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公募ST累計(2025年度末)3,333億円▲1,650ST市場残高(推計)1兆531億円▲81%START時価総額(2026-03)336億円収録銘柄77収録発行額(判明分)3,235億円募集中7START上場7銘柄
▲赤=増加/出所: 業界公表値・当サイト集計
実務者向け
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STの貸借取引制度とは——DLPの「売り玉」を支える貸株の仕組みと、権利・担保・税務の勘所

2026-07-21 / 読了 9

不動産ST(デジタル証券)にも、上場株でいう「貸株(信用取引の裏方)」にあたる貸借取引の制度が整備された。ODXが2025年10月に制度要綱と取扱いガイドラインを定め、二次流通市場STARTで売り方の玉を作るための貸出しを標準化したものだ。誰が貸し・誰が借りるのか、貸借料や担保金・分配金相当額はどちらへ動くのか、そして株の貸株と決定的に違う税務の論点までを、一次資料に沿ってたどる。

まず前提——「貸借取引」とは何か、なぜSTでわざわざ制度が要るのか

貸借取引とは、ある人(貸出者)が別の人(借入者)に有価証券を一定期間貸し、借入者は期間の終わりに同じ銘柄を同種・同等・同量だけ返す、という取引をいう。返すのは「借りたその物」ではなく「同じ種類・数量のもの」でよいため、法的には消費貸借(借りた物を消費し、同種同量を返す契約)にあたる。上場株の世界では、信用取引で「売り」から入る人に株を用立てる裏方の仕組みとして日常的に使われている。

ではなぜ、不動産STでわざわざ専用の制度が要るのか。理由は二次流通市場STARTの「売り方」を支えるためだ。STARTでは、常に売り気配・買い気配を出して売買を成立しやすくする担い手としてDLP(Designated Liquidity Provider=流動性提供業者、いわゆるマーケットメイカー)が置かれている。DLPが「売り」に応じるには、手元にそのSTがなければならない。そこで、プライマリー(発行時の募集)でまとまった数量を引き受けた保有者などからSTを借りてきて売り玉に充てる——この貸出しに焦点を当てて市場の流動性を高めるのが、今回の制度の狙いである。

そこでODX(大阪デジタルエクスチェンジ)は、2025年10月1日に「セキュリティトークンの貸借取引 制度要綱」を、あわせて「セキュリティトークン貸借取引の取扱いガイドライン」を制定した(ガイドラインは2026年4月1日に一部改定)。本稿の日付・条件はいずれもこれら一次資料に基づく標準像である。

誰が貸し、誰が借りるのか——「親引けを受けた者」と「DLP」

制度要綱は、貸出者と借入者の想定をはっきり書いている。貸出者は、プライマリーの募集段階で一定数量を引き受けた者——いわゆる「親引け」(募集時に発行体側の依頼で特定先へまとめて配分すること)を受けた者などを、借入者はDLPを想定している。つまり「大量に持っている人がDLPに貸す」構図で、基本的に個人投資家が借りて売る(個人が空売りする)ことは予定されていない。

ただし貸す側については、大口保有の個人投資家も、DLPへマーケットメイク用の玉を提供するという趣旨に同意するなら受け入れ可、とされている。個人投資家の本格参加は「将来必要性が生じた時点で再検討」という含みだ。取扱いガイドラインも、STを相応に保有する個人投資家等を貸出者とする取引を認めつつ、その場合は仕組み・リスク・権利義務・税制について説明し、本人の理解と自己責任の確認を得ることを求めている。

取引参加者(=STARTに参加する第一種金融商品取引業者、要は証券会社)の顧客同士が貸し借りするときは、直接ではなく、それぞれが口座を持つ証券会社を挟んだ二段構造で行う。たとえば「顧客A→Aの証券会社/Aの証券会社→Bの証券会社/Bの証券会社→顧客B」というように、証券会社が間に立って玉をつなぐ。誰がどの順番で関わるかは、次の図で先に押さえておきたい。

