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公募ST累計(2025年度末)3,333億円▲1,650ST市場残高(推計)1兆531億円▲81%START時価総額(2026-03)336億円収録銘柄78収録発行額(判明分)3,497億円募集中4START上場7銘柄
▲赤=増加/出所: 業界公表値・当サイト集計
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REIT投資家のためのST入門——NAV倍率と利回りは、同じ式で計算できて同じようには読めない

公開 2026-08-19 / 読了 14

Jリートを持っている人が不動産ST(セキュリティ・トークン)を初めて見るとき、手持ちのものさしは2つある——NAV倍率と予想分配金利回りだ。この2つは不動産STでもそのまま計算できる。ODXが銘柄ごとに「基準価格」と「1口当たり基準価額」を公表しており、NAVの定義式もJリートとほぼ同じ考え方だからだ。ところが計算はできても、出てきた数字は同じようには読めない。分母(価格)の作られ方が違い、分子(分配金)の中身が違い、商品の寿命が違う。ARESの集計基準とJリートの決算短信、ODXの公表値を突き合わせて、REIT投資家がどこで読み替えるべきかを実数で確かめる。

まず、Jリートで使っている2つのものさしを定義から確認する

Jリートを買っている人なら、銘柄を比べるときに見る数字はだいたい2つに絞られる。NAV倍率と予想分配金利回りである。日常的に使っているぶん、定義まで確認する機会は少ないので、ここから始めたい。

一般社団法人不動産証券化協会(ARES)が公表する統計データ集「ARES J-REIT Databook」の集計基準は、この2つを次のように定めている。NAV倍率は「投資口価格÷1口当たりNAV」で、その1口当たりNAV(純資産価値)は「純資産に保有物件の含み損益を加えた金額を発行済投資口数で除して算出」する。算出式まで明記されており、「1口当たりNAV={純資産+(鑑定評価額-帳簿価額)}÷発行済投資口数」である。簿価の純資産に、持っている不動産の含み損益を足し戻した「時価ベースの純資産」だと理解すればよい。数値は「各時点において開示されている最新の決算短信に記載された数値を使用」する。

予想分配金利回りのほうは「今期予想分配金の年換算額を投資口価格で除して算出」する。ここに、後で効いてくる注記がついている——「予想分配金には利益超過分配金を含みます」。つまりJリートの平均利回りも、利益から出たものだけを数えているわけではない。今期予想が未発表なら前期分配金を使い、「未定」の銘柄は算出対象から外す。

市場全体の水準も押さえておく。ARESマンスリーレポート(2026年8月)によれば、2026年7月末時点のJリートの平均NAV倍率は0.86倍、平均予想分配金利回りは4.97%で、いずれも全58銘柄の時価総額加重平均である。同時点の東証REIT指数(配当なし)は1,851.77、時価総額は16兆1,677億円、運用資産額は24兆5,164億円、保有物件数は4,956物件だった。1年前と比べるとNAV倍率は0.03pt低下し、予想分配金利回りは0.19pt上昇している。

用語をひとつだけ揃えておく。Jリートの持ち分は「投資口」、不動産STの持ち分は「受益権」と呼ぶ。器が投資法人か信託かという違いによるもので、どちらも「1口いくら」で売買され、1口当たりの純資産と1口当たりの分配金が公表される点は共通している。以下では、Jリートの「投資口価格」に当たるものをSTでは「基準価格」、「1口当たりNAV」に当たるものを「1口当たり基準価額」と呼ぶ。

