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公募ST累計(2025年度末)3,333億円▲1,650ST市場残高(推計)1兆531億円▲81%START時価総額(2026-03)336億円収録銘柄78収録発行額(判明分)3,497億円募集中4START上場7銘柄
▲赤=増加/出所: 業界公表値・当サイト集計
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目論見書のどこを読むか——不動産STの目論見書は届出書そのもので、入口の値段は3つの数字を並べないと見えない

公開 2026-08-20 / 読了 15

不動産ST(セキュリティ・トークン)を買うとき、証券会社から必ず渡されるのが「目論見書」である。100ページを超えることも珍しくないが、初めての人が最初に開くべき場所は決まっている。本稿は、2026年に届け出られた実在3銘柄の目論見書・有価証券届出書を突き合わせて、①目論見書とは制度上どういう文書か ②不動産STではなぜ「届出書の全部」が入っているのか ③第一部のどの数字を並べると入口のコストが見えるのか ④「いつ売れるか」はどのページに書いてあるのか——を、条文と実物の記載だけで確かめる。

まず用語——「目論見書」と「有価証券届出書」は別物だが、中身は近い

不動産STを買おうとすると、必ず2つの文書の名前に出会う。「有価証券届出書」と「目論見書」である。どちらも同じ募集について作られるが、宛先が違う。

有価証券届出書は、発行者が国(関東財務局長)に提出する書類である。提出されると金融庁のEDINET(開示書類の電子開示システム)に載り、誰でも無料で読める。口座を持っていなくても、申込みをする気がなくても読める。届出書がそもそも何のためにあるのかは、別稿『EDINETとは何か——なぜ提出が義務で、投資家にどう役立つのか』で扱った。

目論見書は、発行者が作り、売る側が投資家に渡す書類である。金融商品取引法第13条第1項が「募集又は売出しに際し、目論見書を作成しなければならない」と発行者に作成を義務づけ、同法第15条第2項が、発行者・売出しをする者・引受人・金融商品取引業者等に対して「募集又は売出しにより取得させ、又は売り付ける場合には、第十三条第二項第一号に定める事項に関する内容を記載した目論見書をあらかじめ又は同時に交付しなければならない」と交付を義務づけている。買った後に送る、という順番は認められていない。

不動産STでは、発行者が2者になる。信託を引き受けて財産を持つ「受託者」(信託銀行等)と、物件を信託に入れて受益権を発行させる「委託者」(合同会社。いわゆるSPC)である。目論見書の表紙には、この2者が並んで載る。たとえば2026年8月3日提出の「ウェルス・リアルティ・トークン シックスセンシズ京都(譲渡制限付)」なら、発行者(受託者)が株式会社SMBC信託銀行、発行者(委託者)が合同会社WRMST1号である。

そして、この書類は「読み物」ではない。目論見書に重要な事項について虚偽の記載等があった場合、それを使って有価証券を取得させた者は、虚偽を知らずに取得した者の損害を賠償する責任を負う(同法第17条。ただし相当な注意を用いても知り得なかったことを証明した場合は免れる)。さらに同法第18条第2項は、目論見書を作成した発行者について、有価証券届出書の虚偽記載に関する賠償責任の規定を準用しており、こちらには「相当な注意」の抗弁が置かれていない。書いてあることには、法的な重みがある。

作る義務発行者が、募集に際して作成する
金融商品取引法第13条第1項は「募集又は売出しにつき第四条第一項本文…の規定の適用を受ける有価証券の発行者は、当該募集又は売出しに際し、目論見書を作成しなければならない」と定める。作るのは証券会社ではなく発行者である。不動産STの場合、発行者は受託者(信託銀行等)と委託者(合同会社)の2者が並んで表紙に載る。
渡す義務売る側が、取得させる前か同時に交付する
同法第15条第2項は、発行者・売出人・引受人・金融商品取引業者等は「募集又は売出しにより取得させ、又は売り付ける場合には、第十三条第二項第一号に定める事項に関する内容を記載した目論見書をあらかじめ又は同時に交付しなければならない」と定める。「買った後で送ります」は許されない。例外は、適格機関投資家に売る場合と、同じ銘柄を既に持っている人や同居者が交付を受ける見込みの人が交付不要に同意した場合だけである(同項第1号・第2号)。
電子で渡してよい同意があれば、PDFの提供が「交付」とみなされる
同法第27条の30の9第1項と特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第32条の2第1項により、あらかじめ電磁的方法の種類と内容を示したうえで同意を得ているか、請求があれば書面を交付する旨を告知していれば、電磁的方法による提供で交付したものとみなされる。実際、2026年の届出書2本はいずれも「本募集における目論見書の提供は、原則として、書面ではなく、電子交付により行われます」と記載している。
間違っていたら発行者は原則として責任を負う
目論見書に重要な事項の虚偽記載等があった場合、それを使って取得させた者は、虚偽を知らずに取得した者の損害を賠償する責任を負う(第17条。ただし相当な注意を用いても知り得なかったことを証明したときは免れる)。さらに第18条第2項は、目論見書を作成した発行者について、届出書と同じ賠償責任の規定を準用する——こちらは取得者が虚偽を知っていた場合を除き、免責の抗弁が置かれていない。目論見書が「読み物」ではなく法的な文書である理由がここにある
図: 目論見書をめぐる4つの決まり。上から順に、①誰が作るか ②いつ渡すか ③紙でなくてよいか ④間違っていたらどうなるかと読む。「募集」とは50名以上に取得の勧誘を行うこと(金商法第2条第3項第1号)で、不動産STの公募はこれに当たる。出所は金融商品取引法(e-Gov法令検索・2026年8月20日確認)および特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令、ならびにEDINET提出の有価証券届出書S100YS50(オルタナ信託・2026年7月24日提出)およびS100YTNX(SMBC信託銀行・2026年8月3日提出)。本図は制度の説明であり、特定銘柄の推奨・勧誘ではない。

