公開 2026-08-17 / 読了 12分
答えは「買える。ただし条件がある」。公募の受益証券発行信託型の不動産STは、STARTに上場していなくても税法上は「上場株式等」に当たるため特定口座に入る。一方で、特定口座へ入れる入口は3つしかなく、買った後で口座区分を変えることはできない。分配金を口座に入れるには別の届出が要り、NISAは使えず、GK-TK型のSTはそもそも特定口座の外にいる。条文と、発行体の有価証券届出書・証券会社の公式案内で一つずつ確かめる。
株式や投資信託を売って利益が出たら、本来は自分で「いくらで買っていくらで売ったか」を記録し、確定申告して税金を納める。これを面倒に感じる人が多いため、証券会社が代わりに計算してくれる仕組みが用意されている。それが「特定口座」である。特定口座を使わない普通の口座は「一般口座」と呼ばれ、こちらは計算も申告も自分でやることになる。
特定口座はさらに2つに分かれる。「源泉徴収あり」を選ぶと、売却益が出るたびに証券会社が税金を天引きして国に納めてくれるので、原則として確定申告そのものが要らなくなる。「源泉徴収なし」(簡易申告口座とも呼ばれる)は天引きこそされないが、証券会社が1年分の損益をまとめた「特定口座年間取引報告書」を作ってくれるので、それを見ながら申告すればよい。この報告書は、その年の翌年1月31日までに交付される(租税特別措置法第37条の11の3第7項)。
特定口座は1つの証券会社につき1口座しか作れない(同条第5項は、すでに特定口座を持っている人から重ねて出された開設届出書は受理できないと定める)。開設には、住民票の写しの提示または署名用電子証明書の送信により、氏名・生年月日・住所・個人番号を告知して確認を受ける必要がある(同条第4項)。
ここで不動産STについて疑問が生じる。特定口座に入れられるのは法律上「上場株式等」に限られる。ところが不動産STのうちODXのSTART(二次流通市場)で取引されているのは2026年8月時点で7銘柄にとどまり、大半の銘柄はどこにも「上場」していない。それでも特定口座に入るのか——というのが本稿の問いである。まず3つの口座区分の違いを整理しておく。
租税特別措置法第37条の11第2項は「上場株式等」を14の号で定義している。第1号が「株式等で金融商品取引所に上場されているものその他これに類するものとして政令で定めるもの」——いわゆる普通の上場株式だ。そして第3号の2に、こうある。「特定受益証券発行信託(その信託契約の締結時において委託者が取得する受益権の募集が第八条の四第一項第四号に規定する公募により行われたものに限る。)の受益権」。
公募の不動産STの主流である受益証券発行信託型は、まさにこれに当たる。つまりSTは、取引所に上場しているから上場株式等なのではなく、「公募された特定受益証券発行信託の受益権だから」上場株式等なのである。条件は上場ではなく公募であり、STARTでの取引の有無は関係しない。逆に言えば、プロ向けに私募で組成された同種の受益権は第3号の2に当たらず、上場株式等にはならない。
念のため第1号の側からも確認しておく。「これに類するもの」の中身を定める租税特別措置法施行令第25条の9第2項は、①店頭売買登録銘柄として登録された株式等と②外国金融商品市場において売買されている株式等の2つしか挙げていない。STARTはODXが運営する私設取引システム(PTS)であって金融商品取引所ではないため、STARTでの取引を理由に第1号に該当することはない。STが上場株式等である根拠は、あくまで第3号の2である。
