2026-07-16 / 読了 8分
令和7年度税制改正で、不動産STの利益超過分配(元本の払戻し)の課税が根本から変わった。改正前の「全額配当課税」と改正後の「みなし譲渡」を対比し、実務で混乱しやすい既存保有分・経過期間の取扱いを整理する。
「利益超過分配」を一言でいえば、会計上の利益を超えて、投資家が出した元本の一部を分配として返すことだ。原資になるのは主に減価償却費——建物の価値の目減りを費用として計上するもので、帳簿上は費用でも実際にお金は出ていかない。この「手元に残るお金」を配るのが利益超過分配であり、ホテルや物流施設のような償却の大きいアセットで威力を発揮する。
改正前の取扱いでは、特定受益証券発行信託からの分配は、利益を原資とする部分も減価償却費相当を原資とする利益超過分配(元本の払戻し)部分も、区別なく収益分配として配当課税(源泉20.315%)されていた。投資家にとっては「自分が出したお金が戻ってきただけの部分」にも税金がかかる構造で、償却系アセット(ホテル・物流など)のSTが利益超過分配を活用しにくい一因とされてきた。
J-REITの世界では利益超過分配=出資の払戻しとして扱われ、みなし配当・みなし譲渡の枠組みが整備済みだったのに対し、STはその手当てがなかった——この不均衡の解消が業界の要望であり、改正の出発点である。
令和7年度税制改正により、2026年4月1日以後に行われる元本の払戻しは、配当ではなく保有分の一部譲渡(みなし譲渡)として扱われるようになった。投資家は、受け取った払戻額を譲渡収入、自分の取得価額×元本減少割合を譲渡原価として譲渡損益を計算し、取得価額を減額して次回に持ち越す。募集価格で取得した投資家なら譲渡損益はおおむねゼロで、実質的に「非課税で元本が戻る」形に近づき、課税は将来の売却・償還時に繰り延べられる。
この計算に必要な「元本減少割合」は、分配のつどアセットマネージャーが自社ウェブサイトで公表する運用になっている。計算手順の詳細と数値例は別稿「元本減少割合とは何か」を参照してほしい。
実在銘柄の予想分配金の内訳(利益1,520円+払戻し480円)を例に、改正前後を並べると違いが一目で分かる。
第一に、改正前から保有していた口も、2026年4月1日以後に受ける払戻しからは新しい取扱いが適用される。切替の基準は「取得がいつか」ではなく「払戻しがいつ行われたか」である。取得価額は従来のものをそのまま使い、以後の払戻しごとに減額調整していく。
第二に、改正前(2026年3月まで)に受け取った利益超過分配について、遡って譲渡扱いに引き直すことはない。当時の配当課税で完結しており、取得価額の調整も発生していない。
第三に、口座区分による実務差である。源泉徴収ありの特定口座では証券会社が取得価額調整まで自動処理するが、一般口座・源泉なし特定口座の保有者は、元本の払戻しがあった年は確定申告が必要になる。改正に伴い信託計算期日や分配金支払日を変更する銘柄もあり(2026年3月の証券会社通知で告知)、対象銘柄の保有者は分配スケジュール自体の変更にも注意したい。当サイトの分配・元本トラッカーでは、対象銘柄の通知・公表状況を記録日つきで収録している。
本稿は公表された制度の一般的な整理であり、税務助言ではない。経過措置の適用関係や個別の申告実務は、必ず税理士等の専門家と各商品の告知資料で確認してほしい。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。