ものさし①NAV倍率(投資口価格 ÷ 1口当たりNAV)
ARESの集計基準は「1口当たりNAV={純資産+(鑑定評価額-帳簿価額)}÷発行済投資口数」と定める。簿価の純資産に、持っている不動産の含み損益を足し戻した「時価ベースの純資産」を1口当たりに直したもので、1倍を下回れば市場が中身より安く評価している(ディスカウント)と読む。ARESは各時点で開示されている最新の決算短信の数値を使って算出する。
ものさし②予想分配金利回り(今期予想分配金の年換算額 ÷ 投資口価格)
同じくARESの集計基準による。注意すべき点が明記されている——「予想分配金には利益超過分配金を含みます」。つまりJリートの平均利回りも、利益ではない払い戻しを含んだ数字である。今期予想が未発表なら前期分配金を使い、「未定」の銘柄は算出対象から除く。
市場の水準2026年7月末:平均NAV倍率0.86倍/平均予想分配金利回り4.97%
いずれもJリート全58銘柄の時価総額加重平均。同時点の東証REIT指数(配当なし)は1,851.77、時価総額は16兆1,677億円、運用資産額は24兆5,164億円、保有物件数は4,956物件だった。1年前と比べるとNAV倍率は0.03pt低下、予想分配金利回りは0.19pt上昇している
言葉の整理「1口当たり」はREITでは投資口、STでは受益権
Jリートの持ち分は「投資口」、不動産STの持ち分は「受益権」と呼ぶ。器が投資法人(会社に近い)か信託かの違いによるもので、どちらも「1口いくら」で売買され、1口当たりの純資産と1口当たりの分配金が公表される点は共通している。
図: Jリートで日常的に使われる2つの指標の定義。読む順番は、まず①の分母(1口当たりNAV)の作り方、次に②の分子(年換算した予想分配金)この2つはどちらも「分母と分子が何で作られているか」を知らないと比較に使えない——これが本稿の出発点である。出所は一般社団法人不動産証券化協会(ARES)「ARES J-REIT Databook ご利用上の注意・集計基準等」および「ARESマンスリーレポート(2026年8月)」(2026年8月19日確認)。数値はいずれも2026年7月末時点。本図は指標の説明であり、特定銘柄の評価・推奨ではない。

不動産STでも同じ式が立つ——ODXが銘柄ごとに2つの数字を出しているから

不動産STの二次流通市場は、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が運営する「START」である。ここに上場している銘柄については、ODXが銘柄詳細のページで「基準価格」と「1口当たり基準価額」の両方を公表している。前者が市場の値段、後者がNAVに当たる。つまり、Jリートと同じ割り算がそのままできる。

重要なのは、STのNAVもJリートのNAVと同じ考え方で作られている点だ。ケネディクス・リアルティ・トークン KDX名古屋栄ビル(STARTコード1A0F)の運用会社が公表している基準価額のページは、算出方法を「NAV=総資産額-無形固定資産等+不動産の含み益-負債総額-精算受益権に係る出資額」「1口当たりのNAV=NAV÷一般受益権口数」と明記し、NAVとは「会計上の純資産額に鑑定評価額に基づく含み損益を加えたもの」だと説明している。ARESの式が「純資産+(鑑定評価額-帳簿価額)」であることを思い出せば、足し引きの順序が違うだけで、やっていることは同じである。

そこで、STARTに上場する不動産ST7銘柄について、当サイトが記録しているODXの公表値からNAV倍率と年換算利回りを計算した。計算式は明示する——NAV倍率=基準価格÷1口当たり基準価額、年換算利回り=次回予想分配金×2÷基準価格である。7銘柄はいずれも分配が年2回のため2倍した。基準価格・1口当たり基準価額・次回予想分配金はODXの公表値をそのまま用い、倍率と利回りだけを当サイトが計算している。

結果は次の表のとおりで、7銘柄すべてがNAV倍率1倍割れだった。幅は0.67倍(1A0A・1A0D)から0.95倍(1A0G・1A0J)まで開いており、同じ「NAV割れ」でも銘柄ごとに差が大きい。年換算利回りは1.36%から5.26%まで分布している。

1点、基準日が揃っていないことに注意したい。基準価格は2026年8月18日(火)の終値だが、1口当たり基準価額は銘柄ごとの決算期に紐づく直近公表の確定値である。1A0Fの119,304円は運用会社の開示によれば2026年4月期(第4期)の確定値で、8月時点では約4か月前の数字だ。もっとも、この「分母が数か月前」という性質はJリートも同じで、ARESも「各時点において開示されている最新の決算短信に記載された数値を使用」すると明記している。

