投資家向け 分配金はいつ・どう入るか——権利確定日は決算日、支払日は2026年に「2か月後」へ動いた 公開 2026-08-18 / 読了 13分
不動産STの分配金は、半年に一度、証券口座に入る。ただし「権利が確定する日」と「お金が入る日」は別の日で、その距離が2026年に大きく変わった。従来は決算日当日に払う銘柄が多かったが、令和7年度税制改正への対応として、支払日を2か月後ろへ動かす変更が銘柄ごとに相次いでいる。権利確定日は誰がどう決めているのか、支払日はどこに書いてあるのか、口座には誰がどうやって入れるのか、そして入ってくる金額の中身は何か——信託法の条文、発行体の法定開示、運用会社の変更通知、ODXの公表値で一つずつ確かめる。
まず前提——「権利確定日」と「支払日」は、別の日である 上場株式の配当なら、3月末に権利が確定して6月下旬の株主総会後に支払われる、という流れが広く知られている。不動産STにも似た構造があるが、名前が違い、日付の決まり方も違う。まず用語を3つだけ押さえておきたい。
1つ目は「計算期日」。信託の決算日のことで、多くの不動産STは半年ごとに置いている。2つ目は「権利確定日」。その分配金を受け取れる人を確定させる日で、不動産STの信託契約はこれを「当該分配に係る信託計算期間に属する計算期日」と定義している。つまり権利確定日は決算日そのものであり、両者は同じ日である。3つ目は「分配金支払日」。実際に金銭が動く日で、これは契約が別に定める。
この3つのうち、投資家がいちばん誤解しやすいのが権利確定日と支払日の距離である。2026年より前は「決算日に権利が確定し、その日のうちに支払われる」という設計の銘柄が珍しくなかった。ところが2026年に入って、支払日を計算期日の2か月後へ動かす変更が相次いだ。決算日に何も入ってこないので不安になる、という状況が実際に起きうる。
なお、権利確定日を置く仕組みそのものは信託法にある。第189条第1項は、受益証券発行信託の受託者が「一定の日(基準日)を定めて、基準日において受益権原簿に記載され、又は記録されている受益者をその権利を行使することができる者と定めることができる」と規定する。同条第4項は基準日の2週間前までの官報公告を求めるが、信託行為(信託契約)に基準日と権利の内容の定めがあるときは公告不要とするただし書を置いている。不動産STで官報公告を見かけないのはこのためで、権利確定日は目論見書や有価証券届出書に書いてある。
① 計算期日(決算日)=権利確定日 この日の受益者に配ると決まる
不動産STの信託契約は「権利確定日」を「当該分配に係る信託計算期間に属する計算期日」 と定義している(三井物産グループ品川の有価証券届出書、熱海温泉・PJ RB1・由縁札幌・雪の花の各有価証券報告書に共通)。つまり権利確定日は決算日そのもので、決算日の翌日に売っても分配金は受け取れる 。計算期日は銘柄ごとに違い、2・8月末、3・9月末、1・7月末、4・10月末がある。
② 分配金額の決定と決算発表 権利確定日の後に金額が決まる
金額を決めるのはアセット・マネージャー(AM)で、決定内容を受託者へ通知する(各届出書・報告書)。2026年4月以降に計算期日を迎える分から、KDX ST パートナーズの運用ファンドの決算発表は「計算期日の翌月末日までに」から「翌々月末日までに」へ後ろ倒しされた (同社「令和7年度税制改正の適用のお知らせ」2026年3月31日)。権利は確定していても、金額はまだ分からない期間がある 。
③ 分配金支払日 契約が定める「払う日」
従来は計算期日の当日 に払う銘柄が多かったが、2026年に入って「2か月後」へ動かす銘柄が相次いだ (次の図)。支払日は法令が一律に決めるものではなく、信託契約の定めである。
④ 証券口座への入金 受け取るのは源泉徴収後の金額
支払日に、受託者が取扱証券会社へ送金し、証券会社が各受益者の証券口座に記録する(下の「どう入るか」の図)。入るのは額面ではなく、源泉所得税(地方税を含む)を控除した後の金額 である。
信託法は、受益証券発行信託の受託者が「一定の日(基準日)を定めて、基準日において受益権原簿に記載され、又は記録されている受益者をその権利を行使することができる者と定めることができる」 とする(第189条第1項)。基準日受益者が行使できる権利は「基準日から3箇月以内に行使するもの」に限られ (同条第3項)、基準日を定めたときは2週間前までに官報公告が必要だが、信託行為(信託契約)に基準日と権利の内容の定めがあるときは公告は不要 (同条第4項ただし書)。不動産STで官報公告を見かけないのはこのためで、権利確定日は目論見書・有価証券届出書に書いてある。なお同条第5項により、これらは信託行為の別段の定めが優先する。
