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▲赤=増加/出所: 業界公表値・当サイト集計
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建物のデューデリはどこまで開示されるか——エンジニアリング・レポートと地震PMLを、公募不動産ST 14件の実物で読む

公開 2026-09-11 / 読了 14

公募不動産STの有価証券届出書には、必ずといっていいほど「地震PML 5.0%」「今後2〜10年間に必要と想定される修繕費 537,422千円」といった数字が載っている。出所はエンジニアリング・レポート(ER)と呼ばれる建物の調査報告書だが、そもそもなぜERが取られるのか、そこに何が書かれているのか、そして届出書に出てくるのはそのうちどこまでなのか——EDINETに提出された14件と、国土交通省の不動産鑑定評価基準を突き合わせて、実物から確かめる。

まず前提——「ER」「地震PML」「建物状況調査」という3つの言葉

不動産STの届出書を開くと、物件の概要表のどこかに必ず「地震PML(地震PML値調査業者)」という欄があり、その少し下に「建物状況評価概要」という表がある。どちらも建物のデューデリジェンス——買う前に建物を調べる作業——の産物だが、そこに出てくる言葉は日常語と紛らわしい。最初に3つ、ほどいておく。

ややこしいのは3番目である。宅地建物取引業法にも「建物状況調査」というまったく同じ名前の制度があり、中古住宅の売買で使われている。不動産STの届出書に出てくる「建物状況調査報告書」は、そのすぐ後ろにかっこ書きで「建物エンジニアリングレポート」と言い直されているとおり、宅建業法の制度ではなくERのことを指している。同じ語で別の物を指しているので、読むときは必ずかっこの中を見る。

ちなみに宅建業法の建物状況調査は、対象が「建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分」の2つに限られ、実施できる者も「建築士であって国土交通大臣が定める講習を修了した者」に限定されている(宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号、同法施行規則第15条の8第1項)。しかも重要事項説明の対象になるのは実施後1年以内(鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年以内)のものだけである(同法第35条第1項第6号の2イ、同規則第16条の2の2)。ERにはこの資格要件も有効期限もない。

① エンジニアリング・レポート(ER)建物の健康診断書。定義は不動産鑑定評価基準にある
不動産鑑定評価基準 各論第3章第3節Ⅰ(3)が「建築物、設備等及び環境に関する専門的知識を有する者が行った証券化対象不動産の状況に関する調査報告書」と定義している。金融商品取引法にも信託法にもこの語の定義はなく、根拠は鑑定の基準の側にある。不動産STの届出書は、これを「建物状況調査報告書(建物エンジニアリングレポート)」という言い方で呼ぶ。
② 地震PML大地震のとき、建物がいくら壊れるかの割合
PMLはProbable Maximum Loss(予想最大損失率)の略。横浜伊勢佐木町の届出書だけが、注記で正面から定義している——「対象施設あるいは施設群に対し最大級の損失をもたらす50年間の超過確率が10%であるような地震(再現期間475年相当の地震)が発生し、その場合の90%非超過確率に相当する物的損失額の再調達価格に対する割合」。つまり分母は時価でも鑑定評価額でもなく「建て直すのに要する額(再調達価格)」である。
③ 建物状況調査(宅建業法の法律用語)①とは別物。中古住宅売買のためのインスペクション
宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号が定める用語で、対象は「建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分」の2つだけ。実施できるのは建築士であって国土交通大臣が定める講習を修了した者(同法施行規則第15条の8第1項)に限られ、結果は重要事項説明の対象になる(同法第35条第1項第6号の2イ。実施後1年、RC造・SRC造の共同住宅等は2年以内のものに限る=同規則第16条の2の2)。①のERはこの資格要件にも期限にも縛られない
最初につまずくのは①と③が同じ「建物状況調査」という言葉を使っていることである。不動産STの届出書に出てくる「建物状況調査報告書」は、かっこ書きで「建物エンジニアリングレポート」と言い直されているとおり①のことであって、宅建業法の③ではない。読むときはかっこの中を見て判別するのが確実である。
図: 建物のデューデリで出てくる3つの言葉。上から順に、調査報告書そのもの(①)/その中の地震指標(②)/同じ名前の別制度(③)と読む。出所は不動産鑑定評価基準(国土交通省・平成26年5月1日一部改正)各論第3章、宅地建物取引業法および同法施行規則(e-Gov法令検索・2026年9月11日確認)、EDINET提出の有価証券届出書S100YR0W(合同会社LST1号・2026年7月16日提出)。本図は用語の説明であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。

なぜERは必ず取られるのか——命じているのは金融商品取引法ではない

公募不動産STでERが事実上必ず取得されている理由を、金融商品取引法の開示制度に探しても見つからない。命じているのは、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準のほうである。

順に追うとこうなる。同基準の各論第3章は「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」を扱う章で、その第1節Ⅰが証券化対象不動産の範囲を定義している。そこには「金融商品取引法第2条第1項第5号、第9号……、第14号及び第16号に規定する有価証券並びに同条第2項第1号、第3号及び第5号の規定により有価証券とみなされる権利の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引」が挙げられている。第2条第1項第14号は受益証券発行信託の受益証券であり、第2条第2項第5号は集団投資スキーム持分である。つまり受益証券発行信託型もGK-TK型も、どちらもこの枠に入る。

そして同節は続けてこう書く。「証券化対象不動産の鑑定評価は、この章の定めるところに従って行わなければならない。この場合において、鑑定評価報告書にその旨を記載しなければならない」。

