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公募ST累計(2025年度末)3,333億円▲1,650ST市場残高(推計)1兆531億円▲81%START時価総額(2026-03)336億円収録銘柄79収録発行額(判明分)3,539億円募集中5START上場7銘柄
▲赤=増加/出所: 業界公表値・当サイト集計
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記録基盤の歩み——ibet for Finは器を先に共同のものにし、Progmatは案件を積んでから会社を分けた

公開 2026-08-28 / 読了 12

国内の不動産STは、ほぼすべてが「Progmat」か「ibet for Fin」のどちらかの上に記録されている。この2つがどう生まれ、どうやって「1社のものではない器」になったのかを、両社と関係各社が公表したリリースだけで年表にした。本稿は2026年8月28日に回顧として執筆したもので、当サイト収録79銘柄の実データによる勢力図と、2021年に示されたロードマップの答え合わせまでを含む。

この記事の立ち位置——2026年8月28日に、公表資料だけで書いた回顧

本稿は2026年8月28日に回顧として執筆した。過去の日付で書いたものではなく、当日までに各社が公表していた資料を並べ直したものである。使った資料は、株式会社BOOSTRYと野村ホールディングス・野村総合研究所のニュースリリース、SMBC日興証券ほか4社連名のリリース、三菱UFJ信託銀行および株式会社Progmatのリリースと自社サイト、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の公表文書、そしてBOOSTRYが公開しているソースコードのリポジトリで、いずれも一次資料である。報道記事や取材による伝聞は使っていない。

「どちらが優れているか」は書かない。両者が公表している数字は、母集団も基準日も測り方も違い、同じ物差しの上に載らないからである。本稿が扱うのは、2つの基盤が「1社のものではない」状態にどうやって、どの順番で到達したかという記録である。特定の事業者・銘柄の推奨や勧誘を目的とするものではない。

まず言葉——「記録基盤」とは誰の何か

不動産STには紙の券面がない。誰が何口持っているかは、コンピュータ上の記録がすべてである。その記録を担うシステムを、この分野では記録基盤(プラットフォーム)と呼ぶ。株式が証券保管振替機構によって一元的に扱われるのとは違い、不動産STは銘柄ごとに基盤が分かれている。ODXが銘柄の取扱いを始めるときに出す「新規取扱銘柄概要」には、「セキュリティトークンのプラットフォーム」という欄があり、そこに基盤の名前が書かれる。

ここで取り違えやすいのが、法律上の名簿との関係である。権利者の名簿である受益権原簿を備えるのは受託者、すなわち信託銀行であって(信託法第186条)、基盤の運営会社ではない。基盤は原簿と一体で動く仕組みであり、基盤の会社が投資家の権利そのものを預かっているわけではない。原簿と基準日の実務は別稿『受益権原簿と基準日の実務』で扱った。

① 記録基盤(プラットフォーム)誰が持っているかを書き留めるシステム
不動産STは紙の券面がなく、「いま誰が何口持っているか」はコンピュータ上の記録がすべてである。その記録を行うシステムが記録基盤(プラットフォーム)で、国内の公募不動産STはほぼ「Progmat」か「ibet for Fin」のどちらかに載っている。株式のように証券保管振替機構(ほふり)が一元管理しているのではなく、銘柄ごとに基盤が違う——ODXが公表する新規取扱銘柄の概要には「セキュリティトークンのプラットフォーム」という欄があり、銘柄ごとに基盤名が書かれている。
② 受益権原簿との関係法律上の名簿は受託者が持つ
法律上の権利者名簿は受益権原簿で、これを備えるのは受託者(信託銀行)である(信託法第186条)。基盤はその原簿と一体で動く仕組みであり、基盤の運営会社が投資家の権利者名簿を代わりに持っているわけではない。原簿そのものの実務は別稿『受益権原簿と基準日の実務』で扱った。
③ コンソーシアム型ブロックチェーン参加者を絞った台帳
ビットコインのように誰でも参加できるパブリック型ではなく、許可された事業者だけがノードを持つ型をコンソーシアム型という。ibet for Finは「セキュリティトークンを販売・流通できる参加者を、金融庁登録を受けた金融商品取引業者・登録金融機関に限定」すると明記している。2026年になって両基盤ともパブリックチェーンへ接続する方向を打ち出したのが本稿の終盤の話である。
図: 本稿を読む前に押さえる3つの言葉。①が「基盤とは何をするものか」、②が「基盤と法律上の名簿の関係」、③が「どんな種類の台帳か」である。出所は信託法第186条(e-Gov法令検索)、ODX「[セキュリティトークン]新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、ibet for Finコンソーシアム公式サイト(2026年8月28日確認)。本図は用語の説明であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。

ibet for Fin——会社が先、共同運営が次、不動産は最後

野村ホールディングスと野村総合研究所は、2019年9月2日に合弁会社「株式会社BOOSTRY」を設立した。NRIのリリースによれば、事業内容は「ブロックチェーン技術により有価証券等の権利を交換する基盤の開発と提供事業」、出資比率は野村HD66%・NRI34%、資本金は資本準備金を含めて11億7,500万円である。