銘柄(STARTコード)
基準価格(円)
1口当たり基準価額(円)
NAV倍率(倍)
次回予想分配金(円)
年換算利回り(%)
1A0A KDXSTドーミーイン神戸元町
97,230
145,867
0.67
2,350
4.83
1A0C いちごRT芝公園・東新宿他4件
76,000
107,801
0.71
756
1.99
1A0D いちごRT西麻布・代々木他5件
74,000
110,765
0.67
504
1.36
1A0F KDXST名古屋栄ビル
91,000
119,304
0.76
2,000
4.40
1A0G トーセイST3市ヶ谷
96,490
101,934
0.95
1,620
3.36
1A0H いちごRT仲之町・小日向他5件
80,790
105,497
0.77
2,018
5.00
1A0J 三井物産G三重イオンタウン鈴鹿
99,640
104,919
0.95
2,622
5.26
計算式は当サイトが明示する。NAV倍率=基準価格÷1口当たり基準価額年換算利回り=次回予想分配金×2÷基準価格(7銘柄はいずれも分配が年2回のため2倍した)。基準価格と1口当たり基準価額と次回予想分配金はODXの公表値をそのまま用い、倍率と利回りだけを当サイトが計算した基準日が2つに分かれている点に注意——基準価格は2026年8月18日(火)終値だが、1口当たり基準価額は銘柄ごとの決算期に紐づく直近公表の確定値で、たとえば1A0Fの119,304円は運用会社の開示によれば2026年4月期(第4期)の確定値である。次回予想分配金は確定額ではない。
表: STARTに上場する不動産ST7銘柄について、Jリートと同じ2つのものさしを当てはめた結果。左から順に、市場の値段(基準価格)/中身の価値(1口当たり基準価額)/その比(NAV倍率)/次の分配金/年換算した利回りと読む。7銘柄すべてがNAV倍率1倍割れで、幅は0.67倍から0.95倍まで開いている。数値の出所はODX「START 銘柄一覧・銘柄詳細」(当サイトが2026年8月19日午前に全7銘柄を確認。一覧の最終更新日時は2026年8月18日19時00分24秒)。ODXは各項目について「当該STの発行者や運用会社の公表資料等に基づく」と注記している。当サイトはこの倍率・利回りの高低をもって割安・割高の判断を示さない。特定銘柄の推奨・勧誘ではない。

分母の話——NAV倍率0.7倍は、Jリートの0.7倍と同じ意味ではない

計算できたからといって、並べて優劣を論じられるわけではない。まず分母、つまり価格の作られ方が違う。

Jリートは東京証券取引所に上場しており、日本取引所グループの案内によれば売買立会は午前立会9時から11時30分、午後立会12時30分から15時30分で、その間は注文が合致するたびに次々と約定する連続売買である。一方、STARTは取引所ではなくPTS(私設取引システム)で、値段がつくのは1日2回の板寄せ——セッション1の付け合わせが11時30分、セッション2が15時00分——だけだ。ODXの業務規程も「売買契約締結は各セッションにおいて1回とする」と定めている。

規模も桁が違う。2026年7月末のJリートの時価総額は16兆1,677億円。これに対して不動産ST7銘柄は、ARESがJリートの時価総額に用いるのと同じ式(1口当たりの市場価格×発行済数量)を当てはめて当サイトが合計すると約206億円で、およそ780分の1である。当サイトが2026年8月の日次相場表を数えた別稿では、2026年8月4日に市場全体で約定が0口だった日があり、1A0Jは2026年5月・6月・7月の3か月連続で月間売買代金が0円だったことも記録している。

この違いは、NAV倍率という数字の情報量そのものを変える。16兆円の市場で1日中売買された結果としての0.86倍と、1日2回の板寄せに数口の注文しか集まらない市場で決まった0.67倍とでは、「市場がそう評価している」という言葉の重みが違う。しかも不動産STの基準価格は、約定がなくても動く。ODXの業務規程第12条第2項により、約定がない日でも未約定の注文などから翌営業日の基準価格が機械的に決まる仕組みで、実際に1A0Aは2026年8月12日に出来高0口のまま基準価格が40円動いている。この点は別稿『STARTの「基準価格」とは——決まり方、NAVとの違い、乖離の読み方』および『STARTで売るとき何が起きるか——1日2回の板寄せ、板の薄さ、対NAV乖離の読み方』で詳しく扱った。

当サイトは、乖離の大小をもって割安・割高の判断を示さない。ここで言いたいのは順序の話である——NAV倍率を見る前に、その価格がどれだけの売買から生まれた数字かを見る。