この帰結は発行体の法定開示でも確認できる。2026年7月24日に関東財務局長へ提出されたオルタナ信託株式会社の有価証券届出書(三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜)は、課税上の取扱いとして「本受益権の譲渡損益及び償還損益(元本の払戻しが行われる場合には、当該元本の払戻しによる損益が含まれます。)は、原則として、上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となりますが、特定口座(源泉徴収選択口座)において生じた本受益権の譲渡損益及び償還損益については、申告不要の取扱いを受けることが可能です」と記載している。2026年8月3日提出のSMBC信託銀行の届出書(ウェルス・リアルティ・トークン シックスセンシズ 京都)も、2026年6月30日提出のみずほ信託銀行の有価証券報告書(ケネディクス・リアルティ・トークン湯けむりの宿 雪の花・第6期)も、ほぼ同一の文言を置いている。
販売する側の案内も同じである。野村證券は不動産STのよくある質問で、損益通算の可否を「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座(一般扱い)」の3区分に分けて説明し、いずれも可能としたうえで、源泉徴収ありなら「確定申告は原則不要」、源泉徴収なしなら「特定口座 年間取引報告書」を使って自分で申告する、と書いている。条文・発行体・販売会社の3つが揃って同じことを言っている。
「特定口座に入る」ことと「いつでも特定口座に入れられる」ことは違う。措置法第37条の11の3第3項第2号は、特定口座の特定保管勘定に受け入れられる上場株式等をイ・ロ・ハの3つに限定している。イはその証券会社への買付けの委託により取得したもの(またはその証券会社から取得したもの)で、特定口座開設届出書を出した後に取得し、かつ取得後直ちにその口座へ受け入れるもの。ロは他社にある自分の特定口座からの移管。ハは「イ及びロに掲げるもののほか政令で定める上場株式等」で、その政令である施行令第25条の10の2第14項の第1号が、その証券会社が行う募集または売出しにより取得した上場株式等を挙げている。
不動産STの新規発行を証券会社経由で申し込む場合はハ(施行令第14項第1号)に、STARTで買う場合はイに当たる。他社から預け替えるならロで、これは別稿『STを他社の証券会社へ移管する実務』で扱った手続きにあたる。
そして重要なのは、この列挙に無いものだ。施行令第25条の10の2第14項は第1号から第34号まで受入可能なものを並べているが、「一般口座からの移管」はどの号にも存在しない。例外的に列挙されているのは、贈与・相続・遺贈で取得したもの(第3号・第4号)、出国口座からのもの(第15号)、NISA口座・未成年者口座からのもの(第27号・第28号)、非上場だった株式等が上場等をした日に移すもの(第17号)といった限られた場面に限られる。株式でも同じで、一般口座から特定口座への振替は2009年5月末で終了している。
実務上の意味はひとつに尽きる。買うときに選んだ口座区分が、その銘柄を売るまで続く。申込画面や注文票で口座区分を選ぶ瞬間が、分かれ道である。
特定口座を開いただけでは源泉徴収は始まらない。源泉徴収ありにするには「特定口座源泉徴収選択届出書」を証券会社の営業所へ提出する必要があり、その期限は、その年最初にその口座で上場株式等を譲渡する時まで(措置法第37条の11の4第1項)。提出があると、譲渡の対価が支払われる際に、その都度15%(復興特別所得税を加えて15.315%、ほかに住民税5%)が源泉徴収される。
この選択は年単位で、国税庁も「その選択は、年単位であることから、年の途中で源泉徴収を行わないように変更することはできません」と明示している。年内に一度でも売ってしまうと、その年は選択を変えられない。
源泉徴収ありでも、確定申告が不要になるのは「その口座の中だけで完結する場合」である。複数の証券会社の口座にまたがって損益を通算する場合や、その年に引き切れなかった譲渡損失を翌年以降3年間繰り越す場合(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除)は、確定申告が必要になる。不動産STは銘柄ごとに取り次げる証券会社が限られるため、複数社に口座が分かれやすく、この論点は株式より現実的である。
ここが最も見落とされやすい。特定口座に自動的に入るのは売却・償還の損益だけであり、分配金(配当等)は、何もしなければ源泉徴収されて終わる。同じ口座の中にあっても、売却損とは出会わない。