図: 分配金にまつわる日付は4つあり、上から順に「誰に払うかが決まる日」「いくら払うかが決まる日」「払う日」「口座に入る日」 と読む。初心者がつまずくのは①と③の距離 ——株式の配当と同じ感覚でいると、権利確定から入金まで2か月以上空くことがある。「計算期日」は信託の決算日、「受益権原簿」は受託者が作る受益者の名簿 のこと。原簿と権利確定日の仕組みそのものは別稿『受益権原簿と権利確定日——不動産STは「誰にいつ分配するか」をどう確定しているのか』で扱った。出所は信託法(e-Gov法令検索・2026年8月18日確認)および各発行体の法定開示書類。 権利確定日——その日の名簿に載っていることが、受け取りの要件になる 運用会社の実際の通知を見ると、要件がはっきり書かれている。KDX STパートナーズが2026年2月24日に公表した「ケネディクス・リアルティ・トークン ドーミーイン神戸元町(デジタル名義書換方式)」の分配金に関するお知らせは、2026年2月期(第4期)の分配金を1口当たり2,350円としたうえで、注記でこう述べている。「分配金を受け取るためには、2026年2月27日の受益権原簿に記載されていることが要件となります」。運用期間は2025年8月30日から2026年2月27日までと記載されている。
ここで日付が2月末日ではなく2月27日になっているのは、契約の「当該日が営業日でない場合は前営業日とする」という定めによる。計算期日は「2月及び8月の各末日」だが、末日が銀行の休日に当たれば前の営業日へ繰り上がる。カレンダー上の月末と、実際の権利確定日は一致しないことがある。
権利確定日が決算日そのものである以上、帰結は単純である。決算日の翌日に売っても、その期の分配金は受け取れる。逆に決算日の翌日に買っても、その期の分配金は付いてこない。株式でいう「権利付き最終日」に相当する考え方は、市場で売買する場合には別途効いてくる(後述)。
もう一つ、法律上の縛りとして押さえておきたいのが信託法第189条第3項である。基準日を定める場合、受託者は「基準日受益者が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない」とされている。権利確定日から支払日までをいくらでも延ばせるわけではない、という枠がここにある。ただし同条第5項は、信託行為に別段の定めがあるときはその定めによるとしており、最終的に効くのは個別の信託契約の定めである。原簿と権利確定日の関係そのものは、別稿『受益権原簿と権利確定日——不動産STは「誰にいつ分配するか」をどう確定しているのか』で扱った。
支払日——2026年、「決算日当日」から「2か月後」へ動いた 2026年に何が起きたのか。出発点は令和7年度税制改正である。KDX STパートナーズは2026年3月31日付「令和7年度税制改正の適用のお知らせ」で、2026年4月1日以降に当期未処分利益を超える分配が行われる場合、その分配は元本の払戻しとして整理されること、それに伴い「本ファンドの分配金の支払日が変更される可能性があります」と予告し、あわせて「2026年4月以降に計算期日を迎える本ファンドの決算発表については、従前は計算期日の翌月末日までに実施していたところ、今後は計算期日の翌々月末日までに実施されることとなります」と告知した。
予告は実際の変更になった。同社は2026年4月24日に「KDX名古屋栄ビル」について、支払日を「各信託計算期日(4月及び10月の各末日)」から「各信託計算期日の属する月の翌々月末日」へ変更したと公表。7月31日には「湯けむりの宿 雪の花」と「月島-リバーシティ21イーストタワーズⅡ」について、いずれも「各信託計算期日の2か月後の応当日」へ変更したと公表した(いずれも当該日が営業日でない場合は前営業日)。
三井物産デジタル・アセットマネジメントも2026年7月1日、「不動産のデジタル証券〜那須・アウトレットモール〜」について、支払日を「各信託計算期日(1月及び7月の各末日)」から「各信託計算期日の2か月後の応当日」へ変更すると公表した。同社は変更理由を「2026年4月1日以後に適用される特定受益証券発行信託に係る税制改正及び一般社団法人信託協会の計算規則(受益証券発行信託計算規則)の改正への対応」と説明し、「分配手続の適正かつ円滑な実施、分配額の確定および税務処理に必要な期間の確保、ならびに法令適合性の観点を総合的に勘案し」た結果だとしたうえで、「本変更は本税制改正への対応に伴う事務的な変更であり、本信託の運用方針、投資対象資産および収益分配方針等の実質的な内容に変更はございません」と明記している。適用は2026年7月末日の計算期日からとされた。
