記録基盤の歩み——ibet for Finは器を先に共同のものにし、Progmatは案件を積んでから会社を分けた
公開 2026-08-28 / 読了 12分
国内の不動産STは、ほぼすべてが「Progmat」か「ibet for Fin」のどちらかの上に記録されている。この2つがどう生まれ、どうやって「1社のものではない器」になったのかを、両社と関係各社が公表したリリースだけで年表にした。本稿は2026年8月28日に回顧として執筆したもので、当サイト収録79銘柄の実データによる勢力図と、2021年に示されたロードマップの答え合わせまでを含む。
不動産STは紙の券面がなく、「いま誰が何口持っているか」はコンピュータ上の記録がすべてである。その記録を行うシステムが記録基盤(プラットフォーム)で、国内の公募不動産STはほぼ「Progmat」か「ibet for Fin」のどちらかに載っている。株式のように証券保管振替機構(ほふり)が一元管理しているのではなく、銘柄ごとに基盤が違う——ODXが公表する新規取扱銘柄の概要には「セキュリティトークンのプラットフォーム」という欄があり、銘柄ごとに基盤名が書かれている。
ビットコインのように誰でも参加できるパブリック型ではなく、許可された事業者だけがノードを持つ型をコンソーシアム型という。ibet for Finは「セキュリティトークンを販売・流通できる参加者を、金融庁登録を受けた金融商品取引業者・登録金融機関に限定」すると明記している。2026年になって両基盤ともパブリックチェーンへ接続する方向を打ち出したのが本稿の終盤の話である。
図: 本稿を読む前に押さえる3つの言葉。①が「基盤とは何をするものか」、②が「基盤と法律上の名簿の関係」、③が「どんな種類の台帳か」である。出所は信託法第186条(e-Gov法令検索)、ODX「[セキュリティトークン]新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、ibet for Finコンソーシアム公式サイト(2026年8月28日確認)。本図は用語の説明であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。
転機は2021年である。SMBC日興証券・SBI証券・野村證券・BOOSTRYの4社は、2021年4月1日に「ibet for Finコンソーシアム」を設立した(公表は同年6月15日)。リリースは、これを「参加企業が共同で運営を行うコンソーシアム型のネットワーク」と定義し、BOOSTRYが開発した基本システムと標準機能群をオープンソースソフトウェアとして公開していること、それによって「異なる金融グループがソフトウェアを自由に改良して再配布を行うことが可能となり、また各社が独自開発した仕組みを追加することも可能」であることを明記している。GitHubのBoostryJPには、ネットワーク定義・スマートコントラクト・ウォレットAPI・発行企業用アプリケーションの各リポジトリが並ぶ。
この順番が重要である。BOOSTRYは、自社が作ったネットワークを、案件を積み上げる前に4社の共同運営に渡した。当サイトのデータベースで、ibet for Fin上の不動産STとして最初に発行された銘柄は2022年9月6日で、コンソーシアム設立から1年5か月あとになる。その後、2022年5月に野村信託銀行が参加し、2023年3月30日には日本取引所グループが資本参加して出資比率は野村HD51%・NRI34%・SBI10%・JPX5%となった。このときのリリースは、ibet for Finを「国内唯一のコンソーシアムにより運営(現時点で15社の共同運営)されている分散型金融の基盤」と説明している。
表: BOOSTRYとibet for Finの歩み。左から順に、時点/区分/出来事と読む。出所はNRIニュースリリース(2019年9月2日・2020年3月30日)、野村ホールディングス「株式会社BOOSTRYの証券トークン事業の推進に関する最終契約締結について」(2020年12月3日)および「日本取引所グループによるBOOSTRYへの資本参加およびセキュリティ・トークン事業の推進に関する契約締結のお知らせ」(2023年3月30日)、SMBC日興証券ほか4社連名「セキュリティトークンを取り扱う ibet for Fin コンソーシアムの設立について」(2021年6月15日)、BOOSTRY「国内セキュリティ・トークン市場総括レポート(2025年度)を公表」(2026年4月2日)、BOOSTRYニュース一覧・会社概要(2026年8月28日確認)、ibet for Finコンソーシアム公式サイト(同)、ODX「新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、当サイト収録の銘柄データベース。本表は記録であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。
