2026-07-17 / 読了 9分
STARTを前提とせずに発行された銘柄を、あとから上場させて市場を活性化できないか——ODXの運営委員会が実際に検討し、「壁が高い」と結論づけた一次資料がある。組成時に出口を決め切るべき理由が、これ以上なく具体的に書かれた資料を読み解く。
ODXのSTART運営委員会は2024年、STARTでの取扱いを前提とせず発行された不動産ST(既発行非取扱銘柄)を後から取り込めないか、タスクフォースで約2ヶ月の初期検討を行った。結論は「解消・抑制すべき課題が複数あり、実際に希望する銘柄が現れた段階で検討を再開する」——事実上の棚上げである。重要なのは、その課題リストが組成実務者にとっての「出口設計の教科書」になっていることだ。
最大の壁は信託法だ。譲渡制限付の銘柄は「NAVベースのOTC取引で売れる安定商品」として募集されている。これをSTARTの競争売買に乗せると、価格は時価として常に変動するようになる——資料はこれが「信託の商品としての同一性を失わせる変更」として非軽微な信託の変更に該当する恐れを指摘する。
非軽微な変更になると、異議ある受益者への公告手続きが必要になり、さらに異議受益者は受益権の公正価格での買取りを受託者に請求できる。買取請求が積み上がれば、資金は物件に投じられているため買取原資が不足し、最悪は訴訟リスクまで想定される——「上場」という良さそうな話が、既存投資家の権利保護の仕組みと正面衝突するのだ。
取引方法の変更や価格変動リスクを既存・潜在投資家に周知するため、新たな有価証券届出書(組込方式)の提出が必要になる可能性がある。その費用を誰が払うか——ファンド負担なら利回りを毀損して受益者の利益を害し(これ自体が重要な変更に該当し得る)、AMが肩代わりすれば既存受益者への「特別の利益の提供」の疑いが生じる。どちらに転んでも詰む構造だと資料は率直に認めている。
さらにSTART取扱いには新規取扱審査料・新規取扱手数料・年間取扱管理料・適時情報提供システム(START-NET)使用料が発行者側負担で発生する。ODXが政策的に減免する余地はあるが、全額免除すれば既存の取扱銘柄との不公平やODX自身の特別の利益提供が問題になる——費用の壁は割引では消えない。
「NAVベースで売れる」と説明して販売した商品が時価変動商品に変わることは、募集時の顧客説明との齟齬であり、販売した証券会社が訴訟リスクを負い得る。START上場後もOTCを併存させれば一物二価となり、合理的な説明はさらに難しい。法人顧客には期末時価評価の問題まで波及する。
また、START取扱銘柄には分配の権利確定や償還時に標準的な売買停止期間が設定されるが、既発行銘柄の停止期間は銘柄ごとの事情で設計されており標準と一致しない。これは例外運用と注意喚起で抑制可能と整理されているが、細部まで標準化の摩擦が残る。
この資料の実務的な含意は明快だ。STARTに乗せる可能性が少しでもあるなら、発行時からデジタル名義書換方式で組成し、届出書・顧客説明・売買停止期間をSTART標準に合わせておくこと。後から変えるコストは、信託法・開示・販売責任の三方向から跳ね返ってくる。「二次流通は後で考える」は、STの世界では成立しない——ODX自身の検討がそれを証明している。方式の違いの基礎は別稿「デジタル名義書換方式と譲渡制限付」を参照してほしい。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。