最初の実装は不動産ではなかった。2020年3月30日、NRI自身が第1回無担保社債「デジタルアセット債」(発行総額2,500万円)と第2回「デジタル債」(同500万円)を少人数私募で発行し、いずれも社債原簿管理人をBOOSTRYが務めた。利息の代わりにデジタルアセットを付与する、社債権者を継続的に把握する——今日の不動産STの数百億円規模の案件と並べると、出発点は合計3,000万円の実験だった。

転機は2021年である。SMBC日興証券・SBI証券・野村證券・BOOSTRYの4社は、2021年4月1日に「ibet for Finコンソーシアム」を設立した(公表は同年6月15日)。リリースは、これを「参加企業が共同で運営を行うコンソーシアム型のネットワーク」と定義し、BOOSTRYが開発した基本システムと標準機能群をオープンソースソフトウェアとして公開していること、それによって「異なる金融グループがソフトウェアを自由に改良して再配布を行うことが可能となり、また各社が独自開発した仕組みを追加することも可能」であることを明記している。GitHubのBoostryJPには、ネットワーク定義・スマートコントラクト・ウォレットAPI・発行企業用アプリケーションの各リポジトリが並ぶ。

この順番が重要である。BOOSTRYは、自社が作ったネットワークを、案件を積み上げる前に4社の共同運営に渡した。当サイトのデータベースで、ibet for Fin上の不動産STとして最初に発行された銘柄は2022年9月6日で、コンソーシアム設立から1年5か月あとになる。その後、2022年5月に野村信託銀行が参加し、2023年3月30日には日本取引所グループが資本参加して出資比率は野村HD51%・NRI34%・SBI10%・JPX5%となった。このときのリリースは、ibet for Finを「国内唯一のコンソーシアムにより運営(現時点で15社の共同運営)されている分散型金融の基盤」と説明している。

時点
区分
出来事
2019年9月2日
会社
野村ホールディングスと野村総合研究所が合弁会社「株式会社BOOSTRY」を設立。出資比率は野村HD66%・NRI34%、資本金11億7,500万円(資本準備金含む)、初代社長は佐々木俊典氏
2020年3月30日
実装
NRIが日本初の「デジタルアセット債」(第1回無担保社債・2,500万円)と「デジタル債」(第2回・500万円)を少人数私募で発行。いずれも社債原簿管理人はBOOSTRY
2020年7月22日→12月3日
資本
SBIホールディングスへの株式一部譲渡で基本合意し、12月3日に最終契約。出資比率は野村HD56%・NRI34%・SBI10%に
2021年4月1日
共同運営
SMBC日興証券・SBI証券・野村證券・BOOSTRYの4社が「ibet for Finコンソーシアム」を設立(公表は6月15日)。ネットワークの基本システムと標準機能群はオープンソースとして公開
2021年4月19日
実装
BOOSTRYが自社ニュースに掲げるSBI証券の「国内初となる一般投資家向けSTO」(デジタル社債)
2022年5月24日
参加
野村信託銀行がコンソーシアムに参加
2022年9月6日
不動産
当サイト収録データで、ibet for Fin上の不動産STとして最初に発行された銘柄(三井物産DAM ALTERNAレジデンス銀座・代官山)
2023年3月30日
資本
日本取引所グループが資本参加。出資比率は野村HD51%・NRI34%・SBI10%・JPX5%、資本金23億5,000万円。リリースはibet for Finを「国内唯一のコンソーシアムにより運営(現時点で15社の共同運営)」と記す
2023年12月25日
市場
STARTの開業初日に取り扱われた2銘柄のうち、1A0A(KDXSTドーミーイン神戸元町)の基盤がibet for Fin
2026年4月2日
集計
「国内セキュリティ・トークン市場総括レポート(2025年度)」を公表。2026年3月末で公募STの累積発行額3,333億円・82トークン、うち2025年度単年は1,650億円・24トークン
2026年7月8日
技術
業者間取引でEthereumとステーブルコインを使うパブリックブロックチェーン活用の実証成果を公表
2026年8月28日時点
現在
資本金33億3,000万円、代表者は平井数磨氏。コンソーシアム参加企業は実名20社に「他、金融機関1社」とBOOSTRY(事務局)。ibet for Finの公募型ST累計発行総額は「約1,100億円(2026年3月現在・BOOSTRY社調べ)」
この年表の要は「共同運営」の行が早い位置にあることである。BOOSTRYは2019年に野村グループ2社の合弁として生まれたが、ネットワークそのものは2021年4月1日に4社のコンソーシアムへ渡し、ソフトウェアをオープンソースで公開した不動産STでの採用は2022年9月まで待つことになり、それまでの実装は社債が中心だった——最初の案件が2,500万円と500万円の私募社債だったことは、今日の数百億円規模の案件と並べると落差が大きい。
表: BOOSTRYとibet for Finの歩み。左から順に、時点/区分/出来事と読む。出所はNRIニュースリリース(2019年9月2日・2020年3月30日)、野村ホールディングス「株式会社BOOSTRYの証券トークン事業の推進に関する最終契約締結について」(2020年12月3日)および「日本取引所グループによるBOOSTRYへの資本参加およびセキュリティ・トークン事業の推進に関する契約締結のお知らせ」(2023年3月30日)、SMBC日興証券ほか4社連名「セキュリティトークンを取り扱う ibet for Fin コンソーシアムの設立について」(2021年6月15日)、BOOSTRY「国内セキュリティ・トークン市場総括レポート(2025年度)を公表」(2026年4月2日)、BOOSTRYニュース一覧・会社概要(2026年8月28日確認)、ibet for Finコンソーシアム公式サイト(同)、ODX「新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、当サイト収録の銘柄データベース。本表は記録であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。