全体像——ST本体と、対価・担保はそれぞれ逆向きに動く

貸借取引でつまずきやすいのは「何が・どちらへ動くか」だ。ST本体は貸出者から借入者へ渡り、その見返りに貸借料や担保金は借入者から貸出者へ流れる——方向が逆になる複数のお金と権利が同時に動く。図は上から下へ登場人物の連鎖を示し、下の表で貸借期間中の資金・権利の向きを一覧にした。専門用語が出る前に、この図で全体の骨格を掴んでおくと、後の細部が迷子にならない。

特に見落としやすいのが受益権原簿の扱いだ。受益証券発行信託型のSTでは、貸借期間中は原簿も借入者名で記録される。つまり帳簿上の受益者はいったん借入者に変わる。そのため、期間中に分配金や利子が付いたときは、いったん借入者側に入る形になり、それを貸出者へ「相当額」として付け替える処理が要る。この付け替えのルールが、後述する権利処理である。

貸出者
大口保有者(親引けを受けた者・大口個人など)
  • 一定期間、保有STを貸し出す
  • 返済時に同種・同等・同量のSTを受け取る
間に入る
取引参加者(証券会社)
  • 顧客同士は直接ではなく、各自の証券会社を挟んで二段でつなぐ
  • 担保・値洗い・残高照合の事務を担う
借入者
DLP(流動性提供業者=マーケットメイカー)
  • 売り方対応のためSTを借り、STARTで売る
  • 貸借期間の終了時に同種・同等・同量を返還する
貸借期間中に何が・どちらへ動くか
貸出者 → 借入者ST(現物)
貸借期間の開始日に引き渡す。返済は同種・同等・同量のSTで行う(消費貸借)。
借入者 → 貸出者貸借料
貸出の対価。料率は個別取引ごとに双方の合意で決める(市場で一律ではない)。
借入者 → 貸出者分配金・利子等の相当額
期間中に対象STへ分配金・利子が付いたら、借入者が相当額を貸出者へ支払う(双方合意で不要にもできる)。
借入者 → 貸出者担保金
ST返還請求権などを担保。要否・率は個別合意、有価証券で代用可、日々値洗いして過不足を精算する。
借入者名で記録受益権原簿の名義
受益証券発行信託STでは、貸借期間中は原簿も借入者名で記録される。
図の読み方: 上から下へ「誰が貸し、誰が借りるか」。貸出者は親引けを受けた者や大口保有者借入者はDLP(売り方の玉を作るマーケットメイカー)で、基本的に個人投資家の借入は想定していない。顧客同士は直接ではなく、それぞれの証券会社を挟んだ二段でつながる。下の表は貸借期間中の資金・権利の向き——ST本体は貸出者から借入者へ、対価(貸借料・分配金相当額)と担保金は借入者から貸出者へ流れ、受益権原簿の名義は借入者側に移る。数値・条件はいずれも個別契約で合意する。ODX制度要綱(2025年10月1日制定)・取扱いガイドライン(2025年10月1日制定/2026年4月1日改定)に基づく。

契約の作法——基本契約書と個別取引明細書、そして返済のタイミング

取引を始めるには、まず当事者間で「基本契約書」を取り交わす。ここには、個別取引の締結方法・貸借料の支払方法・STの引渡し方法・担保金の差入れ・権利処理・期間満了前の返還・契約不履行時の措置・権利の譲渡や質入れの禁止・契約期間などを盛り込む、とガイドラインが列挙している。個々の取引の都度は「個別取引明細書」を交付し、約定日・銘柄名・貸借数量・貸出者・借入者・貸借期間・貸借料といった条件を明示する。相手が特定投資家である場合など一定の要件を満たすときは、明細書の交付を省略できる(内容の照会に速やかに答えられる体制などが条件)。書面はいずれも電子的方法での提供・締結が認められている。

