公開 2026-09-25 / 読了 14分
不動産STの信託が赤字(当期純損失)になっても、公募STの主流である受益証券発行信託型では、その損失が投資家に「配られる」ことはない。損は信託の中にとどまり、1口当たり純資産の低下として表れる。一方、匿名組合型では損失は出資の割合で投資家の持分に割り当てられるが、個人は割り当てられた年にそれを税務上の経費にできず、契約が終わって初めて雑所得の経費になる。その雑所得の損は給与や株の利益とは相殺できない。条文と、実際に赤字を計上した2本のSTの有価証券報告書で確かめる。
「STが赤字になったら損失は投資家に配られるのか」という問いは、STがどの法的な器で作られているかで答えが変わる。本題に入る前に、4つの言葉をそろえておく。
1つ目は赤字である。本稿では、STの1計算期間の収益から費用を引いた結果がマイナスになること、つまり有価証券報告書の損益計算書に「当期純損失」が立つことを指す。物件の値下がりそのものではなく、その期の損益の話である。
2つ目は損失の分配(損失の負担)である。利益が出たときに投資家へ利益を配るのと逆に、損失を投資家一人ひとりの取り分に割り当てることをいう。割り当てられても、投資家が追加でお金を払うとは限らない。帳簿上の持分が減る、という意味で使われることが多い。
3つ目は集団投資信託である。所得税法第13条第3項第1号は、合同運用信託、一定の投資信託と並べて「特定受益証券発行信託」をこう呼ぶ。公募の不動産STの多くはこの特定受益証券発行信託として作られている。4つ目は匿名組合で、商法第535条が定める「当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約する」契約である。匿名組合型のSTでは、投資家が出資し、営業者(多くは合同会社)が物件を持つ。
当サイトが収録している不動産ST79銘柄(2026年9月25日時点)の器は、受益証券発行信託型が62銘柄、匿名組合型が17銘柄(うち1銘柄は適用除外電子記録移転権利)である。STARTに上場している7銘柄はすべて受益証券発行信託型にあたる。
結論を先に書くと、次のとおりである。受益証券発行信託型では、信託が赤字でも損失は投資家に配られない。損は信託の中にとどまり、元本の部を減らして1口当たり純資産を下げる。投資家の税務上の損が生まれるのは、売却・償還・元本の払戻しの3つの場面に限られる。
匿名組合型では、損失は投資家の出資持分に割り当てられ、1口当たり純資産がその分下がる。ただし個人の投資家は、割り当てられた年にそれを必要経費にできず、契約の終了時に初めて雑所得の必要経費として計上できる。雑所得の損は、給与や上場株式の利益とは相殺できない。
以下、両方の型について、根拠となる条文と、実際に赤字を計上した銘柄の有価証券報告書の数字で確かめる。
所得税法第13条第1項は、原則として、信託の受益者は信託財産に属する資産・負債を有するものとみなし、信託財産に帰せられる収益・費用は受益者の収益・費用とみなす、と定める。信託の損益は受益者のものとして課税する、という「受益者等課税」の原則である。
ところが同項ただし書は、「集団投資信託、退職年金等信託又は法人課税信託」の信託財産については「この限りでない」とする。そして同条第3項第1号が、集団投資信託に特定受益証券発行信託を含めている。公募の不動産STの信託はこのただし書に入るので、信託の収益も費用も、したがって赤字も、受益者のものとはみなされない。
特定受益証券発行信託の要件は、法人税法第2条第29号ハに並んでいる。税務署長の承認を受けた受託者が引き受けていること、各計算期間終了時の未分配利益の元本総額に対する割合(利益留保割合)が一定以下であること、計算期間が1年を超えないこと、などである。利益留保割合の上限は、法人税法施行令第14条の4第11項で「千分の二十五」(2.5%)と定められている。利益はほぼ全額を配ることが制度の前提になっている。
発行体の開示も同じことを書いている。2026年8月3日提出の「ウェルス・リアルティ・トークン シックスセンシズ京都(譲渡制限付)」の有価証券届出書(受託者=SMBC信託銀行)は、課税上の取扱いの項で、特定受益証券発行信託は集団投資信託に該当するため「本受益者は信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされることはなく、また、信託財産に帰せられる収益及び費用が本受益者の収益及び費用とみなされることもありません」と明記している。赤字の期に、投資家の確定申告へ信託の損失が回ってくることはない。
実際に赤字を計上した信託型STの例がある。「トーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ3)市ヶ谷(デジタル名義書換方式)」(STARTコード1A0G、受託者=三菱UFJ信託銀行)の第1期(2024年5月24日〜2024年10月31日)である。2025年1月29日提出の有価証券報告書によれば、経常収益81,116千円に対し経常費用180,165千円で、当期純損失は△99,048千円だった。費用の内訳には支払手数料66,189千円、業務委託料38,976千円が並ぶ。