Progmat——案件が先、会社は後

三菱UFJ信託銀行は2019年11月6日、協業企業全21社と「ST研究コンソーシアム」(SRC)を設立した。基盤「Progmat」がサービスインしたのは2021年3月で、これは同年7月9日の共同リリース(三菱UFJ信託銀行・ケネディクス・野村證券・SBI証券)に「2021年3月にサービスインした『Progmat』」と書かれている。

同じリリースは、なぜ受益証券発行信託というスキームを選んだのかも説明している。GK-TK(合同会社と匿名組合)では法的に有効な権利移転のために公証役場で確定日付を取得したうえで営業者への通知または承諾が要り、TMK(特定目的会社)では裏付資産の入替えのたびに資産流動化計画の変更と利害関係人の事前承諾が要る。そこで「受益証券発行信託」と「Progmat」を組み合わせ、確定日付の取得を要さずデジタル完結で取引の安定性を担保する仕組みを構築した、という筋道である。この選択が、国内の公募不動産STのかたちをほぼ決めた。約1か月後の2021年8月12日、第1号のケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南(14億5,300万円)が発行された。

SRCの会員は21社(2019年11月)から52社(2021年7月)、62社(2021年10月)、84社(2022年2月)へと増え、2022年4月に「デジタルアセット共創コンソーシアム」(DCC)へ改組された。改組の理由として当時の記事は、対象がSTからステーブルコインやNFTまで広がったこと、会員企業間の協働が「既に研究フェーズを超え、新たなエコシステムを共創するフェーズに移行している」ことを挙げている。

そして2023年、基盤事業そのものが三菱UFJ信託銀行から切り出された。同年9月11日、三菱UFJ信託銀行・みずほ信託銀行・三井住友信託銀行・三井住友フィナンシャルグループ・SBI PTSホールディングス・JPX総研・NTTデータ・Datachainの8社が「株式会社Progmat」設立の株主間契約で合意し、10月2日に会社が設立された。資本金1億円、出資比率は三菱UFJ信託49.0%、NTTデータ13.5%、みずほ信託・三井住友信託・三井住友FGが各7.5%、SBI PTS・JPX総研・Datachainが各5.0%。三菱UFJ信託銀行社長のコメントは「改めて、独立化の目的は『オープン化』です」と述べている。設立当日のリリースには「設立時点で既に818億円を超える運用規模のファンドがProgmatを活用してトークンを発行・流通させて」いるとある——器を分ける前に、中身は既に積み上がっていた。