項目
Jリート
不動産ST
市場
東京証券取引所(金融商品取引所)
START(ODXが運営するPTS=私設取引システム)
銘柄数
58銘柄(2026年7月末)
7銘柄(不動産ST・2026年8月19日)
時価総額
16兆1,677億円(2026年7月末)
約206億円(基準価格×発行済数量の合計・当サイト算出)
値段がつく回数
前場9:00–11:30、後場12:30–15:30の連続売買
1日2回の板寄せ(セッション1は11:30、セッション2は15:00に付け合わせ)
約定がない日
主要銘柄では想定しにくい
2026年8月4日は市場全体で約定0口。1A0Jは5〜7月の3か月連続で月間売買代金0円
保有者の数
KDX不動産投資法人の投資主数25,702人(第42期末)
488人〜1,903人(7銘柄・ODX公表)
NISA
成長投資枠の対象。2025年のリート買付額は812.8億円
対象外(有価証券届出書にも「NISA口座の対象外」と明記)
時価総額でみるとJリート市場は不動産ST市場のおよそ780倍である(16兆1,677億円÷約206億円)。ST側の約206億円は、ARESがJリートの時価総額に用いるのと同じ式——1口当たりの市場価格×発行済数量——を7銘柄に当てはめて当サイトが合計したもので、ODXが公表している数字ではない。「NAV倍率0.7倍」という同じ数字でも、16兆円の市場で1日中売買された結果と、1日2回の板寄せに数口の注文しか集まらない市場で決まった結果とでは、意味が違う。売買の薄さそのものは別稿『STARTで売るとき何が起きるか——1日2回の板寄せ、板の薄さ、対NAV乖離の読み方』で数えた。
表: 2つの市場を同じ項目で並べた。上から順に、どこで売買されるか/どれだけの銘柄と規模があるか/1日に何回値段がつくか/誰が持っているか/NISAが使えるかと読む。「板寄せ」は一定時刻までに集まった注文をまとめて1つの値段で成立させる方法、「連続売買」は注文が合致するたびに次々と成立する方法のこと。出所はARESマンスリーレポート(2026年8月)、日本取引所グループ「売買立会時(立会時間)」(2024年11月4日更新)、ODX「マーケットガイド」「セキュリティトークン取引に係る業務規程」、ODX START銘柄詳細(2026年8月19日確認)、KDX不動産投資法人 第42期資産運用報告、金融庁「NISA口座の利用状況調査」(2026年7月3日公表・ARESマンスリーレポート経由)。

分子の話その1——年換算のしかたを間違えると、利回りは半分になる

次に分子、つまり分配金である。ARESの方式は「今期予想分配金の年換算額」だった。この方法は、各期の分配額が比較的安定していることを暗黙の前提にしている。不動産STでは、その前提が成り立たない銘柄がある。

いちご・レジデンス・トークン 芝公園・東新宿他4件(1A0C)を例にとる。ODXの「次回予想分配金」は756円で、これを2倍して基準価格76,000円で割ると年換算利回りは1.99%になる。ところが発行者公式の分配金ページを見ると、第4期は2,067円で確定している。直近2期(第4期の確定2,067円と第5期の予想743円)で計算すると3.70%で、見え方が1.9倍違う。

西麻布・代々木他5件(1A0D)も同様で、「次回予想分配金」504円を2倍すると1.36%だが、第3期は1,984円で確定しており、直近2期(1,984円+495円)なら3.35%になる。同じ銘柄が、計算のしかた次第で1%台にも3%台にも見える。これは値動きの話ではなく、分子の作り方の話である。当サイトは分配額が期によって振れる理由を推定しない。

もう一つ、表示のずれにも注意がいる。2026年8月19日時点で、この2銘柄についてODXの「配当金/分配金(予想/次回)」欄は次期(2027年1月期)の予想を表示している一方、「支払日」欄は直近に到来する2026年9月30日を表示しており、両欄の対象期がずれている。年換算する前に、発行者・運用会社の分配金ページで確定額の履歴を確認するのが確実である。

