実務者向け不動産STの流通税はどこで払われているのか——信託の登記・登録免許税・不動産取得税を、条文と届出書14件の「不動産管理処分信託設定年月日」で読む
公開 2026-09-15 / 読了 13分
不動産を買えば、登記のときに登録免許税、取得したことに対して不動産取得税がかかる。ところが不動産STの有価証券届出書を14件読んでも、「不動産取得税」「流通税」という語は1件も出てこず、「登録免許税」も1件に一度きりである。流通税は消えたのではなく、払う場面が組成の手前にずれている——登録免許税法・租税特別措置法・地方税法・不動産登記法の条文と、届出書に載る「不動産管理処分信託設定年月日」を突き合わせて、どこで何が払われる設計なのかを確かめる。
まず前提——「流通税」「信託の登記」「信託目録」という言葉
不動産の取引に伴ってかかる税のうち、持っている間に毎年かかる固定資産税などと区別して、取得や移転の場面で一度かかる税を実務では「流通税」と呼ぶ。法令用語ではなく、本稿で扱うのは主に3つである。登記を受けるときに国に納める登録免許税(登録免許税法)、不動産を取得したことに対して都道府県が課す不動産取得税(地方税法第73条の2第1項「不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する」)、そして契約書に貼る印紙税(印紙税法)である。
次に、不動産STの土台にある「信託の登記」。不動産を信託に入れると、登記簿上の所有者は受託者(信託銀行など)になる。そのうえで、その不動産が受託者の固有の財産ではなく信託財産であることを示す登記が別に入る。これが信託の登記で、不動産登記法は「信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければならない」と定め(第98条第1項)、受託者が単独で申請できるとしている(同条第2項)。
信託の登記で記録される事項は、不動産登記法第97条第1項が列挙している——委託者・受託者・受益者の氏名又は名称及び住所、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了の事由など。登記官はこれらを明らかにするために「信託目録」を作成することができる(同条第3項)。そして記録された事項に変更があったときは、受託者が「遅滞なく、信託の変更の登記を申請しなければならない」(第103条第1項)。受益者が入れ替わったときに動くのは、この信託目録のほうである。
届出書でこの話が一行だけ顔を出すのは、法制度の説明の箇所である。本稿が読んだ受益証券発行信託型13件はすべて、受託者が倒産した場合に信託財産であることを第三者に対抗するには「当該投資対象不動産に信託設定登記を備えておく必要があります」とほぼ同文で書き、GK-TK型の横浜伊勢佐木町ホテルは「発行者は信託の登記がなされていることを確認した上で、本信託受益権を取得する予定です」と書く。倒産隔離の文脈で語られる登記が、税の文脈でも出発点になる。
① 登録免許税(国税)登記を受けるときに納める
根拠は登録免許税法。税率は別表第一に並び、不動産の登記は「不動産の価額」×税率か「不動産の個数1個につき○円」の2通り。所有権の移転の登記も、信託の登記も、信託目録の変更の登記も、それぞれ別の行で課税される。
② 不動産取得税(地方税)不動産を取得したことに課す
地方税法第73条の2第1項「不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する」。登記の有無は問わないが、形式的な移転は第73条の7で非課税になる(信託に入れる・受託者が替わる等)。
③ 印紙税(国税)契約書などの文書に課す
印紙税法別表第一第12号「信託行為に関する契約書」は1通につき200円。金額に比例しないので、流通税の中では桁が小さい。
信託の登記「この不動産は信託財産です」という登記
権利の移転などの登記と同時に申請しなければならず(不動産登記法第98条第1項)、受託者が単独で申請できる(同条第2項)。受託者が倒産しても信託財産であると第三者に対抗するための登記で、届出書13件は「信託設定登記を備えておく必要があります」と書く。
