UPDATE不動産ST・デジタル証券の銘柄比較機能を公開しました詳しく →
JAPAN-ST.jp不動産ST・デジタル証券の記録機関
MARKET
公募ST累計(2025年度末)3,333億円▲1,650ST市場残高(推計)1兆531億円▲81%START時価総額(2026-03)336億円収録銘柄79収録発行額(判明分)3,539億円募集中1START上場7銘柄
▲赤=増加/出所: 業界公表値・当サイト集計
実務者向け
実務者向け

発行価格は10本すべて1口当たりNAV試算値を下回っていた——不動産STの値決めを、届出書の実物で追う

公開 2026-09-10 / 読了 16

不動産STの有価証券届出書では、発行価格のすぐ横に「1口当たりNAVの試算値」という数字が置かれている。公募10本を並べると、発行価格はその試算値の93.08%〜99.70%で、10本すべてが下回っていた。本稿は、不動産鑑定評価額からその発行価格に至るまでの4段を実物で追い、誰が値段を決めているのか、販売の対価はどこに現れるのか、そして「発行価格」と「発行価額」という一字違いの2語がなぜ並ぶのかを確かめる。

まず言葉——値決めには5つの数字が出てくる

不動産STを買うとき、投資家が払う金額を「発行価格」という。ところが同じ有価証券届出書の同じ欄に、「発行価額」という一字違いの別の数字が書かれている。読み飛ばしやすいが、この2つが別の数字であることが、本稿の話のほとんど全部といってよい。まずは登場する数字を、専門語を使わずに並べておきたい。

前提をもう一つ。不動産STの募集では、有価証券届出書という書類が金融庁のEDINETに提出され、誰でも無料で読める。投資家に配られる交付目論見書は、この届出書の第一部から第三部をそのまま使う——この点は別稿『目論見書のどこを読むか——不動産STの目論見書は届出書そのもので、入口の値段は3つの数字を並べないと見えない』で扱った。つまりこれから読む数字は、募集のときに買った人全員の手元に配られていたものである。

「NAV」はNet Asset Value、日本語でいえば純資産価額の略で、資産から負債を引いた残りを指す。不動産STの届出書では、物件の不動産鑑定評価額(等)をもとに信託の純資産を出し、発行される口数で割った「1口当たりNAV」という形で登場する。ただし届出書が示すのはあくまで「試算値」であって、確定値ではない。

① 鑑定評価額不動産鑑定士が出す、物件の値段
不動産鑑定士が、ある一日(価格時点)を基準に評価した金額。「いくらで売れると保証するもの」ではなく、その時点の評価に関する意見である——届出書自身が「実際の市場において成立し得る不動産価格と一致するとは限らず、乖離する可能性があります」と書いている。品川の案件では一般財団法人日本不動産研究所が2026年6月30日を価格時点として424億円と評価した。
② 1口当たりNAV試算値①から借入れ等を差し引いて、口数で割った額
NAVはNet Asset Value(純資産価額)の略。①の鑑定評価額(等)に基づいて信託の純資産を出し、発行される口数で割った、1口分の純資産額である。届出書はこれを「信託設定日時点の1口当たりNAVの試算値」として1つの数字で示す。「試算値」であり確定値ではない。誰が算出したかは書かれておらず、届出書はいずれも「算出された」と受け身で記す。
③ 発行価格投資家が1口いくら払うか
②を「基準とし」、引受人・当初取扱金融商品取引業者・アセット・マネージャーのいずれかの「分析等に基づき算出」した価格。申込証拠金はこれと同額なので、投資家が実際に払う額そのものである(申込手数料がある案件はその分だけ増える)。
④ 発行価額(引受価額)発行者が1口いくら受け取るか
引受人が発行者(委託者)に払い込む1口当たりの金額。買取引受けの案件では③より低く、③と④の差額が「引受人の手取金」になる——これは届出書の注記に明記されている。募集の取扱いだけの案件では③=④で、代わりに取扱手数料が別に支払われる。
⑤ 申込証拠金・申込手数料払う日と、上乗せの有無
申込証拠金は本稿が読んだ10本のうち9本で「発行価格と同一の金額」、東横INNの1本だけが「発行価格及び申込手数料の合計額と同一の金額」である。申込証拠金には利息が付かず、払込期日に払込金へ振り替えられる。
図: 発行価格の話に出てくる5つの数字。上から順に、物件の評価(①)→1口分の純資産(②)→投資家が払う額(③)→発行者が受け取る額(④)→払い方(⑤)と読む。③と④が別の数字であることが、この話のいちばんの勘所である。出所はEDINET提出の有価証券届出書10件(本文の出所欄に掲げる)。本図は用語と開示項目の説明であり、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘ではない。

全体像——鑑定評価額から投資家が払う額まで、4段で下りてくる

値段が決まるまでの道筋は、届出書を読むかぎり4段である。①不動産鑑定士が、ある一日を「価格時点」として物件を評価する。②その鑑定評価額(等)から信託の純資産を出し、口数で割って1口当たりNAV試算値を出す。③その試算値を「基準とし」、分析等に基づいて発行価格を算出する。④買取引受けの案件では、引受人が発行者に払い込む発行価額が別に決まり、③と④の差が引受人の手取金になる。