この赤字は投資家に割り当てられていない。同報告書の「元本及び留保金の変動」を見ると、当期純損失△99,048千円は留保金の欄に立ち、それを「受益権調整引当益」122,538千円で埋め、受益者分配額23,490千円を差し引いて次期繰越利益はゼロになっている。その分、元本の部に「受益権調整引当額」△122,538千円が立ち、元本合計は一般受益権の元本1,740,000千円から1,617,471千円(精算受益権10千円を含む)に減った。
結果として、1口当たり純資産(一般)は当初の1口10万円に対して92,957円となった。赤字は、投資家の手元へ「損」として届くのではなく、1口の中身が減る形で表れたことになる。なお同期の受益者分配額23,490千円は、一般受益権17,400口で割ると1口当たり約1,350円になる(当サイトの計算)。赤字の期でも分配が行われた例である。
翌期の第2期(2024年11月1日〜2025年4月30日)は当期純利益13,471千円に転じ、受益権収益分配金は31,320千円(当サイトの計算で1口当たり1,800円)、1口当たり純資産は91,931円だった(2025年7月30日提出の有価証券報告書)。同様に、「スターツ・アセット・トークン〜両国・千鳥町〜(譲渡制限付)」も第1期(2025年6月17日〜2026年1月31日)に当期純損失△10,901千円を計上しつつ、受益者収益分配金21,279千円を支払っている(2026年4月28日提出の有価証券報告書)。いずれも、信託の損失が受益者に配られた形跡はない。
信託の赤字が受益者に配られない以上、投資家の側で税務上の損が生まれるのは、受益権そのものを手放すか、元本が戻ってくる場面に限られる。租税特別措置法第37条の11第4項は、特定受益証券発行信託の受益権で上場株式等に当たるものについて、信託の終了(第1号)や元本の払戻し(第3号)で交付を受ける金銭を、上場株式等の譲渡所得等の収入金額とみなす。売却はそもそも譲渡である。
つまり、1口当たり純資産が下がった状態で受益権を売れば、取得費との差が譲渡損になる。物件が安く売れて償還金が取得費を下回れば、償還損になる。発行体もこの可能性をはっきり書いている。前出のシックスセンシズ京都の届出書は、元本の償還の原資は原則として物件の売却代金で、売却価格は保証されないため「元本償還の額が減少し、又は全く行われない場合があります」と注記している。
こうして生まれた損は「上場株式等」という箱の中の損であり、上場株式やJ-REITの譲渡益、確定申告に載せたSTの分配金と相殺でき、引き切れない分は3年繰り越せる。この部分の条文と手続は当サイトの記事「不動産STの損は何と相殺できるか——損益通算と3年繰越、そして償還損・元本払戻し損の扱い」で詳しく扱っている。元本の払戻しの計算に使う「元本減少割合」は「『元本減少割合』とは何か——取得価額調整と確定申告の要点」を参照してほしい。
匿名組合型では仕組みがまったく違う。商法第536条第1項は「匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する」と定める。物件を持つのは営業者で、投資家は営業者に対する契約上の権利を持つだけである。そのうえで商法は損失について2つの規定を置く。第538条は「出資が損失によって減少したときは、その損失をてん補した後でなければ、匿名組合員は、利益の配当を請求することができない」とし、第542条は契約終了時、出資が損失で減少していれば営業者は「その残額を返還すれば足りる」とする。
実際の契約もこの枠組みに沿っている。2026年7月16日提出の「ロードスターグループのデジタル証券 横浜伊勢佐木町ホテル」の有価証券届出書(発行者=合同会社LST1号)は、不動産の収益性や価格の変動に伴うリスクは「出資金を限度として本匿名組合員が出資の割合に応じて負担する」と書く。一方で、当初の出資の後は「出資金、費用、損失の分担、その他名目の如何を問わず、追加の金員を出資する義務を一切負いません」とも明記している。損失は出資の範囲で持分を削るが、それを超えて財布から払わされることはない。
損失が持分に割り当てられることは、1口当たり純資産の定義にも表れている。同届出書によれば、1口当たり純資産額は「出資金総額に当期損益の累計額を加えた金額(純資産額)を総出資口数で除して」計算される。赤字の期があれば、その分だけ1口の値が下がる仕組みである。
匿名組合型で赤字を計上した例として、「トーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ2)」(営業者=トークン・ツー合同会社)がある。2025年11月27日提出の第3期(2024年9月1日〜2025年8月31日)有価証券報告書によれば、当期純利益は第1期1,398千円、第2期△2,601千円、第3期△3,474千円と推移した。