いちごRT芝公園・東新宿他4件(1A0C)基準価格76,000円
ODXの「次回予想分配金」は756円。これを2倍して年換算すると1.99%。しかし発行者公式の分配金ページでは、第4期は2,067円で確定、第5期は予想743円、第6期が予想756円である。直近2期(2,067円+743円=2,810円)で計算すると3.70%で、見え方が1.9倍違う。
いちごRT西麻布・代々木他5件(1A0D)基準価格74,000円
同じく「次回予想分配金」は504円で年換算1.36%。一方、第3期は1,984円で確定、第4期は予想495円、第5期が予想504円。直近2期(1,984円+495円=2,479円)なら3.35%となる。
なぜ差が出るのか半期ごとに分配額が大きく振れているため
この2銘柄は期によって1口当たりの分配額が4倍前後動いている。ARESがJリートで使う「今期予想分配金の年換算額」という方法は、各期の分配額が比較的安定している前提に立っている。不動産STにその方法をそのまま持ち込むと、たまたま低い期を2倍した数字が「利回り」として一人歩きする。当サイトは分配額が振れる理由を推定しない。
確認すべきこと確定額の履歴と、予想の対象期
ODXの銘柄詳細に出る「配当金/分配金(予想/次回)」は予想であって確定額ではない。またこの2銘柄では、2026年8月19日時点でODXの予想欄は次期(2027年1月期)を指しているのに支払日欄は直近に到来する2026年9月30日が表示されており、両欄の対象期がずれている。年換算する前に、発行者・運用会社の分配金ページで確定額の履歴を見るのが確実である
図: 「次回予想分配金×2」で年換算する方法が、不動産STでは壊れる実例。上の2行が実額、3行目が理由、4行目が確認手順同じ銘柄が、計算のしかた次第で1.99%にも3.70%にも見える——これは値動きの話ではなく、分子の作り方の話である。出所はODX「START 銘柄一覧・銘柄詳細」およびいちごリアルティマネジメントの各ファンド分配金ページ(いずれも2026年8月19日確認)。確定分配金は2026年8月19日時点で1A0Cが第4期まで、1A0Dが第3期までが確定表示で、2026年7月期分は未公表である。本図は計算方法の注意点を示すものであり、特定銘柄の推奨・勧誘や利回りの保証ではない。

分子の話その2——分配金の中身は「利益」だけではない

利回りの分子には、もう一つの落とし穴がある。分配金のなかに「元本の払戻し」が混じっていることだ。

先に公平を期しておくと、これはJリート特有の問題でもSTだけの問題でもない。ARESの集計基準は予想分配金利回りについて「予想分配金には利益超過分配金を含みます」と明記しており、Jリートの平均4.97%も、利益超過分配金を含んだ数字である。違うのは比率のほうだ。

ODXの銘柄詳細は、銘柄によって「うち利益配当」「うち元本払戻し額」を表示している。2026年8月19日時点で内訳が出ているのは3銘柄で、トーセイST3市ヶ谷(1A0G)は次回予想1,620円のうち1,599円——98.7%——が元本払戻しの予想である。KDX名古屋栄ビル(1A0F)は2,000円のうち480円(24.0%)、三井物産G三重イオンタウン鈴鹿(1A0J)は2,622円のうち441円(16.8%)が元本払戻しの予想となっている。1A0Fについては確定値も分かっていて、運用会社の分配金ページによれば2026年4月期(第4期)の2,000円は収益の分配1,219円と元本の払戻し781円(39.1%)だった。同じ「1口2,000円」でも、期によって中身の割合が動いている。

対照として、同じケネディクスグループの上場Jリートを見る。KDX不動産投資法人(証券コード8972)の2026年4月期決算短信は、1口当たり分配金4,166円に対して「1口当たり利益超過分配金」を「-」、つまりゼロと開示している。予想も2026年10月期・2027年4月期とも1口当たり4,227円で、利益超過分配金はいずれも「-」である。配当性向は98.7%だった。

元本の払戻しは、受け取る金額としては同じ現金だが、性質が違う。利益から配られたのではなく、自分の元本の一部が返ってきたものであり、税務上も配当所得としては扱われない。この扱いは別稿『利益超過分配は「元本の払戻し」へ——令和7年度改正の実務を読む』および『「元本減少割合」とは何か——取得価額調整と確定申告の要点』で扱った。利回りを比べるときは、少なくとも「元本払戻しを含む数字なのか、除いた数字なのか」を揃えたい。1A0Gの場合、元本払戻しを除いた利益ベースの年換算利回りは0.04%である。