2026年7月24日に届け出られた「三井物産グループのデジタル証券〜品川・オフィス&ホテル〜(譲渡制限付)」を例に、この4段を実数で見る。①一般財団法人日本不動産研究所が2026年6月30日を価格時点として鑑定評価額を424億円(42,400百万円)と評価した。届出書には収益価格42,400百万円、直接還元法による価格42,900百万円、還元利回り3.7%、DCF法による価格41,900百万円、積算価格41,300百万円まで載っている。②1口当たりNAV試算値は10,377円で、これは信託設定日(2026年8月31日)時点の試算値である。③発行価格は10,000円。④発行価額は9,600円で、差額400円が引受人の手取金だと注記に明記されている。

ここで確かめておきたいのは、届出書が算式で結んでいるのは①→②の入口だけだという点である。同じ届出書の別欄には借入予定金額25,290百万円(ほかに消費税ローン619百万円)とLTV59.6%が書かれており、25,290÷42,400=59.6%という検算はその場でできる。ところが②→③については「1口当たりNAV試算値を基準とし、アセット・マネージャーの分析等に基づき算出しています」という一文があるだけで、どれだけ割り引いたのか、その内訳が何なのかは書かれていない。

したがって本稿ができるのは、②と③という2つの公表数字を並べて、その差を測ることに尽きる。逆にいえば、この2つは必ず同じ届出書の同じ欄に並んで書かれているので、誰でも同じ検算ができる。

STEP 1
鑑定評価額(不動産鑑定士)
  • ある一日を「価格時点」として、物件(+ホテルのFF&E等)を評価する
  • 品川の例:日本不動産研究所・2026年6月30日時点・42,400百万円
  • 届出書には収益価格・直接還元法による価格・還元利回り・積算価格まで載る
STEP 2
1口当たりNAV試算値(信託設定日時点)
  • 品川の例:10,377円/口。発行数1,740,000口を掛けると18,055,980,000円(当サイト計算)
  • 届出書は「算出された」と受け身で書き、算出主体も内訳も示さない
  • 同じ品川の借入予定金額は25,290百万円、LTVは59.6%と別欄に書かれている
STEP 3
発行価格(投資家が払う額)
  • 分析の主体は案件により、引受人/当初取扱金融商品取引業者/アセット・マネージャーの3通り
  • 品川の例:10,000円/口。1口当たりNAV試算値の96.4%
  • 申込証拠金はこれと同額(東横INNだけは申込手数料を加えた額)
STEP 4
発行価額=引受価額(発行者が受け取る額)
  • 品川の例:9,600円/口。総額16,704,000,000円が委託者に払い込まれる
  • 「委託者及び受託者は、引受人に対して引受手数料を支払いません」と明記される
  • 差額400円/口(総額696,000,000円)が引受人の手取金
この4段のうち、届出書が算式で結んでいるのはSTEP 1→2の入口だけである。STEP 2→3は「〜を基準とし、〜の分析等に基づき算出しています」という一文で示されるだけで、どれだけ割り引いたのか、その内訳が何なのかは開示されない。だからこの記事でできることは、②と③という2つの公表数字を並べて、その差を測ることに尽きる。逆にいえば、この2つは必ず同じ届出書の同じ欄に並んで書かれているので、誰でも同じ検算ができる
図: 鑑定評価額から投資家が払う額までの4段。上から下へ、時間の順であり、同時に「誰が決めるか」が入れ替わる順でもある——STEP 1は不動産鑑定士、STEP 3・4は販売側である。FF&EはFurniture(家具)・Fixture(什器)・Equipment(備品)の略で、ホテル案件で建物と一緒に評価される動産のこと。LTVは借入金額÷鑑定評価額で、品川では25,290÷42,400=59.6%と届出書の値が検算できる。数値の出所はEDINET提出の有価証券届出書S100YS50(オルタナ信託・2026年7月24日提出)。1口当たりNAV試算値の総額および手取金総額は当サイトによる乗算であり、発行者・引受人の公表値ではない。本図は開示された条件の記録であり、推奨・勧誘や割安・割高の判断ではない。

誰が値段を決めているのか——注記の書き方は3通りに分かれる

発行価格の注記には、必ず「◯◯の分析等に基づき算出しています」という一文がある。この◯◯が案件によって違う。本稿が読んだ10本では、引受人が4本、当初取扱金融商品取引業者が2本、アセット・マネージャー(アセット・マネジャー)が4本だった。

興味深いのは、②の1口当たりNAV試算値のほうには主語がないことである。10本とも「鑑定評価額等に基づき算出された本受益権1口当たりの純資産額」という受け身で書かれ、誰が算出したのかは示されない。名前が出てくるのは③の発行価格の段になってからである。

そして、その名前は10本のうち9本で、その価格で売る側(または買い取る側)と一致している。引受人が分析する4本は、その引受人が発行価額で買い取って発行価格で売る当事者そのものである。当初取扱金融商品取引業者が分析する2本は、その業者が募集を取り扱って売る当事者である。アセット・マネージャーが分析する4本のうち3本(三井物産グループの案件)では、そのアセット・マネージャー自身が引受人・取扱会社を兼ねている。分析主体と引受人が別法人なのは「ウェルス・リアルティ・トークン シックスセンシズ 京都(譲渡制限付)」の1本だけで、そこでもアセット・マネジャーは発行者側の関係者である。

これは違法でも異例でもなく、募集の設計上そうなる。1口当たりNAV試算値という共通の物差しが先にあり、そこからの調整を誰が担うかという役割分担の違いにすぎない。ただし「独立した第三者が値付けした価格ではない」ことは、読む側が最初に踏まえておくべき前提である。