信託目録信託の中身の記録
委託者・受託者・受益者の氏名又は名称及び住所、信託の目的、管理方法、終了の事由などを記録する(第97条第1項・第3項)。受益者が替わると、受託者が「遅滞なく」信託の変更の登記を申請する(第103条第1項)。
「流通税」は法令用語ではない。取得や移転の場面で一度かかる税をまとめた実務の呼び方で、本稿では①〜③を指す。持っている間に毎年かかる固定資産税・都市計画税は含めない。信託を使うと、①の中身が「所有権の移転の登記」から「信託の登記」「信託目録の変更の登記」に置き換わり、②は非課税の場面が増える——これが本稿の出発点である。
図: 流通税を読むための5つの言葉。上の3行が税、下の2行が登記の仕組みで、上から順に読む。出所は登録免許税法別表第一、地方税法第73条の2第1項・第73条の7、印紙税法別表第一第12号、不動産登記法第97条・第98条・第103条(いずれもe-Gov法令検索・2026年9月15日確認)、届出書の記載はEDINET提出の受益証券発行信託型13件(本文の出所欄)。本図は制度の一般的な整理であり、個別の税務判断ではない。条文で見る3つの場面——現物の売買・信託の設定・受益権の売買
同じ1棟のビルでも、どういう形で手に入れるかによって流通税の条文がまったく違う。場面を3つに分けて並べる。
第一は、不動産そのものを売買で買う場面である。所有権の移転の登記の税率は、登録免許税法別表第一第1号(二)ハ「その他の原因による移転の登記」で不動産の価額の千分の二十。土地については租税特別措置法第72条第1項第1号が「売買による所有権の移転の登記」を千分の十五に軽減しており、その期限は「平成二十五年四月一日から令和十一年三月三十一日までの間」である(e-Gov法令検索・2026年8月12日施行版で確認)。不動産取得税は標準税率が百分の四(地方税法第73条の15)で、住宅又は土地の取得は令和9年3月31日までの間は百分の三(同法附則第11条の2第1項)、宅地評価土地は同じ期限まで課税標準が価格の2分の1(同法附則第11条の5第1項)となる。
第二は、自分が持っている不動産を信託に入れる場面である。ここで条文は2つの非課税を用意している。登録免許税法第7条第1項第1号は「委託者から受託者に信託のために財産を移す場合における財産権の移転の登記」に登録免許税を課さないとし、地方税法第73条の7第3号は「委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得」に不動産取得税を課することができないとする。ただし信託の登記そのものは非課税ではない。登録免許税法別表第一第1号(十)イ「所有権の信託の登記」が不動産の価額の千分の四で、土地については租税特別措置法第72条第1項第2号が千分の三に軽減している(期限は同じく令和11年3月31日まで)。
地方税法第73条の7第3号にはかっこ書きがある——「当該信託財産の移転が第七十三条の二第二項本文の規定に該当する場合における不動産の取得を除く」。第73条の2第2項本文は、家屋が新築された場合に「最初の使用又は譲渡」が行われた日に家屋の取得があったとみなす規定である。新築後まだ使われていない建物を信託に入れる場合は、この非課税から外れうる、ということになる。
第三は、すでに信託に入っている不動産の受益権を買う場面である。登記簿上の所有者は受託者のまま変わらないので、所有権の移転の登記は起きない。動くのは信託目録に記録された受益者で、その変更は不動産登記法第103条の信託の変更の登記になり、登録免許税法別表第一第1号(十四)「登記事項の更正若しくは変更の登記」として「不動産の個数一個につき千円」である。不動産取得税の節(地方税法第73条から第73条の33まで)の本則で「信託」または「受益権」の語が出てくるのは第73条の7だけで、受益権の取得を不動産の取得とみなす規定は置かれていない(当サイトがe-Gov法令検索の本文を機械検索・2026年9月15日)。