不動産STの目論見書には、届出書の第一部から第三部までが全部入っている

公募投資信託を買ったことがある人は、目論見書といえば「交付目論見書」という薄い冊子を思い浮かべるだろう。詳しく知りたければ「請求目論見書」を取り寄せる、という二段構えである。不動産STには、この二段構えがない。

根拠は、特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令(以下「特定府令」)の第15条にある。同条は、金商法第13条第2項第1号イ(1)の「投資者の投資判断に極めて重要な影響を及ぼすものとして内閣府令で定めるもの」——つまり必ず交付される目論見書に書くべき事項——を、有価証券の種類ごとに定めている。第1号は内国投資信託受益証券について「第二十五号様式により記載すべき事項」とする。これが投信の交付目論見書である。これに対して第9号は、内国信託受益証券・内国信託社債券・内国信託受益権について「第六号様式第一部から第三部までに掲げる事項」と定めている。第六号様式は、そのまま有価証券届出書の様式でもある(同令第10条第9号)。つまり、抜粋ではなく全部である。

請求目論見書のほうも確かめておく。金商法第15条第3項は、請求があったときに交付する目論見書の対象を「政令で定めるもの」に限っており、金融商品取引法施行令第3条の2は、それを「法第二条第一項第十号及び第十一号に掲げる有価証券」と定めている。第10号は投資信託・外国投資信託の受益証券、第11号は投資証券・新投資口予約権証券・投資法人債券等である。不動産STの受益権が該当するのは第14号「信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券」で、第10号にも第11号にも当たらない。実際、特定府令第16条(請求があったときに交付しなければならない目論見書の記載内容)には第1号から第4号までしかなく、内国信託受益証券の定めは置かれていない。

だから、不動産STの目論見書は最初から全部入りになる。これは実物で確かめられる。三井物産デジタル・アセットマネジメント(以下「MDM」)が公表している「三井物産グループのデジタル証券〜東横INN・優待あり〜(譲渡制限付)」の受益権発行届出目論見書(2026年3月)は、商品名と発行者2者を記した表紙、続いて「発行者である三菱UFJ信託銀行株式会社及びエスティ19合同会社は、金融商品取引法第5条により有価証券届出書を2026年2月24日に関東財務局長に提出し、2026年3月12日にその届出の効力が生じています」という1文、そして【表紙】から始まる届出書本文——第一部・第二部・第三部——という構成で、第三部の末尾(受益者代理人の欄)で終わっている。野村證券が掲載している「ケネディクス・リアルティ・トークン 物流センター -厚木・八千代・野田-(譲渡制限付)」の目論見書(2025年5月)も同じ構成である。

ここから、投資家にとって実際的な帰結がひとつ出てくる。不動産STについては、EDINETで有価証券届出書を読めば、目論見書とほぼ同じ本文を、口座開設の前に、無料で読めるということである。ただし完全に同じではない。目論見書は訂正届出書を取り込んだ形で作られるのに対し、EDINETでは届出書と訂正届出書が別々の書類として並ぶ。上記のケネディクス物流センターの目論見書は、その違いがよく分かる例で、【提出書類】欄に「有価証券届出書」と「有価証券届出書の訂正届出書」の2つを掲げ、2025年5月2日提出・5月9日訂正・5月18日効力発生と記している。EDINETで読むときは、同じ発行者の訂正有価証券届出書が出ていないかを必ず確かめる必要がある。

項目
公募投信
不動産ST
商品
公募投資信託(内国投資信託受益証券)
不動産ST(内国信託受益証券)
必ず渡される本
交付目論見書。第二十五号様式に掲げる事項(特定府令第15条第1号)
届出目論見書。第六号様式の第一部から第三部までに掲げる事項(同条第9号)
中身の範囲
届出書の抜粋。基本情報・投資方針・投資リスク・運用実績・手続と費用など
届出書の第一部〜第三部の全部。証券情報も、信託財産情報も、受託者・委託者・関係法人の情報も入る
請求すると届く本
あり(請求目論見書=詳細情報)。第四号様式に掲げる事項(同令第16条第1号)
なし。第16条に内国信託受益証券の定めが置かれていない
なぜ差が出るか
法第15条第3項の対象(施行令第3条の2=法第2条第1項第10号・第11号)
受益証券発行信託の受益証券は法第2条第1項第14号で、第10号・第11号に当たらない
読む側への意味
概要をつかんだうえで、必要なら詳細を請求する
最初に渡される1冊に全部入っている。分量は多いが、別に取り寄せるものはない
この差は、実物で確かめられる。2026年3月の「三井物産グループのデジタル証券〜東横INN・優待あり〜」の受益権発行届出目論見書は、表紙・効力発生の記載に続いて【表紙】から始まり、第一部・第二部・第三部を収めて第三部の末尾(受益者代理人の欄)で終わっている。2025年5月の「ケネディクス・リアルティ・トークン 物流センター -厚木・八千代・野田-」の目論見書も同じ構成である。つまり不動産STでは、目論見書とEDINETに載る有価証券届出書は、実質的に同じ本文を読むことになる
表: 目論見書の「冊数」の違い。左が投信、右が不動産ST投信で慣れている「まず薄い交付目論見書、必要なら分厚い請求目論見書」という二段構えは、不動産STには存在しない——制度上、交付される1冊が最初から全部入りである。出所は特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第15条・第16条、金融商品取引法第15条第3項、金融商品取引法施行令第3条の2、同法第2条第1項第10号・第11号・第14号(いずれもe-Gov法令検索・2026年8月20日確認)、および実物の受益権発行届出目論見書2本(三井物産デジタル・アセットマネジメント2026年3月、野村證券掲載のケネディクス2025年5月・いずれも2026年8月20日取得)。