時点
区分
出来事
2019年11月6日
座組
三菱UFJ信託銀行が協業企業全21社と「ST研究コンソーシアム」(SRC)を設立
2021年3月
実装
「Progmat」がサービスイン(2021年7月9日の共同リリースに「2021年3月にサービスインした『Progmat』」と記載)
2021年7月9日
不動産
三菱UFJ信託銀行・ケネディクス・野村證券・SBI証券が、受益証券発行信託を用いた資産裏付型STの本邦初の公募で協業すると公表。SRC会員は52社に。GK-TKやTMKでは確定日付や資産流動化計画の変更が要るという実務課題を挙げ、受益証券発行信託を選んだ理由を明記
2021年8月12日
不動産
第1号(ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南)が発行完了。14億5,300万円
2021年10月6日
提言
SRC第1期WGの報告書と「デジタル証券PTSに関する提言」を公表(会員62社)。「2023年度より『大阪デジタルエクスチェンジ』と『Progmat』の連携によるセカンダリ市場確立」を目標に掲げる
2022年2月〜4月
座組
会員84社となったSRCを、2022年4月に「デジタルアセット共創コンソーシアム」(DCC)へ改組。あわせてステーブルコイン基盤「Progmat Coin」と資金決済WGを立ち上げ
2023年9月11日
会社
三菱UFJ信託・みずほ信託・三井住友信託・三井住友FG・SBI PTS HD・JPX総研・NTTデータ・Datachainの8社が「株式会社Progmat」設立の株主間契約で合意(DCC会員214社)。目的を「オープン化」と説明
2023年10月2日
会社
株式会社Progmatが設立。資本金1億円、出資比率は三菱UFJ信託49.0%・NTTデータ13.5%・みずほ信託7.5%・三井住友信託7.5%・三井住友FG7.5%・SBI PTS 5.0%・JPX総研5.0%・Datachain 5.0%。代表取締役Founder and CEOは齊藤達哉氏。「設立時点で既に818億円を超える運用規模のファンドがProgmatを活用」と公表
2023年12月25日
市場
STARTの開業初日に取り扱われた2銘柄のうち、1A0C(いちごRT芝公園ほか)の基盤がProgmat
2026年2月26日
技術
「Progmat ST」の分散台帳を「Corda5」から「Avalanche」へ移行し、全ST案件をEVM互換化・段階的にパーミッションレス化すると公表。この時点の全ST案件の運用残高は4,396億円超
2026年8月28日時点
現在
DCCの参加企業は357社(コーポレートサイト表示)
ibetの年表と逆に、Progmatは「会社」の行が最後のほうに来る。三菱UFJ信託銀行という1行の内製基盤として2021年3月に動き出し、公募不動産STの第1号(2021年8月)も、その後の主要案件も、独立会社ができる前に積み上がっている。別会社化の理由を、当の三菱UFJ信託銀行社長は「独立化の目的は『オープン化』です」と述べている会員数は21社(2019年11月)→52社(2021年7月)→62社(2021年10月)→84社(2022年2月)→214社(2023年9月)→357社(2026年8月)と増えた——ただしDCCは基盤の利用者だけの集まりではなく、デジタルアセット全般の共創枠組みである点に注意したい。
表: ST研究コンソーシアムから株式会社Progmatまでの歩み。左から順に、時点/区分/出来事と読む。出所は三菱UFJ信託銀行ほか3社「STOビジネスにおける業種横断での協業と資産裏付型セキュリティトークンの本邦初の公募について」(2021年7月9日)、三菱UFJ信託銀行「『ST研究コンソーシアム』における検討結果報告書及び『デジタル証券PTSに関する提言』の公表について」(2021年10月6日)、Progmat(SRC運営事務局)「『Progmat Coin』の提供と『デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)』への改組について」(2022年2月14日)、三菱UFJ信託銀行ほか8社「デジタルアセット市場における“ナショナルインフラ”構築に向けた、『株式会社Progmat』の設立に関する株主間契約締結について」(2023年9月11日)、Progmat, Inc.「Progmatの新経営体制および情報公開について」(2023年10月2日)、Progmat「【速攻解説】金融システムのパブリックチェーン展開を加速する『インフラ大刷新』って、どゆこと?」(2026年2月26日)、Progmatコーポレートサイト(2026年8月28日確認)、ODX「新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、当サイト収録の銘柄データベース。本表は記録であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。

同じ到達点への、正反対の順路

2つの年表を並べると、構図がはっきりする。ibetは器を先に共同のものにしてから案件を積み、Progmatは案件を積んでから器を分けた。方法も違う。ibetはネットワークの運営をコンソーシアムに置き、ソフトウェアをオープンソースで公開して「特定企業が独占できない運営形態」(2023年3月30日リリース)をとった。Progmatは事業を別会社に切り出し、筆頭株主である三菱UFJ信託銀行でも49.0%にとどめることで、資本の側から1社支配を外した。