課税標準にも注意がいる。登録免許税の課税標準は登記の時の不動産の価額(登録免許税法第10条第1項)だが、当分の間は固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として政令で定める価額によることができ(同法附則第7条)、国税庁も「固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、原則その価格」と説明している。不動産取得税も、固定資産課税台帳に価格が登録されている不動産はその価格で課税標準を決める(地方税法第73条の21第1項)。どちらも取引価格や鑑定評価額ではない。
A 現物を売買で買う
所有権の移転の登記=千分の二十(別表第一1号(二)ハ)。土地は千分の十五(措置法72条1項1号・令和11年3月31日まで)
課税。標準税率百分の四(73条の15)。住宅・土地は百分の三(附則11条の2)、宅地評価土地は課税標準2分の1(附則11条の5)——いずれも令和9年3月31日まで
B 自分の不動産を信託に入れる
委託者→受託者の移転の登記は非課税(7条1項1号)。ただし信託の登記=千分の四(別表第一1号(十)イ)、土地は千分の三(措置法72条1項2号・令和11年3月31日まで)
非課税(73条の7第3号)。ただし新築家屋の「最初の使用又は譲渡」にあたる移転(73条の2第2項本文)は除く
C 既存の信託の受益権を買う
所有権は受託者のまま=移転の登記なし。受益者の変更は信託の変更の登記(不登法103条)で不動産1個につき1,000円(別表第一1号(十四))
所有権の取得がない。不動産取得税の節の本則で「信託」「受益権」の語は73条の7にしか出てこず、受益権の取得を不動産の取得とみなす規定はない
参考 受託者が替わる
旧受託者→新受託者の移転の登記は非課税(7条1項3号)
非課税(73条の7第5号)
同じ建物でも、A・B・Cのどの形で権利を動かすかで条文がまるごと入れ替わる。Bは「移転は非課税、信託の登記は課税」という二段構えで、非課税だからゼロになるわけではない。Cでは所有権の登記が一度も動かない。課税標準はどの場面でも固定資産課税台帳の価格が原則(登録免許税法附則7条・地方税法73条の21第1項)で、取引価格や鑑定評価額ではない。
表: 不動産を手に入れる3つの形と流通税の条文。左の場面を選び、右へ「登録免許税→不動産取得税」の順に読む。条文番号の「7条」は登録免許税法、「73条の○」「附則」は地方税法、「措置法」は租税特別措置法、「不登法」は不動産登記法。期限はe-Gov法令検索で2026年9月15日に確認した版(措置法は2026年8月12日施行版、地方税法は2026年7月31日施行版)による。国税庁タックスアンサーNo.7191(令和8年4月1日現在法令等)も土地の売買の千分の十五を令和11年3月31日までと記載。本表は条文の整理であり、個別案件への当てはめは専門家・所轄の法務局・都道府県税事務所に確認されたい。桁の違いを仮設例で置く——6,000万円・500万円・2,000円
条文の差がどれくらいの金額差になるのかを、仮の数字で置いてみる。以下は当サイトの仮設例であり、実在の物件・案件の数値ではない。土地は宅地評価土地1筆で固定資産課税台帳の価格10億円、建物は事務所1棟で同じく5億円とする。
現物を売買で買うと、登録免許税は土地10億円×千分の十五=1,500万円と建物5億円×千分の二十=1,000万円、不動産取得税は土地10億円×2分の1×百分の三=1,500万円と建物5億円×百分の四=2,000万円で、合計6,000万円になる。
同じ物件を所有者が自ら信託に入れると、所有権の移転の登記と不動産取得税は非課税で、残るのは信託の登記の登録免許税だけ——土地10億円×千分の三=300万円と建物5億円×千分の四=200万円の合計500万円である(建物が新築後未使用ではない前提)。
すでに信託に入っている受益権を買うと、所有権は受託者から動かず、受益者の変更の登記が土地1個・建物1個で1,000円×2=2,000円である。3つを並べると、6,000万円・500万円・2,000円と、ほぼ4桁ずつ違う。