広がりを示す数字も、それぞれの形に沿って公表されている。ibet for Finの公式サイトは2026年8月28日時点で、参加企業として20社を実名で並べ、ほかに「他、金融機関1社」とBOOSTRY(事務局)を掲げ、公募型STの累計発行総額を「約1,100億円(2026年3月現在・BOOSTRY社調べ)」としている。Progmatのコーポレートサイトは同日時点でDCCの参加企業を357社と表示し、2026年2月26日の記事では全ST案件の運用残高を4,396億円超としている。ただし前者は公募型STの累計発行額、後者はST案件の運用残高であり、母集団も時点も測り方も違う。並べて優劣を論じられる数字ではない。
技術の中身も、公表のされ方が対照的である。ibetはネットワーク定義がGitHubで公開されており、2026年8月28日時点のリポジトリはノードクライアントに「ibet-Core」、合意形成にQBFT、スマートコントラクトのEVMバージョンに「berlin」を挙げている。Progmatはソースを公開していない一方、2026年2月26日に「Progmat ST」の分散台帳をCorda5からAvalancheへ移行し、全ST案件をEVM互換化・段階的にパーミッションレス化すると自ら公表した。つまり両者とも、2026年に入ってパブリックチェーンとの接続に向かっている。基盤の技術は入れ替わる——この点は、当サイトの別稿『Progmatとibet for Fin』でも「基盤選定は今日の技術仕様より生態系と接続先で考えるのが実務的」と書いたとおりである。
表: 2つの記録基盤が「中立」に至った道筋の比較。左から順に、論点/ibet for Fin/Progmatと読む。出所は本文および前2表に挙げた各社リリース、BOOSTRYのGitHubリポジトリ「ibet-Network」(2026年8月28日確認)、ibet for Finコンソーシアム公式サイト(同)、Progmatコーポレートサイト(同)。本表は公表情報の整理であり、基盤の優劣の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。
収録79銘柄で見る勢力図と、STARTでの同時デビュー
当サイトが2026年8月28日時点で収録している不動産ST 79銘柄を基盤別に数えると、Progmat 40件、ibet for Fin 21件、OwnerShip 10件、そのほかSecuritize・Hash DasH・ADDX・Loadstar Chainが各1〜2件、基盤が特定できていないものが1件である。募集額が判明している68銘柄の合計3,539億1,359万5,000円で見ると、Progmatが59.1%、ibet for Finが35.6%を占め、この2つで9割を超える。
発行年で横に並べると、勢力図が動いていることも見える。2021年から2023年まではProgmatが件数で大きく先行していたが、2024年は7対6、2026年は4対5とibet for Finが件数で上回った(2026年には本稿執筆日時点で発行日が到来していない募集中の案件を含む)。ただし金額ではProgmatが依然として約6割である。
象徴的なのが2023年12月25日、ST二次流通市場STARTの開業初日である。ODXが同年11月20日に公表した「新規取扱銘柄概要」は、取扱いを始める2銘柄それぞれについて「セキュリティトークンのプラットフォーム」を記載しており、1A0A(KDXSTドーミーイン神戸元町)は「ibet for Fin」、1A0C(いちごRT芝公園・東新宿他4件)は「Progmat」である。市場は、どちらか一方の基盤の延長としてではなく、最初の日から2つの基盤を並べて開いた。STARTの上場7銘柄は、本稿執筆日時点でProgmat 4・ibet for Fin 3に分かれている。