証券会社の側も同じ内容を周知している。野村證券は2026年3月付「不動産セキュリティ・トークン 分配金の取扱いに関するお知らせ」で、「2026年3月1日現在、下記の対象銘柄においては各信託計算期日に分配金が支払われていますが、税務上の取扱いの変更に伴い、下記対象銘柄の信託計算期日、分配金支払日またはその両方が変更となる可能性があります」として5銘柄を列挙し、変更内容は各運用会社のウェブサイトで公表されると案内した。大和証券も2026年5月11日付で同旨の案内を掲載している。
一方で、すべての銘柄が動いたわけではない。もともと「計算期日の属する月の翌月末日」に払う設計の銘柄もあり(三井物産グループの熱海温泉、学芸大学ほかPJ RB1)、2026年7月24日に届け出られた品川オフィス&ホテルは、当初から「各信託計算期日が属する月の翌々月の応当日」を支払日としている。つまり現在の市場には、当日型・翌月型・2か月型の3つが併存している。
KDX ドーミーイン神戸元町
2月・8月の各末日
計算期日当日
当日型
ファンドページ「各計算期日(2月及び8月の各末日=権利確定日)の計算期日当日」(2026年8月18日確認)
三井物産G 熱海温泉
4月・10月の各末日
計算期日の属する月の翌月末日
翌月型
有価証券報告書 第5期(EDINET S100YR31・2026年7月21日提出)
三井物産G 学芸大学ほか(PJ RB1)
4月・10月の各末日
計算期日の属する月の翌月末日
翌月型
有価証券報告書 第2期(EDINET S100YR5I・2026年7月21日提出)
KDX 名古屋栄ビル
4月・10月の各末日
翌々月末日(2026年4月24日に変更)
2か月型
「分配金の支払日変更のお知らせ」(KDX STパートナーズ・2026年4月24日)
KDX 湯けむりの宿 雪の花
3月・9月の各末日
2か月後の応当日(2026年7月31日に変更)
2か月型
「分配金の支払日変更のお知らせ」(同・2026年7月31日)
KDX 月島-リバーシティ21
2月・8月の各末日
2か月後の応当日(2026年7月31日に変更)
2か月型
「分配金の支払日変更のお知らせ」(同・2026年7月31日)
三井物産G 那須・アウトレット
1月・7月の各末日
2か月後の応当日(2026年7月末の計算期日から適用)
2か月型
「分配金支払日の変更に関するお知らせ」(三井物産デジタル・アセットマネジメント・2026年7月1日)
三井物産G 品川オフィス&ホテル
2月・8月の各末日
計算期日が属する月の翌々月の応当日
2か月型
有価証券届出書(EDINET S100YS50・2026年7月24日提出)
いずれの定めにも「当該日が営業日でない場合は前営業日とする」 という但し書きが付く。営業日とは、銀行法により日本において銀行の休日と定められ、又は休日とすることが認められた日以外の日をいう(品川の有価証券届出書の定義)。末日が土日祝や年末年始に当たると、支払日は前の営業日へ繰り上がる 。
表: 同じ「不動産ST」でも、分配金を払う日の決め方は銘柄ごとに違う。読む順番は、まず自分の銘柄の行の2列目(権利確定日)、次に3列目(支払日) 。2026年に入って「当日型」から「2か月型」へ動いた銘柄が相次いだ のが本稿の主題である。三井物産デジタル・アセットマネジメントは変更理由を「2026年4月1日以後に適用される特定受益証券発行信託に係る税制改正及び一般社団法人信託協会の計算規則(受益証券発行信託計算規則)の改正への対応」とし、「分配手続の適正かつ円滑な実施、分配額の確定および税務処理に必要な期間の確保、ならびに法令適合性の観点を総合的に勘案した」と説明したうえで、「本変更は本税制改正への対応に伴う事務的な変更であり、運用方針、投資対象資産および収益分配方針等の実質的な内容に変更はない」 と明記している。本表は制度の整理であり、特定銘柄の評価・推奨ではない。 いま上場している7銘柄は、次にいつ払うのか ODXが運営する二次流通市場STARTの銘柄詳細ページには、銘柄ごとに「基本権利確定日」「配当金/分配金(予想/次回)」「(うち利益配当)」「(うち元本払戻し額)」「配当金/分配金支払日」が並んでいる。2026年8月18日に確認した7銘柄の値を一覧にしたのが次の表である(一覧の最終更新日時は2026年8月17日19時00分25秒)。