ここから言えるのは、流通税の重さは「買う物の中身」ではなく「どの形で・どの時点で権利を動かすか」で決まる、ということである。一方で、この仮設例は誰がどの費用を負担するかまでは語らない。売主が自分で信託を設定してから受益権を売るなら、信託の登記の登録免許税を払うのは売主側で、買主が払うのは変更の登記だけになる。その負担を代金にどう織り込むかは売買契約の問題であり、本稿が読んだ届出書には書かれていない。
税目
A 現物を売買
B 自ら信託に入れる
C 受益権を買う
登録免許税(土地)
10億×15/1000=1,500万円
移転は非課税/信託の登記 10億×3/1000=300万円
変更の登記 1,000円
登録免許税(建物)
5億×20/1000=1,000万円
移転は非課税/信託の登記 5億×4/1000=200万円
変更の登記 1,000円
不動産取得税(土地)
10億×1/2×3/100=1,500万円
非課税
取得なし
不動産取得税(建物)
5億×4/100=2,000万円
非課税(新築未使用でない前提)
取得なし
3つの合計はほぼ4桁ずつ違う。ただしBとCは「誰が払うか」が違う——売主が自ら信託を設定して受益権を売るなら、Bの500万円は売主側、買主はCの2,000円だけになる。その負担を売買代金にどう織り込むかは契約の問題で、本稿が読んだ届出書には書かれていない。仮設例では印紙税(信託契約書1通200円)や司法書士報酬などは含めていない。
表: 当サイトの仮設例。土地=宅地評価土地1筆・固定資産課税台帳の価格10億円、建物=事務所1棟・同5億円とし、左の税目ごとに A→B→C と横に読む。税率はAが別表第一1号(二)ハ・措置法72条1項1号・地方税法73条の15・附則11条の2・11条の5、Bが登録免許税法7条1項1号・別表第一1号(十)イ・措置法72条1項2号・地方税法73条の7第3号、Cが別表第一1号(十四)による(2026年9月15日確認の条文)。実在の物件・案件の税額ではない。軽減措置の期限(令和9年3月31日・令和11年3月31日)の後は税率が変わりうる。個別の税額計算は専門家に確認されたい。届出書14件の「不動産管理処分信託設定年月日」——10件は、STの組成より前から信託に入っていた
では、実際の不動産STはどの場面を通っているのか。手がかりは、届出書・有価証券報告書の物件の概要表にある「不動産管理処分信託設定年月日」(案件によっては「不動産管理処分信託契約の概要」の中の「信託設定日」)である。これは物件そのものを信託に入れた日で、STの信託(受益証券発行信託)を設定した日とは別の日付である。
本稿はEDINETに提出された14件——受益証券発行信託型13件(有価証券届出書10件・有価証券報告書3件)とGK-TK型1件——について、この日付をSTの信託設定日(GK-TK型は取得予定年月日)と並べた。結果は2つにきれいに分かれる。
同じ日に不動産管理処分信託が設定されているのは4件だけである。いちご・レジデンス・トークンの3案件(芝公園ほか6物件は2023年12月22日、西麻布ほか7物件は2024年5月23日、市谷仲之町ほか7物件は2024年10月24日で、いずれもSTの信託設定日と同日)と、三井物産グループの東横INN(2026年3月30日・予定)である。これらは、物件が信託に入った日とSTが立ち上がった日が一致しているので、信託の登記はこの組成の日程の中で行われたことになる。
残る10件は、物件がSTより前から信託に入っていた。間隔が短いのはトーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ3)市ヶ谷の85日(2024年2月29日→2024年5月24日)とKDX名古屋栄ビルの138日(2023年11月1日→2024年3月18日)で、組成に向けて直前に信託化したと読める距離である。長いほうは、品川シーサイドイーストタワーが2004年8月31日に信託設定——建築時期は2004年8月——でSTの信託設定日は2026年8月31日、ちょうど22年(8,035日)。イオンタウン鈴鹿は2008年9月19日設定で約16.2年、横浜伊勢佐木町ホテル(チサンホテル横浜伊勢佐木町)は2016年10月31日設定で取得予定日2026年8月31日まで約9.8年、シックスセンシズ京都は2019年6月27日設定で約7.2年である。
