面の記載どおりである(本記事は事実の記録であり、特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない)。
2025年4月21日、「資産の譲渡に関するお知らせ」。GRAN PASEO麻布十番・白金高輪・日本橋箱崎町の3物件(譲渡予定資産の権利の種類はいずれも不動産信託受益権)について、譲渡予定価格合計5,721百万円、想定帳簿価格合計5,176百万円、鑑定評価額合計5,440百万円、差額(譲渡予定価格-想定帳簿価格)合計545百万円。契約締結日2025年4月21日、引渡予定日・代金決済予定日はいずれも同年5月16日。譲渡先は「国内の特別目的会社」「国内の一般事業会社」とのみ記載され、名称は同意が得られないため非開示、個別物件の価格も譲渡先の要請により非開示で合計額のみ、と書面に理由まで明記されている。
2025年5月16日、「資産の譲渡完了に関するお知らせ」。引渡日・代金決済日はいずれも同日。同じ書面が「本信託の終了日については、2025年7月30日を予定しております」と告げる。売却完了から信託終了日まで、約2か月半である。後日の償還期決算報告によれば、この日付で受益者代理人・精算受益者かつAMであったいちご投資顧問との間で「信託終了日の変更に関する合意書」が締結され、信託終了日が2025年7月30日となった。前節までで見た「計算式で決まる終了日」に加えて、合意で確定させる運用が実在することが分かる。
2025年7月30日、信託終了。同年8月29日に公表された償還期決算報告(2025年2月1日〜同年7月30日)の数字を並べると、出口の姿がそのまま見える。損益計算書では不動産等売却収入5,726,433千円・不動産等売却原価5,242,281千円・不動産等売却益484,152千円。当期純利益423,810千円。融資関連費用は33,630千円で、前特定期間の3,420千円から大きく増えている——売却に伴う借入れの処理が費用として現れた期であることが読み取れる。
貸借対照表は、もっと雄弁である。前特定期間末(2025年1月31日)には信託土地4,237,706千円・信託建物(純額)940,674千円などの固定資産と、長期借入金3,780,000千円があった。信託終了日(2025年7月30日)にはそれらがすべて消え、資産は銀行勘定貸112,699千円のみ、負債は未払消費税等112,684千円と未払費用14千円の合計112,699千円、元本等はゼロ。担保に供している資産と対応債務の注記も、当特定期間はいずれも「-」になっている。信託法第181条の但書が言う「弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合」が、そのまま貸借対照表の姿として現れている。
投資家に渡ったものは、注記に出ている。当特定期間の配当は一般受益権363,291千円(1口当たり111千円)、精算受益権2千円、基準日・効力発生日はいずれも2025年7月30日。元本の変動では一般受益権1,514,439千円・精算受益権10千円が「受益権の償還」として減少し、受益権の口数は一般受益権3,260口・精算受益権1口がいずれもゼロになっている。発行体グループの2025年8月29日付発表によれば、1口当たり発行価格500,000円に対し、償還期の元本償還および分配の合計額は575,991円(税引前)、第1期から償還期までの1口当たり元本償還額および分配金額の合計額は616,864円(税引前)、これを運用期間(約2.6年)で年率換算した総合利回りは年8.9%。当初は約5年間の運用を予定していたが、不動産売買市況を踏まえた売却判断により約2.6年での早期償還となった、と説明されている。
そして、話はここで終わらなかった。2026年1月26日付の「残余財産の追加分配に関するご案内」(いちごリアルティマネジメント・三菱UFJ信託銀行・SBI証券の連名)は、2026年2月16日に追加の分配金を支払うと告げる。理由はこう書かれている——「本信託の信託終了日直前において、本信託における不動産信託受益権の取得に係る消費税の仕入税額控除の可能性が判明しておりました。しかしながら、消費税法上の適用関係が明確ではなく仕入税額控除の可否を確定することができなかったため……2025年7月30日の最終配当・償還金支払日においては仕入税額控除を前提とした計算を行っておりませんでした」。根拠として案内が挙げるのは、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度、すなわち消費税法第35条の2第2項である。同項は、居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額について仕入税額控除の制限(第30条第10項)の適用を受けた事業者が、その建物を調整期間に他の者に譲渡したときは、課税譲渡等割合を乗じた消費税額をその譲渡をした課税期間の仕入れに係る消費税額に加算する、と定める。信託終了日の貸借対照表に残っていた未払消費税等112,684千円が、この論点の現れである。支払を受けるのは「信託終了・償還時に本信託の受益者であった皆様」——償還後に市場で買った人ではない(そもそも償還済みで市場も無いが、誰に払うかを明示する必要はある)。