見えてくるのは、支払日と権利確定日が同じ日付になっているのが1A0A(KDX ドーミーイン神戸元町)だけで、残る6銘柄は権利確定日の2か月後の月末が入っているという構図である。1A0Aについては、運用会社のファンドページも2026年8月18日時点で「各計算期日(2月及び8月の各末日=権利確定日)の計算期日当日」と記載している。
内訳の欄にも差がある。1A0F・1A0G・1A0Jは利益配当と元本払戻しの内訳が表示されているが、1A0C・1A0D・1A0Hは空欄のままである。表示はODXの公表どおりに記録した。空欄である理由を当サイトは推定しない。
なお、ODXは各項目について「当該STの発行者や運用会社の公表資料等に基づきます。当該情報の具体的な定義、基準時点等については各発行者や運用会社の公表資料、HP等をご覧ください」と注記している。日付が1日ずれる例も現に存在する。1A0F(KDX名古屋栄ビル)の第5期について、運用会社のファンドページは支払日を2026年12月31日と表示し、ODXは2026-12-30と表示している。12月31日は銀行の休日に当たるため、「営業日でない場合は前営業日」の定めに従えば12月30日になる。最終的に効くのは契約の定めであり、表示の1日差はこの営業日調整で説明がつく。
銘柄(STARTコード)
基本権利確定日
次回分配金(予想・円)
うち利益配当
うち元本払戻し
支払日
1A0A KDXSTドーミーイン神戸元町
半年ごと 2・8月末
2,350
-
-
2026-08-31
1A0C いちごRT芝公園・東新宿他4件
半年ごと 1・7月末
756
-
-
2026-09-30
1A0D いちごRT西麻布・代々木他5件
半年ごと 1・7月末
504
-
-
2026-09-30
1A0F KDXST名古屋栄ビル
半年ごと 4・10月末
2,000
1,520
480
2026-12-30
1A0G トーセイST3市ヶ谷
半年ごと 4・10月末
1,620
21
1,599
2026-12-30
1A0H いちごRT仲之町・小日向他5件
半年ごと 4・10月末
2,018
-
-
2026-12-30
1A0J 三井物産G三重イオンタウン鈴鹿
半年ごと 4・10月末
2,622
2,181
441
2026-12-30
7銘柄のうち支払日が権利確定日と同じ日付になっているのは1A0Aだけ で、残る6銘柄は権利確定日の2か月後の月末 が入っている。内訳(利益配当・元本払戻し)が表示されているのは3銘柄で、他の4銘柄は空欄のままである(いずれもODXの表示をそのまま記録した。空欄の理由を当サイトは推定しない)。なお1A0Fについて、運用会社KDX STパートナーズのファンドページは第5期の支払日を2026年12月31日 と表示し、ODXは2026-12-30 と表示している。12月31日は銀行の休日に当たるため、「営業日でない場合は前営業日」の定めに従えば12月30日となる。
表: STARTに上場する不動産ST7銘柄が、次にいつ・いくら払う予定かを一覧にした。先に見るのは右端の支払日、次に自分が買おうとしている銘柄の権利確定日 。金額は「予想」であって確定額ではなく、実績と一致する保証はない。ODXの銘柄詳細は各項目について「当該STの発行者や運用会社の公表資料等に基づく」 と注記しており、定義や基準時点は発行者・運用会社の資料による。数値はODX「銘柄一覧・銘柄詳細」を2026年8月18日に確認したもの(一覧の最終更新日時は2026年8月17日19時00分25秒)。当サイトによる評価・推奨ではない。 どう入るか——受託者から証券口座までの4段 支払日に何が起きるのかは、有価証券届出書の「給付の内容、時期及び場所」に手続きとして書かれている。三井物産グループ品川の届出書(2026年7月24日提出)を読むと、流れは4段である。
第1に、アセット・マネージャーが分配金額(または未処分利益に対する比率)を決定し、受託者へ通知する。第2に、受託者が権利確定日時点でブロックチェーン基盤「Progmat ST」に記録された受益者の氏名・名称と保有口数を参照する。権利確定日から支払日までの間に記録の訂正があったときは、訂正後の情報を使う。第3に、受託者が取扱証券会社ごとの分配金明細を作って送付し、「信託分配金支払日の午前11時までに」明細記載の合計額を証券会社へ支払う。第4に、証券会社が、受益者から付与された代理受領権に基づき、各受益者の証券口座に源泉所得税(地方税を含む)を控除した後の金額を記録し、分配金の支払いである旨を通知する。