さらに3件は、不動産管理処分信託設定年月日が建物の建築時期(届出書の注記では登記簿上の新築年月日又は工事完了検査年月)より前に来ている——ドーミーイン神戸元町(信託設定2019年9月30日・建築時期2020年3月)、ONSEN RYOKAN 由縁札幌(2018年9月28日・2020年5月)、シックスセンシズ京都(2019年6月27日・2023年11月)。建物が完成する前から、少なくとも土地は信託に入っていたことになる。
10件については、STの組成の時点で動いたのは既存の信託の受益権であって、不動産の所有権ではない。第2節の第三の場面にあたる。流通税の重い部分——所有権の移転の登記と不動産取得税——は、物件が最初に信託に入ったとき、あるいはそれより前の現物の取得の時点で、その時々の所有者のもとで済んでいる。STの組成に残る登記上の手続は、受益者が記録されていればその変更の登記(1個1,000円)である。
案件(書類番号)
不動産管理処分信託設定年月日
建築時期
STの信託設定日
間隔
KDX ドーミーイン神戸元町(S100SB9N)
2019-09-30
2020年3月
2023-12-22
1,544日
いちご・レジデンス 芝公園ほか6物件(S100SBPF)
2023-12-22(6物件とも)
2022年8月〜2023年6月
2023-12-22
同日
KDX名古屋栄ビル(S100SRLJ)
2023-11-01
2009年4月
2024-03-18
138日
トーセイPF(シリーズ3)市ヶ谷(S100T9M6)
2024-02-29
1993年1月
2024-05-24
85日
いちご・レジデンス 西麻布ほか7物件(S100TAY3)
2024-05-23(7物件とも)
2022年12月〜2023年7月
2024-05-23
同日
いちご・レジデンス 市谷仲之町ほか7物件(S100UE49)
2024-10-24(7物件とも)
2021年10月〜2024年3月
2024-10-24
同日
三井物産 イオンタウン鈴鹿(S100UJK9)
2008-09-19
2007年6月
2024-11-28
5,914日
三井物産 東横INN・優待あり(S100XMTM)
2026-03-30(予定)
2018年2月
2026-03-30
同日
KDX ONSEN RYOKAN 由縁札幌〈有報〉(S100Y1FJ)
2018-09-28
2020年5月
2023-04-28
1,673日
ロードスター 横浜伊勢佐木町ホテル〈GK-TK〉(S100YR0W)
2016-10-31
1990年10月
2026-08-31(取得予定)
3,591日
三井物産 熱海温泉〈有報〉(S100YR31)
2021-12-10
2020年8月
2023-10-31
690日
三井物産 学芸大学ほか4物件〈有報〉(S100YR5I)
2022-12-23/2023-03-31
2021年10月〜2022年11月
2025-03-17
717〜815日
三井物産 品川・オフィス&ホテル(S100YS50)
2004-08-31
2004年8月
2026-08-31
8,035日
ウェルス シックスセンシズ京都(S100YTNX)
2019-06-27
2023年11月
2026-09-01
2,623日
14件は「同日4件・先行10件」に分かれる。①同日の4件(いちご3案件・東横INN)は、物件が信託に入った日とSTが立ち上がった日が一致し、信託の登記は組成の日程の中で行われた。②先行の10件は、STの組成で動いたのが既存の信託の受益権で、所有権ではない。最長は品川の22年(2004-08-31→2026-08-31)で、建築時期と同じ月に信託設定されている。③神戸元町・由縁札幌・京都の3件は、信託設定が建物の建築時期より前——完成前から少なくとも土地は信託に入っていた。④市ヶ谷85日・名古屋栄138日は組成に向けて直前に信託化したと読める距離である。誰が信託を設定し、信託の登記の登録免許税を誰が負担したかは、どの書類にも書かれていない。
