2026-07-27 / 読了 10分
不動産STの流通市場STARTでも、上場株と同じように「売買停止」が起きうる。止める理由はODXの業務規程第18条に6つ書かれており、止め方(新規発注だけ止めるのか、付合わせまで止めるのか、終日止めるのか)と再開の条件は施行規則第10条が事由ごとに定めている。この記事では、発行者・AM・証券会社の担当者が事前に押さえておくべき停止の全体像と、再開までに何が要るのかを一次資料から整理する。
売買停止の話に入る前に、STARTという市場の形を押さえておきたい。STARTはODX(大阪デジタルエクスチェンジ)が運営するセキュリティトークン(ST)の私設取引システムで、売買は1日2回の「セッション」でだけ成立する。ODX「セキュリティトークン取引に係る業務規程」第4条によれば、セッション1の注文受付は午前10時00分00秒から午前11時29分59秒までで、付合わせ時刻は午前11時30分。セッション2の受付は午後0時0分00秒から午後2時59分59秒までで、付合わせ時刻は午後3時00分である。
「付合わせ」とは、受け付けた注文をまとめて一つの価格で突き合わせ、約定させる処理をいう。同規程第9条は、各セッションで売り注文と買い注文の合計数量が一致する価格を約定価格とし、売買契約の締結は各セッションで1回だけと定める。つまりSTARTには、東証のようにザラバで値が動き続ける時間帯が存在しない。1日に価格が決まる瞬間は2回だけだ。
もう一つ、「NCP(No Cancel Period)」がある。業務規程第9条第5項は付合わせ前の一定時間について注文の取消し・価格変更・数量変更を認めず、同施行規則第4条はその具体的な時刻を「当面の間、全ての銘柄についてセッション1は午前11時29分00秒以降、セッション2は午後2時59分00秒以降」と定めている。各セッションの最後の1分は、注文をいじれない時間ということになる。
この構造が、売買停止の意味を上場株と少し違うものにする。約定の機会が1日2回しかない以上、「止める」という判断は、その日の価格形成そのものを飛ばすかどうかの判断に近い。だからODXは、止め方を一律にせず、時間帯と事由に応じて段階的に定めている。
STARTの売買停止に関する一次資料は3つある。①ODX「セキュリティトークン市場に係る売買取引の停止に係る方針」(2023年10月25日制定・施行、主管は取引管理部)、②「セキュリティトークン取引に係る業務規程」第18条、③「同施行規則」第10条である。①は目的と措置実施事由を掲げた方針文書で、その第1条は「売買取引の停止措置について実施基準を定め、取引の公正性および透明性を高めるとともに、取引の安全と投資家の信頼を確保すること」を目的に挙げる。実際に何号の事由でどう止め、どう戻すかという細目は②と③にある。停止方針の第3条も、売買の再開は「セキュリティトークン取引に係る業務規程施行規則」第10条の規定に則って行うと明記している。
全体は「①事由が生じる → ②ODXが止め方を選ぶ → ③事由ごとの条件で再開する」という3段で読める。まずこの骨格を頭に入れてから、各号の中身に降りていくのが早い。
業務規程第18条第1項は、ODXが取扱STの売買を停止できる場合として6つを掲げる。第1号は、インサイダー取引類似行為に関する規則に定める重要事実が発生・決定された可能性が認められる場合や、その他投資者の投資判断に重大な影響を与えるおそれのある情報が発生している場合で、当該情報の内容が不明確であるとき、あるいはODXがその内容を投資者一般に周知させる必要があると認めるとき。第2号は、STに付随する権利等が帰属する所有者の特定が、売買を止めないと技術的に困難な場合。第3号は、債券について抽選償還が行われる場合でODXが必要と認めるとき。第4号は売買の状況に異常がある、またはそのおそれがあるとODXが認識し、売買の継続が投資者保護上適当でないと判断した場合。第5号は売買システム等の稼働に支障が生じた場合等、売買の継続が困難とODXが判断した場合。第6号はその他、継続が投資者保護上適当でないとODXが判断した場合である。
