公開 2026-09-21 / 読了 11分
相続税・贈与税は財産を「時価」で評価し、その時価の出し方は国税庁の財産評価基本通達が財産の種類ごとに定めている。ところが通達の一覧に「セキュリティ・トークン」という項目はなく、受益証券発行信託の定め(213-2)は「受益証券」かつ「上場」を条件にする——不動産STの開示書類は、その両方に反対のことを書いている。本稿は、通達の文言と実物の届出書・有報を突き合わせて分かれ目を示し、2025年12月閣議決定の税制改正大綱が2027年1月1日以後の相続等に向けて決めた小口化商品の評価の見直しが、STにとって何を意味し、何がまだ決まっていないかを記録する。
相続税と贈与税は、受け取った財産に値段を付け、その合計に税率を掛ける税である。値段の付け方の大原則は法律に一行で書かれている。相続税法第22条は、相続・遺贈・贈与で取得した財産の価額を「当該財産の取得の時における時価」によると定める。
では「時価」とは何か。その具体的な出し方を決めているのが、国税庁長官が出す法令解釈通達「財産評価基本通達」(以下、評価通達)である。評価通達1(2)は、時価を「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とし、続けて「その価額は、この通達の定めによって評価した価額による」と書く。土地は路線価、上場株式は取引所の終値——というように、財産の種類ごとに方法が並んでいる。
値段を測る日を「課税時期」という。評価通達1(2)は、相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日などをいうと定める。そして評価通達6は、通達どおりに評価することが「著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定める。この3つ——時価、通達の一覧、測る日——が、本稿を読むための前提になる。
STの評価が分かりにくい理由は単純で、評価通達の一覧に「セキュリティ・トークン」という項目がないからである。既存の項目のどれに寄せるかを、通達の文言から読み解く必要がある。
不動産STの多くは受益証券発行信託という信託の受益権である(その仕組みは別稿『不動産STは「投資信託」ではない』で整理した)。評価通達には、まさにその名前を冠した定めがある。213-2は「受益証券発行信託の受益証券(以下「受益証券発行信託証券」という。)のうち、上場されているものの価額は、1口ごとに評価するものとし、169(上場株式の評価)から172(上場株式についての最終価格の月平均額の特例)までの定めに準じて評価する」と定め、あわせて金銭分配期待権は193(配当期待権の評価)に準じて評価するとする。
上場株式の評価(評価通達169)は、上場されている金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格を原則とし、それが課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額のうち最も低い額を超える場合は、その最も低い額による。213-2に当てはまれば、STもこの「終値と3か月の月平均のうち低いもの」で測ることになる。
ただし213-2の文言には2つの条件が入っている。対象は「受益証券」であり、しかもそのうち「上場されているもの」に限られる。
三井物産グループの品川案件の有価証券届出書(2026年7月24日提出・EDINET S100YS50)と、ケネディクス系の由縁札幌案件の有価証券報告書(2026年4月30日提出・S100Y1FJ)は、どちらも受益権の内容の欄に「本受益権について、信託法第185条第2項により受益証券は発行されません」と書く。信託法第185条第2項は、信託行為において「特定の内容の受益権については受益証券を発行しない旨を定めることを妨げない」とする条文で、不動産STの受益権はまさにこの「発行しない」側に置かれている。第1の条件「受益証券」に、文言上は当たらない。
第2の条件「上場」についても、同じ2件のリスク欄は「本受益権は、金融商品取引所等に上場されておらず、その予定もありません」と明記する。二次流通の場であるSTARTについては、由縁札幌の有報自身が「大阪デジタルエクスチェンジ株式会社が運営するセキュリティ・トークン私設取引システム」と説明している。私設取引システム(PTS)は証券会社が運営する取引の場で、金融商品取引所とは別の制度である。
したがって、評価通達213-2の文言をそのまま追う限り、不動産STはこの定めの外に出る。残る受け皿として文言上最も近いのは、信託受益権一般を扱う評価通達202である。ただし、国税庁がSTの評価について個別に示した取扱いは、当サイトが国税庁ウェブサイトの通達・公表資料を確認した範囲(2026年9月21日)では見当たらなかった。本稿の記述は「どちらに決まっている」ではなく、「文言上どこが分かれ目か」を示すものにとどまる。
評価通達202は信託の利益を受ける権利の評価を3つに分ける。(1)元本と収益との受益者が同一人である場合は、通達に従って評価した課税時期における信託財産の価額による。(2)元本と収益との受益者が元本及び収益の一部を受ける場合は、その信託財産の価額に受益割合を乗じた価額による。(3)元本の受益者と収益の受益者が異なる場合は、収益受益権を将来の利益の複利現価で評価し、元本受益権は信託財産の価額からそれを控除した価額とする。国税庁はこの評価のための様式として「信託受益権の評価明細書」を公表している。
この方法の要点は、受益権そのものの売買価格ではなく、信託の中にある財産——不動産STなら信託不動産——を通達に従って評価し直す点にある。国税庁自身の説明では、評価通達は貸付用不動産を「借家人の支配権による利用の制約等を考慮して評価する」。国税庁が2025年11月13日に政府税制調査会へ提出した資料「財産評価を巡る諸問題」は、この仕組みのもとで貸付用不動産の市場価格と通達評価額が大きく離れることを示し、「借家人がおり、賃貸の割合が高くなると通達評価額が低くなる」と説明している。
