公開 2026-09-25 / 読了 13分
公募の受益証券発行信託型STの分配金は、20.315%が源泉徴収され、金額にかかわらず確定申告をしなくてよい。申告する場合は自動的に申告分離課税になり、総合課税や配当控除の道はない。一方、匿名組合型STの分配金は20.42%の源泉徴収のあと雑所得として総合課税され、「申告しない」を選ぶ制度はない。どちらの型か、どの口座で受け取っているかの2点で手順が決まる——条文、国税庁の解説、発行体の開示で順に確かめ、申告期に手元へ届く書類と、どの年の所得になるかまで整理する。
確定申告の話は用語でつまずきやすい。本稿で使う4つの言葉を先にそろえておく。
源泉徴収とは、支払う側(受託者や営業者、証券会社)が分配金から税金を先に差し引いて国に納める仕組みである。投資家の口座に入るのは差し引かれた後の金額になる。
申告不要(確定申告不要制度)とは、源泉徴収された税金だけで課税関係を終わらせ、その所得を確定申告に載せないことを選べる制度である。申告分離課税とは、確定申告に載せたうえで、給与などほかの所得とは分けて一定の税率で計算する方式をいう。
合計所得金額とは、配偶者控除や扶養控除の対象になるかどうかなどを判定するときに使う所得の合計である。分配金を確定申告に載せるかどうかで、この金額に含まれるかどうかが変わる。
不動産STの分配金の申告手順は、次の2つの質問でほぼ決まる。1つ目は、そのSTが受益証券発行信託型か匿名組合型か。有価証券届出書・有価証券報告書の表紙で分かり、書類名の括弧書きが「内国信託受益証券等」なら信託型、「内国有価証券投資事業権利等」なら匿名組合型である。当サイトが収録する79銘柄(2026年9月25日時点)では、信託型が62銘柄、匿名組合型が17銘柄で、STARTに上場する7銘柄はすべて信託型にあたる。
2つ目は、信託型の場合に、分配金をどの口座で受け取っているかである。源泉徴収ありの特定口座で、分配金を口座に受け入れる届出を出しているか、それ以外(一般口座、または特定口座だが分配金は別の方法で受け取っている)かで、選択の単位が変わる。
型によって、源泉徴収の税率も、所得の種類も、申告しない選択肢の有無も違う。以下、信託型、匿名組合型の順に見ていく。
公募の受益証券発行信託型STの分配金は、所得税法第24条第1項により配当所得となる。租税特別措置法第8条の4第1項第4号は、公募の特定受益証券発行信託の収益の分配を「上場株式等の配当等」に含め、同法第9条の3第4号が源泉徴収の税率を所得税15%とする。これに復興特別所得税と住民税5%が加わり、合計20.315%が差し引かれる。発行体の開示も同じで、2026年8月3日提出の「ウェルス・リアルティ・トークン シックスセンシズ京都(譲渡制限付)」の届出書は、分配金が20.315%で源泉徴収・特別徴収されると書いている。
そのうえで、租税特別措置法第8条の5第1項第5号は、公募の特定受益証券発行信託の収益の分配を、確定申告をしなくてよい配当等に挙げている。非上場株式の配当などに使われる「1回の金額が10万円に配当計算期間の月数を乗じて12で除した額以下」という少額の条件(同項第1号)はかからない。金額にかかわらず申告不要を選べる。申告不要を選べば、差し引かれた20.315%で課税関係は終わる。
申告不要にした分配金は、合計所得金額にも入らない。国税庁のタックスアンサーNo.1331は、確定申告をしないことを選んだ上場株式等の配当等は扶養控除等の判定で合計所得金額に「含まれない」としており、No.1900も、確定申告をしないことを選んだ上場株式等の配当等は給与所得者の「20万円」の判定に使う所得に含まれないと説明している。一方でNo.1330は、申告不要を選んだ配当の源泉徴収税額は、その年の所得税額から差し引くことができないと明記している。
信託型STの分配金を確定申告に載せると、どの方式になるか。租税特別措置法第8条の4第2項は、上場株式等の配当等のうち第1項第1号から第3号まで(上場株式の配当、公募の証券投資信託の収益の分配、J-REITなど特定投資法人の配当)を「特定上場株式等の配当等」と呼び、これらについてだけ、申告分離課税を受けようとする旨を書いた確定申告書を出した場合に限って申告分離課税を適用するとしている。総合課税との選択制である。
STの分配金は第4号であり、この選択制の外にある。確定申告に載せれば、第1項がそのまま適用されて申告分離課税になる。上場株式の配当のように総合課税を選んで配当控除を受ける道はない。国税庁のタックスアンサーNo.1331も、特定受益証券発行信託の収益の分配に係る配当等は配当控除の対象にならないと注記している。前出の届出書も、個人の選択肢を「申告不要」と「確定申告により配当所得として申告分離課税」の2つだけ挙げている。