前掲の停止方針(2023年10月25日制定)は、この6事由をやや別の切り口で束ねている。同方針第2条は、措置実施事由として「重要情報」の公表、STARTの稼動に支障が生じた場合、天災地変・政変・ストライキ等の不可抗力により注文・約定の執行や金銭・有価証券の授受が遅延・不能となった場合、その他取引の公正性確保のため必要と認めた場合を挙げる。方針が政策の骨格を示し、業務規程と施行規則が運用の条文を持つ——資料に当たるときは、この役割分担を意識しておくと混乱しない。
6事由のうち、実務で最も遭遇しやすいのは第1号だろう。ここでいう情報は、必ずしも発行者が自ら公表したものに限らない。停止方針第2条第1項第1号は、対象を2つ挙げる。イは、START-NET(ODXが取り扱うSTに係る適時の情報提供情報の閲覧サービス)により発行者または運用会社等の重要関係者が適時に提供した情報、または「セキュリティトークン取扱規程」第22条第2項に則りODXが発行者等に照会を行い、発行者等から提供された情報。ロは、メディア等により報道または公表された個別銘柄または発行者等の情報である。つまり、発行者が何も出していなくても、報道が先行して停止の引き金になりうる。
その「照会」の根拠が取扱規程第22条第2項だ。同項は、発行者等に係る情報であって当該発行者等から公表されていない場合であっても、ODXが適時の情報提供すべき事象に該当する可能性があると認識して照会を行った場合には、発行者等は直ちに照会事項について正確に報告するものとする、と定める。さらに同条第3項は、照会に係る事実について提供することが必要かつ適当とODXが認める場合、発行者等は直ちにその内容を提供するものとする。停止方針第2条第2項は「重要情報」を、取扱規程第18条に掲げる事項のうちODXが「有価証券の投資判断に重要な影響を与える発行者等の業務、その運営または業績等に関する情報」と判断する情報と定義している。
発行者・AMの担当者にとっての含意ははっきりしている。未公表の事象について取引所側から照会が来たら、それは売買停止の判断が動き始めているサインでもある。取扱規程第24条は情報取扱責任者を1名以上選任してODXに届け出ることを求めており、照会の受け口はここに一本化されている。連絡先が古いままだと、止まった状態が長引くのは自社の銘柄だ。
なお、何をもって「公表された」とみなすかは別途定めがある。インサイダー取引類似行為に関する規則(2025年11月1日施行・2026年3月25日改定施行)第4条は、重要事実が公衆縦覧に供された時点を、EDINETで開示された時点、START-NETで公衆縦覧に供された時点、債券型STで発行者が国内金融商品取引所の上場会社等である場合はTDnetで公衆縦覧に供された時点、と定める。開示チャネルそのものの実務は別稿『不動産STの開示実務——有価証券届出書・有価証券報告書・EDINETをいつ、何を出すのか』で扱っている。
同じ「売買停止」でも、実際に何が止まるかは一様ではない。施行規則第10条第1項第1号は、業務規程第18条第1号・第4号・第5号による停止について、次の3段階を定める。①午前11時25分00秒、または午後2時55分00秒までに売買の停止に係る所定の時間が経過する場合は、新規発注と既発注注文の変更を停止する(既発注注文の取消しは可能)。②これらの時刻を過ぎても所定の時間が経過しない場合には、新規発注・既発注注文の変更に加えて付合わせも停止する(取消しは可能)。③ODXが売買の停止を終日にわたって実施すると決定した場合は、注文の受付を停止し、すでに受け付けている注文はすべてODXにて取り消されたものとみなし、付合わせも実行しない。
①と②の差は小さく見えて、投資家にとっては決定的である。①なら付合わせは行われるので、その日の約定価格は決まる。②ならそのセッションでは約定しない。③に至れば出していた注文が消える。証券会社の顧客対応でも、「注文はどうなったのか」という問いへの答えがこの3つで変わる。
一方、業務規程第18条第2号・第3号による停止は、施行規則第10条第1項第1号ロにより、ODXが定める所定の期間において終日、一切の売買取引を実施しない。第6号による停止は同ハによりその都度定める。
