2026-07-17 / 読了 8分
START上場銘柄の銘柄情報に必ず記載される「ST-Nominator」。何をする存在で、どの証券会社がなれて、組成側は何を期待すべきなのか——ODXの取扱規程と2025年1月公表の審査体制確認文書という一次資料から、その正体を明らかにする。
ST-Nominatorの根拠は、ODXのセキュリティトークン取扱規程第13条(ST-Nominatorの機能と役割等)にある。第1項は「当社市場におけるセキュリティトークンの取扱適正性について調査を実施し、その結果を当社に報告する」と定め、第2項は、自社が実施したスキームの検証、プラットフォームの技術的安全性・運営上の健全性、裏付資産のデューデリジェンス(法律・ビジネス・財務の観点)などをODXの取扱審査を促進するために共有し、ヒアリングにも協力する義務を課す。
つまりST-Nominatorとは、STARTの取扱審査(上場審査に相当)において、発行体側に立って商品を精査し、その調査結果をもって市場運営者ODXの審査を支える証券会社である。株式市場の「上場主幹事」、ロンドンAIM市場の「Nominated Adviser(Nomad)」に相当する機能と考えると位置づけが掴みやすい——名称自体、後者を想起させる。
誰でもなれるわけではない。ODXは2025年1月31日付「ST-Nominatorの審査体制の確認について」で、ST-Nominatorとなり得る者に対する確認項目を公表した(根拠は取扱規程13条3項2号「発行者等の審査を行う能力及び体制が相応に整備されていること」)。確認は4項目に整理されている。
①審査部門の体制: 体制図、審査責任者・担当者の経歴、直近1年の募集実績、見込む募集件数、商品類型ごとの標準審査スケジュール——「予定されるST商品数に対して適切な審査が行える体制か」を見る。②営業部門・商品組成部門との隔離: 職務分掌規程・利益相反管理規程により「第1線の意向に影響を受けることなく客観的な審査を行い得るか」。③商品組成から募集開始までのプロセス: 意思決定とガバナンスが顧客本位に機能する蓋然性。④調査・審査手法: 13条1・2項の義務を果たすプロセスの実在。
注目すべきは②だ。売りたい営業と、止める審査の分離——引受審査の独立性という証券会社の古典的な規律が、ST市場でも中核要件として明文化されている。STARTが「なんでも上場させる市場」にならないための防波堤である。
ODXの銘柄情報(当サイト収録)によれば、START上場7銘柄のST-Nominatorは、東海東京証券(KDX名古屋栄ビル・トーセイST3市ヶ谷・三井物産G三重イオンタウン鈴鹿)、SBI証券(いちごRT3銘柄)、大和証券(KDXSTドーミーイン神戸元町)が務めている。募集時の主幹事・主要販売会社がそのままST-Nominatorに就く構図で、プライマリーで商品を最も深く知る証券会社がセカンダリーの適正性にも責任を持つ設計になっている。
START上場を目指す組成チームにとって、ST-Nominator選定は主幹事選びと同義だ。チェックすべきは、①その証券会社がST-Nominatorとしての体制確認をクリアしているか(または申請準備があるか)、②商品類型(不動産・将来的には社債等)の審査経験、③上場後の適時情報提供(START-NET)や売買停止期間対応まで含めた運営サポートの範囲。
逆に言えば、ST-Nominatorを引き受けられる証券会社はまだ限られており、この体制を持つこと自体が証券会社側の競争力になっている。市場拡大とともにST-Nominatorの顔ぶれが増えるかどうかは、START の処理能力——ひいては市場全体の上場ペース——を決める隠れたボトルネックとして観測に値する。上場そのものの費用や、後から上場できない理由は別稿「なぜ後からSTARTに上場できないのか」を参照してほしい。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。