その「この章」の中、第4節Ⅲ(1)が本題である。「証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、不動産鑑定士は、依頼者に対し当該鑑定評価に際し必要なエンジニアリング・レポートの提出を求め、その内容を分析・判断した上で、鑑定評価に活用しなければならない」。ただし書きも用意されていて、ERの提出がない場合や記載内容が鑑定評価に活用する資料として不十分と認められる場合には、鑑定士自身が調査を行うなどして対応し、対応した内容とそれが適切だと判断した理由を鑑定評価報告書に書かなければならない、とされている。

この構造は、実務上いくつかのことを意味する。第一に、ERは「取ってもよい書類」ではなく、鑑定士の側から提出を求められる書類である。第二に、鑑定評価額は発行価格の土台になる——別稿『発行価格はどう決まるのか——鑑定評価額・1口当たりNAV試算値・引受人手取金を、届出書10本の実物で並べる』で見たとおり、公募不動産STの発行価格は鑑定評価額等に基づく1口当たりNAV試算値を基準に決まる——から、ERは投資家が払う金額の土台の、そのまた土台にある。第三に、しかし鑑定士がERをどう分析し、どう活用したかの記録が残るのは鑑定評価報告書のほうであって、届出書に載るのは「不動産鑑定評価書の概要」までである。ERをめぐる最も詳しい記録は、最初から公開の外にある。

STEP 1
不動産STは「証券化対象不動産」に当たる
  • 不動産鑑定評価基準 各論第3章第1節Ⅰ(3)が、金融商品取引法第2条第1項第14号(受益証券発行信託の受益証券)と同条第2項第5号(集団投資スキーム持分)に係る不動産取引を名指しで挙げている
  • 受益証券発行信託型もGK-TK型も、どちらもこの枠に入る
STEP 2
「この章の定めるところに従って行わなければならない」
  • 各論第3章第1節Ⅰの末尾の一文。従った旨を鑑定評価報告書に記載する義務もある
STEP 3
鑑定士はERの提出を求め、活用しなければならない
  • 各論第3章第4節Ⅲ(1)——「依頼者に対し当該鑑定評価に際し必要なエンジニアリング・レポートの提出を求め、その内容を分析・判断した上で、鑑定評価に活用しなければならない」
  • ERがない/内容が不十分なときは、鑑定士自身が調査して代替し、その内容と適切と判断した理由を鑑定評価報告書に書く
STEP 4
鑑定評価額 → 1口当たりNAV試算値 → 発行価格
  • 公募不動産STの発行価格は、鑑定評価額等に基づく1口当たりNAV試算値を基準に決まる
  • つまりERは、投資家が払う金額の土台の、そのまた土台にある
金融商品取引法の開示制度が「ERを取れ」と命じているわけではない。命じているのは鑑定の基準であり、そこを通って結果的に公募不動産STでERの取得が事実上の前提になっている。裏を返すと、ERをどう使ったかの記録が残るのは鑑定評価報告書のほうで、そこは公開されない——届出書に載るのは「不動産鑑定評価書の概要」までである。発行価格が決まるまでの流れは別稿『発行価格はどう決まるのか——鑑定評価額・1口当たりNAV試算値・引受人手取金を、届出書10本の実物で並べる』で扱った。
図: ERが必ず取得される理由の4段。上から下へ、制度の適用(STEP 1・2)→鑑定士の義務(STEP 3)→値段への波及(STEP 4)と読む。STEP 3が本図の芯で、「活用しなければならない」という義務が鑑定士側に置かれている点が押さえどころである。出所は不動産鑑定評価基準(国土交通省・平成14年7月3日全部改正/平成26年5月1日一部改正)各論第3章第1節Ⅰ・第4節Ⅲ、金融商品取引法第2条第1項第14号・第2項第5号(e-Gov法令検索・2026年9月11日確認)。本図は制度の整理であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。

ERは何を見ているのか——届出書が並べる5項目と、鑑定基準が挙げる8項目

では、そのERには何が書いてあるのか。届出書は答えの半分を教えてくれる。本稿が読んだ受益証券発行信託型13件のすべてに、ほぼ一字一句同じ文が置かれている——「投資対象不動産に関する建物劣化診断調査、短期・長期修繕計画の策定、建築基準法等の法令遵守状況調査、建物有害物質含有調査、土壌環境調査等に関する建物状況調査報告書(建物エンジニアリングレポート)」。建物の傷み、直す費用、法令違反の有無、有害物質、土壌——5つが並ぶ。

残りの半分は鑑定評価基準にある。各論第3章第4節Ⅲ(3)は、鑑定士がERを活用するかどうかを検討するにあたって鑑定評価報告書に記載しなければならない事項を表にしていて、その中の「鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因に関する調査」という項目に8つが列挙されている——公法上及び私法上の規制、制約等(法令遵守状況調査を含む)/修繕計画/再調達価格/有害な物質(アスベスト等)に係る建物環境/土壌汚染/地震リスク/耐震性/地下埋設物。

並べると、届出書の5項目には再調達価格・耐震性・地下埋設物がない。末尾の「等」に畳み込まれていると読むほかないが、いずれにせよここで確認しておくべきは、この定型文が語っているのは「ERという書類の一般的な守備範囲」であって、「その物件のERに何が書いてあったか」ではないということである。5項目の並びは案件が違っても変わらない。