ここで押さえておきたいのは、投資家の側から見た受け取りが「振込」ではなく、証券会社による口座への「記録」だという点である。不動産STは社債株式等振替法に定める振替機関では取り扱われず(同届出書の「振替機関に関する事項」は「該当事項はありません」)、株式のような配当金領収証を郵便局へ持ち込むといった経路は開示書類上存在しない。分配金は、その銘柄を預けている証券口座にしか入らない。複数の証券会社に分けて持っていれば、入金も分かれる。
日程の細かさも開示されている。みずほ信託銀行が提出した雪の花の有価証券報告書(2026年6月30日提出・第6期)は、最終信託配当と元本の償還について、支払日の8営業日前に受益権原簿を確認、7営業日前までにアセット・マネージャーが金額を決定して通知、5営業日前までに明細や支払通知書を証券会社へ送付、支払日の午前11時までに送金、という段取りを記載している。裏方の分業そのものは別稿『事務管理会社の役割——計算・名簿・支払の裏方は誰か』で扱った。
STEP 1
AMが分配金額を決め、受託者へ通知する
アセット・マネージャーが計算期間の未処分利益に対する比率または金額を決定 受託者は通知をもとに1口当たりの分配金額を算出 権利確定日時点の記録を参照 ▼
STEP 2
受託者が「誰が何口持っていたか」を確認する
権利確定日時点でブロックチェーン基盤(Progmat ST等)に記録された受益者の氏名・数量を参照 権利確定日から支払日までの間に記録の訂正があれば、訂正後の情報を使う 証券会社ごとの明細を送付 ▼
STEP 3
受託者が証券会社へ送金する
取扱証券会社の顧客口・自己口ごとに分配金額を算出し、分配金明細を送付 支払日の午前11時までに、明細に記載された合計額を証券会社へ支払う 代理受領権にもとづき ▼
STEP 4
証券会社があなたの証券口座に記録する
支払日に、各受益者の証券口座へ源泉所得税(地方税を含む)控除後の金額を記録 分配金の支払いである旨を通知 この4段は三井物産グループ品川の有価証券届出書が定める手続きで、他の銘柄もほぼ同じ構造をとる。受益者が受け取るのは「振込」ではなく、証券会社が口座に行う「記録」である 。不動産STは社債株式等振替法の振替機関では取り扱われず (同届出書「振替機関に関する事項:該当事項はありません」)、株式のような配当金領収証・郵便局での受取りといった経路は開示書類上存在しない。したがって分配金は、その銘柄を預けている証券口座にしか入らない 。参考までに、雪の花(ibet for Fin)の最終配当・償還の手続きでは、支払日の8営業日前に原簿を確認、7営業日前までにAMが金額を決定、5営業日前までに明細を送付、当日午前11時までに送金 という日程が有価証券報告書に明記されている。
図: 分配金が口座に入るまでの4段を上から順に読む。要点は3つ——①金額を決めるのはAM、②配るのは受託者、③あなたの口座に記録するのは証券会社 。「顧客口」は証券会社が顧客から預かったSTを管理する口座、「自己口」は証券会社自身が保有するSTの口座、「代理受領権」は顧客に代わって受け取る権限 のこと。出所はEDINET S100YS50(オルタナ信託・2026年7月24日提出)およびS100YMHJ(みずほ信託銀行・2026年6月30日提出)。裏方の分業そのものは別稿『事務管理会社の役割——計算・名簿・支払の裏方は誰か』で扱った。 いくら入るか——2026年4月以降、分配金は2つに分かれた 口座に入る金額は、額面どおりではない。まず源泉徴収がある。そして2026年4月以降は、分配金そのものが「収益の分配」と「元本の払戻し」の2つに分かれるようになった。
実額で見るのがいちばん早い。KDX名古屋栄ビルの受託者である三菱UFJ信託銀行は、2026年6月30日付で受益者向けに「分配金の税務上の取扱いに関するご説明」を交付している。そこには、2026年4月30日の信託計算末日をもって分配金額を決定し、2026年6月30日に支払うこと、そして今回の分配金1口当たり2,000円のうち、留保金を原資とする分配が1,219円、元本の払戻しが781円であることが明記されている。前者は配当所得として証券会社を通じて源泉徴収され、後者は配当所得ではないため源泉徴収の対象にならず、配当控除の対象にもならない。