返済のスケジュールには標準の営業日ルールがある。借入者の側から「返します」と申し出た場合は、申し出のあった日から起算して3営業日目が返済日。逆に貸出者の側から「返してください」と要請した場合は、要請のあった日から起算して4営業日目が返済日となる。いずれも原則で、当事者が合意すれば別のスケジュールでもよい。新規・返済のいずれも、対象STのプラットフォーム(ブロックチェーン基盤)に移転内容を記録することで実行する——現物の受け渡しは基盤上の記録の書き換えで行う、という点が上場株の振替と発想は同じである。

担保金と権利処理——値洗いで日々精算し、分配金は相当額を付け替える

担保金(貸出者が返還請求権などを守るために借入者から受け取る金銭)は、要否も率も個別取引ごとに双方で合意する。現金でなく有価証券等で代用することもでき、その掛け目や値洗いも合意で決める。ガイドラインは、貸している STの時価総額をSTARTの最終価格(なければ翌営業日の基準価格)で日々値洗いし、担保の過不足が出たら速やかに追加担保の受入れや余剰の返還を行う、としている。ここで参照される「基準価格」の決まり方は別稿『STARTの「基準価格」とは』で整理しているので、値洗いの土台として押さえておきたい。担保金は、期間満了で貸借対象STの返還を受けた後に、速やかに借入者へ返す。

権利処理は貸借取引の要だ。貸借期間中に対象STへ収益分配金や利子等が付与された場合、借入者が貸出者に対しその相当額を支払う。原簿上の受益者は借入者に移っているため、実際の分配金はいったん借入者側に入り、それを本来の持ち主である貸出者へ「相当額」として渡すという建て付けになる。ただし、双方が「相当額の授受は不要」と合意していればこの限りではない。議決権など他の権利ではなく、まず金銭(分配金・利子相当額)の付け替えを制度が定めている点が実務上のポイントだ。

貸借残高の公表については、現段階では法的要請がないこと、DLPのマーケットメイクによる安定化と残高公表が必ずしも相容れない面があることなどから、市場の状況を見て実施の要否を再検討する、とされている。つまり当面は貸借残高の一般公表を前提にしていない。新規取引の制限もあり、相手方に受渡未済の立替金があるとき、担保金が未入のとき、取引状況その他から不適当と認められるときは、別段の合意がない限り新規の貸借取引を行ってはならない。

実務家のチェックポイント——株の貸株と「税務」で決定的に違う

制度全体は日本証券業協会の「株券等の貸借取引の取扱いに関する規則」に準じて作られており、担保の代用価格の掛け目なども同規則を参照する。だからこそ、STならではの相違点を先に押さえておきたい。最大の注意点は税務だ。制度要綱は「現段階においては、株券等貸借取引と異なり、貸借料や収益分配金相当額の授受が消費税の課税対象取引と認定されることに留意が必要」と明記している。株の貸株なら意識しない消費税の論点が、STの貸借では発生し得るということで、貸借料や分配金相当額のやり取りをする際は税務の建て付けを事前に確認しておく必要がある。

貸す側(貸出者)の担当としては、原簿名義が借入者へ移ること・分配金は相当額の付け替えで受け取ること・担保は日々値洗いで精算されることを、契約時に基本契約書と個別取引明細書へ落とし込めているかが要になる。借りる側(DLP)の担当としては、返すのは同種・同等・同量のSTであること、返済の起算営業日、そして新規取引が禁止される事由(立替金・担保未入など)を運用フローに組み込むことが確認ポイントだ。基盤上の移転記録で現物をやり取りするため、口座移管と同様に「記録の書き換えは戻せない山場」である点は、別稿『STを他社の証券会社へ移管する実務』とも通じる。

本稿はST貸借取引制度の一般的な解説であり、特定銘柄の売買・貸借を勧誘するものではない。とりわけ貸借料・分配金相当額にかかる消費税など税務にわたる点は、制度や個別事情で結論が変わり得るため、実際の取扱いは各証券会社の案内および税理士等の専門家に確認いただきたい。数値・条件はいずれもODX制度要綱(2025年10月1日制定)および取扱いガイドライン(2025年10月1日制定・2026年4月1日改定)時点のものである。

SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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