同報告書の「1口当たり情報に関する注記」は、第2期・第3期について「匿名組合員に帰属しない金額」を「-」とし、「匿名組合員に係る当期純損失」をそれぞれ2,601千円、3,474千円と記載している。信託型と違い、赤字の全額が匿名組合員の側に割り当てられている。1口当たり純資産額は第1期末5,012,271円、第2期末4,764,487円、第3期末4,534,007円と下がった(発行済出資持分は114口)。
この間も分配は続いていた。1口当たり分配総額は第2期211,600円、第3期200,000円で、その内訳はいずれも全額が「出資の払戻し」、剰余金の分配は「-」である。赤字の期に受け取ったお金は、利益の分配ではなく、自分が出した出資の一部が戻ってきたものということになる。
税務はどうなるか。国税庁の所得税基本通達36・37共-21は、匿名組合員が営業者から受ける利益の分配を原則として「雑所得」とする(組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合を除く)。国税庁の解説は、匿名組合員が組合財産の共有持分を持たないこと、近年の匿名組合が出資・投資の対価という性格が強いことを理由に挙げている。
では損失の割り当ては、その年の雑所得の経費になるのか。前出のトーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ2)の有価証券報告書は、個人の匿名組合員について、利益は実際の分配の有無にかかわらず計算期間の末日の属する年の収入金額に算入する一方、「営業者からの計算上の損失の分配時においては、匿名組合員において必要経費とすることはできず、匿名組合契約の終了時に初めて必要経費として計上することが可能となります」と書いている。契約終了時に返還される金額と帳簿価額との差額は「原則として雑所得の収入金額又は必要経費に算入」される。横浜伊勢佐木町ホテルの届出書も、契約終了時の返還額と帳簿価額との差額を原則として雑所得とする点で同じである。
そして雑所得の損は、ほかの所得と相殺できない。所得税法第69条第1項が損益通算の対象として挙げるのは、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の計算上生じた損失だけで、雑所得は入っていない。匿名組合型STで最終的に損が出ても、給与所得とも、上場株式やJ-REITの譲渡益とも相殺できない。この点が、「上場株式等」の箱の中で損を使える信託型との最大の違いである。
なお法人の投資家は扱いが異なり、損失の負担額も各期の損金の額に算入される(前出の2本の開示書類による)。本稿は個人の投資家を前提にしている。
不動産の小口化商品には、不動産特定共同事業法(不特法)の契約もある。同法第2条第3項は、任意組合型(第1号、各当事者が出資して共同の事業を営む契約)や匿名組合型(第2号)などの契約類型を定めている。当サイトが収録する79銘柄に不特法型のSTは含まれていないが、比較のために触れておく。
任意組合では、国税庁の所得税基本通達36・37共-19が、組合事業の利益・損失は分配割合に応じて各組合員が「利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額」とする。損は投資家に直接配られる。ただし租税特別措置法第41条の4の2第1項は、組合の重要な業務執行に関与しない「特定組合員」の個人について、組合事業から生ずる不動産所得の損失を「生じなかつたものとみなす」と定めている。任意組合型の小口化商品で損が配られても、その不動産所得の損失で給与所得などを減らすことはできない。
つまり、3つの器のどれでも「赤字の期の損を給与と相殺して税金を減らす」ことはできない。違うのは、損がどこに、いつ出るかである。
最後に、赤字の可能性を考えるときに届出書・有価証券報告書で確認する項目をまとめる。
本稿は、公表された条文(所得税法、法人税法、法人税法施行令、租税特別措置法、商法、不動産特定共同事業法)、国税庁の所得税基本通達および同庁の解説、発行者の法定開示(有価証券届出書・有価証券報告書)に基づく一般的な整理であり、税務助言ではない。1口当たり分配額のうち当サイトの計算と明記したものは説明のための試算で、発行者の公表値ではない。取扱いは投資家の属性(個人・法人)、契約の定め、改正の経過措置によって異なる。実際の申告の可否・方法は税理士等の専門家および取扱金融商品取引業者の案内に従い、投資判断にあたっては各商品の目論見書・契約締結前交付書面を確認してほしい。当サイトは独立・非勧誘の不動産ST記録機関として、公表された制度と一次資料の整理のみを行っており、特定の銘柄・証券会社・スキームの推奨や勧誘は行わない。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。