調べていること
届出書がERの内容として並べる5項目
鑑定評価基準が鑑定士に記載を求める項目
建物の傷み具合
建物劣化診断調査
(対応する明示の項目なし。修繕計画の前提として扱われる)
直す費用と時期
短期・長期修繕計画の策定
修繕計画
法令に違反していないか
建築基準法等の法令遵守状況調査
公法上及び私法上の規制、制約等(法令遵守状況調査を含む)
体に悪い物質がないか
建物有害物質含有調査
有害な物質(アスベスト等)に係る建物環境
土が汚れていないか
土壌環境調査
土壌汚染
建て直すといくらか
(記載なし)
再調達価格
地震でどれだけ壊れるか
(別項目「地震PML」として扱う)
地震リスク
地震に耐える設計か
(記載なし)
耐震性
地下に何か埋まっていないか
(記載なし)
地下埋設物
真ん中の列は、本稿が読んだ受益証券発行信託型13件のすべてに、ほぼ一字一句同じ文で書かれている——「投資対象不動産に関する建物劣化診断調査、短期・長期修繕計画の策定、建築基準法等の法令遵守状況調査、建物有害物質含有調査、土壌環境調査に関する建物状況調査報告書(建物エンジニアリングレポート)」。末尾の「等」に、右列の再調達価格・耐震性・地下埋設物が畳み込まれていると読むほかない。この定型文は、ERの実物に何が書いてあるかではなく、ERという書類の一般的な守備範囲を説明しているにすぎない点に注意がいる。
表: ERの守備範囲を2つの資料から並べたもの。左から順に、平たく言えば何を調べているか/届出書の定型文が挙げる5項目/鑑定評価基準が「専門性の高い個別的要因に関する調査」として鑑定評価報告書への記載を求める項目と読む。右列は不動産鑑定評価基準 各論第3章第4節Ⅲ(3)の表にそのまま掲げられている8項目である。左右の対応づけは当サイトによる。出所は不動産鑑定評価基準(国土交通省・平成26年5月1日一部改正)、およびEDINET提出の有価証券届出書・有価証券報告書13件(本文の出所欄に掲げる)。本表は開示文言と基準の対照であり、調査の十分性の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

実物14件のER欄——そろっていないものを、そろえずに並べる

本稿はEDINETに提出された14件を読んだ。受益証券発行信託型が13件(有価証券届出書10件・有価証券報告書3件)、GK-TK型が1件(ロードスターグループのデジタル証券 横浜伊勢佐木町ホテル)である。対象となる物件は合わせて34件、地震PMLの値は35(芝公園ほかの1物件だけがNorthとSouthの2棟で2値を示す)ある。

並べてまず目につくのは、数字がそろっていないことである。修繕費の対象期間が「今後2〜10年間」と「今後2〜12年間」に割れ、横浜だけが「調査時点である築年数36年目以降12年間」と築年を起点にする。同じ東京海上ディーアール株式会社がERを作っていても、7件が2〜12年、東横INNの1件だけが2〜10年である。単位も揺れる——ほとんどが千円単位の総額だが、トーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ3)市ヶ谷だけは「10,949千円/年」と年額であり、由縁札幌は「0円」と円単位で書く。「今後1年間に必要とされる修繕費」の欄は「0千円」「0円」「-」が混在し、ゼロと空欄が同じ意味かどうかはどこにも書かれていない。

その中で1件だけ、数字そのものが目を引く。KDX名古屋栄ビル(2024年2月9日提出)の「今後1年間に必要とされる修繕費」は124,494千円である。他の13件はすべてゼロか空欄なので、これは例外的な水準にあたる。同じ届出書の鑑定評価の概要に載る運営純収益(NOI)は272,875千円だから、1年目に必要とされる修繕費が1年分のNOIの約46%にあたる計算になる(この比は当サイトの計算であり、発行者の公表値ではない)。2009年4月築、鉄骨造陸屋根11階建、延床面積9,594.00㎡のオフィス・店舗である。

もうひとつ、直感に反する事実がある。建物の古さと地震PMLは連動していない。本稿の中でいちばん古い1990年10月築の横浜伊勢佐木町ホテルがPML 4.3%であるのに対し、いちばん新しい部類の2023年11月築であるシックスセンシズ京都は14.3%と、35値の中で最も高い。PMLは築年の指標ではなく、その土地の地震ハザードと建物の構造から算出される指標だからである。築古を避ければPMLが下がる、という読み方は成り立たない。