「分析等」をする主体
本数
該当案件(かっこ内は分析主体)
売る側との関係
引受人
4本
KDXドーミーイン神戸元町(大和証券)/いちご・レジデンス・トークンの3本(SBI証券)
その価格で買い取って売る当事者が、自ら分析して値段を出している。買い取る値段(発行価額)も同じ日に決まる
当初取扱金融商品取引業者
2本
KDX名古屋栄ビル/トーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ3)市ヶ谷(いずれも東海東京証券)
買取引受けではなく募集の取扱いなので引受人がいない。売る当事者が分析する点は同じ
アセット・マネージャー
4本
三井物産グループの3本(三井物産デジタル・アセットマネジメント)/シックスセンシズ京都(ウェルス・リアルティ・マネジメント)
運用者が分析する。三井物産の3本ではそのAM自身が引受人・取扱会社にもなっている。京都だけは引受人が野村證券で、分析者と引受人が分かれる
言い方は3通りに分かれるが、結果として10本のうち9本で、値決めの分析をする主体が、その値段で売る(または買い取る)側にも立っている。分析主体と引受人が別法人なのはシックスセンシズ京都の1本だけで、そこでもアセット・マネジャーは発行者側の関係者である。これは違法でも異例でもなく、募集の設計上そうなる——1口当たりNAV試算値という共通の物差しが先にあり、そこからの調整を誰が担うかという役割分担の違いにすぎない。ただし「第三者が独立に値付けした価格ではない」ことは、読む側が最初に踏まえておくべき前提である。
表: 発行価格の注記に書かれた「分析等」の主体。左から順に、主体の呼び名/本数/該当案件/売る側との関係と読む。届出書の文言はそれぞれ「引受人の分析等に基づき算出しています」「当初取扱金融商品取引業者の分析等に基づき算出しています」「アセット・マネージャー(アセット・マネジャー)の分析等に基づき算出しています」である。出所はEDINET提出の有価証券届出書10件(本文の出所欄に掲げる)。本表は開示書類の記載の分類であり、値付けの妥当性についての評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

10本の実数——発行価格はすべて1口当たりNAV試算値を下回った

本稿が読んだのは10本である。内訳は、ODXの私設取引システムSTARTで売買されている7銘柄すべて(いずれも「デジタル名義書換方式」)と、2026年に届け出られ第一部の全文を確認できた3本(いずれも「譲渡制限付」でSTART非上場)。公募不動産STの全数ではないが、二次流通のある銘柄は全部入っている。

結果は表のとおりで、発行価格÷1口当たりNAV試算値は93.08%から99.70%の範囲に収まり、10本すべてが100%を下回った。最も低いのが「いちご・レジデンス・トークン-西麻布・代々木・八丁堀・上野・門前仲町・阿佐ヶ谷・金町-」の93.08%(発行価格100,000円/NAV試算値107,436円)、最も高いのが「三井物産グループのデジタル証券〜三重・イオンタウン鈴鹿〜」の99.70%(100,000円/100,302円)である。

この6.6ポイントの幅が何でできているのかは、先に書いたとおり開示されない。販売の対価(後の節で見る4.0〜6.0%)が入っていることは確かだが、それだけで幅が説明できるわけでもない。たとえば鈴鹿は手取金4.0%で乖離0.30%、京都も手取金4.0%で乖離1.37%、品川も手取金4.0%で乖離3.63%と、同じ手取金率でも乖離はそろわない。読み取れるのは「乖離があること」と「その幅」までで、それ以上は届出書からは出てこない。

もう一つ表から見えるのは、1口の大きさが設計上の選択にすぎないことである。STARTの7銘柄は7本とも発行価格が100,000円ちょうどにそろっているが、2026年の3本は9,560円・10,000円・1,000,000円とばらけている。品川は174万口、京都は27,274口で、口数は64倍違う。比べるべきは1口の額面ではなく、発行価格とNAV試算値の関係のほうである。

なお表の発行価額のうち、「いちご・レジデンス・トークン-市谷仲之町ほか-」の95,000円だけは届出書の注記に書かれていない。この案件では発行価額の総額3,746,230,000円と発行数39,434口が記載されており、割ると95,000円ちょうどになる。注記のある9本ではこの割り算と注記の値が一致するので、同じ方法で補ったものである(当サイトによる計算)。