申告分離課税の税率は源泉徴収と同じ20.315%なので、申告しても分配金そのものの税額は変わらない。それでも申告する意味があるのは、次の節のように、同じ「上場株式等」の箱の中で出た損と相殺できるからである。
申告分離課税を選んだ分配金は、上場株式等の譲渡損失と相殺でき、引き切れない損は3年繰り越せる(国税庁タックスアンサーNo.1331、租税特別措置法第37条の12の2)。STの売却損・償還損・元本の払戻しで生じた譲渡損も対象になる。条文と手続は当サイトの記事「不動産STの損は何と相殺できるか——損益通算と3年繰越、そして償還損・元本払戻し損の扱い」にまとめている。
ただし、源泉徴収ありの特定口座で分配金を受け入れている場合は、同じ口座の中の譲渡損と分配金が年末に自動で通算され、差し引きすぎた税金が還付される(租税特別措置法第37条の11の6第6項・第7項)。同じ口座の中だけで損益が完結しているなら、申告しなくても相殺は済んでいる。申告が意味を持つのは、別の口座や別の証券会社の損益とぶつけたいとき、損を翌年以降に繰り越したいときである。
申告には代償もある。国税庁タックスアンサーNo.1331の表は、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当等は、扶養控除等の判定で合計所得金額に「含まれる」としている。分配金の額によっては、本人が配偶者控除や扶養控除の対象から外れることがありうる。さらに同じNo.1331は、申告不要・申告分離課税・総合課税のいずれによるかは確定申告で選び、その後、修正申告や更正の請求で変更することはできないと注記している。申告の前に、損と合計所得金額の両方を見て決める必要がある。
申告不要を選ぶ単位は、受け取り方で違う。租税特別措置法第8条の5第4項は、原則として「その一回に支払を受けるべき……配当等の額ごと」に申告不要を選べるとする。一般口座などで分配金を受け取っている場合は、1回ごとに申告するかどうかを決められる。
源泉徴収ありの特定口座に受け入れた分配金は別で、同法第37条の11の6第9項は、申告不要の選択を、その口座に受け入れた配当等の「合計額ごと」、つまり口座単位で行うと定めている。1つの口座の中で、この回は申告してあの回は申告しない、という分け方はできない。
もう1つの注意点がある。同条第10項によれば、口座の中で譲渡損と分配金を通算した場合に、その譲渡損を確定申告に載せる(口座の譲渡損益を申告不要にしない)ときは、その口座の分配金も申告不要にできない。口座の損を外へ持ち出して使うなら、分配金も一緒に申告書に載せることになる。
匿名組合型のSTでは話がまったく変わる。所得税法第210条は、匿名組合契約に基づく利益の分配を支払う者に源泉徴収を義務づけ、第211条がその税率を20%とする。これに復興特別所得税が加わり、20.42%が差し引かれる。届出書に記載された源泉徴収は所得税と復興特別所得税のこの20.42%だけで、信託型のような住民税5%の上乗せは書かれていない。
所得の種類は、国税庁の所得税基本通達36・37共-21により原則として雑所得である。2026年7月16日提出の「ロードスターグループのデジタル証券 横浜伊勢佐木町ホテル」の届出書(発行者=合同会社LST1号)も、個人の匿名組合員が受ける利益の分配は原則として雑所得に分類され「他の所得と総合して課税標準を構成し、累進税率が適用されて」所得税額が計算され、確定申告をする必要がある、と書いている。上場株式等の配当のような申告不要の制度は、匿名組合の利益の分配には用意されていない。源泉徴収された20.42%は、確定申告で精算する前払いという位置づけになる。
例外は、給与所得者の「20万円」のルールである。所得税法第121条第1項第1号は、給与を1か所から受けて年末調整を受けている人は、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら確定申告を要しないとする。ただしこれは所得税の話で、住民税には別に申告の義務がある。地方税法第317条の2第1項は、給与所得以外の所得がある人に市町村への申告を求めており、所得税の確定申告書を出せばそれが住民税の申告を兼ねる(同法第317条の3)。所得税の申告をしないなら、市区町村への住民税の申告を忘れないようにしたい。