案件(提出日)
建築時期
ERの調査業者
調査年月
今後1年間の修繕費
その先の修繕費(期間)
地震PML
KDX ドーミーイン神戸元町(2023-11-20)
2020年3月
東京海上ディーアール
2023年7月21日
0千円
153,066千円(2〜12年)
7.3%
いちご・レジデンス 芝公園ほか6物件(2023-11-20)
2022〜2023年
東京海上ディーアール
2023年10月
各0千円
6,297〜32,888千円(2〜12年)
3.5〜6.2%
KDX名古屋栄ビル(2024-02-09)
2009年4月
東京海上ディーアール
2023年9月
124,494千円
140,913千円(2〜12年)
4.3%
トーセイPF(シリーズ3)市ヶ谷(2024-04-15)
1993年1月
J建築検査センター
2024年1月
10,949千円/年(2〜12年)
8.6%
いちご・レジデンス 西麻布ほか7物件(2024-04-22)
2022〜2023年
東京海上ディーアール
2024年2月
各0千円
7,370〜26,955千円(2〜12年)
3.9〜8.2%
いちご・レジデンス 市谷仲之町ほか7物件(2024-09-20)
2021〜2024年
東京海上ディーアール
2024年8月
各0千円
10,776〜24,047千円(2〜12年)
4.5〜7.9%
三井物産 三重・イオンタウン鈴鹿(2024-10-16)
2007年6月
大和不動産鑑定
2024年6月
204,829千円(2〜10年)
8.4%
三井物産 東横INN・優待あり(2026-02-24)
2018年2月
東京海上ディーアール
2025年10月
537,422千円(2〜10年)
5.0%
KDX ONSEN RYOKAN 由縁札幌〈第5期有報〉(2026-04-30)
2020年5月
東京海上ディーアール
2022年12月7日
0円
177,663千円(2〜12年)
2.9%
ロードスター 横浜伊勢佐木町ホテル(2026-07-16)
1990年10月
(社名の記載なし)
2026年4月
緊急80千円/短期0円
1,017,499千円(築36年目以降12年間)
4.3%
三井物産 熱海温泉〈第5期有報〉(2026-07-21)
2020年8月
大和不動産鑑定
2023年8月
39,911千円(2〜10年)
10.2%
三井物産 学芸大学ほか4物件〈第2期有報〉(2026-07-21)
2021〜2022年
大和不動産鑑定
2024年12月
各-
7,075〜16,041千円(2〜10年)
4.9〜9.0%
三井物産 品川・オフィス&ホテル(2026-07-24)
2004年8月
大和不動産鑑定
2026年5月
1,928,757千円(2〜10年)
1.9%
ウェルス シックスセンシズ京都(2026-08-03)
2023年11月
東京海上ディーアール
2026年6月
0千円
155,654千円(2〜12年)
14.3%
この表がいちばん強く語るのは「そろっていない」ということである。①期間が2〜10年と2〜12年に割れ、横浜だけ「築36年目以降12年間」と起点の書き方まで違う。同じ東京海上ディーアールでも、7件が2〜12年、東横INNだけ2〜10年である。②単位も千円・円・「千円/年」の3通り——市ヶ谷の10,949千円/年だけは総額ではなく年額である。③今後1年間の欄は「0千円」「0円」「-」「各-」が混在し、ゼロと空欄が同じ意味かどうかは書かれていない。④その中で、名古屋栄の124,494千円だけが突出している。同じ案件の鑑定評価に載る運営純収益(NOI)272,875千円と並べると、1年目に必要とされる修繕費が1年分のNOIの約46%にあたる(当サイトの計算)。⑤建物の古さとPMLは連動していない——1990年築の横浜が4.3%、2023年築の京都が14.3%である。PMLは築年ではなく、立地の地震ハザードと構造で決まる指標だからである。
表: 公募不動産ST 14件のERとPMLの実数。左から順に、案件(提出日)/建築時期/ERの調査業者/調査年月/今後1年間の修繕費/その先の修繕費と対象期間/地震PMLと読み、提出日の古い順に並べてある。複数物件の案件は最小〜最大の幅で示した。建築時期は登記簿上の新築時点(案件により新築年月日または工事完了検査年月)である。金額・期間・PMLはいずれも各書類の記載をそのまま転記した。名古屋栄のNOI比のみ当サイトの計算による。出所はEDINET提出のS100SB9N/S100SBPF/S100SRLJ/S100T9M6/S100TAY3/S100UE49/S100UJK9/S100XMTM/S100Y1FJ/S100YR0W/S100YR31/S100YR5I/S100YS50/S100YTNX(いずれも2026年9月11日取得)。本表は開示された記載の集計であり、建物の良否や修繕費の妥当性の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

PMLという数字と、15%という線

PMLの定義を正面から書いている届出書は、本稿の14件のうち1件しかない。GK-TK型の横浜伊勢佐木町ホテルである。注記はこう書く——「地震PML(Probable Maximum Loss:予想最大損失率)」は建物の地震リスクを表す指標だが、ここでは「対象施設あるいは施設群に対し最大級の損失をもたらす50年間の超過確率が10%であるような地震(再現期間475年相当の地震)が発生し、その場合の90%非超過確率に相当する物的損失額の再調達価格に対する割合」を意味する、と。

この一文には、実務者が押さえておくべき前提が3つ入っている。ひとつは想定する地震の強さが「再現期間475年相当」に固定されていること。ふたつめは損失額の側も「90%非超過確率」という統計的な位置で切り取られていること。みっつめ、そして見落とされやすいのが、分母が再調達価格——建て直すのに要する額——であって、鑑定評価額でも時価でもないことである。横浜の場合、その再調達価格は7,692,700,000円と実額で開示されているので、PML 4.3%が何に対する4.3%なのかが読者の側で確かめられる。残る13件では再調達価格が開示されていないため、同じ確かめ方はできない。

PMLの数字が実務上いちばんはっきり効いてくるのは、地震保険を掛けるかどうかの判断である。本稿の14件のうち7件が、付保方針の欄でPMLを理由に挙げて「地震保険は付保しません」と明記している。書きぶりは2通りに分かれる。実数を書く型(ONSEN RYOKAN 由縁札幌「2.9%であることを踏まえ」、名古屋栄「4.3%」、神戸元町「7.3%」、シックスセンシズ京都「14.3%」)と、閾値を書く型(品川・東横INN・イオンタウン鈴鹿の3件が、いずれも「15%未満であることを踏まえ」)である。