案件(届出日)
発行価格
発行価額
販売の対価
1口当たりNAV試算値
発行価格÷NAV
KDX ドーミーイン神戸元町(2023-11-20)
100,000
95,500
手取金 4,500(4.5%)
106,285
94.09%
いちご 芝公園ほか(2023-11-20)
100,000
94,000
手取金 6,000(6.0%)
102,536
97.53%
KDX名古屋栄ビル(2024-02-09)
100,000
100,000
取扱手数料 4.10%+消費税
105,664
94.64%
トーセイPF(シリーズ3)市ヶ谷(2024-04-15)
100,000
100,000
取扱手数料 4%+消費税
103,837
96.30%
いちご 西麻布ほか(2024-04-22)
100,000
95,000
手取金 5,000(5.0%)
107,436
93.08%
いちご 市谷仲之町ほか(2024-09-20)
100,000
95,000
手取金 5,000(5.0%)
103,280
96.82%
三井物産 三重・イオンタウン鈴鹿(2024-10-16)
100,000
96,000
手取金 4,000(4.0%)
100,302
99.70%
三井物産 東横INN・優待あり(2026-02-24)
9,560
9,560
申込手数料 上限400円(税込440円)
10,051
95.11%
三井物産 品川・オフィス&ホテル(2026-07-24)
10,000
9,600
手取金 400(4.0%)
10,377
96.37%
ウェルス シックスセンシズ京都(2026-08-03)
1,000,000
960,000
手取金 40,000(4.0%)
1,013,925
98.63%
単位は円/口。いちばん右の列が、この記事の中心にある数字である——10本すべてが100%を下回り、幅は93.08%から99.70%まで6.6ポイント開いている。上の7本はSTARTで売買されている全銘柄で、発行価格が7本とも100,000円ちょうどにそろっているのに対し、2026年の3本(いずれも「譲渡制限付」でSTART非上場)は9,560円・10,000円・1,000,000円とばらけている。1口の大きさは設計上の選択にすぎず、比べるべきは右2列の関係である。なお発行価額のうち、いちご市谷仲之町ほかの95,000円は届出書の注記に書かれていないため、発行価額の総額3,746,230,000円÷発行数39,434口=95,000円という当サイトの計算による(他の9本は注記または割り算のどちらでも一致する)。
表: 公募不動産ST 10本の入口の数字。左から順に、案件(届出日)/発行価格/発行価額/販売の対価/1口当たりNAV試算値/発行価格÷NAV試算値と読む。上7本がSTARTに上場している全銘柄、下3本が2026年に届け出られた譲渡制限付の案件で、時系列に並べてある。1口当たりNAV試算値はいずれも「届出書の日付現在における信託設定日時点の試算値」であり、確定値でも、その価格で売れることの保証でもない。「発行価格÷NAV」は当サイトが公表2値から計算し、小数第3位を四捨五入した。出所はEDINET提出の有価証券届出書S100SB9N/S100SBPF/S100SRLJ/S100T9M6/S100TAY3/S100UE49/S100UJK9/S100XMTM/S100YS50/S100YTNX、および発行価格を確定させた訂正届出書S100SGF5/S100TG0B(いずれも2026年9月10日取得)。本表は開示された条件の記録であり、割安・割高の判断でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

「未定」で届け出る道——制度が伏せることを許したのは、投資家が払う額のほうだった

10本のうち2本は、届出の時点で発行価格が「未定」だった。いちごの2案件(芝公園ほか・西麻布ほか)で、いずれも「発行価格の仮条件は、1口当たり100,000円とします」と書いたうえで、後日の「発行価格等決定日」に訂正届出書を出して確定させている。残る8本は、最初の届出書の時点で発行価格が数字で入っていた。

この「未定」で届け出る道には、はっきりした根拠がある。特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第11条第1項第1号の3が、信託受益証券について「その発行価格の決定前に募集を行う必要がある場合」を挙げ、イ 発行価格、ロ 申込証拠金、ハ 申込取扱場所、ニ 引受人(元引受契約を締結する金融商品取引業者のうち主たるものを除く)の氏名又は名称及びその住所、ホ 引受口数及び引受けの条件、の5つを記載しないでおけると定めている。金融商品取引法第5条第5項において準用する同条第1項ただし書を受けた規定である。

ここで見落とされやすいのが、この5項目に「発行数」も「発行価額の総額」も入っていないことだ。だから2本とも、発行数と発行価額の総額は見込値として書かざるを得なかった。芝公園ほかは31,120口・2,925,280,000円、西麻布ほかは33,225口・3,156,375,000円である。割れば94,000円と95,000円——つまり発行者が1口当たりいくら受け取るかは、発行価格が「未定」の段階から計算できてしまっていた。

そして、決定日に出た訂正届出書の数字はそのとおりだった。芝公園ほかは2023年12月13日に発行価格100,000円・発行価額94,000円・手取金6,000円、西麻布ほかは2024年5月15日に発行価格100,000円・発行価額95,000円・手取金5,000円で確定している。発行数はどちらも1口も動かず、発行価格は仮条件と同額に決まった。制度が伏せることを許したのは投資家が払う額のほうで、発行者が受け取る額は先に見えていた——というのが2本の実物から読める姿である。

訂正届出書はもう一つのことも確定させる。芝公園ほかでは、当初「最大で350口」とされていたグループ会社(いちごオーナーズ株式会社)への販売口数が250口に確定し、その会社の概要・選定理由・資金の裏付けまで追記された。「本募集における発行価格にて行われるため、指定先に対して特に有利な条件には該当しません」という一文も、このとき入る。