再開の条件は事由ごとに違う。第1号(重要情報型)の停止は、施行規則第10条第1項第2号により、STまたはその発行者および重要関係者に関し、取扱規程により開示が必要とされる事実に関する情報が生じている場合において、ODXが必要と認めた時から、当該情報の真偽および内容に関する発表等が行われたことをODXが確認した後15分を経過した時までとされる。起点が「発表した時」ではなく「発表が行われたことをODXが確認した時」である点は、発行者側で押さえておきたい。ただし同号ただし書は、当該銘柄をターミネーション銘柄に指定することとした場合その他ODXが停止の継続を適当と認めた場合には、停止期間を延長できるとしている。停止方針第3条にも同趣旨のただし書がある。
第2号(権利者特定型)の停止は、同項第3号により、STに付随する権利等が帰属する所有者が特定される日(その日が休業日に当たる場合はその前営業日)を最終日として遡ること最長7営業日の範囲内でODXが定める。分配の権利確定に伴う停止がここに当たる。第3号(債券STの抽選償還)は同項第4号により、原則として抽選償還の当選番号発表日の2日前の日(発表日が休業日のときは3日前の日)から当選番号発表日までとなる。第4号から第6号は同項第5号により、その都度ODXが定める。
第4号・第5号については、もう一段の仕掛けがある。施行規則第10条第2項は、これらの停止に関する判断(停止期間の判断を含む)に当たってODXが必要と認めるときは、取引参加者に対して売買を再開することの可否について情報を求めることができると定め、同条第3項は、取引参加者は求められた場合には可能な限り速やかにこれを行うよう努力するものとする。市場の異常やシステム障害からの復帰は、取引所の一存ではなく参加者側の準備状況も踏まえて決まる、ということだ。
第5号のシステム障害には例外的な受け皿もある。施行規則第3条は、業務規程第7条第1項ただし書に規定する「売買システムによらない売買」を、売買システムが障害等により長期間にわたって取引が行えない場合に、ODXが取引参加者の注文を受け売買システムを用いずに注文の付合わせを行うことと定義し、その呼値はODXが適当と認める方法による通知で行うとしている。
実務上、市場の異変に対してODXが取れる手は停止だけではない。段階の浅いものから並べると、まず業務規程第19条の投資者への注意喚起がある。第18条第1項第1号に該当する場合で情報の内容が不明確なとき、またはSTもしくはその発行者等の情報に関して注意を要すると認められる事情があるとき、周知が必要と認めればODXは注意喚起を行うことができる。
次に、平時から常設されている入口の規制がある。ODX「セキュリティトークン市場に係る誤注文等による異常な取引の管理方針」(2023年10月25日制定・施行)第1条は、注文数量規制として一回に受注する注文数量を銘柄ごとの発行済み数量の5%以下に設定し、これを超える注文は受け付けないこと、注文の金額規制として一回に受注する注文金額の上限を1億円以下に設定し、これを超える注文は受け付けないこと、そして値幅制限を定める。値幅の具体値は施行規則第6条・別表-2にあり、不動産投資受益証券では基準価格3万円以下で上下1,500円、3万円超5万円以下で2,500円、5万円超30万円以下で15,000円、30万円超50万円以下で25,000円、50万円超100万円以下で50,000円、100万円超300万円以下で150,000円、300万円超で250,000円(いずれも基準価格の上下、2024年10月7日施行時点)。基準価格そのものの決まり方は別稿『STARTの「基準価格」とは——決まり方、NAVとの違い、乖離の読み方』で扱った。
さらに、異常が疑われる局面での規制措置がある。業務規程第23条は、売買の状況に異常があると認める場合またはそのおそれがあると認める場合、ODXは規則で定める規制措置のうち必要な措置を行えるとし、施行規則第12条第1項はその内容を、業務規程第25条第1項各号に定める措置に準じた措置(大口所有者等への一定数の売付け要請、取引参加者の自己計算による買付けの制限、委託注文を含む成行注文の制限、呼値の値幅制限の拡大または縮小)と、取引参加者の自己計算による売付けの制限(DLPである取引参加者を除く)と定める。値幅制限の拡大・縮小は営業日単位で実施し、原則として本来の値幅制限の3倍までを限度とする(同条第2項)。これらの措置は原則としてあらかじめ取引参加者に通知し、通知の翌営業日から適用される(同条第3項)。