表: 公募不動産ST 14件の「不動産管理処分信託設定年月日」と「STの信託設定日」。左から、案件/物件が信託に入った日/建物の建築時期/STの信託(受益証券発行信託)の設定日/その間隔と読み、書類番号の順に並べた。建築時期は届出書の注記どおり登記簿上の新築年月日又は工事完了検査年月で、複数物件は最小〜最大の幅。GK-TK型の横浜は「STの信託設定日」の欄に営業者の取得予定年月日を置いた。熱海温泉・学芸大学ほかはSTの信託財産が匿名組合出資と金銭で、不動産の受益権を持つのは営業者であるため、間隔はSTの信託設定日との差であって営業者の取得日との差ではない。間隔の日数は当サイトの計算。出所はEDINET提出の14件(本文の出所欄・2026年9月15日取得)の物件の概要表。本表は開示された日付の記録であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でも、各案件の税額の推定でもない。流通税は届出書にほとんど出てこない——「登録免許税」は14件中1件だけ
組成費用の中で流通税がどれくらいだったのかを、開示書類から確かめられるか。答えは、本稿の14件ではほぼ確かめられない、である。PDF全文を機械集計すると、「不動産取得税」「流通税」「信託目録」「印紙」の語はすべての書類で0件だった。
「登録免許税」が出てくるのは、GK-TK型の横浜伊勢佐木町ホテルの1件、1か所だけである。その他の手数料等の欄に「発行者は、本信託受益権の取得に要する費用(登録免許税、鑑定費用等)」を本匿名組合財産から支払う、と費目の名前として並ぶ。ただし同じ欄は続けて、これら費用の合計額・上限額・計算方法等は発生時・請求時に初めて具体的に認識するものがあることから「予め具体的に示すことができません」とし、金額は書かれていない。
有価証券報告書の損益計算書には「租税公課」の行がある(三井物産のデジタル証券〜熱海温泉〜の当特定期間3,527千円、学芸大学ほか4物件の当特定期間9,129千円)。しかしこの2件は、STの信託財産が匿名組合出資と金銭で、不動産の受益権を持つのは営業者の側である。この租税公課の内訳は書かれておらず、流通税とも固定資産税とも特定できないので、本稿では流通税の実額としては扱わない。
受益証券発行信託型で流通税の語が出てこない理由は、前節の日付から推測はできる——10件は既存の信託の受益権を取得しており、STの信託の側で重い流通税が生じる場面がない。ただしそれは届出書に書かれた説明ではなく、日付と条文からの読みである。同日に信託を設定した4件でも、信託の登記の登録免許税を誰が負担したのかは書かれていない。
信託が終わるとき——非課税の条件は「最初から委託者だけが受益者」
流通税の非課税は、信託に入れるときだけでなく、信託から出すときにも用意されている。ただし条件がきつい。
登録免許税法第7条第1項第2号は、「信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託の信託財産を受託者から当該受益者(当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者に限る。)に移す場合」の移転の登記を非課税とする。地方税法第73条の7第4号も同じ骨格で、受け取る人を、信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者、その相続人、合併後の法人、政令で定める分割による承継法人に限っている。つまり非課税になるのは、最初から最後まで「自分で入れて、自分で受け取る」形の信託だけである。
不動産STの不動産管理処分信託は、この形に当てはまらない。前節までで見たとおり、受益権は売主から委託者SPC、そしてSTの受託者へと渡っており、「効力が生じた時から引き続き委託者のみが受益者」という条件を満たさない。条文どおりに読めば、信託を終わらせて不動産を現物で受益者に移すときは、この非課税の外に出る。登録免許税は売買以外の原因による移転として別表第一第1号(二)ハの千分の二十になり、租税特別措置法第72条第1項第1号の軽減は「売買による所有権の移転の登記」に限られているので、条文上は土地にも及ばない。