全体の地図——3つの部に何が書いてあるか

全部入りだと分かったところで、次は地図が要る。第六号様式は第一部から第三部までの3層構造で、どの銘柄でも同じ順番で同じ項目が出てくる。項目名を覚えてしまえば、2本目からは目次を見ずに目的のページへ飛べる。

第一部【証券情報】は、お金の条件である。発行数、発行価額の総額、発行価格、給付の内容・時期及び場所、募集の方法、申込手数料、申込単位、申込期間及び申込取扱場所、申込証拠金、払込期日及び払込取扱場所、引受け等の概要、振替機関に関する事項、その他——という14項目が並ぶ。分量は10ページ前後で、買うかどうかを決めるのに要る数字はほぼここに集まっている。

第二部【信託財産情報】が本体で、全体の7割近くを占める。第1【信託財産の状況】の下に、概況、信託財産を構成する資産の概要、信託の仕組み、資産の状況、投資リスクが並び、続いて第2【信託財産の経理状況】、第3【証券事務の概要】、第4【その他】が来る。物件の説明も、鑑定評価額も、借入条件も、報酬の算式も、そして「いつ・どうやって売れるか」も、この部にある。

第三部【受託者、委託者及び関係法人の情報】は、担い手の情報である。受託者である信託銀行の財務諸表がそのまま入るため分量は大きくなるが、投資判断で読む密度は第一部・第二部より低い。関係法人の欄では、アセット・マネジャー、不動産信託受託者、受益者代理人などが「名称・資本金の額及び事業の内容/関係業務の概要/資本関係/役員の兼職関係/その他」の5点セットで整理されている。

分量の目安を挙げておく。2026年7月24日提出の有価証券届出書(「三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜(譲渡制限付)」、EDINET書類番号S100YS50)はPDFで116ページ、2026年8月3日提出のシックスセンシズ京都(同S100YTNX)は193ページである。うち第一部はそれぞれ12ページ・9ページに過ぎない。

表紙とその手前効力発生日・商品名・発行者2者
目論見書の冒頭には、届出書をいつ提出し、いつ届出の効力が生じたかが記される(特定府令第15条の2第1項第1号ロが、届出が効力を生じている旨を表紙その他の見やすい箇所に記載するよう求めている)。訂正届出書が出ていれば、その日付もここに並ぶ——2025年5月のケネディクス物流センターの目論見書は【提出書類】欄に「有価証券届出書」と「有価証券届出書の訂正届出書」の2つを掲げ、5月2日提出・5月9日訂正・5月18日効力発生と書いている。
第一部 証券情報お金の条件。10ページ前後
発行数/発行価額の総額/発行価格/給付の内容、時期及び場所/募集の方法/申込手数料/申込単位/申込期間及び申込取扱場所/申込証拠金/払込期日/引受け等の概要/振替機関に関する事項/その他の14項目が並ぶ。いくらで、いつまでに、何口から申し込めて、いつ払い込むのか——買うかどうかを決めるのに要る数字は、ほぼここに集まっている。
第二部 信託財産情報商品の中身。全体の7割
第1信託財産の状況(概況/資産の概要/信託の仕組み/資産の状況/投資リスク)、第2信託財産の経理状況、第3証券事務の概要、第4その他。物件の説明、鑑定評価、借入条件、報酬体系、そして「いつ・どうやって売れるか」を書いた第3証券事務の概要がここにある。投資リスクの節だけで20〜30ページを占めることが多い
第三部 受託者、委託者及び関係法人の情報誰がやるか
第1受託者の状況(概況/事業の内容及び営業の概況/経理の状況/利害関係人との取引制限)、第2委託者の状況、第3その他関係法人の概況。受託者である信託銀行の財務諸表がそのまま入るため分量は大きいが、投資判断で読む密度は第一部・第二部より低い。関係法人の欄では、アセット・マネジャー、不動産信託受託者、受益者代理人などが「名称・資本金・事業の内容/関係業務の概要/資本関係/役員の兼職関係」の4点セットで並ぶ。
図: 不動産STの目論見書の全体像。上から順に、①表紙で効力発生と訂正の有無を確かめ ②第一部でお金の条件を読み ③第二部で中身と出口を読み ④第三部で担い手を確かめると読む。「受託者」は信託を引き受けて財産を保有・管理する信託銀行等、「委託者」は物件を信託に入れて受益権を発行させる合同会社(SPC)、「アセット・マネジャー(AM)」は運用の指図を行う会社のこと。分量の目安は、2026年7月24日提出の有価証券届出書S100YS50(品川・オフィス&ホテル)でPDF116ページ、2026年8月3日提出のS100YTNX(シックスセンシズ京都)で193ページ。出所は特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第10条第9号・第15条第9号(第六号様式)、上記2件の届出書、および受益権発行届出目論見書2本(2026年8月20日取得)。

第一部で必ず並べる3つの数字——発行価格・発行価額・1口当たりNAV試算値

ここからが本稿の中心である。第一部を開いたら、まず次の3つを紙に書き出してほしい。発行価格、発行価額、そして発行価格の注記に書かれている「1口当たりの純資産額の試算値」である。この3つを並べないと、入口でいくら払っていくら分を買っているのかが見えない。

用語を先に定義する。発行価格は、投資家が1口当たりに払う金額である。発行価額は、発行者が引受人から1口当たりに受け取る金額である。両者が違う場合、その差は届出書の注記で「引受人の手取金」と明記される。1口当たりの純資産額の試算値は、鑑定評価額等に基づいて算出された、信託設定日時点での1口当たりの中身の価値の見込みである。確定値ではなく、その価格で売れることの保証でもない。