匿名組合型の持分を売ったときの利益や、契約終了時に返ってくる金額と帳簿価額との差額も、それぞれ譲渡所得・雑所得として総合課税になる(トーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ2)の有価証券報告書、横浜伊勢佐木町ホテルの届出書)。赤字のときに損がどう扱われるかは、当サイトの記事「STが赤字になったら、損失は投資家に配られるのか」で扱っている。
信託型STの分配金について、住民税だけ別の方式を選ぶことは、現行の地方税法ではできない。地方税法第32条第12項は、特定配当等(上場株式等の配当等を含む)に係る所得を住民税の総所得金額から除外すると定めつつ、第13項で、前年分の所得税の確定申告書にその明細の記載があるときは除外しないとしている。所得税で申告不要にした分配金は住民税でも申告不要として扱われ、所得税で申告した分配金は住民税でも所得に含まれる。
所得税の申告を決めるときは、住民税の所得にも同じように含まれることまで含めて考える必要がある。
申告に使う書類は2種類ある。1つは分配金ごとの支払通知書である。租税特別措置法第8条の4第4項は、上場株式等の配当等を支払う者に、支払の確定した日から1か月以内(準支払者は45日以内)に「上場株式配当等の支払に関する通知書」を交付するよう義務づけ、第5項は1年分をまとめて翌年1月31日(準支払者は2月15日)までに交付することも認めている。承諾があれば電子交付でもよい(第6項)。
もう1つは、特定口座の年間取引報告書である。同法第37条の11の3第7項は、証券会社に、その年の特定口座での譲渡の対価・取得費と、口座に受け入れた上場株式等の配当等の額などを記載した報告書を、翌年1月31日までに投資家と税務署に出すよう義務づけている。分配金を特定口座に受け入れていれば、この1枚にまとまる。
どの年の所得になるかにも注意が要る。源泉徴収ありの特定口座に受け入れた分配金は、租税特別措置法第37条の11の6第8項により、その年に証券会社から交付を受けた金額がその年の収入金額になる。それ以外の受け取り方の場合について、前出のシックスセンシズ京都の届出書は、特定受益証券発行信託の収益の分配を収入すべき時期は原則として信託計算期日だが、信託協会が通知した一定の要件を満たすものは信託配当支払日を収益認識日とすることが許容される旨の見解を国税庁から受けており、同銘柄はそれに該当するため「信託配当支払日」として扱う、と書いている。計算期日が年末で支払が翌年になる銘柄では、どちらの年の所得になるかは銘柄の届出書・有価証券報告書の課税上の取扱いで確かめる。分配金の支払日が計算期日の何か月後かは、当サイトの記事「分配金はいつ・どう入るか」で整理している。
確定申告の期間は、所得税法第120条第1項が定める「第三期」、すなわち翌年2月16日から3月15日までである。
2026年4月の税制の改正以降、信託型STの利益超過分配は「元本の払戻し」として扱われる。これは配当所得ではなく、上場株式等の譲渡として扱われる部分で、受け取った金額と、元本減少割合で計算した取得費との差が譲渡損益になる(租税特別措置法第37条の11第4項第3号)。
源泉徴収ありの特定口座であれば、受託者から証券会社へ元本減少割合が通知され、口座の中で自動的に処理される。一般口座で受け取っている場合は、自分で計算して申告することになる。詳しくは当サイトの記事「特定口座で不動産STは買えるのか」「『元本減少割合』とは何か——取得価額調整と確定申告の要点」を参照してほしい。
最後に、申告期に確認する順番をまとめる。
本稿は、公表された条文(所得税法、租税特別措置法、地方税法)、国税庁のタックスアンサーと所得税基本通達、発行体の法定開示(有価証券届出書・有価証券報告書)に基づく一般的な整理であり、税務助言ではない。税率は2026年9月時点の源泉徴収税率で記載しており、2027年以降は復興特別所得税の税率の引下げと防衛特別所得税の導入が予定されている(合計税率は変わらない旨が国税庁の解説に記載されている)。取扱いは投資家の属性、口座区分、銘柄の設計、改正の経過措置によって異なる。実際の申告の可否・方法・期限は税理士等の専門家、税務署、口座を開設している証券会社の案内に従ってほしい。当サイトは独立・非勧誘の不動産ST記録機関として、公表された制度と一次資料の整理のみを行っており、特定の銘柄・証券会社・スキームの推奨や勧誘は行わない。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。