もう1件、時期の近い償還例がある。三井物産デジタル・アセットマネジメントは2025年2月3日付のプレスリリースで、「不動産のデジタル証券〜ALTERNAレジデンス 新宿中落合・経堂・門前仲町〜(譲渡制限付)」を早期売却により償還したことを公表している。同社の発表によれば、1口当たり発行価格500,000円に対し累計分配額は1口当たり570,622円(税引前)、最終期の分配額は534,101円(税引前)、実績利回りは年5.5%(税引前)、運用期間は当初約7年の予定に対し約2.6年。2件に共通するのは、満期まで持ち切らずに市況を見て売った点と、当初予想を上回る利回りで終わった点である。ただし、これは2026年8月時点で償還まで到達した少数の事例であって、将来の案件が同じ結果になることを意味しない。
投資家から見える出口は償還金の入金で終わるが、組成側の出口はもう少し続く。委託者として立てたGK(合同会社)と、その社員である一般社団法人が残っているからである。
精算受益権を誰が持ち続けるかで、GKをいつ畳めるかが決まる。信託終了時に精算受益者が存在していなければならないため、GKが精算受益権を持ったままなら、GKは信託期間中ずっと存続させることになる。逆に、クロージング直後に精算受益権をAMグループ会社へ譲渡してしまえば、GKは早期に清算できる。品川案件の届出書は後者の設計を採っており、「精算受益権の受益者である委託者は、信託設定日において、精算受益権をアセット・マネージャーに対して譲渡することとし」と明記する。いちご案件でも、償還期決算報告は「受益者代理人、精算受益者かつアセットマネージャーであったいちご投資顧問株式会社」と書いており、精算受益者はAMであった。
会社法上の清算手続そのもの——解散決議と清算人選任の登記、官報公告と2か月以上の債権申出期間、残余財産の分配、清算結了登記——と、並走する税務、そして忘れられがちな一般社団法人の始末については、別稿『組成が終わったGKはいつ・どう畳むのか——精算受益権の帰属と委託者SPCの清算実務』で扱った。下の図はその記事の再掲である。出口の実務としては、償還のスケジュールを引く段階で、この後始末の担当者と期限を同じ表に載せておく、というのが要点になる。
3つの日付を、担当者は別々に管理する必要がある。売却期限(信託期間満了日の120日前から60日)、信託終了日(売却日または売却期限の早いほうから60日、ただし合意で確定させることがある)、償還金支払日(信託終了日と同日/14営業日後/1か月後を目処)。いちご案件では、売却の意思決定から償還金の支払いまでに、2025年4月21日から同年7月30日までの約3か月半かかっている。そのさらに約6か月後に追加分配が決まっている。売る仕事より、終わらせる仕事のほうが長い。
投資家向けの説明で外してはならないのは2点である。1つは「物件の売却完了=入金日ではない」こと。もう1つは「償還後にも追加の分配があり得る」こと。後者は、留保金を残す設計の必然的な裏返しであって、例外的な扱いではない。逆に言えば、留保金をゼロにして払い切ってしまえば、後から確定した税務上の返還を投資家に戻す原資が信託に残らない。
税務については、投資家側の取扱いにも留意点がある。品川案件の届出書は、法人である受益者について「本信託の終了により法人である本受益者が受ける金銭の額が本受益権の元本額を超える金額は15.315%(15%の所得税、復興特別所得税(所得税額の2.1%)の合計)の税率で源泉徴収され、収益の分配として課税されます」とし、償還損益は「本受益権の元本額と取得価額との差額により計算されます」と書く。元本額は、期中に利益超過分配(元本の払戻し)が行われていれば動いている——その仕組みは別稿『元本減少割合は「計算」ではなく「受け渡し」で決まる』および『利益超過分配は「元本の払戻し」へ』で扱った。出口の手取りを計算するときは、発行価格ではなく現在の元本額と自分の取得価額から始める。
最後に、記録機関としての注意書きを1つ。本記事で引用した契約条項は、いずれも各書類の日付現在の記載である。品川案件は2026年7月24日提出の有価証券届出書に記載された予定であり、実際の売却・終了・償還は将来の事象である。いちご案件の数値は、2025年7月30日を末日とする償還期決算報告および発行体グループの2025年8月29日付発表の記載どおりで、追加分配の内容は2026年1月26日付の案内による。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資勧誘を目的とするものではない。記載した数値・日付はいずれも本文および出所欄に示した各書類の記載どおりで、基準日は各書類の提出日または記載のとおりである。個別の案件における出口の設計や、償還金・追加分配に係る税務上の取扱いについては、弁護士・税理士等の専門家にご確認いただきたい。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。