実数で見る。品川・オフィス&ホテルは、発行価格10,000円、発行価額9,600円、差額400円である。注記は「発行価格と発行価額との差額は、引受人の手取金(1口当たり400円)となります」と書いている。発行価格に対して4.0%にあたる。同じ注記に「2026年7月24日現在における信託設定日(2026年8月31日)時点の当該本受益権1口当たりの純資産額の試算値は10,377円です」とある。つまり10,000円払って、試算では10,377円分を買う——払う額は試算NAVの96.4%にあたる(この割り算は当サイトの計算である)。

シックスセンシズ京都は、発行価格1,000,000円、発行価額960,000円、差額40,000円で、やはり発行価格の4.0%である。1口当たりNAVの試算値は1,013,925円(2026年9月1日の信託設定日時点)。払う額は試算NAVの98.6%になる。

そして、この2本の第一部には共通してこう書かれている——「7【申込手数料】 該当事項はありません」。手数料欄だけを見れば、入口のコストはゼロに見える。だが上のとおり、発行価格には1口当たり4.0%の引受人手取金が組み込まれている。しかも届出書は「委託者及び受託者は、引受人に対して引受手数料を支払いません」と明記しており、引受人の対価はこの差額しかない。「申込手数料 該当事項はありません」を、費用がかからないという意味に読んではいけない。

対照的な例が同じMDMの2026年3月の商品にある。東横INN・優待ありは、発行価格9,560円、発行価額9,560円で差額がゼロ。その代わり「7【申込手数料】 1口当たり金400円(税込金440円)を上限として別途取扱会社が定める金額とします」と、手数料が明示されている。1口当たりNAVの試算値は10,051円だから、手数料込みで最大10,000円払って試算NAV 10,051円分を買う計算になり、比率は99.5%である。

なぜ形が違うのかは、同じ第一部の「12【引受け等の概要】」に書いてある。品川と京都は、引受人が発行価額で買い取って発行価格で売る「買取引受」である。東横INNは、取扱会社が募集の取扱いを行い、売れ残った分だけを引き受ける「募集の取扱い+残額引受」である。前者では引受人の対価が価格差に、後者では手数料に現れる。手数料欄だけを見比べると、入口のコストは実際と逆さまに見えることがある。

当サイトはここで、どの銘柄が有利かという判断は示さない。示したいのは、3つの数字を並べるという読み方そのものである。

項目
品川・オフィス&ホテル
シックスセンシズ京都
東横INN・優待あり
届出日
2026年7月24日
2026年8月3日
2026年2月24日
① 発行価格(投資家が払う額)
10,000円
1,000,000円
9,560円
② 発行価額(発行者が受け取る額)
9,600円
960,000円
9,560円
①−②(引受人の手取金)
400円(発行価格の4.0%)
40,000円(同4.0%)
0円
③ 申込手数料
該当事項はありません
該当事項はありません
1口400円(税込440円)を上限
投資家が実際に払う額
10,000円
1,000,000円
最大10,000円(9,560+440)
④ 1口当たり純資産額の試算値
10,377円
1,013,925円
10,051円
払う額 ÷ ④(当サイト計算)
96.4%
98.6%
99.5%
引受けの形
買取引受(大和証券・MDM)
買取引受(野村證券)
募集の取扱い+残額引受(MDM)
申込単位
大和証券は1口、MDMは個人10口・法人1,000口
1口以上1口単位
個人10口以上10口単位(法人は申込不可)
最低申込金額
10,000円(大和証券の場合)
1,000,000円
約100,000円
読み方はこうなる。左の2本は「申込手数料は該当事項はありません」と書いてあるが、発行価格と発行価額の差が1口当たり4.0%あり、それは届出書の注記で「引受人の手取金」と明記されている。右の1本は逆に、発行価格と発行価額が同額で、代わりに申込手数料が明示されている。前者は引受人が発行価額で買い取って発行価格で売る買取引受、後者は募集を取り扱って売れ残りだけを引き受ける募集の取扱い+残額引受という形の違いから来る。手数料欄だけを見比べると、入口のコストは逆さまに見える。なお1口当たり純資産額の試算値は、いずれも届出書の日付現在における信託設定日時点の試算値であり(品川=2026年8月31日時点、京都=2026年9月1日時点、東横INN=2026年3月30日時点)、確定値でも、その価格で売れることの保証でもない。
表: 2026年に届け出られた不動産ST 3本について、目論見書・届出書の第一部から入口の数字だけを抜き出した。左から項目、そして3銘柄①②③④の4つを並べて初めて「いくら払って、いくら分を買っているか」が見える——これが本稿でいちばん言いたいことである。正式名称は左から「三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜(譲渡制限付)」「ウェルス・リアルティ・トークン シックスセンシズ京都(譲渡制限付)」「三井物産グループのデジタル証券〜東横INN・優待あり〜(譲渡制限付)」。出所はEDINET提出の有価証券届出書S100YS50・S100YTNX、および受益権発行届出目論見書(2026年3月・三井物産デジタル・アセットマネジメント公表分。いずれも2026年8月20日取得)。「払う額÷④」の計算は当サイトによるもので、発行者・引受人の公表値ではない。本表は開示された条件の記録であり、いずれかの銘柄の推奨・勧誘や割安・割高の判断ではない。

「いつ売れるか」は第二部 第3【証券事務の概要】にある

入口の次は出口である。不動産STは、上場株式やJリートのように「いつでも市場で売れる」商品ではない。売れる時期と売り方は銘柄ごとに設計されていて、それが書いてあるのは第二部の第3【証券事務の概要】と、第1の5【投資リスク】の「本受益権の流動性・譲渡制限に関するリスク」である。