同じスポンサーで並べてみる

不動産STを出している運用グループの多くは、上場Jリートも運用している。同じ運用者の商品を並べると、器の違いが見えやすい。

ARESマンスリーレポート(2026年8月)が掲載するJリート全58銘柄一覧(投資口価格・時価総額は2026年7月末時点、出所QUICK)から拾うと、ケネディクスはKDX不動産投資法人(8972、投資口価格156,100円・時価総額6,305億円)、いちごはいちごオフィスリート投資法人(8975、96,300円・1,471億円)といちごホテルリート投資法人(3463、114,000円・373億円)、トーセイはトーセイ・リート投資法人(3451、133,400円・505億円)、三井物産は日本ロジスティクスファンド投資法人(8967、98,900円・2,715億円。運用は三井物産ロジスティクス・パートナーズ)を持つ。いずれのグループも、STARTに上場する不動産STの運用者でもある。

数字を最も細かく突き合わせられるのはケネディクスである。KDX不動産投資法人の2026年4月期(第42期)決算短信は、1口当たり純資産157,025円、1口当たり分配金4,166円、利益超過分配金ゼロ、配当性向98.7%、発行済投資口4,039,198口、総資産1兆2,762億円、純資産6,342億円と開示している。2026年7月末の投資口価格156,100円で年換算利回りを計算すると5.42%(4,227円×2÷156,100円)、簿価の1口当たり純資産に対する倍率は0.99倍になる。含み益を足したARES方式のNAV倍率はこれより低くなるはずだが、含み益の総額は当サイトでは確認できていないため算出していない。

同じケネディクスのSTである1A0Fは、NAV倍率0.76倍・年換算利回り4.40%。ただしその2,000円のうち予想480円は元本払戻しである。投資家の数も違う。KDX不動産投資法人の第42期資産運用報告が記載する投資主数は25,702人、1A0FのODX公表の保有者人数は670人で、約38倍の開きがある。

グループ
Jリート(2026年7月末)
不動産ST(2026年8月18日終値)
ケネディクス
KDX不動産投資法人(8972)/ケネディクス不動産投資顧問。投資口価格156,100円・時価総額6,305億円
KDXST名古屋栄ビル(1A0F)ほか。基準価格91,000円・NAV倍率0.76倍
いちご
いちごオフィスリート投資法人(8975)96,300円・1,471億円/いちごホテルリート投資法人(3463)114,000円・373億円。運用はいちご投資顧問
いちごRT3銘柄(1A0C・1A0D・1A0H)。基準価格74,000〜80,790円・NAV倍率0.67〜0.77倍
トーセイ
トーセイ・リート投資法人(3451)/トーセイ・アセット・アドバイザーズ。133,400円・505億円
トーセイST3市ヶ谷(1A0G)。基準価格96,490円・NAV倍率0.95倍
三井物産
日本ロジスティクスファンド投資法人(8967)/三井物産ロジスティクス・パートナーズ。98,900円・2,715億円
三井物産G三重イオンタウン鈴鹿(1A0J)ほか。基準価格99,640円・NAV倍率0.95倍
数字の突き合わせで最も具体的なのはケネディクスである。KDX不動産投資法人の2026年4月期(第42期)決算短信は、1口当たり純資産157,025円、1口当たり分配金4,166円、1口当たり利益超過分配金「-」(ゼロ)、配当性向98.7%、発行済投資口4,039,198口と開示している。予想は2026年10月期・2027年4月期とも1口当たり4,166円ではなく4,227円で、利益超過分配金はいずれも「-」。2026年7月末の投資口価格156,100円で年換算利回りを計算すると5.42%(4,227円×2÷156,100円)簿価の1口当たり純資産に対する倍率は0.99倍となる(含み益を足したARES方式のNAV倍率はこれより低くなるが、含み益の総額は当サイトでは確認できていないため算出していない)。同じケネディクスのSTである1A0Fは、NAV倍率0.76倍・年換算利回り4.40%で、しかも分配金2,000円のうち予想480円が元本払戻しである
表: 同じ運用グループが、上場Jリートと不動産STの両方を出している例。左からグループ名/そのJリートの公開値/そのSTの公開値と読む。スポンサーが同じでも、器(投資法人か信託か)、市場(取引所かPTSか)、期間(無期限か有期か)が違うため、2つのものさしの読み方まで揃うわけではない。出所はARESマンスリーレポート(2026年8月)掲載のJリート銘柄一覧(投資口価格・時価総額は2026年7月末時点、出所QUICK)、KDX不動産投資法人 2026年4月期決算短信(2026年6月17日)、ODX START銘柄詳細(2026年8月19日確認)。本表は同一グループの商品を並べた事実の記録であり、いずれかの推奨・勧誘や優劣の判断ではない。