元本の払戻しは、税法上は受益権の一部を譲渡したものとみなされる。この計算に必要な「元本減少割合」も同じ通知で0.008と示された。所得税法施行令第114条第4項に規定する割合で、同条第5項により受託者から受益者へ通知することが定められている(法人受益者には法人税法施行令第119条の9の2第2項に基づく通知)。通知は具体例まで示しており、1口10万円で100口保有していた場合、収入金額とみなされる金額は781円×100口=78,100円、取得価額は1,000万円×0.008=80,000円で、みなし譲渡損益は▲1,900円、1口当たりの取得価額は99,200円へ調整される、という計算になる。
手間は口座区分で変わる。同通知は、特定口座の源泉徴収口座なら取引証券会社に問い合わせること、それ以外の特定口座と一般口座では「みなし譲渡損益が発生するため確定申告が必要となります」としている。口座区分そのものの話は別稿『特定口座で不動産STは買えるのか——入口は3つだけ、分配金はもう1枚の届出、NISAは対象外』、元本減少割合の使い方は『「元本減少割合」とは何か——取得価額調整と確定申告の要点』で扱った。
税率も確認しておく。野村證券の案内は、不動産STの収益の分配(元本の払戻しを含まない部分)が20.315%——15%の所得税、復興特別所得税(所得税額の2.1%)、5%の地方税の合計——の税率で源泉徴収および特別徴収されると説明している。元本の払戻しによる損益は、原則として上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となる。
分配金の総額に対して元本の払戻しがどれくらいの比重を占めるかは、銘柄と期によってまったく違う。上の表のとおり、次回予想では1A0G(トーセイST3市ヶ谷)の1,620円のうち1,599円が元本払戻しであるのに対し、1A0J(三井物産G三重イオンタウン鈴鹿)は2,622円のうち441円である。参考までに、雪の花の2026年3月期の決算報告は、当期純利益が1口当たり15,720円であるのに対し1口当たり分配金を23,000円とし、「当期純利益全額の分配並びに利益超過分配を実施しました」と記載している。利回りの数字だけを見て、その中身が利益なのか元本の返却なのかを見ないと、投資の実態を読み違える。
分配金の総額 1口当たり 2,000円
2026年4月30日の信託計算期日をもって金額が決まり、2026年6月30日に支払われた (受託者である三菱UFJ信託銀行から受益者への通知・2026年6月30日)。
① 留保金を原資とする分配 1口当たり 1,219円
税法上は配当所得 として扱われ、証券会社を通じて所得税等が源泉徴収される 。公募の受益証券発行信託の収益の分配に係る税率は20.315% (15%の所得税、復興特別所得税=所得税額の2.1%、5%の地方税の合計)。
② 元本の払戻し 1口当たり 781円
配当所得ではないため源泉徴収の対象にならず、配当控除の対象にもならない 。税法上は受益権の一部を譲渡したものとみなされ、「みなし譲渡損益」 が発生する。
元本減少割合 0.008
所得税法施行令第114条第4項に規定する割合で、受託者から受益者へ通知することが同条第5項で定められている (法人受益者には法人税法施行令第119条の9の2第2項による通知)。小数点第3位未満は切上げ。取得価額の調整に使う数字で、確定申告が必要になる場合はこれがないと計算できない 。
計算例(通知に記載) 100,000円×100口で買っていた場合
収入金額とみなされる金額=781円×100口=78,100円 。取得価額=(100,000円×100口)×0.008=80,000円 。みなし譲渡損益=78,100円−80,000円=▲1,900円(みなし譲渡損) 。あわせて1口当たりの取得価額は100,000円−(100,000円×0.008)=99,200円 へ調整される。
口座区分で手間が変わる。通知は「特定口座の源泉徴収口座の受益者様は、お取引の証券会社にお問い合わせください」「特定口座のそれ以外の口座の受益者様および一般口座の受益者様は、みなし譲渡損益が発生するため確定申告が必要となります」 とする。取得価額の調整も「一般的には取引の証券会社が行うが、証券会社によって取扱いが異なる場合がある」 としている。なお同通知は、この信託(特定受益証券発行信託)では株式や投資口の資本の払戻しの際に生じ得るような「みなし配当金額」は税法上生じない とも明記している。