後者の3件はいずれも三井物産デジタル・アセットマネジメントが運用する案件で、PML 1.9%の品川も8.4%の鈴鹿も同じ一文になっている。個別の判断というより、あらかじめ引かれた社内基準の線が文面に出たものと読める。ただし15%という水準がどこから来ているのかは、届出書には書かれていない。

そして残る5件——いちご・レジデンス・トークンの3案件、市ヶ谷、熱海温泉、学芸大学ほか4物件——は、付保方針の定型文(火災保険・賠償責任保険・利益保険等を付保する、引受保険会社は保険代理店を通じて複数社の条件を検証して選ぶ)まで他の案件とほぼ同文でありながら、地震保険に触れる一文だけがない。PDF全文で「地震保険」という語の出現回数がゼロである。熱海温泉のPMLは10.2%で本稿の中では2番目に高いが、それでも言及がない。地震保険を掛けたのか掛けなかったのかは、これらの案件では届出書・有報からは読み取れない。

案件
地震PML
付保方針の欄の書きぶり
三井物産 品川・オフィス&ホテル
1.9%
「地震PML値が15%未満であることを踏まえ地震保険は付保しません」
KDX ONSEN RYOKAN 由縁札幌〈有報〉
2.9%
「地震PML値が2.9%であることを踏まえ地震保険は付保しません」
KDX名古屋栄ビル
4.3%
「地震PML値が4.3%であることを踏まえ地震保険は付保しません」
三井物産 東横INN・優待あり
5.0%
「地震PML値が15%未満であることを踏まえ地震保険は付保しません」
KDX ドーミーイン神戸元町
7.3%
「地震PML値が7.3%であることを踏まえ地震保険は付保しません」
三井物産 三重・イオンタウン鈴鹿
8.4%
「地震PML値が15%未満であることを踏まえ地震保険は付保しません」
ウェルス シックスセンシズ京都
14.3%
「地震PML値が14.3%であることを踏まえ地震保険は付保しません」
いちご・レジデンス 3案件(20物件)
3.5〜8.2%
付保方針の欄に地震保険への言及がない(「地震保険」の語が本文に0件)
トーセイPF(シリーズ3)市ヶ谷
8.6%
同上(0件)
三井物産 熱海温泉〈有報〉
10.2%
同上(0件)
三井物産 学芸大学ほか4物件〈有報〉
4.9〜9.0%
同上(0件)
ロードスター 横浜伊勢佐木町ホテル
4.3%
付保方針の欄そのものがない(投資リスクの欄で財物保険・利益保険・賠償責任保険の付保に触れる)
PMLの数字が実務上いちばんはっきり効いてくるのは、地震保険を掛けるかどうかの判断である。7件が付保方針の欄でPMLを理由に挙げて「付保しません」と書き、そのうち3件(品川・東横INN・鈴鹿)は実数ではなく「15%未満であることを踏まえ」という言い方をする。三井物産デジタル・アセットマネジメントが運用する案件で、PML 1.9%の品川も8.4%の鈴鹿も同じ一文になっているので、この15%は個別の判断ではなく、あらかじめ引かれた社内基準の線が文面に出たものと読める。ただし15%という水準の根拠は届出書に書かれていない。残る5件(いちご3案件・市ヶ谷・熱海温泉・学芸大学ほか)は付保方針の定型文は同じなのに、地震保険の一文だけがない——熱海温泉はPML 10.2%で本稿の中では2番目に高いが、それでも言及がない。PMLの数字と、地震保険をどうしたかの説明は、案件をまたいで同じ形では読めない
表: 地震PMLと付保方針の記載の対応。左から順に、案件/地震PML(複数物件は幅)/付保方針の欄の書きぶりと読み、上7件が地震保険に言及した案件をPMLの低い順に、下5件が言及のない案件である。本稿が読んだ14件・34物件のPMLは35値で、最小1.9%・最大14.3%・中央値5.4%(当サイトの集計。芝公園ほかの1物件はNorth/Southの2値が示されるため物件数より値が1多い)。15%以上の物件は1つもない。出所はEDINET提出の14件(本文の出所欄に掲げる)の「地震PML(地震PML値調査業者)」欄および「付保方針」欄。本表は開示された記載の対照であり、保険設計の当否の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。保険の要否は個別の事情によるため、判断は専門家に確認されたい。

調べた結果はどこまで出てくるか——13件と1件

ここまでで分かるのは、ERが取られていること、誰が取ったこと、そしてそこから抜かれた数値が数個載っていることである。では、ERを読んで何が見つかったのかは、どこまで開示されるのか。

受益証券発行信託型13件については、答えははっきりしている。ほとんど出てこない。PDF全文を機械集計すると、13件のすべてで「再調達価格」「土壌汚染」「アスベスト」「遵法性」「既存不適格」という語の出現回数がゼロである。ERの守備範囲を説明する定型文に「建物有害物質含有調査」「土壌環境調査」の語があるだけで、その調査の結論は書かれていない。「指摘」という語は13件それぞれに1回ずつ出てくるが、いずれも受託者の内部管理体制の説明(管理部署から指摘された問題等について遅滞なく改善に向けた取組みを行う、という趣旨)であって、ERの指摘事項ではない。