分配金をその口座に取り込むには「源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書」という別の書類を、源泉徴収ありの特定口座がある証券会社の営業所へ提出する(措置法第37条の11の6第2項)。提出期限は、その配当等の支払が確定する日まで(施行令第25条の10の13第2項)。つまり権利確定日より前に済ませておく必要がある。
受け入れられる範囲にも制限がある。措置法第37条の11の6第4項第1号は、対象を「当該源泉徴収選択口座が開設されている金融商品取引業者等の営業所に係る……振替口座簿に記載若しくは記録がされ、又は当該営業所に保管の委託がされている上場株式等に係るもの」に限っている。不動産STは証券保管振替機構(ほふり)の取扱対象外で、ブロックチェーン上の受益権原簿で権利が管理されるため、前段の「振替口座簿」ではなく後段の「保管の委託」——証券会社との保護預り契約——が根拠になる。
届出を出しておくと何が起きるか。その年にその口座で売却損が出ていれば、受け入れた配当等の総額から損失額を差し引いた残りに対して源泉徴収税額が計算し直され、引かれ過ぎていた分は証券会社から還付される(同条第6項・第7項)。確定申告なしで分配金と売却損が通算されるのが、源泉徴収ありの特定口座の最大の実益である。
分配金そのものの税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税+住民税5%)。根拠は措置法第9条の3第4号で、公募の特定受益証券発行信託の収益の分配について、本来20%の源泉徴収税率を15%に引き下げる特例である。前掲の各届出書も「20.315%(15%の所得税、復興特別所得税(所得税額の2.1%)及び5%の地方税の合計)の税率で源泉徴収及び特別徴収されます」と同じ数字を書いている。
なお、どの年分の所得になるかにも一つ独特の扱いがある。品川・オフィス&ホテルの届出書は、特定受益証券発行信託の収益の分配を収入すべき時期は原則として信託の計算期日だが、信託協会が通知した一定の要件を満たすものについては信託配当支払日を収益認識日とすることが許容される旨の見解を国税庁から受けている、と記載している。計算期日と支払日が年をまたぐ銘柄では、どちらの年分かが変わりうる。
2026年4月1日以後の元本の払戻しから、利益超過分配(当期未処分利益を超える分配)は配当ではなく「みなし譲渡」として扱われる。措置法第37条の11第4項第3号が、特定受益証券発行信託の元本の払戻しにより交付を受ける金銭の額を、上場株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなすと定めている。投資家は自分の取得価額に「元本減少割合」を乗じた金額を差し引いて譲渡損益を計算し、取得価額を減額して次回へ持ち越す(所得税法施行令第114条第4項。元本減少割合は、払戻し直前の元本の額のうち払戻しにより減少した元本の額が占める割合で、小数点以下3位未満の端数は切り上げる)。改正の内容そのものは別稿『利益超過分配は「元本の払戻し」へ——令和7年度改正の実務を読む』と『「元本減少割合」とは何か』で扱った。
本稿の関心は、この計算を誰がやるかである。所得税法施行令第114条第5項は、受託者が払戻しを行った場合に元本減少割合を「当該払戻しを受けた個人に対し」通知しなければならないと定める。それとは別に、租税特別措置法施行令第25条の10の2第26項が、特定口座内保管上場株式等である特定受益証券発行信託の受益権について、その受託者に対し「当該特定口座が開設されている金融商品取引業者等の営業所の長」への通知義務を課している。同項第4号は通知すべき事項として「当該払戻しを行つた旨及び当該払戻しに係る……元本減少割合」を挙げる。