図: 2026年4月以降、分配金は「収益の分配」と「元本の払戻し」の2つに分かれて口座に入る 。実額はケネディクス・リアルティ・トークン KDX名古屋栄ビルの2026年4月期のもので、2,000円のうち781円——約39%が元本の払戻し だった。読む順番は①と②の金額、次に元本減少割合、最後に計算例 。元本減少割合の使い方そのものは別稿『「元本減少割合」とは何か——取得価額調整と確定申告の要点』、改正の背景は『利益超過分配は「元本の払戻し」へ——令和7年度改正の実務を読む』で扱った。出所は三菱UFJ信託銀行「分配金の税務上の取扱いに関するご説明」(2026年6月30日)、税率は野村證券「不動産セキュリティ・トークン 分配金の取扱いに関するお知らせ」(2026年3月)。一般的な整理であり、個別の判断は税理士等の専門家に確認されたい。特定銘柄の推奨・勧誘を目的とするものではない。 STARTで買って受け取りたいなら——権利落ちと、2営業日の時差 募集で買ってそのまま持っている場合、権利確定日時点の記録がそのまま基準になるので、話は単純である。ややこしくなるのは、二次流通市場STARTで売買する場合だ。
ODXの「セキュリティトークン取引に係る業務規程」は、第2条第1項第20号で「権利落」を「セキュリティトークンにおいて、その所有者が収益分配あるいは何らかの価値を得られる設計がなされている場合にあって、それを受ける権利が無くなること」と定義し、「権利落日にあっては、基準価格を権利相当分減ずる調整を行う」と定める。さらに第16条は、権利落とする期日はODXが定めること、「前項の期日以降に締結された売買契約は、権利落として決済するものとする」ことを定めている。権利落ちの日に基準価格が下がるのは、市場の評価が変わったからではなく、分配金の分の調整である。
もう一つが時差である。「セキュリティトークンの売買取引に係る清算・決済規程」第5条第1項は、清算・決済を「売買契約締結の日から起算して3営業日目の日(T+2日)」に実施すると定め、第6条第4項は、セキュリティトークンの移転・記録がこの決済においてブロックチェーン基盤を通じて実行されることを定めている。約定した瞬間に台帳が書き換わるわけではない。
この2つを合わせると、権利確定日当日やその前営業日に買っても、その期の分配金には間に合わないことが分かる。実際の期日は銘柄ごとにODXが定めるため、買う前に取引先の証券会社に確認するのが確実である。売る側から見れば裏返しで、権利落の期日より前に売れば、その分配金は買い手のものになる。市場そのものの動き方は別稿『STARTで売るとき何が起きるか——1日2回の板寄せ、板の薄さ、対NAV乖離の読み方』、基準価格の決まり方は『STARTの「基準価格」とは——決まり方、NAVとの違い、乖離の読み方』で扱った。
ルール① 権利落日には基準価格が権利相当分だけ下がる
ODXの業務規程は「権利落」を「その所有者が収益分配あるいは何らかの価値を得られる設計がなされている場合にあって、それを受ける権利が無くなること」 と定義し、「権利落日にあっては、基準価格を権利相当分減ずる調整を行う」 と定める(第2条第1項第20号)。権利落ちの日に基準価格が下がっても、それは値下がりではなく分配金の分の調整である 。
ルール② 権利落の期日以降に約定した売買は「権利落ち」で決済される
権利落とする期日はODXが定め、「前項の期日以降に締結された売買契約は、権利落として決済するものとする」 (業務規程第16条)。この日以降に買っても、直近の分配金は付いてこない 。
ルール③ 受渡しは約定日から起算して3営業日目(T+2)
清算・決済規程第5条第1項は「清算・決済は、STARTにおけるセキュリティトークンの売買契約締結の日から起算して3営業日目の日(T+2日)に実施する」 とする。STの移転・記録は、この決済日にブロックチェーン基盤を通じて実行される (同規程第6条第4項)。
帰結 「権利確定日に買えば間に合う」ではない
権利確定日に受益者として記録されるには、その日までに移転・記録が済んでいる必要がある 。移転が決済日に行われる以上、権利確定日当日やその前営業日の約定では間に合わない 。実際の期日(権利落の期日)はODXが銘柄ごとに定めるため、買う前に取引証券会社に確認するのが確実である 。
売る側から見ると裏返しになる。権利落の期日より前に売れば、その分配金は買い手のものになる 。「基準価格」はSTARTの1日の値幅制限の基準となる価格 で、終値と同じものではない(別稿『STARTの「基準価格」とは』参照)。なお、募集で取得してそのまま保有している場合は市場取引が挟まらないため、権利落ちも受渡しも関係なく、権利確定日時点の記録がそのまま基準になる。