まず、上場の有無。品川の届出書は「本受益権は、金融商品取引所等に上場されておらず、その予定もありません」と書く。京都は「金融商品取引所等の上場対象有価証券とはされておらず、上場の予定もありません」、東横INNも同旨である。本稿で確認した募集中・募集済みの3本は、いずれも二次流通市場STARTに上場する銘柄ではない。STARTで売買できる7銘柄とは別の話であり、STARTでの売り方については別稿『STARTで売るとき何が起きるか——1日2回の板寄せ、板の薄さ、対NAV乖離の読み方』で扱った。

次に、最初に売れる時期。ここが3本で大きく分かれる。品川は「2027年2月末日に終了する信託計算期間の終了後に最初に到来する決算発表日以降、売却が可能となります」。京都は「2027年7月31日に終了する信託計算期間の終了後最初に到来する決算発表日の翌営業日以降の取扱金融商品取引業者が定める一定の期間に売却が可能です」。これに対し東横INNは「本受益権は、払込期日の翌営業日より売却が可能となります」——待機期間がない。同じ運用会社の商品でも、設計はこれだけ違う。

しかもこの時期は法定のものではない。品川の届出書には「払込期日の翌営業日以降、取扱金融商品取引業者を直接の相手方として売却することが可能となる時期は、本書の日付現在において取扱金融商品取引業者が定めたものです。なお、当該時期については、今後変更される可能性があります」と注記されている。

売り方も違う。品川では、取扱金融商品取引業者(大和証券またはMDM)が直接の相手方となって買い取る形で、譲渡価格は鑑定評価額に基づく1口当たりNAV等を基準に各社が決定する。届出書は「各取扱金融商品取引業者が決定する譲渡価格は異なる可能性があります」と明記している。京都は方式が違い、決算発表日後の「売却申込可能期間」に集まった売却の申込みと買付けの申込みを突き合わせ、「双方の申込みのうち一致する口数に限って売買約定を成立させる予定」とされている。買い手が現れなければ、売れる期間に入っていても成立しない。

譲渡の制限は3本に共通する。受託者の事前の承諾なしには譲渡できず、その承諾は記録基盤への記録という形でしか行われない。品川と東横INNは「Progmat ST」、京都は「ibet for Fin」である。取扱金融商品取引業者を介さずに第三者へ譲渡することもできない(遺贈・贈与を除く)。東横INNにはさらに条件が加わり、「譲渡先は、取扱金融商品取引業者が買い取る場合を除き、個人投資家に限られ、法人投資家への譲渡はできません」とされている。記録基盤の違いについては別稿『Progmatとibet for Fin——2大プラットフォームはどう違い、どう選ばれているのか』でも触れている。

なお、3本とも売買が止まる場合が定められている。重要な後発事象(災害等による物件の滅失・毀損、不動産市況の急変、テナント退去による稼働率の大幅な低下など)が発生して重大な影響を及ぼしうると取扱業者が判断した場合、物件の売却が決定された場合、譲渡価格の算出期間中などである。

項目
品川・オフィス&ホテル
シックスセンシズ京都
東横INN・優待あり
取引所への上場
「金融商品取引所等に上場されておらず、その予定もありません」
「金融商品取引所等の上場対象有価証券とはされておらず、上場の予定もありません」
「金融商品取引所等に上場されておらず、その予定もありません」
最初に売れる時期
2027年2月末日に終了する信託計算期間の終了後に最初に到来する決算発表日以降
2027年7月31日に終了する信託計算期間の終了後最初に到来する決算発表日の翌営業日以降の一定期間
払込期日の翌営業日以降
その後の売却機会
各決算発表日の翌営業日から直後の信託計算期間の末日まで(MDMの場合)
決算発表日後の「売却申込可能期間」に限る
制限の記載なし
売り方
取扱金融商品取引業者が直接の相手方となる
売却の申込みと買付の申込みを突き合わせ、一致する口数だけ約定させる
取扱金融商品取引業者に対して譲渡を申し込む
価格の決まり方
鑑定評価額に基づく1口当たりNAV等を基準に取扱業者が決定(大和証券とMDMで別々に決定するため異なる可能性がある)
取扱業者が定める買付条件による
鑑定評価額に基づくNAVを基準に取扱業者が決定
譲渡の制限
受託者の事前承諾が必要。承諾は「Progmat ST」への記録のみで行われる
同様。ただし記録基盤は「ibet for Fin」
同様(Progmat ST)。加えて譲渡先は個人投資家に限られ、法人投資家へは譲渡できない
売買が止まる場合
重要な後発事象の発生、売却決定、譲渡価格の算出期間中など
同様の記載あり
同様の記載あり
同じ「不動産ST」でも、出口の設計はここまで違う。東横INNは払込みの翌営業日から売却を申し込めるのに対し、品川は2027年2月末に終わる計算期間の決算発表日まで、京都は2027年7月末に終わる計算期間の決算発表日まで、売る手段がない。しかもこの時期は届出書の日付現在の取扱業者の定めであって、「今後変更される可能性があります」と注記されている。さらに、売れる時期に入っても値段がつくとは限らない——京都の方式では、同じ期間に買付けの申込みがなければ約定は成立しないと明記されている。いずれも、二次流通市場STARTに上場している7銘柄とは別の話である(STARTでの売買については別稿『STARTで売るとき何が起きるか』を参照)。
表: 「買った後どうやって現金に戻すか」を3本の目論見書・届出書から並べた。上から順に、上場の有無/いつから売れるか/その後の機会/誰が相手か/値段の決まり方/譲渡の制限/止まる場合と読む。「決算発表日」とは、その信託計算期間の決算内容が公表される日で、計算期間の末日から数か月後になる。記録基盤(Progmat ST/ibet for Fin)が銘柄ごとに違い、受託者の承諾はその基盤への記録という形でしか行われない点も、目論見書を読むまで分からない。出所はEDINET提出の有価証券届出書S100YS50「第3証券事務の概要」および「投資リスク」、S100YTNXの同欄、ならびに受益権発行届出目論見書(東横INN・2026年3月)の同欄(2026年8月20日取得)。本表は開示内容の記録であり、特定銘柄の推奨・勧誘や流動性の評価ではない。