割安が縮む道筋が違う——自己投資口取得と、償還

NAV倍率が1倍を割っているとき、Jリート投資家が次に考えるのは「その割安がどう解消されうるか」である。ここが、REIT投資家にとって最も読み替えが要る部分かもしれない。

Jリートには、投資法人自身が投資口を買い戻すという手段がある。KDX不動産投資法人は2026年6月17日開催の役員会で、投信法第80条の5第2項の規定により読み替えて適用される同法第80条の2に基づき、自己投資口の取得を決定した。取得し得る投資口の総数は50,000口(上限・発行済投資口の1.2%)、取得価額の総額は60億円(上限)、取得期間は2026年6月18日から9月30日まで、取得した全ての投資口は2026年10月期中に消却する予定である。理由として同投資法人は「本投資法人の投資口価格の水準、手元資金の状況、財務状況及びマーケット環境等を総合的に勘案し、自己投資口の取得及び消却により資本効率の向上と投資主還元を行うことが、中長期的な投資主価値の向上につながると判断しました」と記載している。物件の入れ替えも継続的に行われており、同投資法人は当期に6物件を譲渡している。

不動産STの側には、これとは違う時計がある。期間である。当サイトが記録している募集時の条件では、STARTに上場する不動産STのうち、いちごRT芝公園・東新宿他4件(1A0C)、いちごRT仲之町・小日向他5件(1A0H)、トーセイST3市ヶ谷(1A0G)、三井物産G三重イオンタウン鈴鹿(1A0J)は運用期間を5年程度としており、期間満了時に物件を売却して償還する設計だ。期間の定めは銘柄ごとに異なり、KDX名古屋栄ビル(1A0F)のように信託期間を長くとる設計もあるため、必ず個別に確かめたい。売却から償還までの実務そのものは別稿『物件売却(出口)の実務フロー——売却からST償還まで』で扱った。

この違いは、同じ「NAV倍率0.76倍」の読み方を変える。Jリートでは、NAV倍率が1倍を割った状態が長く続くこと自体は珍しくない。一方、償還期限のあるSTでは、残存期間が短くなるほど市場価格とNAVの距離は無視しにくくなる。ただし、償還額がNAVと一致することを保証する仕組みがあるわけではない。償還時に受け取る額は、そのときの物件売却価格と借入返済後の残余によって決まる。したがって「NAV割れだから償還時に埋まる」と読むのは誤りで、確認すべきなのは償還までの残存期間と、その銘柄の売却・償還の定めが目論見書・有価証券届出書にどう書かれているかである。

なお、不動産STについて自己投資口取得に相当する買い戻し・消却の仕組みがあるかどうかは銘柄ごとに異なる。募集時に運用期間の延長オプションと合わせて買取方針を示している銘柄もあるため、目論見書と有価証券届出書の該当欄で確かめたい。

REIT投資家がSTを見るときに確認する7項目

ここまでを、手を動かす順番に並べ直す。Jリートの2つのものさしは不動産STでもそのまま計算できるが、計算した後に確認する項目が7つある。

分母と分子については、①NAVの基準日はいつか、②分配金の確定額の履歴を見たか、③分配金の内訳(利益配当と元本払戻し)はどうなっているか。商品の形については、④何年の商品か(償還があるか)、⑤売れる場所はあるか。制度と出口については、⑥口座はどうなるか、⑦割安が縮む道筋はあるか。