対して、GK-TK型の横浜伊勢佐木町ホテル1件は違う。建物状況調査報告書の表には再調達価格7,692,700,000円が入り、修繕費は「緊急80,000円/短期0円/中・長期修繕更新費用1,017,499,000円」と3区分で示され、注記には各区分の定義まで置かれている(「緊急」は危険な状態にあり直ちに対策が必要な不具合、テナントに影響を及ぼす著しい不具合、具体的な指摘を受けた法・条例違反、等)。さらに特記事項の欄で、「建物状況調査報告書では、建築基準法等の遵法性に関し以下の指摘があります」として3件を列挙する——①1階テナント検針用の給水メーターの期限切れ、②建築設備定期検査報告書において指摘事項(非常用照明不点灯)が確認されたこと、③電気工作物年次定期点検報告書において指摘事項(管理室外灯回路絶縁不良)が指摘されたこと。そのうえで「当該指摘事項は、本信託受益権の売主がその責任と負担にて是正することとします」と処理まで書く。土壌についても「現況利用において健康被害リスクは低いと判断されています」とERの判定を引き、建物の「実効経済的耐用年数は、65年とされており、残存期間は30年とされています」と残り寿命まで書いている。

面白いのは、この2つの列で開示の量がきれいに逆転していることである。受益証券発行信託型13件は、調査業者を実名で明かす(東京海上ディーアール株式会社/大和不動産鑑定株式会社/株式会社J建築検査センター)が、何が見つかったかは書かない。横浜は逆に、調査業者の名前をどこにも書かず(注記も「調査会社が作成した長期修繕計画表に基づいて調査会社が試算した」と一般名詞のままである)、何が見つかったかを書く。

どちらが正しいという話ではない。適用される様式が違うので(受益証券発行信託型は特定有価証券開示府令の第六号様式、GK-TK型は第六号の五様式)、置かれる項目も実務の慣行も違って固まっている、というだけである。ただし読む側にとっての意味ははっきりしている——受益証券発行信託型の13件では、届出書から読み取れるのは「ERが取得されている」ことと、そこから抜かれた数個の数値までである。そして横浜の例が示すとおり、それ以上を書けないわけではない。

ERから読めること
受益証券発行信託型 13件
GK-TK型 1件(横浜伊勢佐木町)
調査業者の名前
13件すべてが実名で記載(東京海上ディーアール/大和不動産鑑定/J建築検査センター)
記載がない。注記も「調査会社が作成した長期修繕計画表に基づいて調査会社が試算した」と一般名詞のまま
再調達価格
13件とも本文に「再調達価格」の語が0件
7,692,700,000円と実額で記載(PMLの分母がそのまま読める)
修繕費の区分
「今後1年間」「今後2〜10年(または2〜12年)」の2区分だけ
緊急80,000円/短期0円/中・長期1,017,499,000円の3区分で、注記に各区分の定義(危険な状態、1年以内に行うべき、など)まで書かれる
遵法性の指摘事項
13件とも「遵法性」「既存不適格」の語が0件。ERに指摘があったかどうかは読めない
3件を列挙——①1階テナント検針用の給水メーターの期限切れ ②建築設備定期検査報告書の指摘(非常用照明不点灯)③電気工作物年次定期点検報告書の指摘(管理室外灯回路絶縁不良)。「本信託受益権の売主がその責任と負担にて是正する」と処理まで書かれる
土壌汚染の判定
13件とも「土壌汚染」の語が0件(ERの守備範囲として「土壌環境調査」の語があるだけ)
「現況利用において健康被害リスクは低いと判断されています」とER の判定を引用
建物の残り寿命
記載なし
「実効経済的耐用年数は、65年とされており、残存期間は30年とされています」
2つの列は、開示の量がきれいに逆転している。受益証券発行信託型は誰が調べたかを実名で明かし、何が見つかったかは書かない。GK-TK型の1件は誰が調べたかを伏せ、何が見つかったかを書く。どちらが正しいという話ではなく、様式が違えば置かれる項目が違い、実務の慣行もそれに沿って固まっているということである。ただし読む側にとっては、受益証券発行信託型の13件では「ERが取得されている」以上のことは届出書からは分からない——これが押さえどころになる。なお横浜の例が示すとおり、制度上そこまで書けないわけではない
表: ERの中身が開示書類にどこまで出てくるか。左から順に、ERから読めるはずの項目/受益証券発行信託型13件の扱い/GK-TK型(横浜伊勢佐木町)の扱いと読む。「0件」はPDF全文に対する語の出現回数を当サイトが機械集計した結果である。GK-TK型は匿名組合出資持分をトークン化したもので、有価証券届出書は特定有価証券開示府令の第六号の五様式による。出所はEDINET提出の受益証券発行信託型13件、およびS100YR0W(合同会社LST1号・2026年7月16日提出、いずれも2026年9月11日取得)。本表は開示の粒度の比較であり、開示の適否の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

物理リスクの情報は、届出書の5か所に散っている

建物の物理的なリスクに関する情報は、届出書の1か所にまとまっていない。少なくとも5つの欄に分かれて置かれており、それぞれ性格が違う。

実際に案件固有の事情が具体的に書かれるのは、事実上「特記事項」の欄だけである。本稿の実例を挙げると、品川・オフィス&ホテルは「品川区が作成した『高潮浸水ハザードマップ』において浸水深1.0m以上3.0m未満の浸水想定区域内に位置しています」、熱海温泉は土砂災害警戒区域と津波災害警戒区域の双方に土地の一部が位置すること、東横INNは名古屋市の洪水・高潮ハザードマップで1.0m以上3.0m未満、内水氾濫ハザードマップで0.3m未満の浸水想定区域内にあることに加えて「名古屋市が公表する浸水履歴によれば、2008年8月末豪雨及び2013年の集中豪雨において浸水実績がある区域に該当しています」、シックスセンシズ京都は「投資対象不動産の敷地と隣地の境界の一部が確定していません」と書く。