項目
いちご 芝公園ほか
いちご 西麻布ほか
届出日
2023年11月20日
2024年4月22日
届出時の発行価格
未定(仮条件 1口100,000円)
未定(仮条件 1口100,000円)
届出時の発行数
31,120口(見込数)
33,225口(見込数)
届出時の発行価額の総額
2,925,280,000円(見込額)
3,156,375,000円(見込額)
発行価格等決定日
2023年12月13日(水)
2024年5月15日(水)
決定後の発行価格
100,000円(仮条件と同額)
100,000円(仮条件と同額)
決定後の発行数
31,120口(変更なし)
33,225口(変更なし)
決定後の発行価額
94,000円(手取金6,000円)
95,000円(手取金5,000円)
総額÷発行数(当サイト計算)
94,000円(届出時から算出可能)
95,000円(同)
根拠は特定有価証券開示府令第11条第1項第1号の3——信託受益証券について「その発行価格の決定前に募集を行う必要がある場合」、イ 発行価格 ロ 申込証拠金 ハ 申込取扱場所 ニ 引受人(主幹事を除く)の氏名等 ホ 引受口数及び引受けの条件の5つを届出書に書かないでおける、という規定である。ここで見落とされやすいのが、この5項目に「発行数」も「発行価額の総額」も入っていないことだ。だから2本とも見込数・見込額を書かざるを得ず、結果として「総額÷発行数」で発行価額(=発行者が受け取る額)が届出の時点から計算できてしまう。そして実際、決定後の発行価額はその計算値とぴったり一致した。制度が伏せることを許したのは投資家が払う額のほうで、発行者が受け取る額は先に見えていた——というのが2本の実物から読める姿である。
表: 発行価格を「未定」で届け出た2本の、届出時と決定後の対照。左から項目、そして2案件。上4行が届出時、下5行が発行価格等決定日以後である。2本とも発行価格は仮条件と同額に決まり、発行数も動かなかった。出所は有価証券届出書S100SBPF・S100TAY3と、発行価格等を確定させた訂正有価証券届出書S100SGF5(2023年12月13日提出)・S100TG0B(2024年5月15日提出)、および特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第11条第1項第1号の3(e-Gov法令検索・2026年9月10日確認)。本表は開示手続の記録であり、値付けの妥当性の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

販売の対価はどこに現れるか——申込手数料が「該当事項はありません」でも、対価はある

10本のうち9本は、「7 申込手数料」の欄が「該当事項はありません」である。しかしそれは販売にコストがかかっていないという意味ではない。対価の置き場所が3通りあり、そのうち2通りは申込手数料の欄に現れないだけである。

第一の型が買取引受けで、7本がこれに当たる。引受人が発行価額で買い取り、発行価格で売る。差額がそのまま引受人の手取金で、本稿の7本では発行価格の4.0%から6.0%だった。届出書には「委託者及び受託者は、引受人に対して引受手数料を支払いません」と明記されている——手数料という名目の支払がないから、消費税相当額の記載もない。

第二の型が募集の取扱いで、2本がこれに当たる。引受けを行わないので「12 引受け等の概要」の欄は「該当事項はありません」になり、代わりに「6 募集の方法」の末尾に取扱手数料が書かれる。KDX名古屋栄ビルは委託者から東海東京証券へ申込証拠金総額の4.10%+消費税及び地方消費税相当額、トーセイ・プロパティ・ファンド(シリーズ3)市ヶ谷は受託者から本信託財産より4%+同相当額である。後者はファンドの側が費用を負担する形で、期中のコスト構造に効いてくる(費目の全体像は別稿『不動産STの組成コスト構造——費目の全体地図と、実額を「有報で」確かめる方法』で扱った)。

第三の型が募集の取扱い+残額引受けで、「三井物産グループのデジタル証券〜東横INN・優待あり〜」の1本だけである。発行価格9,560円で募集を取り扱い、申込期間終了時点で売れ残った分だけを同額の発行価額で引き受ける。10本のうちこの1本だけが申込手数料を明示しており、1口400円(税込440円)を上限とする。申込証拠金も1本だけ「発行価格及び申込手数料の合計額と同一の金額」になっている(他の9本は「発行価格と同一の金額」)。

第一の型と第二の型の違いは、売れ残りリスクを誰が抱えるかである。それは申込期間に付く注記にはっきり出る。10本のうち「申込期間中に行われる申込数が本募集の発行数に満たない場合には、本募集を中止する予定です」という注記があるのは、募集の取扱い型の2本(名古屋栄・市ヶ谷)だけである。期間の長さも同じ方向で、この2本は暦の平日で数えて14日と16日と長く、買取引受けの案件はおおむね3日から8日にとどまる。例外は鈴鹿の東海東京証券分の18日で、同じ案件でも三井物産デジタル・アセットマネジメント分は5日である。

お金の流れ
消費税の扱い
本稿の実物
① 買取引受け
引受人が発行価額で買い取り、発行価格で売る。差額がそのまま引受人の手取金。届出書は「委託者及び受託者は、引受人に対して引受手数料を支払いません」と明記する
手数料ではないため、消費税相当額の記載がない
7本。手取金は発行価格の4.0〜6.0%(神戸元町・いちご3本・鈴鹿・品川・京都)
② 募集の取扱い
引受けを行わず、募集を取り扱うだけ。「引受け等の概要」欄は「該当事項はありません」になり、代わりに取扱手数料が支払われる。売れ残れば募集そのものを中止すると申込期間の注記に書かれる
「並びにこれに係る消費税及び地方消費税相当額」が明記される
2本。名古屋栄は委託者が申込証拠金総額の4.10%、市ヶ谷は受託者が本信託財産より4%(指定先の分を除く)
③ 募集の取扱い+残額引受け
発行価格で募集を取り扱い、申込期間終了時点で売れ残った分だけを発行価額で引き受ける。①と②の中間形
申込手数料に税込金額(440円)が示される
1本。東横INN。発行価格=発行価額の9,560円で、投資家は別途1口400円(税込440円)を上限に申込手数料を払う
組成側にとって重要なのは、①では「売れ残りリスクを引受人が負う代わりに、投資家の払う額と発行者の受け取る額が最初からずれる」、②では「発行者はNAV試算値どおりの発行価格で満額受け取るが、売れ残れば募集が中止される」という取り違えのきかない対価関係である。さらに②では手数料の負担者が案件により違う——名古屋栄は委託者(SPC)が払い、市ヶ谷は受託者が本信託財産から払う。後者はファンドの側が費用を負担する形なので、期中のコスト構造に効いてくる。別稿『不動産STの組成コスト構造——費目の全体地図と、実額を「有報で」確かめる方法』と併せて読むと、この差が決算にどう出るかが追える。
表: 販売の対価の3つの型。左から順に、型の名前/お金の流れ/消費税の扱い/本稿で確認できた実物と読む。投資家の目に見える「申込手数料」は③にしかないが、①でも4.0〜6.0%の対価は存在する——場所が違うだけである。出所はEDINET提出の有価証券届出書10件の「4 発行価格」「6 募集の方法」「7 申込手数料」「9 申込期間及び申込取扱場所」「12 引受け等の概要」の各欄(本文の出所欄に掲げる)。本表は開示された条件の記録であり、コストの高低の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