投資リスクは4層に分かれている——「共通文」と「この物件の話」を切り分ける

第二部 第1 の5【投資リスク】は、目論見書のなかで最も長い節になることが多い。品川の届出書では約25ページを占める。全部を同じ濃度で読むのは現実的でないので、構造を知って読み分ける。

冒頭には必ず断り書きが置かれる。「以下は本受益権への投資に関する全てのリスク要因を網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します」。網羅ではない、と発行者自身が書いている。

本体は4層である。①投資対象不動産等に関するリスク、②本受益権に関するリスク、③仕組みに関するリスク、④税制関連リスク。品川では①が11項目と最も長く、価格変動・収益及び費用の変動・流動性・利用状況及び賃貸借・処分・マスターリース・オフィスへの投資・ホテルへの投資・物理的な又は法律的な欠陥・災害等・1物件に依拠するリスク、と並ぶ。

初めて読むなら、②から読むのが効率的である。②は3項目しかないが、密度が最も高い。ここに「本受益権は、金融商品取引所等に上場されておらず、その予定もありません」「信託分配金、元本一部払戻し及び元本償還の有無、金額及びその支払は保証されません」「本受益権の元本の最終償還は、最終信託分配金支払日に行われますが、その資金は、原則として、本件不動産受益権の売却代金が原資となるため、本件不動産受益権の売却機会及び売却価格による影響を受けます」といった、商品の性質そのものを述べた文が集まっている。

③には、②と直結する記述がある。借入れに関する項目で、借入契約に定める財務制限条項に抵触するなどの「強制売却事由」が生じた場合、レンダー(貸し手の金融機関)が物件を売却する権限を取得する旨が書かれている。そして「売却代金はまず本借入れに対する弁済に充てられることから、その売却価格によっては、本受益権の元本の最終償還の額が減少し、又は元本の最終償還が全く行われない場合があります」と続く。借入条件が、投資家の元本に直接つながっている。ノンリコースローンの仕組みそのものは別稿『ノンリコースローンは、どこで責任が切れ、いつ返す約束なのか』で扱った。

④の税制関連リスクは、2026年の届出書で具体的な内容を持つようになった。品川・京都とも、注記で「2027年以後当分の間、新たな付加税として所得税の額に1%の税率を乗じた防衛特別所得税の課税が導入されます」「同年以降、復興特別所得税の税率を現行の2.1%から1.1%に引き下げるとともにその課税期間を2047年までとする」と記し、「復興特別所得税と防衛特別所得税の合算税率は現行の復興特別所得税と同じ2.1%となりますが、上記のとおり課税期間は異なることとなります」と説明している。

読み分けの目安はこうである。①のうち不動産一般に共通する部分(価格変動、災害、法的規制)は、どの銘柄でもほぼ同じ文章が載る。差が出るのは、①の用途固有の項目(オフィス、ホテル、物流など)、②の売却機会の設計、③の借入条件である。2本以上の目論見書を並べると、共通文と固有文がはっきり分かれて見える。これが複数銘柄を読むことの最大の効用である。

① 投資対象不動産等に関するリスクいちばん長い。物件そのものの話
S100YS50(品川)では(イ)価格変動・鑑定評価額との乖離 (ロ)収益及び費用の変動 (ハ)流動性・譲渡制限等 (ニ)利用状況及び賃貸借 (ホ)処分 (ヘ)マスターリース (ト)オフィスへの投資 (チ)ホテルへの投資 (リ)物理的・法律的な欠陥、法的規制等 (ヌ)災害・毀損等 (ル)1物件に依拠するリスクの11項目が並ぶ。(ト)(チ)(ル)のように、その物件でしか出てこない項目が混じっているのがこの層の特徴である。
② 本受益権に関するリスク商品としての受益権の話
(イ)流動性・譲渡制限 (ロ)価格 (ハ)信託分配金・元本一部払戻し・元本償還の3項目。ここに「本受益権は、金融商品取引所等に上場されておらず、その予定もありません」信託分配金、元本一部払戻し及び元本償還の有無、金額及びその支払は保証されません」といった、投資家がいちばん先に知るべき文が置かれている。①より短いが、密度は最も高い
③ 仕組みに関するリスクスキームと関係者の話
(イ)スキーム関係者への依存 (ロ)借入れ (ハ)セキュリティ・トークン及びそのプラットフォーム (ニ)受託者に実績及び十分な資産がないこと (ホ)その他。(ロ)には強制売却事由——借入契約の財務制限条項に触れるとレンダー(貸し手)が物件を売る権限を得る——が書かれており、これは②の元本償還の話と直結している。(ハ)はブロックチェーン基盤に固有の項目で、他の不動産商品には出てこない。
④ 税制関連リスクとその他制度が変わる可能性
税制改正により税負担が変わりうることが書かれる。実際、2026年の届出書2本は「2027年以後当分の間、新たな付加税として所得税の額に1%の税率を乗じた防衛特別所得税の課税が導入されます」「復興特別所得税の税率を現行の2.1%から1.1%に引き下げるとともにその課税期間を2047年までとする」と注記している。合算税率は現行と同じ2.1%だが、課税期間が異なる
読み方「一般論」と「この物件固有」を分ける
不動産の一般的なリスク(①のうち価格変動・災害等)は、どの銘柄の目論見書にもほぼ同じ文章で載る。差が出るのは、①の物件用途に応じた項目、②の売却機会の設計、③の借入条件である2本以上の目論見書を並べると、共通文と固有文がはっきり分かれて見える——これが複数銘柄を読む最大の効用である。
図: 「第二部 第1 5投資リスク」の構造。上から順に、①物件 ②受益権 ③仕組み ④税制と層が変わり、最後の行が読み方の目安である。「マスターリース」は物件を一括して借り上げて転貸する仕組み、「レンダー」は物件購入資金を貸している金融機関、「強制売却事由」はその貸し手が物件の売却権限を得る事由のこと。冒頭には「以下は本受益権への投資に関する全てのリスク要因を網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します」という断り書きが置かれる。出所はEDINET提出の有価証券届出書S100YS50(オルタナ信託・2026年7月24日提出)およびS100YTNX(SMBC信託銀行・2026年8月3日提出)。本図はリスク開示の構造の説明であり、リスクの大小の評価や特定銘柄の推奨・勧誘ではない。