注意しておきたいのは、これらがいずれもERの5項目には入らない情報だということである。水害ハザードマップも土砂災害警戒区域も津波災害警戒区域も、建物劣化診断でも法令遵守状況調査でも有害物質調査でもない。ERとは別の経路で拾われ、別の欄に置かれている。逆にいえば、ERの5項目のほうは調べた事実だけが書かれ、ERの外側にあるハザード情報のほうが具体的に書かれている、という非対称がある。

そして「本件不動産受益権選定の理由」の欄には、14件のうち12件にほぼ同文でこう書かれている——この調査には「耐震性の調査(新耐震基準……に適合している不動産等又はそれと同水準以上の耐震性能を有している不動産等に該当するか否かの調査)及び環境・地質等調査(有害物質の使用及び管理状況について重大な問題の有無の調査)を含みます」。調査を実施した旨は書かれるが、その調査の結果がどうだったかは書かれない。

① 物件概要の「地震PML(地震PML値調査業者)」欄数字が1つと、調べた会社の名前
本稿の14件すべてにある。ただし置き場所が2通りに割れる——物件の概要表に置く案件(9件)と、鑑定評価の概要表の中に「地震PML値」として置く案件(5件・神戸元町/名古屋栄/市ヶ谷/由縁札幌/京都)である。見当たらないときは鑑定評価の表を見る
② 「建物状況評価概要」欄調査業者・調査年月・修繕費2区分
受益証券発行信託型13件にある(GK-TK型は「建物状況調査報告書」という別の表)。修繕費の対象期間と単位が案件ごとに違うので、数字だけ抜いて並べても比較にならない
③ 「特記事項」欄個別事情。実質ここだけが案件固有
本稿の実例——品川「高潮浸水ハザードマップにおいて浸水深1.0m以上3.0m未満の浸水想定区域内」/熱海温泉「土砂災害警戒区域」かつ「津波災害警戒区域」に位置/東横INN洪水・高潮ハザードマップで1.0m以上3.0m未満、内水氾濫で0.3m未満、加えて「2008年8月末豪雨及び2013年の集中豪雨において浸水実績がある区域」京都「敷地と隣地の境界の一部が確定していません」。いずれもERの5項目には入らない情報である
④ 「本件不動産受益権選定の理由」欄やったという事実だけ
12件にほぼ同文で「この調査には、耐震性の調査(新耐震基準に適合している不動産等又はそれと同水準以上の耐震性能を有している不動産等に該当するか否かの調査)及び環境・地質等調査(有害物質の使用及び管理状況について重大な問題の有無の調査)を含みます」とある。実施した旨は書かれるが、結果は書かれない
⑤ 「投資リスク」欄ERの限界についての一般論
横浜の届出書の一文が代表的である——「建物エンジニアリング・レポートについても、建物の状況及び構造に関して専門家が調査した結果を記載したものにすぎず、不動産に欠陥、瑕疵、契約不適合が存在しないことを保証又は約束するものではありません」。②の欄の注記にも同趣旨で「一定時点における上記調査業者の判断と意見であり、その内容の妥当性及び正確性を保証するものではありません」と置かれる。
建物の物理リスクに関する情報は、届出書の1か所にまとまっていない。①②は数字、④はやった事実、⑤は一般論で、その物件だけの事情が具体的に書かれるのは実質③の「特記事項」だけである。だから読む順は③→①→②→④→⑤がよい。③に何も書かれていなければ「特筆すべき事情はないと発行者側が判断した」という意味であって、ERに何も指摘がなかったことの証明ではない
図: 建物の物理リスク情報が置かれる5か所。①②が数値、③が個別事情、④が手続の事実、⑤が限界の断りという役割分担で読む。「新耐震基準」は昭和56年に施行された建築基準法施行令の改正に基づく耐震基準を指す(届出書の定義による)。出所はEDINET提出の14件(本文の出所欄に掲げる)の各欄。本図は開示書類の読み方の整理であり、投資判断の助言でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

実務の勘所——どの書類を指しているのかを、まず特定する

最後に、組成側・投資事務側がERとPMLの記載を扱うときの勘所をまとめる。共通しているのは「数字を抜く前に、それがどの書類の、いつの数字なのかを特定する」という一点である。

たとえば地震PMLの出所は、14件で3通りに割れる。8件はER自体からPMLを引き、5件は別建ての地震報告書を出所に挙げる(品川と熱海温泉は「地震PML簡易評価報告書」、東横INNは「地震PML評価報告書(レベル1)」、イオンタウン鈴鹿は「地震リスク評価報告書(Phase1)」)。残る1件(横浜)は建物状況調査報告書の表にPML列を置く。別建ての5件は、名前が示すとおりいずれも簡易版・レベル1・Phase1という最も軽い階層で、詳細評価を取った旨の記載は本稿の範囲では1件もない。

日付も揃わない。PMLの出所としてERを挙げる8件のうち、「建物状況評価概要」欄の調査年月と、PML注記が挙げるERの日付が一致するのは3件だけである。KDX名古屋栄ビルは前者が2023年9月、後者が「2024年1月付エンジニアリング・レポート」で4か月開いている。同じ東京海上ディーアール株式会社の名前で、別の成果物が2つある可能性がある、ということである。書類名と日付をセットで押さえておかないと、後から「どのERの数字か」を再現できない。