つまり、投資家に伝えるルートと、証券会社の計算システムに伝えるルートが別々に法定されている。だから源泉徴収ありの特定口座なら、投資家が何もしなくても取得価額の調整と源泉徴収が回る。野村證券が2026年3月に公表した「不動産セキュリティ・トークン 分配金の取扱いに関するお知らせ」も、「元本の払戻しが行われる場合、特定口座(源泉徴収なし)及び一般口座のお客様におかれましては、確定申告が必要となります」と、裏返しの言い方で同じことを述べ、確定申告に必要な元本減少割合は各商品のアセット・マネージャーのホームページで公表される予定だと案内している。
口座区分の選択が最も金額として効いてくるのが、この論点である。利益超過分配を行う銘柄を一般口座で持つと、分配のたびに自分で取得価額を追いかけ、毎年申告することになる。
NISAは使えない。理由は条文の作りにある。NISAの成長投資枠(特定非課税管理勘定)に受け入れられるのは、措置法第37条の14第1項第1号イからハまでに掲げる上場株式等に限られる。イは措置法第37条の10第2項第1号から第5号までの株式等のうち「第37条の11第2項第1号に掲げる株式等に該当するもの」、すなわち金融商品取引所に上場されているもの等。ロは公募の証券投資信託の受益権。ハは特定投資法人の投資口。
特定受益証券発行信託の受益権は措置法第37条の10第2項第5号に挙げられており、株式等ではある。しかし前節で見たとおり、上場株式等としての根拠は第37条の11第2項第3号の2であって第1号ではない。したがってイの要件を満たさず、ロにもハにも当たらない。NISAの受入対象から外れる。発行体の側も明快で、品川・オフィス&ホテルとシックスセンシズ京都の両届出書は「なお、本受益権はNISA口座の対象外となります」と一文を置いている。
もう一つ、器そのものが違うため特定口座の外にいるのがGK-TK型のSTである。合同会社(GK)に匿名組合(TK)出資する形の商品で、投資家が持つのは匿名組合出資持分——株式等ですらない。2026年7月16日に提出された合同会社LST1号の有価証券届出書(ロードスターグループのデジタル証券 横浜伊勢佐木町ホテル)は、「個人である匿名組合員がその営業者から受ける利益の分配は、原則として、雑所得に分類され他の所得と総合して課税標準を構成し、累進税率が適用されて所得税額が計算され、所得税の申告納付(確定申告)をする必要があります」と記載し、源泉徴収税率は20.42%(所得税20%に復興特別所得税2.1%が付加されたもの)としている。同書に「特定口座」の語は一度も現れない。
受益証券発行信託型なら申告分離20.315%で完結し特定口座も使えるのに対し、GK-TK型は総合課税・累進税率で確定申告が必須になる。同じ「不動産ST」「デジタル証券」という呼び名でも、器が違えば投資家の手取りも手間も別物になる。器の違いそのものは別稿『不動産STOのスキーム比較』と『匿名組合型(GK-TK)の会計・税務』で扱った。自分が買う銘柄がどちらかは、目論見書・有価証券届出書の証券情報欄で確認できる。
ここまでを、買う前・保有中・申告時の順で1枚にまとめておく。
最後に一点だけ、税額計算とは別の注意を書いておきたい。源泉徴収ありの特定口座で完結させている限り、その分配金や売却益は所得として申告書に載らない。しかし他社の口座の損益と通算するために申告に踏み出すと、国税庁が明示するとおり、申告する源泉徴収口座に受け入れた分配金を申告不要にすることはできず、所得金額が増える。扶養の判定や社会保険料に影響しうるため、通算による節税額とあわせて考える必要がある。
本稿は公表された条文・国税庁の解説・発行体の法定開示・証券会社の公式案内に基づく一般的な整理であり、税務助言ではない。取扱いは投資家の属性、口座区分、銘柄の設計、改正の経過措置によって異なる。実際の手続きの可否や期限は口座を開設している証券会社の案内に従い、申告・投資判断にあたっては必ず税理士等の専門家、および各商品の目論見書・契約締結前交付書面を確認してほしい。当サイトは独立・非勧誘の不動産ST記録機関として、公表された制度と一次資料の整理のみを行っており、特定の銘柄・証券会社の推奨や勧誘は行わない。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。