見落としやすい4か所——運用期間、報酬、特典、追加発行

最後に、第一部・第二部のなかで飛ばされやすい項目を挙げておく。いずれも、あとから効いてくる。

第一に、運用期間と予定償還日である(第一部の5【給付の内容、時期及び場所】の(3))。不動産STには満期がある。品川は「原則として、信託計算期間である2031年8月期(2031年3月1日から2031年8月31日)に本件不動産受益権の売却を行う方針」としつつ、2027年2月期から2031年2月期の間の早期売却がありうること、また2032年8月31日を限度として最大約1年間の延長を決定する場合があることを書いている。京都は「運用期間は、2026年9月1日から2031年7月31日までの約4年11か月となります」と明記したうえで、経済環境等の著しい変化により元本を大幅に毀損する虞があるとAMが判断した場合は2029年9月1日より前でも早期売却があると注記している。いずれも「保証又は約束するものではない」と念を押している。

第二に、報酬である(第二部 第1 3【信託の仕組み】(1)②(ヘ)信託報酬等)。ここには受託者の信託報酬とAMの報酬が算式で載る。品川では、受託者の当初信託報酬が「信託設定時の本信託財産の価額×0.40%(税込0.44%)」を上限、期中信託報酬の年間基本額が「信託財産の価額×0.16%(税込0.176%)+受益権元本金額×0.10%(税込0.11%)」を上限、終了時信託報酬が「信託設定時の本信託財産の価額×0.20%(税込0.22%)」+利子相当額を上限とされている。AMについては、アップフロント報酬が595,500,000円(税込655,050,000円)を上限、期中運用報酬が半期35,730,000円(税込39,303,000円)を上限、売却時報酬が売却価格の1.0%(税込1.1%)を上限、インセンティブ報酬が所定の超過額の20%(税込22%)を上限である。京都はAMのアップフロント報酬の定め方が違い、「当初元本合計金額に1.2%を乗じた金額」とされている。定額か料率かという設計そのものが銘柄ごとに違うので、数字だけでなく算式を見る必要がある。組成にかかる費用の全体像は別稿『不動産STの組成コスト構造——費目の全体地図と、実額を「有報で」確かめる方法』で扱った。

第三に、特典である(第二部 第3【証券事務の概要】の2【本受益者に対する特典】)。「該当事項はありません」で終わる銘柄も多いが、そうでない銘柄もある。東横INNは、毎年11月1日を基準日として保有口数に応じた宿泊割引券(10口以上20口未満で2,000円分、50口以上でシングル無料宿泊券1枚)を予定し、さらに判定期間の年間平均客室稼働率が70%以上の場合の追加優待を定めている。ただし法人投資家は対象外で、割引券は発行後1年以内に限り利用でき、証券口座に届け出たメールアドレスを通じて付与されるといった条件がつく。京都は募集時の買付口数に応じたホテル利用券(10口から19口で3万円分、20口から49口で6万円分、50口以上は1泊朝食付きの宿泊券)を予定するが、提供者はAMの親会社であるウェルス・マネジメント株式会社であって、信託財産から出るものではない。京都の1口は1,000,000円なので、10口は1,000万円である。特典の有無・原資・条件は、銘柄ごとに読むしかない。

第四に、追加発行の制限である(第一部の14【その他】)。3本とも「本受益権の追加発行は行われません」と明記している。後から口数が増えて持ち分が薄まることはない、という条件がここに書かれている。

税務の扱いも第二部にある。分配は20.315%(所得税15%、復興特別所得税、地方税5%)で源泉徴収され、申告不要とするか確定申告により配当所得として申告分離課税とするかを選べる。譲渡損益・償還損益は上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となり、特定口座(源泉徴収選択口座)で生じたものは申告不要にできる。そして「本受益権はNISA口座の対象外となります」と、3本とも明記している。口座まわりの詳細は別稿『特定口座で不動産STは買えるのか——入口は3つだけ、分配金はもう1枚の届出、NISAは対象外』を、分配の課税関係は別稿『不動産STの税金』を参照されたい。

実務の勘所——買う前に開くページ

まとめる。不動産STの目論見書は、制度上、有価証券届出書の第一部から第三部までをそのまま収めた1冊である(特定府令第15条第9号)。投信のような請求目論見書の仕組みは及ばない(同令第16条、金商法第15条第3項、施行令第3条の2)。だから分量は多いが、取り寄せるべき別冊はなく、様式が共通なので開く場所も共通している。

最初に開くのは第一部の2〜4である。発行価格・発行価額・1口当たりNAVの試算値の3つを並べて、実際に払う額が試算NAVの何%にあたるかを自分で計算する。申込手数料の欄が「該当事項はありません」でも、発行価格と発行価額の差が引受人の手取金として存在することがある。本稿で見た3本では、その差はいずれも4.0%か、明示された1口400円(税込440円)だった。