本稿は開示された記載の記録であり、特定の銘柄や事業者の推奨・勧誘ではない。ここで扱った数値はいずれも各書類の記載日時点のものであり、その後の実際の建物の状態や修繕の実施状況を示すものではない。また、ERやPMLの評価それ自体の妥当性については判断していない。保険・税務・会計上の取扱いは一般的な解説であり、個別の判断は税理士・保険の専門家等にご確認いただきたい。

関連する記録として、鑑定評価書を運用期間中に何回取り直すのかは『鑑定評価書は何回取得が必要か——取得時・各期末・売却直前、公募不動産STで実際に取られている回数』、修繕・資本的支出が分配可能額にどう効くのかは『利益超過分配の会計処理——減価償却・分配可能額と、令和7年改正後の実物』、費目全体の地図は『不動産STの組成コスト構造——費目の全体地図と、実額を「有報で」確かめる方法』で扱っている。

① PMLの出所が「ER」か「別建ての地震報告書」かを見る14件は8対5対1に割れる
8件はERそのものからPMLを引き、5件は別の報告書を出所に挙げる——品川と熱海温泉は地震PML簡易評価報告書、東横INNは地震PML評価報告書(レベル1)、鈴鹿は地震リスク評価報告書(Phase1)である。別建ての5件は、いずれも簡易版・レベル1・Phase1という最も軽い階層で、詳細評価を取った旨の記載は本稿の範囲では1件もない。残る1件(横浜)は建物状況調査報告書の表にPML列を置く。
② 同じ案件でも調査業者が分かれることがある学芸大学ほか4物件の例
この案件はERを大和不動産鑑定が1社で作り、PMLは物件ごとに東京海上ディーアール(②④)とSOMPOリスクマネジメント(①③)に分かれている。注記も「東京海上ディーアール株式会社が作成した地震リスク評価報告書簡易評価版(Phase1)又はSOMPOリスクマネジメント株式会社が作成した2025年1月付地震PML評価報告書(レベル1)」と併記になる。1案件=1社と決めてかからない
③ 2つの日付が食い違っていないか確かめる8件中5件で不一致
PMLの出所としてERを挙げる8件のうち、「建物状況評価概要」の調査年月と、PML注記が挙げるERの日付が一致するのは3件だけ(芝公園ほか・市ヶ谷・市谷仲之町ほか)。神戸元町は2023年7月21日と2023年8月付、名古屋栄は2023年9月と2024年1月付で4か月開いている。由縁札幌は2022年12月7日と2023年3月発行、西麻布ほかは2024年2月と2024年3月付、京都は2026年6月と2026年7月付である。同じ会社名でも別の成果物である可能性があるので、どの報告書を指しているのかは書類名と日付で特定する
④ 修繕費は期間・単位・ゼロの意味をそろえてから使う横比較の前処理
2〜10年と2〜12年で対象年数が違い、市ヶ谷だけ年額表記、横浜は「築36年目以降12年間」と起点が築年基準である。さらに「0千円」「0円」「-」の混在があり、ゼロと空欄の区別は書かれていない。モデルに落とすときは年数で割った年平均に直し、ゼロと空欄は別扱いのまま持つのが安全である。
⑤ 1年目の修繕費が立っている案件は、初回計算期間のCFを必ず当てる名古屋栄の124,494千円
本稿の14件で今後1年間の修繕費に有意な額が立っているのは名古屋栄の1件だけである。同じ鑑定評価の運営純収益(NOI)272,875千円と比べると約46%にあたる(当サイトの計算)。資本的支出に振るのか費用に落とすのかで分配可能額が動くので、初回・第2回の分配見込みと突き合わせておく。減価償却と分配可能額の関係は別稿『利益超過分配の会計処理——減価償却・分配可能額と、令和7年改正後の実物』で扱った。
⑥ PMLと地震保険の説明が結びついているかを見る14件中7件だけが結びつけている
付保方針の欄でPMLを引いて「地震保険は付保しません」と書くのは7件で、うち3件は実数でなく「15%未満」という書き方をする。残る5件は付保方針の定型文は同じなのに地震保険の一文だけがない——PML 10.2%の熱海温泉も言及がない。言及がない=付保しているとも、していないとも読めないので、必要なら発行者に確認する項目として立てておく。
⑦ ERの結果を書きたいなら、書ける横浜伊勢佐木町が示した先例
受益証券発行信託型13件では遵法性の指摘・土壌汚染の判定・再調達価格・残存耐用年数のいずれも本文に出てこないのに対し、GK-TK型の横浜はそのすべてを書き、指摘事項について「売主がその責任と負担にて是正する」という処理まで開示している組成側にとってこれは、開示を厚くする余地が制度の側にではなく実務の慣行の側にあることの証拠である。
図: ERとPMLを開示書類で確かめるときの勘所7項目。①②③が出所と書類の特定、④⑤が数字の使い方、⑥が保険との接続、⑦が開示設計である。件数はいずれも本稿が読んだ14件に対する当サイトの集計であり、公募不動産ST全体の統計ではない。出所は本文の出所欄に掲げるEDINET提出書類、不動産鑑定評価基準(国土交通省)、宅地建物取引業法および同法施行規則(e-Gov法令検索・2026年9月11日確認)。本図は開示書類の読み方の整理であり、投資判断の助言でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。個別の組成・税務・法務の判断は、それぞれの専門家に確認されたい。
SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

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