値決めの起点は、払込みの47〜143日前にある

1口当たりNAV試算値は「信託設定日時点」の値として示される。ところがその土台になる鑑定評価額の価格時点は、信託設定日よりかなり前である。10本を測ると47日から143日の幅があった。

最も長いのがKDXドーミーイン神戸元町で、2023年8月1日を価格時点とする鑑定が、2023年12月22日の払込み・信託設定の値決めの起点になっている。4か月半前の評価である。最も短いのがKDX名古屋栄ビルの47日。届出日を基準にすると9日から111日で、鑑定を取ってすぐ届け出た案件と、届出まで数か月置いた案件が混在している。

これは手続の遅さではない。鑑定→届出→財務局の審査期間→申込期間→払込みという順序を踏めば、必ず生じる時間差である。だからこそ届出書のリスク欄は「投資対象不動産等の鑑定評価額は、個々の不動産鑑定士等の分析に基づく、分析の時点における評価に関する意見であり、実際の市場において成立し得る不動産価格と一致するとは限らず、乖離する可能性があります」という断りを毎回置く。

組成側にとっては、この期間に賃料・金利・マーケットが動きうることを前提に説明資料を作る必要がある、という話になる。運用が始まったあとに鑑定を何回取り直すかは別稿『鑑定評価書は何回取得が必要か——取得時・各期末・売却直前、公募不動産STで実際に取られている回数』で扱った。

案件
鑑定の価格時点
届出日
信託設定日
価格時点→設定日
KDX ドーミーイン神戸元町
2023-08-01
2023-11-20
2023-12-22
143日
トーセイPF(シリーズ3)市ヶ谷
2024-02-01
2024-04-15
2024-05-24
113日
ウェルス シックスセンシズ京都
2026-06-01
2026-08-03
2026-09-01
92日
いちご 市谷仲之町ほか
2024-08-01
2024-09-20
2024-10-24
84日
いちご 西麻布ほか
2024-03-01
2024-04-22
2024-05-23
83日
三井物産 品川・オフィス&ホテル
2026-06-30
2026-07-24
2026-08-31
62日
三井物産 三重・イオンタウン鈴鹿
2024-10-01
2024-10-16
2024-11-28
58日
三井物産 東横INN・優待あり
2026-02-01
2026-02-24
2026-03-30
57日
いちご 芝公園ほか
2023-10-31
2023-11-20
2023-12-22
52日
KDX名古屋栄ビル
2024-01-31
2024-02-09
2024-03-18
47日
1口当たりNAV試算値は「信託設定日時点」の値として示されるが、その土台にある鑑定評価額の価格時点は47日から143日も前である。神戸元町では、投資家が払込みを行う2023年12月22日の4か月半前にあたる2023年8月1日の評価が、値決めの起点になっていた。これは手続の遅さではなく、鑑定→届出→審査期間→申込み→払込みという順序を踏めば必ず生じる時間差である。だからこそ届出書は「鑑定評価額は個々の不動産鑑定士等の分析に基づく、分析の時点における評価に関する意見」という断りを毎回置く。期中に何回鑑定を取り直すかは別稿『鑑定評価書は何回取得が必要か——取得時・各期末・売却直前、公募不動産STで実際に取られている回数』で扱った。
表: 鑑定評価の価格時点から信託設定日(=払込みが行われ、運用が始まる日)までの日数。左から順に、案件/鑑定の価格時点/届出日/信託設定日/価格時点から設定日までの日数と読み、日数の長い順に並べてある。日数は当サイトが日付から算出した。信託設定日は届出書に記載された日付で、いずれも払込期日と同日である。出所はEDINET提出の有価証券届出書10件の「4 発行価格」注記および「11 払込期日及び払込取扱場所」欄(本文の出所欄に掲げる)。本表は開示書類の日付の集計であり、鑑定の適否の評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

型が違えば様式が違う——GK-TK型の届出書に「1口当たりNAV試算値」は出てこない

ここまでの10本はすべて受益証券発行信託型、つまり信託の受益権をトークンにした案件である。不動産STにはもう一つ、合同会社への匿名組合出資持分をトークンにするGK-TK型がある。同じ「不動産のデジタル証券」でも、この2つは有価証券届出書の様式が違う。