次に開くのは、第一部の14(3)と第二部 第3 の1・3である。いつから売れるのか、誰が相手になるのか、価格はどう決まるのか、譲渡にどんな制限がつくのか。ここは銘柄ごとの差が最も大きい。払込みの翌営業日から売れる銘柄もあれば、最初の売却機会が1年近く先の銘柄もあり、しかもその時期は取扱業者の定めであって変更されうる。

3番目が第一部の5(3)——運用期間と予定償還日である。不動産STは有期の商品であり、償還は原則として物件の売却代金を原資とする。売却の時期も価格も保証されていない、と目論見書自身が書いている。

そのうえで、第二部 第1 の5【投資リスク】の②「本受益権に関するリスク」だけは、分量が短いので通して読むことをおすすめする。商品の性質を述べた文が、いちばん率直な言葉で置かれている場所である。

最後に、EDINETで届出書を先に読む場合の注意をもう一度。目論見書は訂正届出書を取り込んだ形で作られるが、EDINETでは届出書と訂正届出書が別の書類として並ぶ。読むときは、同じ発行者の訂正有価証券届出書の有無を必ず確認する。

本稿は、公開されている目論見書・有価証券届出書と法令の記載を突き合わせて読み方を整理したものであり、特定の銘柄の推奨・勧誘や投資助言ではない。記載した数値はいずれも各書類に記載された基準日時点のもので、「1口当たりNAVの試算値」は確定値ではなく、その価格で売買できることを保証するものでもない。「払う額÷試算NAV」の比率は当サイトが計算したもので、発行者・引受人の公表値ではない。また、税務の記述は一般的な解説であり、個別の取扱いは税理士等の専門家に確認されたい。

① 発行価格・発行価額・1口当たりNAV試算値第一部 2〜4
3つを並べて、実際に払う額が試算NAVの何%に当たるかを自分で計算する。申込手数料の欄が「該当事項はありません」でも、発行価格と発行価額の差が引受人の手取金として存在することがある
② 申込単位と申込期間第一部 8〜9
取扱う証券会社ごとに申込単位も申込期間も違うことがある。品川は大和証券が1口単位、MDMが個人10口単位で、申込開始日も1日ずれていた。最低いくらから買えるかは、証券会社を選んだ時点で決まる
③ いつから売れるか第一部 14(3)と 第二部 第3 1
払込みの翌営業日から売れる銘柄もあれば、最初の売却機会が1年近く先の銘柄もある。しかもその時期は「取扱金融商品取引業者が定めたもの」で、変更されうる旨が注記されている。
④ 譲渡の制限第二部 第3 3
受託者の事前承諾が要ること、記録基盤(Progmat ST/ibet for Fin)を通さない譲渡ができないことに加え、銘柄によっては「譲渡先は個人投資家に限られ、法人投資家への譲渡はできない」といった制限がつく
⑤ 運用期間と予定償還日第一部 5(3)
不動産STには満期がある。品川は2031年8月期の売却を原則としつつ、2027年2月期から2031年2月期の間の早期売却と、2032年8月31日を限度とする最大約1年の延長がありうると書かれている。京都は2026年9月1日から2031年7月31日までの約4年11か月と明記されている。
⑥ 誰にいくら払うか第二部 第1 3(1)②(ヘ)信託報酬等
受託者の信託報酬とAM報酬が算式で載る。品川では受託者の当初信託報酬が信託財産の価額×0.40%(税込0.44%)、AMのアップフロント報酬が595,500,000円(税込655,050,000円)を上限、売却時報酬が売却価格の1.0%(税込1.1%)を上限、インセンティブ報酬が超過分の20%(税込22%)を上限。京都のAMアップフロント報酬は当初元本合計金額×1.2%と、算式そのものが違う。
⑦ 特典があるか第二部 第3 2「本受益者に対する特典」
「該当事項はありません」の銘柄もあれば、基準日の保有口数に応じた宿泊割引券(東横INN・10口以上で2,000円分から)や、募集時の買付口数に応じたホテル利用券(京都・10口以上で3万円分から)を予定する銘柄もある。提供者が信託財産ではなく運用会社の親会社であるなど、原資と主体は銘柄ごとに違う
⑧ 税務の扱い第二部 第1 3(1)② の税制の項
分配は20.315%で源泉徴収され、申告不要か申告分離課税を選べる。譲渡損益・償還損益は上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税。特定口座(源泉徴収選択口座)は使えるが、NISA口座の対象外である旨が明記されている。
⑨ 追加発行があるか第一部 14
本受益権の追加発行は行われません」と書かれていれば、後から口数が増えて薄まることはない。3本ともこの記載がある。
⑩ 訂正が出ていないか表紙とその手前
目論見書は訂正届出書を取り込んだ形で作られる。EDINETで有価証券届出書だけを読むと、後から出た訂正が反映されていない。EDINETで読む場合は、同じ発行者の訂正有価証券届出書の有無を必ず確認する
図: 初めて不動産STの目論見書を開くときに、実際に開くページの一覧。①②が入口の値段、③④が出口、⑤が期間、⑥が継続的なコスト、⑦⑧⑨がその他の条件、⑩が読む前提。右側の見出しは目論見書・有価証券届出書の項目名で、どの銘柄でも様式が同じなので、同じ場所を開けば同じ項目が出てくる(特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第六号様式)。出所はEDINET提出の有価証券届出書S100YS50・S100YTNX、および受益権発行届出目論見書2本(東横INN 2026年3月、ケネディクス物流センター 2025年5月。いずれも2026年8月20日取得)。本図は読み方の整理であり、特定銘柄の推奨・勧誘や投資助言ではない。税務の個別判断は税理士等の専門家に確認されたい。
SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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