2026-07-16 / 読了 8分
ST、STO、デジタル証券、電子記録移転権利、トークン化有価証券——似た言葉が乱立するこの分野の用語を、法令上の位置づけと実務での使われ方に分けて整理する。
はじめに「トークン」という言葉から。トークンとは、ブロックチェーン(改ざんが極めて難しい共有台帳)上に記録された、誰が何を持っているかのデジタルな証票のことだ。この証票に「有価証券の権利」を載せたものがセキュリティトークンであり、暗号資産(ビットコイン等)とは載っている中身が違う。
ST(セキュリティトークン)は、有価証券に表示される権利をブロックチェーン上のトークンに表示したもの——つまり証券そのものを指す。一方STO(Security Token Offering)は、そのSTを発行して投資家から資金を調達する行為を指す。株式におけるIPO(新規株式公開)が「行為」であるのと同じ関係で、「STOを保有する」という表現は誤りになる。保有するのはST、実施するのがSTOである。
「デジタル証券」はSTとほぼ同義のマーケティング上の呼称で、法令用語ではない。証券会社や発行体が投資家向けに使う言葉としてはこちらが主流になりつつある。
実は「セキュリティトークン」にも法令上の定義はない。2020年5月1日施行の改正金融商品取引法が導入したのは「電子記録移転有価証券表示権利等」という総称で、実務でSTと呼ばれるものはおおむねこれに当たる。この総称の内側に、性質の異なる2つの類型がある。
1つ目は「トークン化有価証券」。株式・社債・受益証券発行信託の受益証券など、もともと金商法2条1項に列挙された(第一項)有価証券をトークンに表示したものだ。国内の公募不動産STの主流である受益証券発行信託型はここに含まれる。
2つ目は「電子記録移転権利」。信託受益権や集団投資スキーム(ファンド)持分など、本来は流動性が低いとされる(第二項)有価証券をトークン化したものを指す。トークン化によって流通性が高まることから、金商法は電子記録移転権利を第一項有価証券として扱い、開示規制や業規制を厳格側に寄せた。GK-TKスキームの持分をトークン化した不動産STはこちらに当たる。
言葉の関係を図にすると次の通り。俗称と法令用語の対応さえ掴めば、契約書も報道も迷わず読める。
株式・社債・受益証券発行信託の受益証券など、もともと金商法2条1項の(第一項)有価証券をトークンにしたもの。
→ 公募の不動産STの主流(受益証券発行信託型)はここ
信託受益権・ファンド持分など(第二項)有価証券をトークンにしたもの。トークン化で流通性が上がるため第一項有価証券として扱う。
→ GK-TK型(匿名組合持分のトークン化)はここ
第一項有価証券として扱われる結果、STを50名以上の一般投資家に取得勧誘する場合は原則として「募集」に該当し、有価証券届出書の提出(EDINET開示)が必要になる。当サイトが銘柄データの一次資料としてEDINETを重視するのはこのためだ。逆にプロ私募・少人数私募で組成すれば開示は軽くなるが、販売対象は限られる。
二次流通の面では、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)のPTS『START』が2023年12月に売買を開始し、上場した銘柄は市場で売買できるようになった。基準価格やNAVはODXが公表しており、当サイトのトップページでも収録している。
なお、ICO(Initial Coin Offering)やIEOで発行される暗号資産(ユーティリティトークン等)は、裏付けとなる有価証券がない点でSTと本質的に異なる。STはあくまで金商法の有価証券規制の内側にある資本市場の商品であり、暗号資産規制(資金決済法)の世界とは規制体系が分かれている。
組成サイドの文書では「電子記録移転有価証券表示権利等」「トークン化有価証券」「電子記録移転権利」を区別して使う。投資家向け資料では「デジタル証券」「不動産ST」が使われる。市場・報道では「セキュリティトークン(ST)」が一般的で、発行行為を指すときだけ「STO」と言う——この整理を押さえておけば、契約書から販売資料まで迷わず読める。当サイトの用語集では、このほか受益証券発行信託・利益超過分配・元本減少割合など関連語も収録している。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。