同じ資料の事例③は、贈与者が不動産小口化商品(信託受益権)を3,000万円で購入し、約5か月後に9歳の受贈者へ贈与、受贈者は「信託受益権を路線価等で評価」して480万円とし、その後に販売会社へ取得価額とほぼ同額で売却したケースである。資料は通達評価額を「取得価額の約1/6」と記し、不動産小口化商品の贈与事例では「かい離が5倍を超えるものが散見」されるとする。なお、この事例の商品がSTであるとは資料に書かれていない。
STに202を当てはめようとすると、もう1つ単純でない点がある。不動産STの信託には、投資家の受益権のほかに別建ての受益権が並ぶ例がある。品川の届出書は、借入れに対応するローン受益権(当初元本22,995,990,000円)と精算受益権を本受益権とともに置いている。信託財産の価額から何を差し引き、投資家の「受益割合」をどう取るかは、信託の設計ごとに読み解く必要がある。
この市場価格と通達評価額のかい離に対して、2025年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」は、「相続税等の財産評価の適正化」として2つの見直しを決めた(大綱52ページ)。①被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得・新築した一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80で評価できる。
②は小口化商品である。「不動産特定共同事業契約又は信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産」は、「その取得の時期にかかわらず」通常の取引価額に相当する金額によって評価する。課税上の弊害がない限り、出資者等の求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等、事業者等が把握している適正な売買実例価額、又は定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めた金額によって評価でき、これらに該当するものがないと認められる場合は①に準じて評価する(取得時期や評価の安全性を考慮)。いずれも令和9年(2027年)1月1日以後に相続等により取得する財産の評価に適用する。
STに関係しうるのは②である。ただし②の対象を画す「一定のもの」の中身は大綱に書かれていない。そして改正を具体化する評価通達の改正は、2026年9月21日時点で国税庁の「財産評価基本通達の一部改正について」一覧に出ていない。同日時点の直近の一部改正は令和8年3月25日付(所得税法等の一部改正法の施行に伴うもの)と5月25日付(立木の標準価額の改正)で、いずれも別の事項である。STが②に含まれるかどうか、含まれるとしてどの資料が参酌されるかは、現時点では未確定である。
参考までに、STの開示書類には②の注が挙げる資料に近いものがすでにある。品川の届出書は、取扱金融商品取引業者に対し「本受益権の裏付資産である投資対象不動産等に係る鑑定評価額に基づき算出された本受益権の1口当たりNAV等を基準に当該取扱金融商品取引業者が決定する価格を譲渡価格として」譲渡を申し込めると定める。これらが②の「適正な処分価格・買取価格等」に当たるかどうかは、通達の定めを待つほかない。鑑定評価が各期末に取り直される実務は別稿『鑑定評価書は何回取得が必要か』で整理している。
評価とは別に、相続や贈与の後に実際に動く手続も開示書類に書かれている。品川の届出書は「本受益者において相続が発生した場合は、相続に係る所定の手続を完了された相続人の方による取扱金融商品取引業者を通じた臨時の譲渡手続が可能となる場合があります」とし、その機会は「保証されているものではなく」、相続人たる地位を証明する書類等が必要だと書く。由縁札幌の有報は同じ場面について「臨時の譲渡手続が可能です」と書いている。銘柄によって書きぶりが違う。
贈与で移すこと自体は、譲渡制限の例外として書かれている。両書類とも「取扱金融商品取引業者以外の本受益者は、遺贈又は贈与に基づく場合を除き、本受益権を取扱金融商品取引業者を介さずに取扱金融商品取引業者以外の者に譲渡することはできません」とする。
口座の面では、租税特別措置法施行令第25条の10の2第14項が特定口座に受け入れられるものを列挙しており、第3号・第4号に贈与・相続・遺贈で取得したものが挙がっている。一般口座からの移管は列挙にないことを含め、入口の詳細は別稿『特定口座で不動産STは買えるのか』に記録した。売却したときの課税は別稿『不動産STの税金』を参照してほしい。
要点を繰り返す。評価通達213-2は「受益証券」かつ「上場」を条件とし、不動産STの開示書類はその両方に反対のことを書いている。文言上の受け皿は信託受益権一般の202だが、STについて国税庁が個別に示した取扱いは確認できなかった。2027年1月1日以後の相続等では、小口化された貸付用不動産を「通常の取引価額」で評価する見直しが大綱で決まっているが、STがその対象に入るかを決める通達はまだ出ていない。下の7項目は、その不確定さを前提に手元でそろえておける確認事項である。
本稿は制度と開示書類の記載を整理した一般的な解説であり、個別の相続・贈与における評価額や申告方法についての税務上の助言ではない。実際の評価と申告は、課税時期・信託の設計・保有の経緯によって異なるため、必ず税理士等の専門家に確認してほしい。また、本稿は特定の銘柄の取得・保有・売却を推奨・勧誘するものでも、相続税・贈与税の負担を減らす方法を示すものでもない。条文・通達・大綱は2026年9月21日時点の確認による。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。