広がりを示す数字も、それぞれの形に沿って公表されている。ibet for Finの公式サイトは2026年8月28日時点で、参加企業として20社を実名で並べ、ほかに「他、金融機関1社」とBOOSTRY(事務局)を掲げ、公募型STの累計発行総額を「約1,100億円(2026年3月現在・BOOSTRY社調べ)」としている。Progmatのコーポレートサイトは同日時点でDCCの参加企業を357社と表示し、2026年2月26日の記事では全ST案件の運用残高を4,396億円超としている。ただし前者は公募型STの累計発行額、後者はST案件の運用残高であり、母集団も時点も測り方も違う。並べて優劣を論じられる数字ではない。

技術の中身も、公表のされ方が対照的である。ibetはネットワーク定義がGitHubで公開されており、2026年8月28日時点のリポジトリはノードクライアントに「ibet-Core」、合意形成にQBFT、スマートコントラクトのEVMバージョンに「berlin」を挙げている。Progmatはソースを公開していない一方、2026年2月26日に「Progmat ST」の分散台帳をCorda5からAvalancheへ移行し、全ST案件をEVM互換化・段階的にパーミッションレス化すると自ら公表した。つまり両者とも、2026年に入ってパブリックチェーンとの接続に向かっている。基盤の技術は入れ替わる——この点は、当サイトの別稿『Progmatとibet for Fin』でも「基盤選定は今日の技術仕様より生態系と接続先で考えるのが実務的」と書いたとおりである。

論点
ibet for Fin(BOOSTRY)
Progmat
出自
証券会社グループ(野村HD+NRIの合弁として2019年9月に会社が先にできた)
信託銀行の社内事業(三菱UFJ信託銀行が開発・提供する基盤として2021年3月にサービスイン)
「1社のものではない」にした方法
ネットワークを4社のコンソーシアムで共同運営する(2021年4月1日)。開発会社BOOSTRYは事務局を務める
基盤事業を8社出資の別会社に切り出す(2023年10月2日)。筆頭株主の三菱UFJ信託銀行でも出資比率は49.0%
その時期と、実案件との前後
共同運営が先。ibet for Fin上の不動産ST第1号は1年5か月後の2022年9月
実案件が先。会社設立の時点で「818億円を超える運用規模」が既に基盤上で動いていた
ソフトウェアの扱い
基本システムと標準機能群をオープンソースとして公開(GitHub BoostryJP)。「異なる金融グループがソフトウェアを自由に改良して再配布を行うことが可能」と設立リリースに明記
ソースは非公開。三菱UFJ信託銀行は受益証券発行信託を用いる仕組みについて特許登録済みと公表している
台帳の中身(2026年8月28日時点の公表)
ノードクライアントは「ibet-Core」、合意形成はQBFT、EVMはberlin版(GitHubのネットワーク定義リポジトリの記載)
「Progmat ST」の分散台帳をCorda5からAvalancheへ移行中(2026年2月26日公表)
広がりを測る数字
コンソーシアム参加は実名20社+他1社+事務局。公募型ST累計発行総額 約1,100億円(2026年3月現在・BOOSTRY社調べ)
DCC参加企業357社。全ST案件の運用残高4,396億円超(2026年2月26日時点)
2つの基盤は、同じ「1社が独占しない器」という到達点に、正反対の順路で着いている。ibetは器を先に共同のものにしてから案件を積み、Progmatは案件を積んでから器を分けた数字を単純に並べて優劣を論じることはできない——「約1,100億円」は公募型STの累計発行総額(BOOSTRY社調べ)、「4,396億円超」はST案件の運用残高(Progmat公表)で、母集団も時点も測り方も違う。当サイトは両者を同じ物差しの比較としては扱わない。
表: 2つの記録基盤が「中立」に至った道筋の比較。左から順に、論点/ibet for Fin/Progmatと読む。出所は本文および前2表に挙げた各社リリース、BOOSTRYのGitHubリポジトリ「ibet-Network」(2026年8月28日確認)、ibet for Finコンソーシアム公式サイト(同)、Progmatコーポレートサイト(同)。本表は公表情報の整理であり、基盤の優劣の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

収録79銘柄で見る勢力図と、STARTでの同時デビュー

当サイトが2026年8月28日時点で収録している不動産ST 79銘柄を基盤別に数えると、Progmat 40件、ibet for Fin 21件、OwnerShip 10件、そのほかSecuritize・Hash DasH・ADDX・Loadstar Chainが各1〜2件、基盤が特定できていないものが1件である。募集額が判明している68銘柄の合計3,539億1,359万5,000円で見ると、Progmatが59.1%、ibet for Finが35.6%を占め、この2つで9割を超える。

発行年で横に並べると、勢力図が動いていることも見える。2021年から2023年まではProgmatが件数で大きく先行していたが、2024年は7対6、2026年は4対5とibet for Finが件数で上回った(2026年には本稿執筆日時点で発行日が到来していない募集中の案件を含む)。ただし金額ではProgmatが依然として約6割である。