図: STARTで買って分配金を受け取りたい場合に効いてくる3つのルールと、その帰結。上から順に、①権利落ちで価格が調整される、②期日以降の売買には権利が付かない、③記録が動くのは約定の2営業日後 と読む。「約定」は売買が成立すること、「受渡し(決済)」は代金とSTが実際に受け渡されること で、この2つの間に2営業日ある。出所はODX「セキュリティトークン取引に係る業務規程」(2026年1月13日改定)および「セキュリティトークンの売買取引に係る清算・決済規程」。本図は制度の説明であり、売買のタイミングを推奨するものではない。 受け取る側が確認する6項目 最後に、投資家の側の確認事項をまとめておく。ポイントは、分配金にまつわる日付と金額が「法令で一律」ではなく「銘柄ごとの契約と、その後の変更公表」で決まっている、という一点に尽きる。
とくに2026年は過渡期である。同じ運用会社でもファンドごとに変更の公表日が違い(KDX名古屋栄ビルは4月24日、雪の花と月島は7月31日)、変更後の支払日も「翌々月末日」「2か月後の応当日」と表現が分かれる。前回いつ入ったかを頼りに待つのではなく、その銘柄の最新の公表を見るのが正しい。
所得の帰属年にも触れておきたい。特定受益証券発行信託の収益の分配は原則として信託の計算期日が収益認識日とされるが、課税実務上の事情を受け、信託協会が定める一定の要件を満たすものについては信託配当支払日を収益認識日とすることが許容される旨の見解を課税当局から受けており、不動産STの分配はこれに当たる、と発行体の開示書類は記載している。支払日が2か月後ろへ動いたということは、年末をまたぐ期では所得の帰属年も動きうるということである。
本稿は制度と公表事実の整理であり、特定の銘柄・特定の証券会社の推奨や勧誘、投資助言を目的とするものではない。分配金の金額・時期はいずれも保証されたものではなく、借入契約上の事由等により分配が停止・制限される場合があることも各開示書類に記載されている。また、税務の記述は一般的な解説であり、個別の取扱いは口座を開設している証券会社および税理士等の専門家に確認されたい。数値・記載はいずれも本文中に示した基準日時点のものである。
① 権利確定日はいつか =計算期日(決算日)
目論見書・有価証券届出書の「給付の内容、時期及び場所」欄と、運用会社のファンドページに書いてある。銘柄ごとに1・7月末/2・8月末/3・9月末/4・10月末と分かれている 。
② 支払日はいつか 当日型か、2か月型か
2026年に多くの銘柄が「計算期日当日」から「2か月後」へ変更した 。変更は運用会社のウェブサイトで銘柄ごとに公表される。過去の入金実績の感覚で待たない 。
③ 決算発表はいつか 金額が分かる日
KDX STパートナーズの運用ファンドでは、2026年4月以降に計算期日を迎える分から決算発表が「翌月末日まで」から「翌々月末日まで」へ後ろ倒し された。
④ どの口座に入るか その銘柄を預けている証券会社
分配金は証券会社が証券口座に記録する方法でしか支払われない 。他社へ口座移管した場合や、複数の証券会社に分けて保有している場合は、入る先も分かれる。
⑤ 内訳はどうなっているか 収益の分配と元本の払戻し
元本の払戻しが含まれる場合、源泉徴収なしの特定口座と一般口座では確定申告が必要 になる。計算に使う元本減少割合は運用会社・受託者が分配のつど公表・通知する 。
⑥ 何年分の所得になるか 収益認識日は支払日
特定受益証券発行信託の収益の分配は原則として信託の計算期日が収益認識日 とされるが、信託協会が定める一定の要件を満たすものは信託配当支払日を収益認識日とすることが許容される 旨の見解を課税当局から受けており、不動産STの分配はこれに当たると各社の開示書類は記載している。支払日が年をまたぐと、所得の帰属年も動きうる 。
図: 分配金を受け取る側が確認する6項目。①②③が「いつ」、④が「どこへ」、⑤⑥が「いくら・どの年の所得か」 。⑥の収益認識日の記載はEDINET S100YR5I(SBI新生信託銀行・2026年7月21日提出)およびS100YS50(オルタナ信託・2026年7月24日提出)による。本図は制度の一般的な整理であり、特定銘柄・特定の証券会社の推奨や投資助言ではない。手続きの可否・期限は口座を開設している証券会社の案内に従い、税務の個別判断は税理士等の専門家に確認されたい。 本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。
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