なお本稿の取材で、当サイトのデータベースが1A0Aの基盤を「未確認」としていたことが分かり、上記のODX資料を出所として2026年8月28日にibet for Finへ訂正した。同じ「デジタル名義書換方式」という記載のためにいまも基盤を特定できていない銘柄が1件残っている(KDX住宅ポートフォリオ(VA)・2025年6月18日発行)。分からないものは分からないまま置く方針は変えないが、一次資料が見つかり次第あらためる。
記録基盤
銘柄数
判明発行額(円)
額シェア
最初の案件(発行日/銘柄)
Progmat
40
2,090億3,321万
59.1%
2021年8月12日/渋谷神南
ibet for Fin
21
1,258億4,338万
35.6%
2022年9月6日/ALTERNAレジデンス銀座・代官山
OwnerShip
10
36億1,500万
1.0%
2023年9月29日/rengaプロ第1号
Securitize
2
18億2,800万
0.5%
2025年6月16日/セゾンのスマート不動産投資
Hash DasH
2
18億1,500万
0.5%
2023年7月26日/渋谷神宮前オフィス
ADDX
2
14億4,000万
0.4%
2021年11月22日/トーセイPF S1
Loadstar Chain
1
38億3,000万
1.1%
2026年8月28日/横浜伊勢佐木町ホテル
(基盤未確認)
1
65億0,900万
1.8%
2025年6月18日/KDX住宅ポートフォリオ(VA)
発行年
Progmat
ibet for Fin
OwnerShip
その他・未確認
計
2021年
2
0
0
1
3
2022年
5
2
0
0
7
2023年
10
4
2
2
18
2024年
7
6
1
0
14
2025年
7
3
2
3
15
2026年
4
5
3
1
13
発行日未確認
5
1
2
1
9
合計
40
21
10
8
79
下の表を年で横に読むと、勢力図の動きが見える。2021年から2023年まではProgmatが件数で圧倒していたが、2024年に7対6まで詰まり、2026年は4対5とibet for Finが件数で上回っている(2026年は本稿執筆日時点で発行日が到来していない募集中の案件を含む)。ただし金額では依然としてProgmatが約6割を占める。なお「基盤未確認」の1件は、当サイトのデータベースに基盤名ではなく「デジタル名義書換方式」という名義書換の方式名しか記録できていない銘柄である。同じ状態だったSTART上場銘柄の1A0A(KDXSTドーミーイン神戸元町)は、本稿の取材でODXの新規取扱銘柄概要に「セキュリティトークンのプラットフォーム ibet for Fin」と記載されているのを確認できたため、2026年8月28日にibet for Finとして収録を訂正した。
表: 当サイト収録79銘柄(2026年8月28日時点)の記録基盤別内訳と、発行年ごとの件数。上の表は左から順に、基盤/銘柄数/募集額が判明している銘柄の合計額/その額シェア/その基盤で最初の案件、下の表は左から順に、発行年/基盤別の件数/合計と読む。判明発行額は募集額が確認できた68銘柄の合計3,539億1,359万5,000円に対する内訳で、市場全体の発行総額ではない。表記ゆれ「ibet for Fin (BOOSTRY)」2件はibet for Finに含めた(当サイトの発行基盤別ページと同じ集約規則)。出所は当サイト収録の銘柄データベース(各銘柄の発行体プレスリリース・EDINET提出書類等で確認済み)。本表は収録データの集計であり、市場全体の網羅を保証するものでも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。
組成側にとって、基盤の選定は多くの場合「使いたい信託銀行がどちらに接続済みか」で事実上決まる。当サイトの収録データでも、三菱UFJ信託銀行が受託者の案件にはProgmat、SMBC信託銀行やみずほ信託銀行が受託者の案件にはibet for Finが目立つ。投資家側にとっては、基盤の違いでリターンが変わるわけではない。ただし譲渡の効力がいつ生じるかの書きぶりは基盤によって違い、これは開示書類を読めば分かる(別稿『信託受益権の譲渡と対抗要件』)。