特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第10条第1項は、届出書の様式を有価証券の区分ごとに定めている。第9号「内国信託受益証券、内国信託社債券及び内国信託受益権」は第六号様式、第13号「内国有価証券投資事業権利等及び特定内国電子記録移転権利」は第六号の五様式である。

違いは、値段まわりの開示にはっきり出る。2026年7月16日に届け出られたGK-TK型の「ロードスターグループのデジタル証券 横浜伊勢佐木町ホテル」を開くと、「(5)発行(売出)価格」の欄は「1口当たり500,000円」の一行だけで、注記がない。鑑定評価額にも1口当たりNAV試算値にも触れられていない。つまり本稿がここまでやってきた「発行価格÷NAV試算値」という検算は、この型ではそもそも分母が公表されないためできない。

逆に、第六号の五様式にはあって第六号様式にはない欄もある。「(13)手取金の使途」である。横浜の届出書には「本匿名組合出資持分の募集による手取金(3,830,000,000円)については、発行者が取得を予定している不動産に係る信託受益権の取得資金等に充当します」と一行で書かれている。受益証券発行信託型の10本には、この欄自体が存在しない。

販売の対価の置き方も違う。横浜では「引受等を行う証券会社はありません」と明記され、発行者から販売会社(ロードスター証券株式会社)へ、申込証拠金総額の3.0%+消費税及び地方消費税相当額が取扱手数料として支払われる。前節でいう第二の型に近いが、支払うのが委託者でも受託者でもなく発行者(=営業者の合同会社)である点が、この型ならではの並びである。型そのものの違いは別稿『不動産STOのスキーム比較——受益証券発行信託型・GK-TK型・不特法型はどう違うか』で扱った。

比べる項目
受益証券発行信託型
GK-TK型(電子記録移転権利)
根拠
特定有価証券開示府令第10条第1項第9号(内国信託受益証券、内国信託社債券及び内国信託受益権)
第10条第1項第13号(内国有価証券投資事業権利等及び特定内国電子記録移転権利)
使う様式
第六号様式
第六号の五様式
本稿の実物
受益証券発行信託型の10本すべて
ロードスターグループのデジタル証券 横浜伊勢佐木町ホテル(S100YR0W・2026年7月16日提出)
発行価格の欄
「4 発行価格」。鑑定評価額と1口当たりNAV試算値を注記で示し、誰の分析に基づくかを書く
「(5)発行(売出)価格」。「1口当たり500,000円」の一行のみで、注記がない
1口当たりNAV試算値
10本すべてに記載がある(100,302円〜1,013,925円)
記載がない。鑑定評価額に触れる注記自体が発行価格欄にない
引受け等の概要
独立の欄(「12 引受け等の概要」)がある。買取引受けなら引受人と引受口数、そうでなければ「該当事項はありません」
「(14)その他 ロ.元引受契約、売出しの委託契約等」に「引受等を行う証券会社はありません」と書かれる
手取金の使途
欄がない
「(13)手取金の使途」の欄がある——「本匿名組合出資持分の募集による手取金(3,830,000,000円)については、発行者が取得を予定している不動産に係る信託受益権の取得資金等に充当します」
販売の対価
買取引受けの手取金、または取扱手数料
発行者から販売会社へ、申込証拠金総額の3.0%+消費税及び地方消費税相当額
同じ「不動産のデジタル証券」でも、型が違えば適用される様式が違い、様式が違えば開示される項目そのものが入れ替わる。受益証券発行信託型では1口当たりNAV試算値が必ず出てくるので「発行価格÷NAV」という検算ができるのに対し、GK-TK型ではその分母が公表されない。逆にGK-TK型には手取金の使途という欄があり、集めた金が何に使われるかが一行で読める——受益証券発行信託型の様式にこの欄はない。2つの型を同じ物差しで比べようとすると、必ずどちらかの物差しが欠ける。型そのものの違いは別稿『不動産STOのスキーム比較——受益証券発行信託型・GK-TK型・不特法型はどう違うか』で扱った。
表: 2つの型で、有価証券届出書の第一部(証券情報)に何が書かれるか。左から順に、比べる項目/受益証券発行信託型/GK-TK型と読む。GK-TK型は匿名組合出資持分をトークン化したもので、金融商品取引法第2条第3項の電子記録移転権利に当たる。出所は特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第10条第1項(e-Gov法令検索・2026年9月10日確認)、およびEDINET提出の有価証券届出書S100YR0W(合同会社LST1号・2026年7月16日提出)と本稿の受益証券発行信託型10件。本表は開示様式の比較であり、どちらの型が優れているかの評価でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。

実務の勘所——届出書のどこを、どの順で見るか

組成側にとって、この記事の実務的な使いどころは3つある。第一に、自案件の条件を市場と比べるときの物差しが「発行価格÷1口当たりNAV試算値」という1本で足りること。母数は少ないが、二次流通のある7銘柄は全部入っているので、位置づけの当たりは付けられる。第二に、買取引受けにするか募集の取扱いにするかは、売れ残りリスクの所在・申込期間の長さ・手数料の負担者・消費税の扱いが連動して決まる一組の選択であること。第三に、発行価格を「未定」で届け出ても、発行数と発行価額の総額は隠せないこと——ここから逆算されることを前提に開示設計をする必要がある。