象徴的なのが2023年12月25日、ST二次流通市場STARTの開業初日である。ODXが同年11月20日に公表した「新規取扱銘柄概要」は、取扱いを始める2銘柄それぞれについて「セキュリティトークンのプラットフォーム」を記載しており、1A0A(KDXSTドーミーイン神戸元町)は「ibet for Fin」、1A0C(いちごRT芝公園・東新宿他4件)は「Progmat」である。市場は、どちらか一方の基盤の延長としてではなく、最初の日から2つの基盤を並べて開いた。STARTの上場7銘柄は、本稿執筆日時点でProgmat 4・ibet for Fin 3に分かれている。

なお本稿の取材で、当サイトのデータベースが1A0Aの基盤を「未確認」としていたことが分かり、上記のODX資料を出所として2026年8月28日にibet for Finへ訂正した。同じ「デジタル名義書換方式」という記載のためにいまも基盤を特定できていない銘柄が1件残っている(KDX住宅ポートフォリオ(VA)・2025年6月18日発行)。分からないものは分からないまま置く方針は変えないが、一次資料が見つかり次第あらためる。

記録基盤
銘柄数
判明発行額(円)
額シェア
最初の案件(発行日/銘柄)
Progmat
40
2,090億3,321万
59.1%
2021年8月12日/渋谷神南
ibet for Fin
21
1,258億4,338万
35.6%
2022年9月6日/ALTERNAレジデンス銀座・代官山
OwnerShip
10
36億1,500万
1.0%
2023年9月29日/rengaプロ第1号
Securitize
2
18億2,800万
0.5%
2025年6月16日/セゾンのスマート不動産投資
Hash DasH
2
18億1,500万
0.5%
2023年7月26日/渋谷神宮前オフィス
ADDX
2
14億4,000万
0.4%
2021年11月22日/トーセイPF S1
Loadstar Chain
1
38億3,000万
1.1%
2026年8月28日/横浜伊勢佐木町ホテル
(基盤未確認)
1
65億0,900万
1.8%
2025年6月18日/KDX住宅ポートフォリオ(VA)
発行年
Progmat
ibet for Fin
OwnerShip
その他・未確認
2021年
2
0
0
1
3
2022年
5
2
0
0
7
2023年
10
4
2
2
18
2024年
7
6
1
0
14
2025年
7
3
2
3
15
2026年
4
5
3
1
13
発行日未確認
5
1
2
1
9
合計
40
21
10
8
79
下の表を年で横に読むと、勢力図の動きが見える2021年から2023年まではProgmatが件数で圧倒していたが、2024年に7対6まで詰まり、2026年は4対5とibet for Finが件数で上回っている(2026年は本稿執筆日時点で発行日が到来していない募集中の案件を含む)。ただし金額では依然としてProgmatが約6割を占める。なお「基盤未確認」の1件は、当サイトのデータベースに基盤名ではなく「デジタル名義書換方式」という名義書換の方式名しか記録できていない銘柄である。同じ状態だったSTART上場銘柄の1A0A(KDXSTドーミーイン神戸元町)は、本稿の取材でODXの新規取扱銘柄概要に「セキュリティトークンのプラットフォーム ibet for Fin」と記載されているのを確認できたため、2026年8月28日にibet for Finとして収録を訂正した
表: 当サイト収録79銘柄(2026年8月28日時点)の記録基盤別内訳と、発行年ごとの件数。上の表は左から順に、基盤/銘柄数/募集額が判明している銘柄の合計額/その額シェア/その基盤で最初の案件下の表は左から順に、発行年/基盤別の件数/合計と読む。判明発行額は募集額が確認できた68銘柄の合計3,539億1,359万5,000円に対する内訳で、市場全体の発行総額ではない。表記ゆれ「ibet for Fin (BOOSTRY)」2件はibet for Finに含めた(当サイトの発行基盤別ページと同じ集約規則)。出所は当サイト収録の銘柄データベース(各銘柄の発行体プレスリリース・EDINET提出書類等で確認済み)。本表は収録データの集計であり、市場全体の網羅を保証するものでも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

2021年のロードマップは、どこまで当たったか

記録基盤の歩みを振り返るときに、最も読み応えがあるのは2021年10月6日の文書である。三菱UFJ信託銀行はこの日、SRC第1期ワーキング・グループの報告書と「デジタル証券PTSに関する提言」を公表した。当時のST市場には二次流通市場がなく、報告書はそれを「デジタル証券全体の未解決課題」と位置づけたうえで、「2023年度より『大阪デジタルエクスチェンジ』と『Progmat』の連携によるセカンダリ市場確立」を目標に掲げている。