反対に、価格の一方向への偏りに対して値幅を「狭める」規定もある。業務規程第12条第6項第2号は、取引に重大な影響を与え得る適時開示情報等が行われているにもかかわらず売り方または買い方の片側に注文が偏在する状態が2営業日以上継続している場合で、極端な価格変動を抑制する必要性が高いとODXが判断した場合には、一時的に呼値の制限値幅を縮小できるとしている。
最後に、停止よりも重い措置として銘柄指定がある。取扱規程第31条は、STが取扱廃止となるおそれがある場合に投資者へ周知するためアテンション銘柄に指定できるとし、第32条は、取扱廃止が決定された場合または予定されている場合に、取扱廃止が決定された日の翌営業日から取扱廃止日までの間(予定の場合は取扱廃止日の30営業日前の日から取扱廃止日までの間)ターミネーション銘柄に指定し、売買取引を行うことができるとする。第33条により、取扱廃止日の翌営業日には原簿の記載事項が抹消される。前述のとおり、第1号の停止はターミネーション銘柄への指定を決めた場合に延長されうる——停止と銘柄指定はここでつながっている。
停止方針第4条は、STARTにおける売買停止銘柄の情報について、取引参加証券会社に通知するほか、ODXホームページ上で公開すると定める。実際、ODXサイトには銘柄情報>規制銘柄の下に「売買停止銘柄」「成行注文停止銘柄」「アテンション・ターミネーション指定銘柄」の各ページが用意されている。売買停止銘柄ページは「本日、STARTにおいて売買停止している銘柄一覧です」と説明し、実施中/実施解除の切替えと市場区分(全市場・債券ST・不動産ST)の絞り込みを備え、市場区分・ISINコード・STARTコード・銘柄略称・ステータス・売買停止開始日時・売買停止終了日時・売買再開日時・理由の各欄を持つ。当サイトで2026年7月27日に確認した時点では、売買停止銘柄は実施中・実施解除とも該当データなし、アテンション銘柄・ターミネーション銘柄も指定中・解除済とも該当データなしだった(同日の当該ページ表示による。同ページは当日分の一覧であり、過去の全履歴を示すものではない)。
この「該当なし」をどう読むかは慎重でよい。STARTの取扱銘柄はまだ数える程度で、二次流通の売買代金も限られる。停止事例が積み上がっていないことは、制度が使われていないことを意味しても、制度が緩いことを意味しない。むしろ、初めての停止が自社の銘柄で起きたときに手順を調べ始めるのでは遅い、という読み方のほうが実務的だ。
発行者・AMの側で事前に固めておくべきは3点ある。第1に、取扱規程第24条の情報取扱責任者の氏名・役職・連絡先を最新に保つこと。照会と発表の窓口がここに集約されている以上、ここが詰まると停止が長引く。第2に、重要事実に当たりうる事象が動き出した時点で、START-NETでの適時情報提供と自社ウェブサイトでの公表を同時、あるいはSTART-NETを先行させる段取りを持っておくこと——取扱規程第21条第2項は、発行者等の自社ウェブサイト等における提供とSTART-NETを通じての提供について、原則として同時もしくは後者を先んずるものとしている。第3に、再開の起点が「発表をODXが確認した後15分」である以上、発表の事実をODXへ伝える経路を決めておくこと。
証券会社側の実務では、止まり方の3類型(新規発注・変更のみ停止/付合わせも停止/終日停止)を顧客説明の型として持っておくのが実用的だ。特に終日停止では受付済みの注文がすべて取り消されたものとみなされるため、顧客が「出したはずの注文」を前提に翌営業日の行動を組み立てていると齟齬が生じる。STARTの決済まわりの周辺論点は別稿『STが誤ったアドレスに移転されたら——「誤移転」処理の実務と、無権利者・善意取得の扱い』『STを他社の証券会社へ移管する実務——受入れ可否の事前確認から原簿書換までの手順』でも扱っている。
本記事はODXの公表規程・方針に基づく制度の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・勧誘や投資助言ではない。引用した条文は本文に記した施行日時点のものであり、規程は改訂される。実際の適用に当たっては、ODXライブラリで最新版を確認されたい。税務・会計上の取扱いに関わる判断が必要な場合は、税理士等の専門家に確認いただきたい。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。