投資家側の読み方としては、「申込手数料は該当事項はありません」を「無料」と読まないことに尽きる。本稿の7本では、発行価格と発行価額の差として4.0〜6.0%の対価が存在し、それは届出書の注記に「引受人の手取金」と明記されている。金額の絶対値でいえば、品川の1本だけで696,000,000円(400円×1,740,000口・当サイト計算)になる。

最後に、入口の値決めに使われた物差しは、出口でも使われる。品川の届出書は、期中の相対取引について「投資対象不動産等に係る鑑定評価額に基づき算出された本受益権の1口当たりNAV等を基準に当該取扱金融商品取引業者が決定する価格」を譲渡価格とすると書く。決める主体も、募集のときと同じ側である。STARTでの価格の決まり方は別稿『STARTの「基準価格」とは——決まり方、NAVとの違い、乖離の読み方』で、上場後に実際どこまで価格が動いたかは別稿『不動産STのリスクを実数で確かめる——上場7銘柄はすべて発行価格割れ、7銘柄×13営業日の78%は1口も約定していない』で扱った。

本稿は、EDINETで公開されている有価証券届出書および訂正届出書の記載と、e-Gov法令検索の条文のみに基づく記録であり、特定の銘柄・事業者の推奨や勧誘、募集の条件の妥当性についての評価を含まない。数値はすべて各書類に記載された基準日・価格時点付きのものであり、「発行価格÷NAV試算値」「総額÷発行数」「日数」など当サイトが計算した値はその旨を明記した。消費税や所得税の取扱いに触れた部分は制度の一般的な説明にとどまり、個別の税務判断は税理士等に、組成・開示の個別判断は弁護士・公認会計士等の専門家に確認されたい。

① 「4 発行価格」の注記を最初に読む2つの数字が同じ欄にある
発行価格の欄には、本文(発行価格)と注記(1口当たりNAV試算値、発行価額、手取金)がまとめて書かれている。この1欄だけで、投資家が払う額・発行者が受け取る額・1口分の純資産の3つがそろう。他の欄を探しに行く必要はない。
② 注記に発行価額が書いていなければ割り算する総額÷発行数
いちご市谷仲之町ほかのように発行価額を注記していない案件がある。その場合は「3 発行価額の総額」÷「2 発行数」で1口当たりの払込金額が出る。本稿の10本ではすべて割り切れ、注記のある9本では注記の値と一致した
③ 「引受け等の概要」が「該当事項はありません」なら手数料を探す募集の取扱い型のしるし
この欄が空なら買取引受けではない。対価は「6 募集の方法」の末尾に、申込証拠金総額に対する率+消費税相当額として書かれている。負担者が委託者か受託者(本信託財産)かも同じ文に書かれるので、ファンドが払うのか、SPCが払うのかをここで確定させる
④ 申込期間に「中止」の注記があるかを見る売れ残りリスクの所在
本稿の10本のうち「申込期間中に行われる申込数が本募集の発行数に満たない場合には、本募集を中止する予定です」という注記があるのは、募集の取扱い型の2本だけである(名古屋栄・市ヶ谷)。期間の長さも同じ方向で、この2本は暦の平日で数えて14日・16日と長く、買取引受けの案件はおおむね3〜8日にとどまる(例外は鈴鹿の東海東京証券分の18日。同じ案件でも三井物産デジタル・アセットマネジメント分は5日である)。中止条項の有無は、そのまま誰が売れ残りを抱えるかの表れである。
⑤ 指定先(スポンサー等への販売)の口数と価格条件を確認する「特に有利な条件には該当しません」
本稿の10本のうち5本に指定先がある——ケネディクス500口(神戸元町)/同400口(名古屋栄・のちにDLPとなりうる旨の注記付き)/トーセイ870口(市ヶ谷)/いちごオーナーズ250口(芝公園・当初は最大350口の予定から確定)/同200口(市谷仲之町)。いずれも「本募集における発行価格にて行われるため、指定先に対して特に有利な条件には該当しません」と明記される。市ヶ谷では指定先からの申込証拠金が取扱手数料の計算基礎から除かれている
⑥ 鑑定の価格時点と払込期日の距離を測る47〜143日
値決めの起点は払込みの1か月半〜4か月半前の評価である。組成側は、その間に賃料・金利・マーケットが動きうることを前提に説明資料を作る必要がある。「発行価格が1口当たりNAV試算値より低い」ことは、この時間差を含む複数の要素をまとめて呑み込んだ結果であって、内訳は開示されない。
⑦ 同じ物差しが期中の売却にも使われることを押さえる入口と出口が同じNAV基準
品川の届出書は、期中の相対取引について「投資対象不動産等に係る鑑定評価額に基づき算出された本受益権の1口当たりNAV等を基準に当該取扱金融商品取引業者が決定する価格」と書く。入口の値決めと出口の値決めが同じ物差しで、決める主体も同じ側である。STARTでの価格の決まり方は別稿『STARTの「基準価格」とは——決まり方、NAVとの違い、乖離の読み方』で扱った。
図: 発行価格まわりを届出書で確かめるときの勘所7項目。①②が数字の読み取り、③④が売り方の型の判別、⑤が関係者への販売、⑥⑦が時間軸の確認である。出所は本文の出所欄に掲げるEDINET提出書類、および特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索・2026年9月10日確認)。本図は開示書類の読み方の整理であり、投資判断の助言でも、特定の事業者・銘柄の推奨・勧誘でもない。個別の組成・税務・法務の判断は、それぞれの専門家に確認されたい。
SOURCES / 出所

本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。

MORE

関連記事