時期は当たった。STARTは2023年12月25日、つまり2023年度中に開業した。連携先がProgmatだけではなかったこと、初日から2つの基盤が並んだことは前節のとおりである。

外れたところもある。提言は「競売買方式を採用するデジタル証券PTSにおいては、相場操縦規制及びインサイダー取引規制が適用される点を明確化する」ことを、金融商品取引法および同法施行令の改正・制定事項として求めていた。実際に用意されたのは法令の改正ではなく、市場運営者の自主規制である。ODXは2025年10月31日に「セキュリティトークンのインサイダー取引類似行為に関する規則」を制定し、翌11月1日から施行した。その制度要綱は、金商法第166条のインサイダー取引規制の適用対象が「上場会社等」の「特定有価証券等」に限定されており、不動産STはそこに「含まれていない(インサイダー取引規制の対象外)」とはっきり書いたうえで、それでも「インサイダー取引に類し得る取引を自主的に規制することが、START市場に対して一般投資者の信頼を得るために望ましい」と説明している。

この自主規制には、ODX自身が認める限界がある。制度要綱は、第一次情報受領者を規制対象から外した理由として「ODXという一民間企業の主導するSTART市場の自主規制であり、仮に第1次情報受領者によるインサイダー取引類似行為を摘発することができたとしても、当該違反行為者へ規制の効力を及ぼすことができないこと」を挙げる。不動産STが上場株式と同じ守られ方をしているわけではないことの、最も具体的な根拠がここにある。関連する投資家側の論点は別稿『不動産STのリスクを実数で確かめる』に整理した。

項目
2021年10月6日の提言・目標
2026年8月28日時点で実際に起きたこと
セカンダリ市場(STEP1)
2022年度中に法的手当・規制を整備する前提で、2023年度より「ODX」と「Progmat」の連携によるデジタル証券取扱いを実現する
2023年12月25日にSTARTが開業し、2023年度中という時期は当たった。ただし初日の2銘柄はProgmatが1本、ibet for Finが1本で、連携先はProgmatだけではなかった
取引所該当性
取引高に関わらず、競売買方式を採用しても取引所には該当しないことを監督指針又はパブリックコメントで明確化する
STARTはPTS(私設取引システム)として開業した。ODXは自ら「当社が独自に制定した規則に基づくものとなり、金融商品取引所が上場有価証券に対して実施している規制内容とは異なります」と投資家に注意喚起している
インサイダー取引規制
競売買方式を採用するデジタル証券PTSにおいては、相場操縦規制及びインサイダー取引規制が適用される点を、金融商品取引法及び同法施行令で明確化する
法令での適用明確化ではなく、市場運営者の自主規制で埋められた。ODXは2025年10月31日に「セキュリティトークンのインサイダー取引類似行為に関する規則」を制定し、11月1日から施行。制度要綱は不動産STが金商法第166条の適用対象に「含まれていない(インサイダー取引規制の対象外)」と明記したうえで、自主的に規制することが望ましいと説明している
値幅制限等
値幅制限/サーキットブレーカーやマーケットメイカーの行動規範について、自主規制機関による自主規制とデジタル証券PTSの規則を制定する
ODXは開業時から制限値幅を設け、2024年10月7日に呼値の単位と制限値幅を改定した(別稿『STARTの1年目を実数で振り返る』)
STEP2以降(決済)
デジタル通貨基盤とProgmatの連携によるRTGS決済、日中流動性の軽減、最終的には投資家同士のP2P取引
2026年2月26日にProgmatが、STとステーブルコインを跨ぐクロスチェーンサービスの商用化(ST-SC間のDvP)を打ち出した段階。BOOSTRY側も2025年8月22日にステーブルコインを用いたDvP決済の実証プロジェクト開始を公表している
いちばん差が出たのは3行目である。2021年の提言は「法令で適用を明確化する」ことを求めたが、実際に用意されたのはODXという一民間企業の自主規制だった。ODX自身が制度要綱でその限界を書いている——第一次情報受領者を規制対象にしなかった理由として「ODXという一民間企業の主導するSTART市場の自主規制であり、仮に……摘発することができたとしても、当該違反行為者へ規制の効力を及ぼすことができないこと」を挙げる。不動産STを買うときに「上場株式と同じ守られ方をしている」と考えないための、最も具体的な根拠がここにある
表: ST研究コンソーシアムが2021年10月6日に示したロードマップと、本稿執筆日(2026年8月28日)時点の実際。左から順に、項目/当時の提言・目標/実際に起きたことと読む。出所は三菱UFJ信託銀行「『ST研究コンソーシアム』における検討結果報告書及び『デジタル証券PTSに関する提言』の公表について」(2021年10月6日)の別紙要旨、ODX「セキュリティトークンに係るインサイダー取引類似行為規制 制度要綱」(2025年11月1日)および「セキュリティトークンのインサイダー取引類似行為に関する規則」附則、ODX「新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、ODXサイトの投資家向け注意事項(2026年8月28日確認)、Progmat(2026年2月26日)、BOOSTRYニュース(2025年8月22日)。本表は公表資料の突き合わせであり、規制の当否を論じるものでも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