一方、受託者が交代するときの移転は、登録免許税法第7条第1項第3号と地方税法第73条の7第5号でどちらも非課税である。信託銀行の入れ替えは、流通税の面では重くない。
出口で物件を売る場合、買主の流通税は買主がどの形で受け取るか——受益権のまま買うか、現物で買うか——で第2節の第一か第三の場面に分かれる。出口の日程そのものは別稿『物件が売れても、その日には償還されない——不動産STの出口を、売却期限・信託終了日・償還金支払日の3つの日付でたどる』で扱った。
非課税の条件「最初から委託者だけが受益者」
登録免許税法第7条第1項第2号と地方税法第73条の7第4号は、「信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託」から、引き続き委託者である者(地方税法は相続人・合併後の法人・政令で定める分割の承継法人を含む)に移す場合だけを非課税にする。
不動産STの不動産管理処分信託条件を満たさない
受益権は売主→委託者SPC→STの受託者と渡っている(品川の届出書は「受託者は、本信託契約の定めに従い、信託設定日に、本件不動産受益権を委託者から取得します」と書く)。「引き続き委託者のみが受益者」ではないので、条文どおりに読めば非課税の外である。
現物で受け取るとAの場面(ただし軽減なし)
登録免許税は売買以外の原因による移転=千分の二十(別表第一1号(二)ハ)。租税特別措置法第72条第1項第1号の軽減は「売買による」所有権の移転の登記に限られるので、条文上は土地にも及ばない。不動産取得税も非課税の列挙から外れる。
受託者が替わるとき非課税
旧受託者から新受託者への移転は登録免許税法第7条第1項第3号・地方税法第73条の7第5号でどちらも非課税。信託銀行の交代は流通税の面では重くない。
出口で売るとき買主の受け取り方で決まる
受益権のまま売れば買主はCの場面、信託を終わらせて現物で売ればAの場面。どちらを選ぶかで買主側の流通税が桁で変わる。
信託に「入れる」ときの非課税は広く、信託から「出す」ときの非課税は狭い。入れるときは委託者から受託者への移転なら足りる(7条1項1号・73条の7第3号)のに対し、出すときは最初から最後まで同じ人が委託者兼受益者であることが要る。受益権が売買されてきた不動産STの信託は、構造上この条件に当てはまらない。
図: 信託の終了・受託者の交代・出口の場面での流通税。上から「条件→STに当てはめる→現物で受け取った場合→受託者交代→出口」の順に読む。「A」「C」は前掲の表の場面を指す。出所は登録免許税法第7条第1項第2号・第3号、別表第一第1号(二)ハ、租税特別措置法第72条第1項第1号、地方税法第73条の7第4号・第5号(e-Gov法令検索・2026年9月15日確認)と、EDINET提出の届出書(S100YS50ほか・本文の出所欄)。本図は条文の読み方の整理であり、実際の終了・売却スキームへの当てはめは専門家に確認されたい。実務の勘所——日付・課税標準・期限の3つを押さえる
最後に、組成側・投資事務側が流通税を扱うときの勘所をまとめる。
まず日付である。物件の概要表の「不動産管理処分信託設定年月日」とSTの信託設定日を並べれば、その案件が組成の中で信託を新設したのか、既存の信託の受益権を取得したのかが分かる。本稿の14件では同日が4件、先行が10件だった。次に課税標準。登録免許税も不動産取得税も、原則は固定資産課税台帳に登録された価格であって、鑑定評価額でも取得価格でもない。鑑定評価額を掛けて見積もると過大になる。そして期限。土地の信託の登記の千分の三と売買の千分の十五は令和11年3月31日まで、不動産取得税の百分の三と宅地評価土地の2分の1は令和9年3月31日までで、期限が2つある。組成が期限をまたぐなら、モデルの税率を日付で分けて持つ。
