2026-07-17 / 読了 8分
不動産STの銘柄名の末尾には、たいてい「(デジタル名義書換方式)」か「(譲渡制限付)」が付いている。この括弧書きは飾りではなく、その銘柄を「どこで・どうやって売れるか」を決める商品設計の宣言だ。2つの方式の意味と、売却時の実務の違いを整理する。
受益証券発行信託型のSTでは、受益証券を発行しない設計を採るため、受益権の譲渡は当事者の合意で成立し、受益権原簿への記載が対抗要件になる。つまり「トークンが動く」ことと「原簿が書き換わる」ことをどう接続するかが、商品設計の核心になる。この接続方法の違いが、銘柄名の括弧書きに表れている。
当サイトの銘柄データベースを見ると、初期の銘柄には「譲渡制限付」、近年の銘柄には「デジタル名義書換方式」が多い——この変化には二次流通市場STARTの登場という明確な理由がある。
デジタル名義書換方式は、投資家が証券会社を通じて売買し決済が完了すると、証券会社がプラットフォーム(ブロックチェーン基盤)に移転情報を記録し、この記録をもって受託者が譲渡を承諾したとみなして名義書換(原簿の書換え)まで一気通貫で完了させる設計だ。人手の承諾手続きを挟まないため、STARTのような市場での不特定多数間の売買に耐えられる。
つまり「デジタル名義書換方式」と付いている銘柄は、START上場(またはその可能性)を前提に設計された銘柄と読める。実際、START上場7銘柄はいずれもこの方式であり、2024年以降の公募新銘柄はほぼこの方式に収斂している。
一方「譲渡制限付」は、受益権の譲渡に一定の制限(譲渡先や方法の限定)を付した設計で、保有者が売りたいときは、募集を取り扱った証券会社との相対取引(OTC取引)が基本になる。ODXの運営委員会資料も、既発行銘柄の譲渡取引は「発行時に引受け又は募集の取扱いを行った証券会社と一般受益者との相対取引(OTC取引)を前提に募集」されてきたと整理している。
OTC取引の価格は、直近のNAVをベースに証券会社のポジションリスク等を勘案して決まる。市場の板で時価が付くSTARTと違い、「NAV近辺で売れるが、いつでも売れるとは限らない(証券会社の買取り姿勢に依存する)」のがOTCの性格だ。初期の銘柄が譲渡制限付で組成されたのは、STARTがまだ存在せず、OTCしか流通手段がなかった時代の合理的な設計である。
組成サイドにとって、方式の選択は「将来STARTに乗せるか」の意思決定そのものだ。後述の通り、譲渡制限付で発行した銘柄を後からSTART取扱いに切り替えるには信託契約の変更等の高い壁がある(別稿「なぜ後からSTARTに上場できないのか」)。出口の設計は発行前に決め切る必要がある。
投資家・販売サイドにとっては、顧客説明の内容が変わる。デジタル名義書換方式なら「市場で時価で売れる(価格変動がある)」、譲渡制限付なら「証券会社とのOTCでNAVベース(流動性は限定的)」——同じ不動産STでも売却体験がまったく違う。当サイトの銘柄ページでは銘柄名にこの方式がそのまま含まれているので、一覧で見比べてほしい。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。