実務の勘所——基盤の何を見て、何を見ないか

組成側にとって、基盤の選定は多くの場合「使いたい信託銀行がどちらに接続済みか」で事実上決まる。当サイトの収録データでも、三菱UFJ信託銀行が受託者の案件にはProgmat、SMBC信託銀行やみずほ信託銀行が受託者の案件にはibet for Finが目立つ。投資家側にとっては、基盤の違いでリターンが変わるわけではない。ただし譲渡の効力がいつ生じるかの書きぶりは基盤によって違い、これは開示書類を読めば分かる(別稿『信託受益権の譲渡と対抗要件』)。

そして、台帳は入れ替わる前提で読むのがよい。2026年に入ってProgmatはCordaからAvalancheへの移行を、BOOSTRYはEthereumとステーブルコインを使う業者間取引の実証成果を、それぞれ公表した。今日のチェーン名を覚えることに意味は乏しく、見るべきは接続先——どの信託銀行、どの証券会社、どの市場とつながっているか——と、その基盤がどこまで自分の仕組みを公表しているかである。両社とも、この7年間で公表の量と粒度を明確に増やしてきた。記録機関の立場からいえば、それ自体が最も歓迎すべき変化だった。

なお本稿は事実の記録であり、投資助言ではない。特定の銘柄・事業者の推奨や勧誘を目的とするものでもない。税務・会計上の取扱いに関する記述は一般的な解説にとどまり、個別の判断については税理士等の専門家に確認されたい。

① 基盤は「座組の一項目」として確認する募集資料と新規取扱銘柄概要
基盤は目論見書(=届出書)の証券事務の欄や、STARTに上場する銘柄ならODXの「新規取扱銘柄概要」の「セキュリティトークンのプラットフォーム」欄で分かる。基盤の違いで商品のリターンが変わるわけではないが、譲渡の効力がいつ生じるかの書きぶりは基盤によって違う(別稿『信託受益権の譲渡と対抗要件』)。
② 受託者と基盤の組み合わせを見る当サイトの各銘柄ページ「組成の座組」
収録データでは、三菱UFJ信託銀行が受託者の案件はProgmat、SMBC信託銀行やみずほ信託銀行が受託者の案件にはibet for Finが目立つ使いたい信託銀行がどちらの基盤に接続済みかで事実上決まる案件が多いという組成側の相場観は、この分布と整合する。
③ 基盤の名前より「誰が名簿を持つか」を見る有価証券報告書の受益権原簿管理人の欄
法律上の名簿は受託者が備える(信託法第186条)。基盤の運営会社が破綻しても、権利の所在を決めるのは原簿である。当サイトが確認した4銘柄では外部の受益権原簿管理人は置かれず、受託者自身が担っている(別稿『事務管理会社の役割』)。
④ 「共同運営」の中身は数字で確かめる出資比率と参加社数
どちらも「1社が独占しない」形をとるが、ibet for Finはコンソーシアム参加企業の顔ぶれ、Progmatは株主8社の出資比率(三菱UFJ信託49.0%)で確かめられる公表されている数字は母集団も時点も違うため、単純比較はしない
⑤ 台帳は入れ替わる前提で読む基盤側のリリース
Progmatは2026年2月26日にCorda5からAvalancheへの移行を公表し、BOOSTRYも2026年7月8日にEthereum活用の実証成果を公表した。「今どのチェーンか」は数年で変わる。基盤を評価するなら、チェーン名より接続先(受託者・証券会社・市場)と情報開示の姿勢を見るほうが実務的である。
図: 記録基盤の歩みから、今日の実務に持ち帰れる5項目。①②が銘柄を見るときの確認場所、③が権利の所在、④が「中立」の測り方、⑤が技術の読み方である。出所は本稿で用いた各社リリース、ODX「新規取扱銘柄概要(2023年11月20日公表)」、信託法第186条(e-Gov法令検索)、当サイト収録の銘柄データベース(いずれも2026年8月28日時点)。本図は確認手順の整理であり、投資助言でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。
SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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