受益権が売主から委託者SPCへ、SPCからSTの受託者へと渡る流れと、その譲渡を第三者に対抗するための確定日付の実務は、別稿『信託受益権の譲渡は、いつ第三者に勝てるのか——確定日付と受益権原簿を、不動産STの3つの層で読む』と『委託者SPCは信託設定の2〜3か月後に解散していた——不動産STの倒産隔離を、届出書と有価証券報告書の実物6件で確かめる』で扱った。組成費用の全体地図は『不動産STの組成コスト構造——費目の全体地図と、実額を「有報で」確かめる方法』にある。
本稿は法令の条文と開示された記載の記録であり、特定の銘柄や事業者の推奨・勧誘ではない。条文はe-Gov法令検索で2026年9月15日に確認した版(登録免許税法は2026年7月23日施行、租税特別措置法は2026年8月12日施行、地方税法は2026年7月31日施行、不動産登記法は2026年6月24日施行、印紙税法は2026年6月3日施行の各版)に基づき、届出書の日付・件数はいずれも各書類の記載と当サイトの集計による。仮設例の金額は説明のための計算であり、実在の物件の税額ではない。流通税の取扱いは一般的な解説であり、個別の案件への当てはめ(新築家屋の扱い、課税標準の認定、軽減措置の適用要件など)は、税理士・司法書士等の専門家や所轄の法務局・都道府県税事務所にご確認いただきたい。
① 2つの設定日を並べる同日か、先行か
物件の概要表の「不動産管理処分信託設定年月日」とSTの信託設定日を並べる。同日なら組成の中で信託を新設(信託の登記の登録免許税が生じた)、先行なら既存の信託の受益権を取得。本稿の14件は同日4・先行10。
② 課税標準は台帳価格鑑定評価額を掛けない
登録免許税も不動産取得税も、原則は固定資産課税台帳に登録された価格(登録免許税法附則7条・地方税法73条の21第1項)。鑑定評価額や取得価格で見積もると過大になる。
③ 期限が2つある令和9年3月31日と令和11年3月31日
不動産取得税の百分の三・宅地評価土地の2分の1は令和9年3月31日まで、登録免許税の土地の売買千分の十五・信託の登記千分の三は令和11年3月31日まで。組成が期限をまたぐなら税率を日付で分けて持つ。
④ 新築未使用の建物を信託に入れるとき非課税のかっこ書き
地方税法第73条の7第3号は第73条の2第2項本文(新築家屋の最初の使用又は譲渡)に該当する移転を非課税から除く。竣工直後の物件を組成に使うなら、信託に入れる時点と最初の使用の前後を確認する。
⑤ 受益者の変更の登記を忘れない受託者が「遅滞なく」
受益者が登記事項として記録されていれば、その変更は不動産登記法第103条の信託の変更の登記で、申請するのは受託者。登録免許税は不動産1個につき1,000円(別表第一1号(十四))——土地の筆数と建物の棟数で数える。
⑥ 出口の形で買主の税が変わる受益権か、現物か
受益権のまま売るか、信託を終わらせて現物で売るかで買主の流通税は桁で変わる。現物化は非課税の条件(最初から委託者だけが受益者)を満たさない。
⑦ 開示からは実額が取れない14件中「登録免許税」は1件
「不動産取得税」「流通税」「信託目録」は14件すべてで0件。「登録免許税」は横浜の手数料欄に費目名として1回だけで、金額は「予め具体的に示すことができません」。有報の「租税公課」も内訳がなく流通税とは特定できない。組成コストの検証は開示の外で行う。
図: 不動産STの流通税を確かめるときの勘所7項目。①が案件の形の特定、②③が金額の前提、④⑤が手続の落とし穴、⑥が出口、⑦が開示の限界。件数は本稿が読んだ14件に対する当サイトの集計であり、公募不動産ST全体の統計ではない。出所は本文の出所欄に掲げる法令(e-Gov法令検索・2026年9月15日確認)とEDINET提出書類。本図は一般的な整理であり、投資判断の助言でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。個別の税務・登記の判断は、税理士・司法書士等の専門家や所轄の法務局・都道府県税事務所に確認されたい。本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。
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