⑥について補足する。公募の不動産STは特定口座で受け入れられるが、NISAの対象からは外れている。租税特別措置法第37条の14第1項第1号が非課税の対象として列挙する有価証券に特定受益証券発行信託の受益権が含まれておらず、実際に有価証券届出書にも「NISA口座の対象外」と明記されている。Jリートで当たり前に使っている非課税枠は、STでは使えない。金融庁の「NISA口座の利用状況調査」によれば2025年のNISA口座におけるリート買付額は812.8億円で前年比24.0%増だったが、この統計に不動産STは含まれない。口座の扱いは別稿『特定口座で不動産STは買えるのか——入口は3つだけ、分配金はもう1枚の届出、NISAは対象外』で詳しく扱った。

最後にもう一度、本稿の主張を短く言い直しておきたい。NAV倍率も予想分配金利回りも、Jリートと不動産STで同じ式が立つ。式が同じであることは便利だが、同時に危うくもある。分母は約定がなくても動く価格かもしれず、分子は元本の払い戻しが98.7%を占めているかもしれず、商品には5年で終わる期限があるかもしれない。数字を並べる前に、その数字が何から作られたのかを確認する——それだけで、Jリートの経験は不動産STでも十分に使える。

本稿はJリートと不動産STの指標の読み方に関する一般的な整理であり、特定銘柄の推奨・勧誘や投資助言を目的とするものではない。掲載した倍率・利回りは公表値から当サイトが機械的に計算したもので、将来の分配や償還額を保証するものではない。また税務に関する記述は一般的な解説であり、個別の判断は税理士等の専門家に確認されたい。

① NAVの基準日はいつか半年前の数字かもしれない
1口当たり基準価額は決算期ごとに確定・公表される。1A0Fの119,304円は2026年4月期(第4期)の確定値で、8月時点では約4か月前の数字である。倍率を時系列で追うときは、2時点でNAVの基準日が変わっていないかを先に確認する
② 分配金の履歴を見たか「次回予想×2」だけで年換算しない
期によって分配額が数倍動く銘柄がある。発行者・運用会社の分配金ページで確定額の履歴を確認する。ODXの予想欄と支払日欄で対象期がずれている場合もある。
③ 分配金の内訳はどうか利益配当か、元本の払戻しか
ODXの銘柄詳細は「うち利益配当」「うち元本払戻し額」を表示する銘柄がある。1A0Gは次回予想1,620円のうち1,599円(98.7%)が元本払戻しの予想である。元本払戻しは利益ではなく、受益権の一部を払い戻すもので、税務上も配当所得として扱われない。
④ 何年の商品か償還がある
Jリートに満期はないが、不動産STには運用期間があり、期間満了時に物件を売却して償還する設計が一般的である。残存期間はNAV倍率の読み方を変える——償還までの時間が短いほど、市場価格とNAVの距離は無視しにくくなる。もっとも、償還額がNAVと一致することを保証する仕組みではない
⑤ 売れる場所はあるか取り次げる証券会社は限られる
STARTで売買できるのは上場している7銘柄だけで、銘柄によっては取り次げる証券会社が1社しかない。上場していないSTは、そもそも市場での売却ができない。
⑥ 口座はどうなるか特定口座は可、NISAは対象外
公募の不動産STは特定口座で受け入れられるが、NISAの対象からは外れているJリートで当たり前に使っている非課税枠は、STでは使えない
⑦ 割安が縮む道筋はあるか自己投資口取得のような手段の有無
Jリートは投資口価格の水準を踏まえて自己投資口の取得・消却を決議できる(KDX不動産投資法人は2026年6月17日に上限50,000口・60億円の取得を決定)。不動産STについて、同種の買い戻し・消却の仕組みが公表資料で確認できるかは銘柄ごとに異なるため、目論見書・有価証券届出書で確かめる。
図: Jリートに慣れた投資家が不動産STの2つの指標を見るときの確認項目。①②③が数字の作り方、④⑤が商品の形、⑥⑦が制度と出口。出所はODX START銘柄詳細(2026年8月19日確認)、ケネディクス・リアルティ・トークン KDX名古屋栄ビルの基準価額・分配金ページ(同)、KDX不動産投資法人 第42期資産運用報告および2026年4月期決算短信、租税特別措置法第37条の14第1項第1号ならびに有価証券届出書のNISAに関する記載。本図は一般的な整理であり、特定銘柄の推奨・勧誘や投資助言ではない。税務の個別判断は税理士等の専門家に確認されたい。
SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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